期末監査の最終週。監査法人の主査が、投資有価証券の明細の三行に印を付けて持ってきた。 いずれも事業提携の一環で持っている非上場会社の株式で、そのうち一社は、3年前に新規事業の開拓のために出資したスタートアップである。取得原価は5億円、持分は10%。主査の質問は、出資先の直近の決算書はいつのものか、そして実質価額が取得原価の半分を割っていないか、だった。 経理の手元にある出資先の決算書は、1年半前の期のものしかなかった。事業部に頼んで出資先から最新の決算書をもらうまでに10日かかり、その間、決算発表の日程を動かすかどうかの議論が続いた。
回復可能性で減損を避けられるのは、計画が手に入る出資先だけである
期末に減損の要否で議論が割れる論点は、ほとんどが回復可能性である。実質価額が50%程度以上下がっていることは、決算書があれば計算で分かる。 争いになるのは、その後に回復する見込みがあるかどうかだ。
実務指針の建て付けでは、回復可能性で減損を回避できるのは、事業計画等を入手して判定できる場合であり、典型は子会社と関連会社である。 親会社は子会社の事業計画を自ら作るか承認する立場にあり、関連会社でも取締役を送っていれば計画を入手できる。一方で、数%から十数%の少数出資先から、監査に耐える事業計画を毎期もらえる会社は少ない。 計画がなければ、回復可能性を十分な証拠で裏付けることはできず、判定は実質価額の数字だけで決まる。
事業部が「来期は黒字化する見込みだと先方から聞いている」と言っても、それは証拠にならない。 監査人が求めるのは、出資先の取締役会で承認された計画、その計画と過去の実績の比較、計画の前提となる受注や資金調達の裏付けである。子会社や関連会社でも、過去の計画が毎期未達なら、今回の計画の信用も割り引かれる(見積りの精度を後から検証する方法、引当金と耐用年数のバックテスト)。
超過収益力で買った株式は、取得時に何を買ったかを残す
判定が一番難しいのは、純資産より高い価格で取得した株式である。スタートアップへの出資や、技術や顧客基盤を評価した事業提携の出資は、大半がこれに当たる。 冒頭の会社の出資は、出資先の株式価値50億円を前提に5億円で10%を取得したもので、取得時の出資先の純資産は8億円だった。取得した時点で、1株当たり純資産を基礎にした持分は0.8億円しかなく、実質価額は取得原価の2割を下回っていた。
この場合、純資産だけで実質価額を測れば、取得した翌日から減損になってしまう。実務指針が超過収益力等に触れているのは、この取得時の差を超過収益力として実質価額に含めて考えるからである。 ただし、超過収益力が見込めなくなれば、その分だけ実質価額は大幅に下がる。問題は、何をもって超過収益力が見込めなくなったと判断するかを、取得時に誰も書いていないことだ。
実務では、出資の稟議に書かれた事業計画の主要な指標と、直近の資金調達における1株当たりの価格が、超過収益力が残っているかどうかの手掛かりになることが多い。取得時の稟議で、売上高やユーザー数などの主要な指標と、その達成時期を記録しておく。 期末には、その指標の実績と、直近の第三者割当の価格を並べる。計画から大きく遅れ、次の資金調達が前回を下回る価格だったなら、超過収益力は見込めなくなったと判断する材料が揃っている。判定の基準を取得時に書いておけば、期末の議論は、基準に当てはめた結果の確認だけになる。
会計と税務の判定がずれる所を、先に表にしておく
会計の減損と税務の評価損は、比べる相手が違う。会計は実質価額を取得原価と比べ、税務は期末の1株当たり純資産を取得時の1株当たり純資産と比べる。 純資産に近い価格で取得した株式なら、二つの判定は大体一致する。超過収益力を見込んで高く買った株式では、ずれる。
| 判定の観点 | 会計(金融商品会計基準・実務指針第92項) | 税務(法人税法第33条・施行令第68条・基本通達9-1-9) |
|---|---|---|
| 何と比べるか | 実質価額を取得原価と比べる | 期末の1株当たり純資産を取得時の1株当たり純資産と比べる |
| 下落の目安 | 50%程度以上の低下 | おおむね50%以上の低下 |
| 回復の扱い | 回復可能性が十分な証拠で裏付けられれば減額しないことも認められる | 資産状態の著しい悪化と、その結果としての価額の著しい低下の両方を要する |
| 超過収益力を見込んで高く取得した株式 | 超過収益力が見込めなくなれば減損 | 純資産が取得時から半減していなければ評価損は認められにくい |
| 処理の要件 | 当期の損失として処理 | 損金経理が要件 |
会計で減損しても税務で評価損が認められなければ、その差は将来減算一時差異になり、繰延税金資産を計上できるかどうかは回収可能性の判断に回る。 出資先を売却するか清算するまで解消しない差異なので、スケジューリングできないとして繰延税金資産を計上しない会社も多い(税効果会計の一時差異を期中に拾う工程、スケジューリング表を決算後に作らない)。減損の判定をする時に、税務の判定と税効果の扱いを同じ表で決めておけば、決算の後半で税務と会計の数字を突き合わせ直す作業が消える。
連結子会社の株式を個別財務諸表で減損した場合は、連結にも波及する。「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第32項により、個別上の減損後の簿価が、連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれんの未償却額の合計額を下回った場合には、その差額のうちのれんの未償却額に達するまでの金額について、連結上ものれんを償却する。 子会社株式の減損を個別の論点として処理すると、連結ののれんの処理が後から追いかけてくる(のれんの減損は兆候で管理する、M&A後にCFOが四半期ごとに見る指標)。
出資金は、形態ごとに判定の入口が違う
投資有価証券の明細には、株式会社の株式のほかに出資金が並ぶ。信用金庫や協同組合への出資金のように市場価格のない出資は、株式と同じく実質価額の低下で判定する。 一方で、投資事業有限責任組合や任意組合への出資は、実務指針により、組合の財産の持分相当額を資産に計上し、組合の損益の持分相当額を当期の損益に取り込む。組合が持つ非上場株式の評価は、組合の決算の中で行われる。 出資者の側で減損を判定するというより、組合の決算書がいつ届き、組合がどの方法で投資先を評価しているかを確かめることが、判定の入口になる。
ここでも問題は時期である。組合の決算期と自社の期末がずれていると、自社の決算に取り込めるのは数か月前の組合の決算になる。 その間に組合の投資先で大きな毀損が起きていれば、取り込んだ数字は実態より高い。組合の運営者から四半期ごとの報告を受ける条件を出資の時点で確認し、期末の直前に重要な変動がないかを問い合わせる手順を決めておく。
判定の材料と様式を期中に揃える
期末の議論を長引かせないためには、判定に必要な材料が期末前に揃う仕組みを作る。
起点は出資契約である。 出資先から決算書が届くのが遅いのは、出資先の怠慢というより、契約に提出期限がないからである。出資先の決算日から一定期間内の決算書の提出と、少なくとも四半期ごとの試算表の提出を、情報請求権として契約に入れておく。出資先の決算期が自社と違う場合は、自社の期末時点で直近の決算書が何か月前のものになるかを、出資時に確認しておく。
四半期の更新で、取得原価の6割を下回った銘柄を要監視に入れるのは、50%の判定に余裕を持って備えるためである。 期末の3か月前には、要監視の銘柄ごとに監査人と論点を確認する。回復可能性の証拠が入手できない銘柄は、減損を前提に期末の数字を見込んでおく(監査法人の指摘が期末に集中する原因と、四半期ごとに論点を前倒しする方法)。判定の結論と根拠は判断メモにして残し、翌期に同じ議論を繰り返さない(会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録)。
冒頭の会社は、3月決算の製造業である。投資有価証券のうち非上場株式は12銘柄、取得原価の合計は38億円だった。監査の翌月、経理は銘柄別の判定台帳を作った。 12銘柄のうち、直近の決算書が期末から1年以上前のものだったのが5銘柄、出資契約に決算書の提出条項がなかったのが7銘柄あった。スタートアップの1銘柄は、出資時の稟議に、3年目に年間売上高15億円、次回の資金調達を前回以上の価格で行うという前提が書かれていた。 実績は売上高4億円で、次回の資金調達は前回の6割の価格だった。出資先の純資産は、その調達で入った資金を含めても8億円から6億円に減り、希薄化した持分に相当する純資産は約0.5億円だった。会計上は、超過収益力が見込めなくなったと判断し、取得原価5億円を実質価額まで減損した。 税務上は、増資で株式数が増えたため1株当たり純資産の低下は取得時から4割ほどで、基本通達9-1-9の目安に届かず、評価損は損金に算入しなかった。会計の減損額約4.5億円はそのまま将来減算一時差異になり、売却の予定がないためスケジューリングできないとして、繰延税金資産は計上しなかった。 翌期からは、新規の出資契約に決算書の提出期限と四半期の試算表の提出を入れ、既存の7銘柄も契約の更新時に同じ条項を追加するよう事業部に依頼した。 翌年の期末、判定台帳の要監視銘柄は2つで、監査人との協議は12月に終わっていた。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
非上場株式の減損判定で押さえる三つのこと
第一に、回復可能性で減損を避けられるのは、計画を入手できる出資先だけだと認める。 実務指針第92項は、実質価額が取得原価に比べ50%程度以上低下すれば著しい低下とし、回復可能性の例外は、子会社や関連会社など事業計画を入手できる場合を想定している。少数出資先について、事業部の伝聞で回復を主張しない。
第二に、超過収益力を見込んで取得した株式は、取得時に判断の基準を書いておく。 稟議に主要な指標と達成時期を残し、期末には実績と直近の資金調達価格を並べる。会計と税務は比べる相手が違うので、両方の判定と税効果の扱いを同じ様式で決める。
第三に、判定の材料が期末前に揃う仕組みを作る。 出資契約に決算書と試算表の提出期限を入れ、四半期ごとに銘柄別の判定台帳を更新し、取得原価の6割を下回った銘柄を要監視にして、期末の3か月前に監査人と論点をすり合わせておく。



