3月決算の会社の、5月の第2週。監査チームの主査から、期末監査のまとめとして「未修正の虚偽表示の一覧」が届く。 並んでいるのは四件である。未払費用の計上漏れ1,200万円。滞留在庫の評価損について、会社の見積りと監査人の見積りの差900万円。一部の設備の耐用年数の誤りによる減価償却費の不足、前々期からの累計1,800万円。セグメント情報の注記の転記誤り。主査は、いずれも個別にも合計でも監査意見には影響しない、と言う。 経理部長は一覧を経営者確認書に添付し、社長とCFOが署名する。翌年の5月、同じ形の一覧が、少し長くなって届く。 耐用年数の行の金額は増えている。前の年の一覧がどこに綴じてあるかを知っている人は、経理部にいない。

POINT
監査人が誤りをどう扱うかは、日本公認会計士協会の監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」(最終改正2024年9月26日)に書かれている。第4項は、監査人に、明らかに僅少なものを除き、監査の過程で識別した虚偽表示を集計することを求める。 適用指針A2項は、明らかに僅少とは重要性がないということではなく、個別にも集計しても明らかに些細なことをいい、何らかの疑義がある場合は明らかに僅少ではないと判断するとしている。第7項は、監査人に、集計した全ての虚偽表示について適切な階層の経営者に適時に報告し、修正するよう経営者に求めることを要求する。 第8項は、経営者が修正に同意しない場合、監査人は修正しない理由を把握したうえで、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかを評価するとする。第10項は、未修正の虚偽表示が個別に又は集計して重要かどうかを判断するにあたり、過年度の未修正の虚偽表示が与える影響も考慮することを求め、第11項と第12項は、その内容と過年度分の影響を監査役等に報告することを求める。そして第13項は、監査人に、経営者が未修正の虚偽表示の影響を個別にも集計しても全体としての財務諸表に対して重要性がないと判断しているかどうかを経営者確認書に記載させ、未修正の虚偽表示の要約を記載するか添付することを求めるよう定めている。 A11項は、全ての虚偽表示を修正することで、経営者は正確な会計帳簿と会計記録を維持でき、過年度に重要でなかった未修正の虚偽表示の累積的な影響による将来の重要な虚偽表示リスクを抑えられるとしている。なお、日本公認会計士協会は2026年7月16日に、監査基準報告書570「継続企業」の改正に伴う適合修正の公開草案を公表しており、その対象には450と580「経営者確認書」も含まれている。修正しないと決めた誤りは、経営者の署名とともに翌期へ持ち越される。

「修正しなくてよい」は、監査人の結論ではない

監査の終盤で「この金額なら修正しなくていいですよ」と言われた、と経理が受け止めている場面は多い。基準の上では、順序が逆である。

第7項により、監査人は集計した全ての虚偽表示の修正を経営者に求める。金額が小さいから修正を求めない、という定めは置かれていない。 経営者が修正に同意しなければ、監査人は第8項に従って理由を把握し、未修正のまま残った誤りが財務諸表全体として重要かどうかを評価する。「意見には影響しない」は、この評価の結論である。修正しないと選んだのは、経営者の側である。

その選択は、第13項により経営者確認書に書かれる。未修正の虚偽表示が個別にも集計しても重要でないと判断している、と署名するのはCFOと社長である。 A26項は、経営者が特定の項目を虚偽表示だと認めない場合に、その理由を確認書に書き加えることがあるとしており、その場合でも監査人は影響について結論付ける必要がある。確認書に添付される一覧は、監査人の資料である前に、経営者が表明した判断の明細である。

監査人の一覧は、翌期の経理の道具としては足りない

監査人の一覧は、その期の監査意見のために作られている。第14項が監査調書への記載を求めているのは、明らかに僅少と扱う金額、発見した全ての虚偽表示と修正の有無、未修正の虚偽表示が重要かどうかについての結論と根拠である。 翌期にその誤りをどう扱うかは、ここに入っていない。

A24項は、個別に重要性がない未修正の虚偽表示が多数ある場合、監査役等への報告を、個々の明細に替えて件数と金額の合計にすることがあるとしている。 監査役会の資料で経理が目にするのは、明細ではないこともある。

経理が翌期に使う情報は、監査人の一覧にない列にある。誤りの原因、翌期に反転するのか積み上がるのか、直す時期と担当、修正しないと決めた理由と決めた人。 A6項が示す区分も、翌期の扱いを分ける。確定した虚偽表示は直せば終わるが、判断による虚偽表示は、見積りの方法を監査人とすり合わせない限り、翌期も同じ差が出る。 推定による虚偽表示は、母集団を調べない限り、実際の誤りの額が分からない。見積りの差を毎期の工程で答え合わせする仕組みがあれば、判断による差は減らせる(見積りの精度を後から検証する方法、引当金と耐用年数のバックテスト)。

台帳の列書くこと翌期に使う場面
発見の経路監査人の指摘、自社のレビュー、決算後の発見自社で見つけられなかった誤りの型を、レビューの設計に返す
区分確定・判断・推定(A6項)判断によるものは見積りの方法の協議、推定によるものは母集団の調査
当期の損益への影響当期の損益計算書に与える影響額反転型と累積型を見分ける
期末残高への影響期末の貸借対照表の科目に与える影響額累積の大きさと、直す期の一時の損益の見込み
型翌期に反転する/毎期積み上がる/一回限り翌期首の仕分けと、修正する時期の決定
質的な要因財務制限条項、業績予想、報酬の条件、関連当事者、セグメント(A20項)金額が小さくても修正を優先する項目の選別
修正しない理由と判断者経営者確認書に添付する要約と同じ内容監査役等への説明と、翌期の見直し
直す時期と担当第1四半期の締めなど、期日を置く累積型を放置しない

同じ誤りが、翌期に消えるものと積み上がるもの

台帳で損益と残高の列を分ける理由は、誤りの型によって、測り方で大きさが変わるからである。

翌期に反転する誤りの例。 前期末に未払費用800万円を計上し漏らし、当期末にも同じ種類の未払費用900万円を計上し漏らしたとする。前期に漏れた800万円は当期に支払われて当期の費用になるので、当期の損益への影響は、900万円の費用の過少と800万円の費用の過大が相殺されて、100万円の過少にとどまる。 一方、期末の貸借対照表の未払費用は900万円の過少である。

毎期積み上がる誤りの例。 設備の耐用年数を誤り、毎期300万円ずつ減価償却費が不足しているとする。三期目の損益への影響は300万円だが、期末の設備の帳簿価額は900万円の過大で、翌期には1,200万円になる。

当期の損益への影響で測る方法は、米国ではロールオーバー法と呼ばれ、どちらの例も小さく見える。期末残高への影響で測る方法はアイアンカーテン法と呼ばれ、どちらも900万円に見え、耐用年数の誤りは毎年大きくなる。 米国の証券取引委員会のスタッフ会計公報第108号(SAB 108、2006年)は、登録企業に両方の方法で誤りを測り、どちらかで重要と判断されれば修正する考え方を示している。監基報450のA22項は、過年度の重要性がない未修正の虚偽表示の累積的影響が当年度の財務諸表に重要な影響を与えることがあるとし、評価の方法には複数の方法が考えられるが、同じ方法を使うことで期間の比較可能性を保てるとしている。 どちらの物差しで見られても説明できるように、経理の台帳には両方の列を持つ。

累積する誤りには、もう一つの重さがある。後から直すと、過年度の分がまとめて直した期の損益に入る。 企業会計基準第24号の結論の背景の第65項は、重要性の判断に基づき過去の財務諸表を修正再表示しない場合、損益計算書上、その性質により営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われると考えられるとしている(会計方針の変更・見積りの変更・誤謬の訂正の違いと、遡及・開示への影響)。毎期300万円の誤りを五年放置すれば、直す期の損益には1,500万円が一度に入る。 積み上がるほど、直す判断は重くなり、先送りされやすくなる。

金額の小さい誤りが重くなる場面は、基準に並んでいる

未修正の虚偽表示の評価は、金額だけでは終わらない。A20項は、虚偽表示が重要性の基準値を下回る場合でも、重要と評価することがある状況を例示している。 法令遵守への影響、借入に係る財務制限条項その他の契約条項の遵守への影響、翌年度以降に重要な影響を与える可能性が高い会計方針の不適切な選択又は適用、利益などの趨勢の変化を見えなくすること、財政状態などの評価に使う比率への影響、セグメント情報への影響、経営者の報酬や賞与の要件を満たさせること、既に公表した業績見込み等に照らして重要であること、経営者に関連する関連当事者との取引である。A18項は、個々に重要な虚偽表示は、他の虚偽表示と通常相殺できないとしている。

この一覧のうち、境目にどれだけ近いかを日々見ているのは、監査人ではなく会社である。財務制限条項の余裕度、公表した業績予想との差、役員賞与の算定の条件は、経理の手元の数字である(コベナンツ(財務制限条項)の管理、抵触の前に余裕度を四半期で見る)。税効果を考えなければ、1,000万円の未払費用の漏れは純資産を1,000万円多く見せる。純資産の維持の条件に対する余裕が1,200万円しかない会社で、その誤りは軽い誤りではない。 台帳の質的な要因の列は、監査人の判断を待たずに、会社の側で先に埋める。

誤りが単発で終わらない場合もある。A7項は、識別した虚偽表示が、内部統制が機能していないことや、広く適用している仮定や評価方法が不適切であることから生じている場合、他の虚偽表示が存在する可能性を示唆するとしている。 同じ型の誤りが二期続いたら、金額より先に、レビューの設計を疑う(決算レビューの二重チェックが形骸化する原因、再計算では止まらない誤り)。

台帳は、監査の後ではなく締めの工程に置く

台帳を監査の終わりに作ると、翌年の監査の終わりまで開かれない。締めの工程の中に、一周する循環として置く。

未修正の虚偽表示の台帳は、期末に一度作る資料ではなく、四半期の締めと一緒に一周させる
① 見つけた日に一行を足す
監査人の指摘、自社のレビュー、決算後の発見を区別せずに記録し、区分と型を付ける
→
② 四半期ごとに二つの物差しで集計する
当期の損益への影響と期末残高への影響を別々に合計し、財務制限条項や業績予想などの境目に当てる
↑
未修正の虚偽表示の台帳
↓
④ 翌期首に仕分け、直す時期を決める
反転型は解消を確かめ、累積型と判断による差は、第1四半期のうちに修正か方法の変更かを決める
←
③ 期末に、修正しない理由を決裁する
経営者確認書に添付する要約と台帳を突き合わせ、理由と判断者を書いて、監査役等への説明に使う
修正しないと決めた誤りを、翌期の最初の締めで一度見直す。この循環が定着していれば、確認書への署名は、中身を知ったうえでの署名になる。

②の四半期の集計は、期末に監査人の一覧が届く前に、会社の側の数字を持っておくためである。 期末に初めて合計を知ると、修正するかどうかを決算発表の直前に決めることになる。監査法人との論点を期中に出す運用と同じ考え方で、誤りも期中に棚卸しする(監査法人の指摘が期末に集中する原因と、四半期ごとに論点を前倒しする方法)。

③の決裁は、監査役等への説明を兼ねる。 A25項は、監査人が、虚偽表示の金額と内容、翌年度以降に見込まれる影響を考慮して、修正しない理由とその示す意味を監査役等と協議することがあるとしている。経理の台帳に理由と判断者が書いてあれば、監査役等は監査人の報告を、会社の側の記録と突き合わせて聞くことができる。

設例

売上高720億円の医療機器の販売会社(上場、3月決算)。前期の監査の終わりに、未修正の虚偽表示が三件、経営者確認書に添付された。 一部の設備の耐用年数の誤りによる減価償却費の不足が累計9,000万円(毎期4,500万円、前々期から)、未払費用の計上漏れが3,800万円、滞留在庫の評価損についての監査人の見積りとの差が2,100万円である。経理部はこの一覧を監査調書の写しとして綴じ、台帳は作っていなかった。 当期、耐用年数の設定は直されないまま三期目に入り、累計は1億3,500万円になった。未払費用の漏れは、同じ取引先から月末締めの請求書が翌月中旬に届く運用のまま、4,800万円になった。在庫の見積りの差は2,600万円だった。当期の損益への影響で見れば、耐用年数が4,500万円、未払費用が前期分の反転で1,000万円、在庫が前期の見積りの差2,100万円との差で500万円の計6,000万円だが、期末残高への影響で合計すると2億900万円になる。 決算発表の10日前、監査人は、合計では重要でないとは判断できないとして、修正を強く求めた。経理部は耐用年数の誤りを修正することにした。 監査人との協議を経て、過年度の財務諸表の修正再表示には当たらないとの判断となり、過年度分の9,000万円と当期分の4,500万円を当期の損益で修正した。経常利益は社内の着地見込みから1億3,500万円下がり、決算説明資料に一項を足した。 決算の後、CFOは台帳を作らせた。列は、発見の経路、区分、当期の損益への影響、期末残高への影響、型、質的な要因、修正しない理由と判断者、直す時期と担当である。 未払費用の漏れは、取引先の請求の締め日を月末から25日に変える交渉と、入荷の記録からの見積り計上で潰した(決算のカットオフ(期ズレ)が毎月出る原因、入荷データと請求書のずれ)。在庫の評価損は、見積りの方法を第2四半期に監査人とすり合わせ、滞留月数の区分を監査人の見方に合わせて一段細かくした。 台帳は四半期ごとに締めの最終日に集計し、第3四半期には監査役会に中身を説明している。翌期の期末、未修正の虚偽表示は二件、期末残高への影響の合計は1,700万円で、累積型の行はなかった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

未修正の虚偽表示の台帳で押さえる三つのこと

第一に、未修正の虚偽表示を、経営者が修正しないと選んで署名した判断として、経理の台帳で持つ。 監査基準報告書450(最終改正2024年9月26日)の第7項は、監査人に集計した全ての虚偽表示の修正を経営者に求めさせ、第8項は修正しない理由の把握を求め、第13項は未修正の虚偽表示が個別にも集計しても重要でないという経営者の判断と要約を経営者確認書に記載させる。「意見には影響しない」は監査人の意見についての結論であり、修正しないと選んだのは経営者である。 監査人の一覧は第14項のとおりその期の結論のために作られ、A24項により監査役等への報告が件数と合計になることもあるため、翌期に使う列は経理が自分で持つ。

第二に、損益への影響と残高への影響を別の列で持ち、誤りを型で分ける。 翌期に反転する誤りは当期の損益への影響では小さく見え、毎期積み上がる誤りは残高への影響が年々大きくなる。A22項は過年度の未修正の虚偽表示の累積的影響が当年度に重要な影響を与えることがあるとし、評価の方法には複数の方法があるが同じ方法で比較可能性を保てるとする。 米国のSAB 108は両方の方法で測る考え方を示している。累積型を後から直すと過年度分がまとめて直した期の損益に入るため、翌期首に仕分けて第1四半期のうちに直す時期を決める。

第三に、質的な要因の列を会社の側で先に埋め、台帳を締めの工程で一周させる。 A20項は、財務制限条項、業績見込み、経営者の報酬の要件、関連当事者、セグメントなどに触れる誤りを、重要性の基準値を下回っても重要と評価することがあるとし、A18項は個々に重要な虚偽表示の相殺を認めない。境目に近いかを日々見ているのは会社である。 見つけた日に一行を足し、四半期ごとに二つの物差しで集計し、期末に修正しない理由を決裁して監査役等への説明に使い、翌期の最初の締めで見直す。

まとめ
監査で「修正しなくてよい」と言われた誤りは、経営者が修正しないと選んだ誤りとして経理が持ち続ける。台帳は締めの工程に置き、当期の損益と期末残高の二つの物差しで四半期ごとに集計する。期末には経営者確認書の要約と突き合わせて修正しない理由を決裁し、累積型と判断による差は、翌期の第1四半期のうちに、修正するか見積りの方法を変えるかを決める。

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