予実管理システムを選ぶときは、製品の機能差を比べる前に、自社の会計システムの科目と部門のコードが整っているかを確かめるのがよい、と筆者は考えている。予実管理システムは、会計システムから実績を取り込み、予算と同じ軸に並べて差異を出す。予算を組む単位と、実績が記録される科目・部門の単位との対応が決まっていなければ、製品を入れても、取り込みのたびに手作業の読み替えが残る。この記事では、製品を比べる前に決める5つのことを、稟議に貼れる確認表の形で示す。製品の比較表は載せない。
- 製品を比べる前に決めることが5つある。速くしたい判断、管理の軸、実績の出どころ、入力する人の範囲、予算と見込みの版の持ち方である。
- 最初に決めるのは「誰が何の判断を速くしたいか」である。これが決まると、必要な速さと細かさが決まる。
- 会計システムの科目と部門のコードが整っていないと、どの製品を選んでも手作業の読み替えが残る。
予実管理システムで何ができるか
予実管理システムは、予算と実績を同じ軸で並べ、差異を見るまでの作業を仕組みに載せる道具である。筆者は、受け持つ仕事を4つに分けて見ている。予算の入力と集計、実績の取り込み、差異の表示と分析、見込みの更新である。
| 仕事 | 表計算でのやり方 | 予実管理システムでのやり方 |
|---|---|---|
| 予算の入力と集計 | 部門にファイルを配り、戻ったファイルを担当者がつなぎ合わせる | 部門の担当者が同じ画面に入力し、集計は自動で行われる |
| 実績の取り込み | 会計システムから出したデータを貼り付け、科目と部門を手で読み替える | 対応表に沿って取り込み、予算と同じ軸に並べる |
| 差異の表示と分析 | 差異の列を数式で作り、部門別の表を別のシートに作る | 部門、科目、月などの切り口を画面で切り替える |
| 見込みの更新 | 版ごとにファイルを複製し、名前で区別する | 版を分けて保存し、どの版とも比べられる |
表計算との違い
違いは計算の力にあるのではない。表計算ソフトでも、差異の計算や部門別の集計はできる。差が出るのは、同じ数字を何人もが同時に扱うときの管理である。誰がいつどの数字を直したかの履歴、部門ごとに見せる範囲の制御、版の区別、配布と回収の手間。こうした管理を人の注意に頼るか、仕組みに任せるかが違う。
数字を扱う人が少なく、版も少ない会社では、予実管理システムを入れても変わる部分が小さい。導入を検討するときは、自社の予実管理のどの作業に時間と手戻りがかかっているかを先に書き出す。
脱Excelが要る会社、表計算で足りる会社
脱Excelは目的にならない。表計算をやめても、部門に入力を頼む作業と、科目を読み替える作業は残る。先に見るのは、表計算のままで困っている点が、道具を替えれば消える種類のものかどうかである。
右の列の4つの兆しを、自社に当てはめて確かめる。
- ファイルの数が部門と版の掛け算で増え、どれが最新かを人に聞かないと分からない
- 月次の締めから差異の報告までの日数のうち、集計と転記が大半を占める
- 製品別や案件別など、軸を1つ足すと表の作り直しになる
- 数式を組んだ担当者が異動すると、表を直せる人がいなくなる
当てはまるのが1つだけなら、表の作り方を直すほうが早い場合がある。表の設計の見直し方は予実管理表の作り方、科目・部門・月の並べ方と差異の見せ方で扱った。複数が当てはまるなら、仕組みを替える検討に進む。
選ぶ前に決める5つのこと
製品の資料を取り寄せる前に、自社の側で5つのことを決める。
速くしたい判断
最初に、誰が、何の判断を、いつまでにしたいのかを書く。たとえば「事業部長が、月次の締めから5営業日以内に、販促費を追加するか抑えるかを決めたい」という書き方である。「予実管理を効率化したい」では足りない。空いた時間を何の判断に使うのかが決まっていないと、製品の機能を評価する物差しがなくなる。
判断を書くと、要らないものも見えてくる。月に1度の判断のために、日次で実績を更新する機能は要らない。予実の差異を打ち手につなぐ考え方は予実管理が形骸化する3つの理由と、差異を打ち手につなぐ進め方にまとめた。
管理の軸
次に、予算と実績をどの軸で並べるかを決める。部門別だけで足りるのか、製品別や案件別、顧客別まで見たいのか。軸を1つ足すと、予算を入力する側の手間が増え、実績を同じ軸で取る仕組みも要る。
ここで確かめるのは、見たい軸で実績が記録されているかどうかである。予算は製品別に組めても、会計システムの仕訳に製品のコードが入っていなければ、実績は製品別に出ない。その軸は、配賦で作るか、販売管理など別のシステムから取ることになる。軸の選び方は管理会計の分析軸(ディメンション)設計、後から分解できない粒度を先に決めるで詳しく書いた。
実績の出どころ
3つ目は、実績をどのシステムのどのデータから取るかである。会計システムの残高か、仕訳の明細か。売上の数量や人員数のように、会計システムにない数字はどこから取るか。
筆者がこの項目を最も重く見る理由は、科目と部門のコードにある。予算を組む単位と、会計システムのコードとの対応が一意に決まっていれば、読み替えは対応表に任せられる。決まっていなければ、毎月、人が判断して振り分けることになる。設例で確かめる。
| 予算を組む単位と会計の部門コードの関係 | 予算の単位の数 | 会計の部門コードの数 | 毎月の読み替え |
|---|---|---|---|
| 1対1で対応する | 22 | 22 | 要らない |
| 複数のコードを1つの単位に合算する | 6 | 18 | 対応表で自動にできる |
| 予算の単位に当たるコードがない | 2 | 0 | 人が仕訳を見て振り分ける |
| 合計 | 30 | 40 | - |
この設例では、30の単位のうち28は対応表を作れば済む。残る2つは、会計システムに部門コードを足すか、予算の単位を会計に合わせて組み直すかを決めないかぎり、製品を入れても手作業が残る。科目でも同じ確認をする。予算では「広告宣伝費」と「販売促進費」を分けているのに、会計では1つの科目に入っている、といったずれである。この確認は製品を選ぶ前にでき、費用もかからない。
入力する人の範囲
4つ目は、予算と見込みを誰が入力するかである。経営企画と経理だけが入力するのか、部門長まで広げるのか、課の担当者まで広げるのか。
範囲は費用と定着の2つに効く。利用料が人数で変わるかどうかは、見積を取るときに自社の人数を伝えて確かめる。入力する人が広がるほど、会計に詳しくない人が使うことになり、画面の分かりやすさの重みが増す。
予算と見込みの版の持ち方
5つ目は、数字の版である。当初予算、期中の修正予算、月次で更新する着地の見込み。どの版を残し、実績をどの版と比べるのかを決める。
会議で使っている比較の組み合わせを書き出し、要る版の数を数えておく。決めずに製品を入れると、後から版の設定をやり直すことになる。
5つのことの確認表
5つの答えを1枚にまとめる。稟議に添える形にした。
| 決めること | 確かめる問い | 決まっていないと起きること | 自社の答え |
|---|---|---|---|
| 速くしたい判断 | 誰が、何を、締めから何営業日以内に決めたいか | 機能を評価する物差しがなく、機能の多さで選んでしまう | (記入) |
| 管理の軸 | 部門、製品、案件のどれで見るか。その軸で実績が記録されているか | 予算は組めても実績が同じ軸で出ない | (記入) |
| 実績の出どころ | どのシステムから取るか。科目と部門のコードは予算の単位と対応するか | 取り込みのたびに手作業の読み替えが残る | (記入) |
| 入力する人の範囲 | 予算と見込みを入れるのは何人か。会計に詳しくない人を含むか | 利用料の見積がずれる。入力が定着しない | (記入) |
| 版の持ち方 | どの版を残すか。実績をどの版と比べるか | 導入後に版の設定をやり直す | (記入) |
予実管理ツールの型
予実管理ツールは、製品ごとに得意な範囲が違う。筆者は、3つの型に分けて見ている。表計算に近い型、業務を効率化する型、経営管理をまとめる型である。
| 型 | 受け持つ範囲 | 向く会社 | 選ぶときに確かめること |
|---|---|---|---|
| 表計算に近い型 | 表計算の操作感を残したまま、集計、版、権限を仕組みに任せる | 入力する人が限られ、表の形を大きく変えたくない会社 | いまの表をどこまで持ち込めるか。数式の属人化が形を変えて残らないか |
| 業務を効率化する型 | 予算の配布、回収、集計、承認、実績の取り込みを一連の流れにする | 入力する部門が多く、集計の日数を縮めたい会社 | 自社の科目と部門の対応表を、利用する側で保守できるか |
| 経営管理をまとめる型 | 予実に加え、連結、人員計画、指標の管理までを1つのモデルで持つ | グループ会社が複数あり、計画と実績をグループで合わせたい会社 | 設定と保守を担う人を社内に置けるか。導入の期間と体制 |
図の左の2つは、どちらも管理の広さが予実にとどまり、関わる部門と人数の多さで分かれる。右上は、連結や人員まで範囲が広がり、会社の規模も大きい場合である。右下に型を置いていないのは、少ない人数のまま範囲を広げると設定と保守を担う人が足りなくなる、と筆者が見ているためで、この位置の会社は先に範囲を絞る。
型は、5つのことの答えから決まる。入力する人が広く、速くしたい判断が月次の部門別の差異であれば、業務を効率化する型が候補になる。管理の軸がグループ会社や人員まで広がるなら、経営管理をまとめる型を見る。型が決まる前に製品の一覧を見ると、違う型の製品を同じ表で比べることになり、機能の多い製品が有利に見える。
製品を比べる前に決める軸
型が決まったら、製品を比べる軸を作る。軸は5つのことの答えから作る。一般的な機能の一覧から作ると、自社に要らない機能にも点が付く。
| 5つのこと | 製品を比べる軸 | デモで確かめること |
|---|---|---|
| 速くしたい判断 | 締めから差異が見えるまでの手順の数 | 実績を取り込んでから、部門別の差異の画面が出るまでを実演してもらう |
| 管理の軸 | 自社の軸の数と階層を持てるか | 自社の部門の階層と、もう1つの軸を設定した状態を見る |
| 実績の出どころ | 自社の会計システムからの取り込み方と、読み替えの設定のしやすさ | 自社の科目と部門の1か月分のデータを取り込んでもらう |
| 入力する人の範囲 | 入力画面の分かりやすさ、権限の分け方、利用料の決まり方 | 部門の担当者に入力画面を触ってもらう |
| 版の持ち方 | 版の数、版どうしの比較、過去の版の固定 | 当初予算、見込み、実績の3つを並べた画面を見る |
軸には、必須と加点の区別を付ける。必須は、満たさなければ候補から外す条件である。自社の会計システムから実績を取り込めること、自社の部門の階層を持てることなどが当たる。加点は、あれば望ましい条件である。
評価する人も先に決める。経営企画、経理、情報システム部門に加えて、実際に入力する部門の担当者を入れる。デモは、科目と部門のコードを含む自社の1か月分の実績を渡して見る。
予算管理システムや経営管理システムとの呼び方の違い
製品を調べ始めると、予実管理システムのほかに、予算管理システム、経営管理システムという呼び方に出会う。呼び名は製品を出す会社がそれぞれ付けており、名前だけで受け持つ範囲は決まらない。
予算という語には、基準上の定義がある。企業会計審議会の原価計算基準は、予算を「予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したもの」とし、原価計算の目的の1つに「予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること」を挙げている。
筆者はこの記述を、予算には編成と統制の2つの場面がある、と読む。そのうえで、予算管理システムという名前は編成と統制の全体を、予実管理システムという名前は統制、つまり予算と実績の比較と差異の分析を、経営管理システムという名前は予算に加えて連結や指標の管理までを指している、と読んでいる。
これは名前の読み方であり、製品の区分ではない。候補は名前で絞らず、5つのことの答えと型で絞る。
会計システム・ERPとのつなぎ方
予実管理システムの実績は、会計システムやERPから来る。つなぎ方を決めるときは、数字の流れを4つの段階に分けて見る。
決めることは4つある。
- 取り込む細かさ。科目と部門ごとの残高で足りるか、仕訳の明細まで要るか。差異の原因を画面で仕訳までたどりたいなら明細が要る
- 取り込む頻度。月次の締めの後に1回か、締めの途中にも取り込むか。速くしたい判断の期限から逆算する
- 対応表の持ち主。科目や部門が増えたとき、誰が対応表を直すか。経理と経営企画のどちらが持つかを決める
- 締めた後の修正の扱い。取り込んだ後に会計側で修正の仕訳が入ったとき、取り込み直すのか、翌月に反映するのか
ERPを使っている会社では、予実管理システムを別に持つかどうかも論点になる。ERPには、計画の数字を登録して実績と比べる機能を備えるものがある。自社のERPで何ができるかは、製品と契約の内容で違うため、情報システム部門か導入を担当した会社に確かめる。実績をERPの外に出して別の道具で見ることの是非は会計データをERPの外に出してBIで見るべきか、データ基盤が要る会社の条件で扱った。SAPを使う会社で計画と実績をつなぐ進め方はSAP Analytics Cloud(SAC)で計画と実績を一つのモデルにつなぐ進め方に書いた。
予実をグループ会社まで広げる場合は、制度連結の数字と管理用の予実の数字を、同じ仕組みで持つのか分けるのかも決める。連結側の道具の位置づけはSAP Group Reportingの位置づけと、連結決算ツールとしての向き不向きを参照してほしい。
費用の見方と稟議の書き方
費用は、製品に払う金額だけで見ない。社内の工数と、導入後の保守を含めて見る。
| 費用の項目 | 中身 | 見積のときに確かめること |
|---|---|---|
| 初期の設定 | 科目、部門、版、帳票の設定。過去の予算と実績の移し替え | 設定を誰が行うか。自社で行う範囲と、製品の会社や導入支援の会社に頼む範囲 |
| 利用料 | 製品の利用に対して継続して払う金額 | 何に応じて金額が変わるか。人数、会社数、機能の範囲 |
| 連携の構築 | 会計システムやERPから実績を取り込む仕組み | 自社の会計システムとの連携に追加の費用がかかるか |
| 社内の工数 | 要件の整理、対応表の作成、データの確認、利用者への説明 | 経営企画、経理、情報システム部門がそれぞれ何日かけるか |
| 導入後の保守 | 組織変更や科目の追加に合わせた設定の変更 | 設定の変更を自社でできるか。依頼すると費用がかかるか |
見積は、候補を2つか3つに絞ってから、5つのことの確認表を渡して同じ条件で取る。
稟議では、効果を作業時間の削減だけで書かないほうがよい、と筆者は考えている。設例で考える。月次の集計に経営企画の2人が3日ずつかけているとすると、月に6人日、年に72人日である。この全部がなくなるわけではなく、なくなった分の人件費が減るわけでもない。
稟議の中心に置くのは、速くしたい判断である。差異が見える日が何営業日早まり、その分だけ何の判断を前に倒せるのかを書く。作業時間の削減は、その裏づけとして添える。稟議に書く項目は次の6つである。
- 目的。誰が何の判断を速くしたいのか
- 現状。締めから差異の報告までの日数と、そのうち集計と転記にかかる日数
- 要件。5つのことの確認表
- 候補と評価。型、比べた軸、必須と加点の区別、デモの結果
- 費用。初期の設定、利用料、連携の構築、社内の工数、導入後の保守
- 導入後に確かめること。差異が見える日が早まったかを、いつ、誰が確かめるか
6番目を書いておくと、導入した後に目標に届いたかどうかを振り返る場ができる。
よくある質問
予実管理システムと予算管理システムの違いは
呼び方の違いで、受け持つ範囲は製品ごとに確かめる必要がある。筆者は、名前の上では、予算管理システムは予算の編成と統制の全体に、予実管理システムは予算と実績の比較と差異の分析に重心があると読んでいる。名前で絞らず、自社で決めた5つのことに照らして、受け持つ範囲を確かめる。
無料の道具でできるか
入力する人が数人で、管理の軸が部門と科目だけなら、表計算ソフトと会計システムの帳票で予実管理はできる。最新版が分からない、集計に日数がかかる、軸を足せない、直せる人がいない、の4つのうち複数が当てはまるなら、製品の検討に進む。
ERPの機能で足りるか
自社のERPに計画と実績を比べる機能が備わっているなら、それで足りる場合がある。確かめるのは、部門の担当者が予算を入力する画面として使えるか、見込みの版を分けて持てるか、の2点である。備わっている機能は、情報システム部門か導入を担当した会社に聞く。
導入にどのくらいかかるか
期間は、製品の型と、自社の側の準備で変わる。期間を左右するのは、科目と部門の対応表を作る作業、過去の予算と実績を移す作業、入力する人への説明である。製品の会社に期間を尋ねるときは、確認表を渡したうえで、自社が担う作業と日数を分けて答えてもらう。
脱Excelはどの会社にも要るか
要らない会社もある。入力する人が少なく、軸と版が少なく、集計の数式を複数の人が説明できるなら、表計算のままでよい。表計算をやめること自体を目標にせず、先に、速くしたい判断を決める。
- 予実管理システムは、製品を比べる前に5つのことを決める。速くしたい判断、管理の軸、実績の出どころ、入力する人の範囲、予算と見込みの版の持ち方である。
- 最初に決めるのは、誰が何の判断を速くしたいかである。答えから予実管理ツールの型が決まり、製品を比べる軸ができる。
- 科目と部門のコードが予算の単位と対応しているかを、製品を選ぶ前に確かめる。対応が決まらない部分は、製品を入れても手作業が残る。
次に読むなら、差異を打ち手につなぐ月次の進め方を扱った予実管理が形骸化する3つの理由と、差異を打ち手につなぐ進め方を勧める。



