資金の担当者が、承認の判を求めに来る。来週の水曜に、当座貸越を1億2,000万円だけ引きたい、という依頼である。 取締役会に出したばかりの資金繰り表では、今月も来月も月末残高は問題のない水準にある。理由を聞くと、決算賞与の支給日と、労働保険の年度更新の納期限と、輸入決済のユーザンス期日が、同じ週に並んでいた。 どれも半年前から確定していた支出で、誰も隠していない。隠していたのは表のほうである。 月末残高を十二回並べた表には、月中に開く谷が一度も現れない。

POINT
週次の資金繰りを平時から持つ理由は、社内の安心のためではない。中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、有事における私的整理の手続として、中小企業者が資金繰りの安定化のために必要があるときに対象債権者へ一時停止の要請を行えることを定めている。 そして対象債権者が誠実に対応する要件を三つ挙げており、その二つ目が 「中小企業者が、手続開始前から債務の弁済や経営状況・財務状況の開示等に誠実に対応し、対象債権者との間で良好な取引関係が構築されていること」 である。手続開始前の対応が、要件そのものに書き込まれている。 同ガイドラインは平時の対応としても、中小企業者は経営の状況、損益の状況、財産(資産負債)の状況、事業計画・業績見通し及びその進捗状況等に関して、正確かつ信頼性の高い情報を、自発的に又は金融機関からの要請に応じて、開示・説明することにより、経営の透明性を確保するように努めるとしている。さらに予防的対応として、有事へ移行する兆候を自覚した場合には速やかに金融機関に報告し、併せて、資金繰りの安定化を図りつつ、本源的な収益力の改善に向けた事業改善計画を策定して、実行することが重要であると書く。そして事業再生計画案に含めるべき内容の一つが「資金繰り計画(債務弁済計画を含む)」である。 有事になってから作れる代物ではない。平時から運用している会社だけが、有事にそれを出せる。

月末残高を並べる表は、月中の谷を構造的に隠す

資金繰り表の多くは、月を単位に作られている。期首残高、収入、支出、期末残高。この形式が悪いわけではない。 見えないものが決まっているだけである。

支払は月内で均等には出ていかない。 日付が固定されている代表格を並べると、給与は20日または25日、源泉所得税は原則として徴収した月の翌月10日まで、社会保険料は納付対象月の翌月末日まで、買掛金は20日締めまたは末日締めの翌月払い。賞与は6月と12月に立ち、年11回の中間申告が必要な会社では消費税の納付が毎月来る。

消費税の中間申告は、直前の課税期間の確定消費税額で回数が変わる。48万円以下なら原則として中間申告は不要、48万円超400万円以下で年1回、400万円超4,800万円以下で年3回、4,800万円超で年11回である。 納付期限は原則として、各中間申告の対象となる課税期間の末日の翌日から2か月以内である。年3回の会社では、この納付が四半期に一度だけ月中の谷を深くする。

つまり、月末残高は月内で最も高い水準のうちの一つになりやすい。 入金は月末に寄り、支払の山はその手前にある。月末だけを並べた表は、最も条件のよい日を十二回並べたものである。

必要なのは、月を週に割ることではない。日付の固定された支出を、実際の日付のまま置くことである(手元流動性はいくら持つべきか、固定費と月商倍率で自社基準を作る)。

13週の中身は予測ではなく、三層に分かれた積み上げである

13という数字そのものに意味はない。四半期がおおむね13週で、予算と報告のサイクルにそのまま接続できるからである。 重要なのは長さではなく、中身の作り方にある。

13週を一様の精度で埋めようとすると、破綻しやすい。 先の週ほど分からないのは当然で、そこを無理に埋めると、当たらない数字が入って表全体の信頼が落ちる。三層に分けて持つ。

第一層は、第1週から第4週の確定情報である。 支払は支払予定表から、給与は勤怠が締まった実額から、税・社会保険は既に確定した納付額から取る。ここは予測ではなく転記であり、外れるとしたら入力ミスである。

第二層は、第5週から第8週の半確定情報である。 受注残と発注残から引く。契約は成立しているが金額や時期に幅があるものが入る。ここは、幅を持たせて中央値を置き、下限を別欄に書く。

第三層は、第9週から第13週の前提である。 売上見込みと標準的な回収サイトから機械的に引く。この層は当たらない。当てるための層ではなく、資金の水準が下がる方向に動いていないかを見るための層である。

三層に分けると、議論の対象が層ごとに変わる。 第一層で差が出たら業務の問題、第二層で差が出たら営業と購買の情報伝達の問題、第三層で差が出たら前提の問題である。混ぜて持っていると、どれが原因かを毎回ゼロから探すことになる。

13週は一枚の表ではなく、三層の情報を一つの時間軸に並べたものである。
STEP 1
第1〜4週を転記で埋める
支払予定表、締まった勤怠から出る給与、確定した税・社会保険の納付額。予測要素はなく、外れるとしたら転記の誤り
→
STEP 2
第5〜8週を受注残・発注残から引く
契約は成立しているが金額と時期に幅があるもの。中央値を置き、下限を別欄に併記する
→
STEP 3
第9〜13週を前提から機械的に置く
売上見込みと標準の回収サイトから計算する。当てるための層ではなく、水準の傾き方を見るための層
→
STEP 4
毎週金曜に更新し、前週予測との差を層別に見る
第一層の差は業務、第二層の差は情報伝達、第三層の差は前提。差の出方の癖が掴めれば、翌週の読みが変わる
土台土台=日付の固定された支出を、実際の日付のまま置くこと。給与は20日または25日、源泉所得税は原則として徴収した月の翌月10日、社会保険料は納付対象月の翌月末日。月末残高だけの表には、この山が現れない。
精度を上げる対象は残高ではなく、差異の出方である。癖が読めた時点で、この表は判断に使える。

見るべきは残高ではなく、前週予測との差の出方である

13週表を作った会社が最初につまずくのが、当たらないから意味がない、という評価である。

当たらないのは当然で、第三層は前提だけでできている。この表の価値は、当たることではなく、外れ方が一定であることにある。

毎週金曜に更新し、前週に置いた数字と実績を並べる。三か月も続けると、癖が見えてくる。 回収が常に一週間後ろにずれる顧客がいる、月末の支払が翌月第1営業日に落ちる取引先がある、経費精算の払い出しが第2週に固まる。これらは業務の実態であって、誤差ではない。

癖が分かれば、予測の作り方をその癖に合わせて直せる。 直した後の表は、水準ではなく方向を読むために使える。残高が下がっているのか、下がる速さが変わったのか。この二つが読めるようになった時点で、この表は経営会議に出せる(週次フラッシュレポートは月次決算の縮小版にしない、判断に使う3〜5指標の選び方)。

そして更新の作業量は、思われているより小さい。第一層は支払予定表からの転記、第三層は前提の計算式である。毎週人が判断するのは第二層だけである。

予算や着地見込みと混ぜない

13週表を作るときに最も多い失敗が、既にある予算や着地見込みの資料に週次の欄を足そうとすることである。

混ぜてはいけない理由は二つある。一つは、単位が違うこと。 予算と着地見込みは損益で作られており、売上は計上時点、費用は発生時点で入る。13週は現金の出入りの時点で入る。同じ売上が、二つの表で別の週に立つ。

もう一つは、目的が違うことである。 予算は目標であり、達成度で評価される。評価と結びついた数字は、歪みやすい。 資金の表に評価が乗ると、回収の見込みが甘く書かれ、支払の見込みが遅めに書かれる。このとき最初に消えるのが、月中の谷である(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。

分けたうえで、接続する箇所を一つだけ決める。四半期の末週の残高を、着地見込みのキャッシュと突き合わせる。 一致しないなら、どちらかの前提が間違っている。この一点だけ合わせておけば、二つの表が別々に育っても矛盾は検知できる。

MEMO
資金繰りの管理そのものが、公的な支援制度の入口に置かれていることも知っておいてよい。中小企業庁の早期経営改善計画策定支援は、資金繰りの管理や自社の経営状況の把握などの基本的な経営改善に取り組む中小企業者等が、国が認定した認定経営革新等支援機関の支援を受けて、資金繰り計画やビジネスモデル俯瞰図、アクションプランといった内容の経営改善計画を策定する際、その費用の3分の2を補助する制度である。 制度が最初に挙げているのが収益改善ではなく資金繰りの管理であることには、理由がある。金融機関との対話は、損益の話より先に、資金がいつどこまで下がるかの話から始まる。

13週予測を運用するために決める三つのこと

第一に、月末残高を並べる表を、日付の固定された支出をそのまま置いた表に置き換える。 給与は20日または25日、源泉所得税は原則として徴収した月の翌月10日まで(納期の特例の承認を受けている場合は1月から6月までの分が7月10日、7月から12月までの分が翌年1月20日)、社会保険料は納付対象月の翌月末日まで、買掛金は20日締めまたは末日締めの翌月払い。消費税の中間申告は直前の課税期間の確定消費税額により、48万円以下なら原則不要、48万円超400万円以下で年1回、400万円超4,800万円以下で年3回、4,800万円超で年11回であり、納付期限は原則として、各中間申告の対象となる課税期間の末日の翌日から2か月以内である。 入金が月末に寄り、支払の山がその手前にある以上、月末残高は月内で最も条件のよい日になりやすい。

第二に、13週を一様に埋めず、三層で持つ。 第1週から第4週は支払予定表と締まった勤怠と確定した納付額からの転記、第5週から第8週は受注残・発注残から中央値と下限を併記、第9週から第13週は売上見込みと標準の回収サイトから機械的に置く。第三層は当てるための層ではない。 層を分けておくと、差が出たときに原因の在り処が層で決まる。第一層なら業務、第二層なら営業と購買の情報伝達、第三層なら前提である。

第三に、予算や着地見込みと混ぜず、接続点を一つだけ決める。 予算と着地見込みは損益の時点で作られ、13週は現金の出入りの時点で作られる。同じ売上が別の週に立つのは当然で、統合しようとすると片方が壊れる。 加えて、予算は評価と結びついており、評価が乗った数字では回収が甘く支払が遅く書かれ、最初に消えるのが月中の谷である。接続するのは四半期の末週の残高と着地見込みのキャッシュだけでよい。 そして、この表は当たらないから意味がないのではない。外れ方が一定であることに価値があり、毎週金曜に前週の予測と実績を並べて三か月続ければ、回収が一週後ろにずれる顧客も、支払が翌月第1営業日に落ちる取引先も見えてくる。

設例

売上高94億円の食品加工会社。取引銀行は三行で、当座貸越の枠は合計6億円ある。資金繰り表は月次で、経理課長が毎月第3営業日に更新して取締役会に出していた。 六か月先まで月末残高が4億円を割らない見通しで、資金の議論は年に一度、借換えの時期にしか行われていない。きっかけは、ある年の6月に起きた。 6月20日から26日にかけて、残高が7,800万円まで下がっている。重なったのは三つで、夏季賞与の支給1億9,000万円、消費税の中間納付8,400万円、そして前年に決めた冷凍設備の最終金1億2,000万円だった。 どれも半年前から決まっていた支出である。月次の表では、6月末の残高が4億2,000万円と表示されていた。 賞与の翌週に大口の入金が二件入るため、月末で見れば何も問題がなかったからである。CFOが13週表の作成を指示したのは、この週の翌週だった。 作り方は三層に分けている。第1週から第4週は、支払予定表、締まった勤怠から出る給与、確定済みの納付額をそのまま転記。第5週から第8週は、受注残と発注残から引き、金額に幅があるものは中央値と下限を併記。第9週から第13週は、売上見込みと標準回収サイトから計算式で置いた。 更新は毎週金曜の午前で、担当は経理課の1名、所要は当初60分、三か月後には25分になっている。四か月目に、癖が二つ見えた。 一つは、量販店3社からの入金が月末最終営業日ではなく翌月第1営業日に落ちること。月末残高で見ていた頃は、この3社の入金が当月に入っている前提だった。合計で1億4,000万円ある。 もう一つは、原料の輸入決済が為替の予約実行日にずれるため、支払週が月によって一週動くこと。この二つを予測の作り方に織り込んだ後、前週予測と実績の差は週次で平均3,100万円から900万円に縮んだ。 使い方も変えている。取締役会には13週表そのものは出さず、最低残高とその発生週、そして前週からの変化だけを一枚にした。 実務上の最大の効果は、借入の交渉時期に出た。翌年の設備更新にあたり、必要額と必要時期を週単位で示せたため、当座貸越の枠を積む案ではなく、時期を合わせた長期借入で組めている。 経理課長の言葉が残っている。月次でやっていた頃は、資金が足りるかどうかしか答えられなかった。今は、いつ、いくら、何週間足りないかを答えられる。銀行の反応が違う。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ
月末残高を並べた表には、給与や源泉所得税、社会保険料の支払が重なって開く月中の谷が現れない。日付の固定された支出は実際の日付のまま置き、13週は三層で埋める。第1〜4週は確定情報の転記、第5〜8週は受注残と発注残、第9〜13週は前提からの計算だ。更新は毎週金曜。前週の予測と実績を並べて三か月続けると、外れ方の癖が見えてくる。予算や着地見込みとは表を分け、四半期の末週の残高だけで突き合わせる。

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