子会社を吸収合併する議案が、取締役会を通る。合併契約は締結済みで、効力発生日も決まっている。 経理部長が顧問の税理士事務所に連絡したのは、その翌週だった。用件は、合併後の申告の段取りを相談したいというものである。 返ってきた最初の質問は、段取りではなかった。被合併法人の繰越欠損金を、引き継げる前提で計画を作っていますか。 引き継げる前提だった。そして、引継ぎに制限がかかる要件に当たるかどうかを、契約の前に誰も確かめていなかった。 顧問は何も間違えていない。聞かれたのが、契約の後だっただけである。

POINT
税務を外に任せるときに、まず押さえておくべき構造がある。法人税法第74条は、内国法人が各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、確定した決算に基づいて申告書を提出しなければならないと定めている。(第75条の2の特例により、定時総会が2月以内に招集されない常況にある法人は、申請により原則1月延長できる。)決算が先にあり、申告はその後に来る。損益計算書の法人税・住民税及び事業税も、貸借対照表の未払法人税等も、申告書が完成する前に会社が確定させている数字である。 上場会社であれば、決算短信の開示はさらにその前に来る。つまり、申告書の作成を外部に出すことはできても、決算に入る税金の数字を外部に出すことはできない。 顧問が申告書を作り終えたときに、決算の税金費用と申告の確定額がずれていれば、その差は翌期の決算に跳ね返る。もう一つの構造が、顧問の立ち位置である。 税理士法第2条が定める税理士業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談の三つで、同法第52条により税理士又は税理士法人でない者はこれを業として行えない。三つのうち、税務代理と税務書類の作成は、会社が起こした取引や決めた方針を税務官公署に届ける仕事である。これから行う取引の設計に顧問が入る入口は、実務上、会社からの相談しかない。 そして顧問は、知らされていない取引について相談を受けることはできない。丸投げの本当の弱点は、顧問の能力ではない。何を聞くべきかを知っている人間が、社内にいないことである。

顧問に任せきりで失うのは、作業ではなく質問の起点である

税務を顧問に任せている会社で、社内に分かる人間がいないと言うとき、多くの経営者は作業の話をしている。申告書を作れる人がいない、別表が読める人がいない、という話である。

作業の側は、実はあまり困らない。申告書の作成は、決算書と税務調整の資料が揃えば、顧問事務所が数週間で仕上げる。 定型の地方税の申告も、電子申告の送信も、外に出して何の問題もない。自社の従業員が自社の申告書を作ることは他人の求めに応じて行う税理士業務には当たらないので、内製も可能だが、内製したところで得られるのは報酬の一部の節約でしかない。

困るのは、質問の起点が社内から消えることである。 顧問の元に取引の情報が届くのは、多くの場合、決算の資料として、つまり取引が終わった後である。海外子会社への役務提供の対価、グループ内の資金の貸し借り、役員への社宅の貸与、新しい設備投資に使える税制。 どれも、取引の前に一言相談していれば選べた手があり、終わった後に届けば処理を考えるしかない。顧問に「何か気になることはありますか」と聞くのは、症状を伝えずに医師に診断を求めるのに近い。 顧問は、会社の取締役会の議題も、営業が交渉している契約の条件も知らない。

したがって、内製するかどうかの問いは、人を何人置くかではなく、どの種類の論点を社内で最初に拾うかという問いに置き直すべきである(税理士資格は事業会社の経理で武器になるか、昇進志向と独立志向で考える)。

論点を三つの種類に分ける

税務の仕事を並べると、性格の違う三つに分かれる。作業としての税務、決算に入る税務、取引の設計に入る税務である。 内製の線は、この三つの境目で引く。

税務の仕事は、社内に要る知識の深さと、判断が遅れたときの害の大きさで三つに分かれる
外に出してよい作業としての税務
社内に要る知識 ●○○
外に出す効果 ●●●
遅れたときの害 ●○○
法人税・地方税・消費税の申告書と届出書の作成、電子申告の送信、定型の申請。材料が揃っていれば、誰が作っても結果は同じになる。
社内に残す決算に入る税務
社内に要る知識 ●●●
外に出す効果 ●○○
遅れたときの害 ●●●
税金費用と未払法人税等の見積り、税効果の一時差異の把握とスケジューリング、消費税の日々の区分、税務調査の一次対応。決算の締めと同じ時間軸で動き、事実を知っているのは社内だけである。
社内で見つけ、外で決める取引の設計に入る税務
社内に要る知識 ●●○
外に出す効果 ●●○
遅れたときの害 ●●●
組織再編、海外取引と移転価格、グループ通算、大型投資で使える税制。判断そのものは専門家に依頼してよいが、論点の存在に気づくのは契約の前でなければならない。
作業は外に出してよい。決算に入る税務は社内に残す。取引の設計に入る税務は、社内で見つけて外で決める。

決算に入る税務は、外に出すと時間軸が合わない

二つ目の種類を社内に残すべき理由は、能力よりも時間にある。

税金費用の見積りは、決算の締めの中で行う作業である。 課税所得の見込みを出し、税率を掛け、税効果を反映し、未払法人税等を置く。この数字が決算短信や計算書類に載るのは、申告書の完成より前である。 顧問事務所が申告書を作るのは決算が確定した後なので、決算の時点で顧問が同じ精度の数字を持っていることは期待できない。決算の税金費用を顧問の概算に頼っている会社は、申告書が完成したときに差額を受け取り、翌期に修正する。 毎期それが続くと、税金費用は常に一期遅れで正しくなる。

税効果会計はさらに社内寄りである。 企業会計基準適用指針第26号が定める繰延税金資産の回収可能性の判断は、将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングから始まる。どの引当金がいつ取り崩されるか、どの評価損がいつ実現するかを知っているのは、事業と決算を見ている社内の側である(税効果会計の一時差異を期中に拾う工程、スケジューリング表を決算後に作らない)。そして回収可能性の判断は、会社の分類と将来の課税所得の見込みに依存する。これは財務諸表の作成者である会社の判断であって、申告書の作成者の判断ではない(繰延税金資産の回収可能性、業績悪化の期に純利益が大きく振れる仕組み)。

消費税は、毎日の伝票で決まる。 2023年10月から、仕入税額控除には原則として適格請求書等の保存が要件になった。一枚ごとの請求書の要件を確認するのは、支払を処理している社内の担当者しかいない。 顧問が年に一度申告書を作る時点で区分の誤りに気づいても、取引先に請求書の再発行を頼める時期は過ぎている(消費税の課税区分の誤りはなぜ申告直前に見つかるのか、期中の検出工程)。

税務調査の一次対応は、事実を知る側がやる

税務調査に顧問が立ち会うことは多い。国税通則法第74条の9は、実地の調査を行う場合に、原則として納税義務者と税務代理人に事前通知を行うことを定めている。 顧問は日程の調整から立ち会いまで引き受けてくれる。

それでも、調査官の質問に答えるのは会社である。 この取引はなぜこの価格なのか。この支出は誰と何のために使ったのか。この契約の相手先と役員はどういう関係なのか。顧問は取引の当事者ではないので、事実を答えることはできない。 答えられるのは、稟議を回した人と、契約を担当した人と、支払を処理した人である。

調査の場で差がつくのは、当日の受け答えの巧拙ではない。取引の目的と価格の根拠が、期中の稟議や議事録に残っているかどうかである(税務調査への備えは期中の記録で差がつく、稟議・議事録・契約書の残し方)。そして、それを残すべき取引を期中に見分けるのも、社内の仕事である。顧問に任せきりの会社では、調査の連絡を受けてから資料を探し、当時の担当者の記憶に頼る。 調査の一次対応を社内に持つとは、窓口を持つことではなく、説明の材料を期中に作る責任を持つことである。

取引の設計に入る税務は、契約の前に見つける

三つ目の種類が、最も害の大きい種類である。組織再編、海外取引、グループ内の資金や役務のやり取り、大型の設備投資。 どれも、取引を設計する段階で税務の選択肢が決まり、実行した後では選び直せない。

組織再編では、適格組織再編に当たるかどうかで、移転する資産の含み損益に課税されるかどうかが変わり、繰越欠損金を引き継げるかどうかにも別の要件がかかる。 要件の多くは、再編の前後の資本関係や事業の継続性で決まる。契約書の条件が固まった後で要件を満たしていないと分かっても、直せる余地はほとんどない。

海外取引では、国外関連者との取引は独立企業間価格で行うことが求められ、一の国外関連者との前事業年度の国外関連取引の合計額が50億円以上、又は無形資産取引の合計額が3億円以上の場合には、その国外関連者との取引について、ローカルファイルを確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存する同時文書化の義務がかかる。 価格の決め方を契約の段階で設計していない会社は、取引が走り出してから根拠を後付けすることになる(グローバルミニマム課税を経理任せにできない理由、申告前の見積りとCFOの役割)。

この種類の論点について、社内に専門家を置く必要はない。再編税制の適格判定や移転価格の算定方法は、顧問とは別の専門家にスポットで依頼してよい。 社内に要るのは、取締役会の議題や営業の交渉の中から、「これは税務の論点がある」と気づいて、契約の前に専門家へ持っていく機能である。 判断を外に出すことと、発見を外に出すことは違う。発見を外に出した会社は、専門家に届いた時点で選択肢の多くを失っている。

契約の前に社内の税務担当へ回す取引の目印
  • 子会社の設立・合併・分割・株式交換・清算など、グループの資本関係が変わる取引
  • 海外の関係会社との間の、商品の売買・役務提供・ロイヤルティ・貸付・保証
  • 関係会社間での資産の移転、債権放棄、無償または低額での役務の提供
  • 役員や同族関係者との取引(社宅、資産の売買、貸付)
  • 設備投資で税額控除や特別償却の対象になりうるもの(着手前の手続が要る制度がある)
  • 新しい国・新しい事業形態への進出(恒久的施設の認定、源泉徴収の要否)
  • 繰越欠損金を持つ会社が関わる取引

社内に置くのは一人でも足りるが、置く場所を間違えない

三つに分けると、社内に必要な人員は思われているより少ない。作業は外に出したままでよいので、社内に要るのは決算に入る税務を担い、取引の設計に入る論点を拾う機能だけである。 売上が数百億円規模の単体中心の会社であれば、専任で一人、あるいは決算担当の一人が業務の半分を税務に充てる形でも、三つの種類のうち社内に残す二つは担える(経理組織の適正人数は売上規模では出ない、機能別に工数を積み上げる方法)。

気をつけるべきは、置く場所である。 税務担当を決算の工程の最後尾に置くと、決算に入る税務は処理できるが、取引の設計に入る論点は拾えない。取締役会の議案や大型の稟議が、決裁の前に税務担当の目を通る経路を作っておく必要がある。 稟議規程の回付先に一行足すだけで済むことが多い。逆にこの経路がない会社では、どれほど優秀な担当者を採っても、取引の話を知るのは決算の資料が回ってきた時である。

顧問との関係も変わる。社内に論点を拾う機能ができると、顧問への質問が具体的になり、顧問の知見を使える範囲が広がる。 任せきりの状態では、顧問は申告書の作成者でしかない。社内に質問の起点がある状態では、顧問は判断の相談相手になる。 同じ顧問料で得られるものが変わるのは、この違いによる(税務申告と決算をつなぐ期中の分担、申告調整を期末に慌てて作らない)。

MEMO
社内の税務担当に税理士資格は要らない。自社の申告に関わる業務は税理士業務の制限の対象外で、必要なのは資格よりも、自社の事業と決算の構造を知っていることである。 採用で見るべきは、申告書を作れるかどうかではなく、税効果のスケジューリングを自分で組んだ経験があるか、組織再編や海外取引の論点を専門家に持ち込んだ経験があるかの二点である。前者は決算に入る税務、後者は取引の設計に入る税務の力を示す。

税務の内製範囲を決める三つの手順

第一に、税務の仕事を、作業・決算に入る税務・取引の設計に入る税務の三つに分けて棚卸しする。 申告書と届出書の作成は外に出したままでよい。法人税法第74条のもとで申告は確定した決算に基づいて行われるため(第75条の2の延長の特例を受けていても、この順序は変わらない)、決算に載る税金費用と未払法人税等は申告書より先に会社が確定させる数字である。 税効果の一時差異の把握とスケジューリング、消費税の日々の区分、税務調査の説明材料の準備は、決算の締めと同じ時間軸で社内が担う。ここを顧問の概算に頼ると、税金費用は毎期一期遅れで正しくなる。

第二に、取引の設計に入る税務は、発見を社内、判断を外部に分ける。 組織再編は適格かどうかで含み損益への課税と繰越欠損金の扱いが変わり、要件の多くは契約の条件で決まる。一の国外関連者との前事業年度の国外関連取引の合計額が50億円以上、又は無形資産取引の合計額が3億円以上の場合には、その国外関連者との取引について、ローカルファイルを確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存する同時文書化の義務がかかる。 判断は顧問とは別の専門家にスポットで依頼してよいが、論点の存在に気づくのは契約の前でなければならない。顧問が取引の設計に入る入口は実務上会社からの相談であり、知らされていない取引は相談の対象にならない。

第三に、社内の税務担当を、決算の最後尾ではなく決裁の手前に置く。 取締役会の議案と一定額以上の稟議が、決裁の前に税務担当の目を通る経路を稟議規程に書く。人数は一人でも足りるが、経路がなければ何人いても取引の話は決算の資料で初めて届く。 社内に質問の起点ができると、顧問は申告書の作成者から判断の相談相手に変わる。同じ顧問料で得られるものが変わるのは、社内の側が変わったときだけである。

設例

売上高160億円の産業資材メーカー。非上場で、経理は6名、税務は創業以来の顧問事務所に一括で任せている。顧問事務所は月次の訪問で帳簿を確認し、決算後に申告書を作成していた。 決算の税金費用は、顧問事務所から決算前に受け取る概算をそのまま計上していた。毎期、申告書ができた後に数百万円単位の差額が出て、翌期に過年度分として処理するのが恒例になっていた。 見直しのきっかけは、タイに設立した販売子会社だった。本社から技術支援の人員を出し、その対価を請求していなかったことが、設立から二年目の決算資料で顧問の目に留まった。 国外関連者への無償の役務提供は、寄附金や移転価格の論点になりうる。取引の条件を決めた時点で相談していれば、契約書に対価の算定方法を入れておけた。 二年分の取引を後から整理するのに、外部の専門家への依頼を含めて四か月かかっている。CFOが行ったのは、人を増やすことではなく、線を引くことだった。 決算担当のうち1名を税務担当に指名し、業務の半分を税務に充てる形にした。担当させたのは三つである。 一つ目は税金費用の見積りで、課税所得の見込みと税効果のスケジューリングを社内で作り、顧問事務所には検証を依頼する形に逆転させた。二つ目は、取締役会の議案と1,000万円以上の稟議の回付先に税務担当を加えたこと。 三つ目は、上記の目印に当たる取引の一覧を四半期ごとに顧問事務所と共有する定例を設けたことである。申告書の作成と電子申告は、従来どおり顧問事務所に残した。 二年後、決算の税金費用と申告の確定額の差は、毎期数百万円から数十万円に縮んでいる。それ以上に効いたのが、翌年に検討した子会社の吸収合併だった。 稟議の段階で税務担当が繰越欠損金の引継ぎ要件を論点として挙げ、顧問事務所とは別の専門家に効力発生日の設定を含めて相談してから契約を締結している。変わったのは顧問ではなく、顧問に届く質問の時期だった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ
顧問税理士に取引の情報が届くのは、いつも取引が終わった後になっていないか。内製の範囲は人数で決めず、作業としての税務、決算に入る税務、取引の設計に入る税務の三種類で切る。作業は外に出し、決算に入る税務は社内に残し、取引の設計に入る税務は社内で見つけて外で決める。最初の一手は、取締役会の議案と一定額以上の稟議が決裁前に税務担当の目を通る経路を、稟議規程に書くことだ。単体中心の会社なら、担当は専任一人か、決算担当が業務の半分を充てる形でも足りる。

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