原価低減の指示は、たいてい工場に降りる。歩留を上げろ、段取りを短くしろ、購買は単価を叩け。現場は応じる。翌期の差異表を見ると、確かに数量差異は改善している。それでも製品別の粗利率は戻らない。この状態が二期続いたら、指示の宛先を疑ったほうがいい。その製品の原価は、工場に図面が回ってきた時点でほとんど確定している。 工場でできるのは、確定した設計の中で無駄を削ることだけだ。削り代の大きさは、設計が決めている。

POINT
設計段階の原価が社内で議論されないのは、担当者の意識の問題ではなく、制度の構造の問題である。原価計算基準は「二 原価計算制度」で、原価計算制度以外に「経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価たとえば差額原価、機会原価、付加原価等を随時に統計的、技術的に調査測定すること」があるとしたうえで、「かかる特殊原価調査は、制度としての原価計算の範囲外に属するものとして、この基準には含めない」と明記している。つまり設計段階で必要になる原価は、財務会計機構と結びついた継続的な計算体系の外にある。制度の計算体系は、完成した製品の実績を計算する仕組みであって、まだ存在しない製品の代替案を比較する仕組みではない。 誰かが随時作らない限り、設計の判断に必要な原価はこの世に存在しない。にもかかわらず基準は「一 原価計算の目的」の(五)で「経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること」を目的の一つに挙げ、基本計画を随時的に行なわれる決定と説明している。作れ、ただし常設の仕組みからは出ない、という建て付けだ。だから原価企画は改善活動ではなく設計問題になる。決めるのは三つ。第一に、目標原価を誰が決め、誰が合意するか。第二に、未達のまま次の工程へ進めるかどうかを、どの会議の決議事項にするか。第三に、量産後の実際原価を設計時の見積りと突き合わせ、次の案件の見積り精度に返す工程を誰が持つか。この三つが空欄のまま「原価企画を導入する」と言っても、動くのは書式だけである。

原価計算基準は、設計段階の原価を扱っていない

社内で原価の話をすると、必ず経理が持っている数字に議論が寄る。実際原価、標準原価、原価差異。これらはすべて原価計算基準が定める原価計算制度の産物だ。基準は制度としての原価計算を、財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系と位置づけている。

そして基準は、その外側があることを自分で書いている。「二 原価計算制度」の末尾は、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価、たとえば差額原価、機会原価、付加原価等を随時に調査測定することに触れ、そうした特殊原価調査は制度としての原価計算の範囲外に属するものとして基準には含めない、としている。

設計段階で必要なのは、まさにこの種の原価だ。この材質を選んだ場合と別の材質を選んだ場合の差額。この工法を採ったときに失われる、別の工法なら使えたはずの既存設備。部品を内製するか外から買うかの比較。どれも差額原価と機会原価であり、制度の外にある。

つまり、設計の原価情報が出てこないのは仕組みが壊れているからではない。最初からそこに仕組みが無いからだ。 経理に「設計段階の原価を出してほしい」と頼んでも出てこないのは当然で、経理が握っているのは制度の側の数字である。ここを取り違えると、原価企画の議論が「経理のシステムを直せば出る」という話に流れ、二年かけて何も変わらないことになる。

「大半が決まる」の中身を、比率でなく構造で見る

設計段階で原価の大半が決まる、という言い方は広く使われている。ただ、その比率に確かな出典を付けられる会社は少ない。数字を借りてくる必要はない。図面が確定した後に何が動かせるかを数えれば、構造のほうは自分で確かめられる。

図面が確定すると、次の項目は固定される。部品点数と構成。材質。寸法公差。締結方法。表面処理の指定。要求される加工方法。そして多くの場合、その部品を作れる調達先の範囲も、公差と工法の指定によって絞られている。

工場と購買に残るのは、加工時間の短縮、歩留の改善、段取りの削減、そして絞られた候補の中での価格交渉である。残っているのは「同じものをどう安く作るか」だけで、「何を作るか」はもう決まっている。 削り代の上限は、設計が引いた線の内側にある。

だからこそ、この局面に財務が入る意味がある。設計者は仕様と性能で判断し、購買は単価で判断する。両者の判断が損益にいくら効くかを、同じ単位で並べられるのは財務だけだ。ここは製品別の採算を見る作業と地続きになる(プロダクト別・顧客別の収益性分析:赤字を生む隠れた顧客を見つける)。

同じ「設計」でも、費用になる線は会計方針が引いている

もう一つ、CFOが押さえておくべき会計上の性質がある。設計にかかった支出は、全部が同じ扱いになるわけではない。

企業会計審議会の「研究開発費等に係る会計基準」は、研究を「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」、開発を「新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」と定義したうえで、研究開発費をすべて発生時に費用として処理することを求めている。研究開発費には人件費、原材料費、固定資産の減価償却費、間接費の配賦額等、研究開発のために費消されたすべての原価が含まれる。同基準の注解は、費用として処理する方法として、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法があるとしている。

ここで実務が分かれる。日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」は、研究開発に含まれない典型例を挙げており、そこには製品を量産化するための試作、製品の品質改良や製造工程における改善活動、既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更、客先の要望等による設計変更や仕様変更が含まれる。

原価企画が実際に扱う設計局面の多くは、この「研究開発に該当しない」側にある。 量産化のための試作も、客先要望による仕様変更も、研究開発費ではなく製造原価の側に入る。同じ設計行為でも、線のどちら側に置かれるかで期間損益への当たり方が変わる。研究開発費として処理されればその期の費用になり、製造原価として処理されれば仕掛品と製品を通って売上原価になる。

そして、この線を引いているのは設計部門ではない。会計方針である。自社の設計費用のうち、どこまでが研究開発費で、どこからが製造原価なのか。これを一枚で説明できる会社は多くない。 説明できないまま「開発費の予算内かどうか」の議論をしていると、設計の意思決定が損益にいつどう当たるかは、誰にも見えないまま進む。

打てる手は二つある。第一に、設計局面で発生する費用の区分基準を、自社の開発工程の段階名で文書にする。新製品の計画・設計と著しい改良は研究開発費、量産化のための試作と設計変更・仕様変更は製造原価、という線を、実際のゲート名に対応づけて書く。第二に、開発ゲートの各段階に、その段階の費用がどちらに入るかを紐づける。区分が段階に紐づくと、ゲートを一つ進める判断が、当期費用をいくら増やす判断なのかがその場で分かる。

目標原価は「割り付け」でなく「決議」にする

目標原価を設定している会社は多い。動いていない会社も多い。差は、目標原価が誰の合意事項になっているかで決まる。

よくある形は、企画部門が売価と目標利益から逆算した目標原価を出し、設計に割り付けて終わるものだ。設計は受け取るが合意はしていない。だから未達でも痛まない。図面は出て、量産が始まり、原価会議で「想定より高い」という話になる。そのときには既に金型が立っている。

原価企画は改善活動ではなく、開発の意思決定に組み込む工程として設計する。
STEP 1
目標原価を機能別に分解する
製品全体の目標を、機能ブロックや主要部品の単位まで割る。割った先に責任者を置く。全体一本の目標は誰の目標にもならない
STEP 2
設計案ごとに差額で比較する
採用案と代替案の差額原価で並べる。既存設備が使えなくなる案は機会原価も足す。制度の外の数字なので、財務が随時作るしかない
STEP 3
ゲートで未達の可否を決議する
目標との乖離率と、乖離を残したまま次工程へ進める場合の決議者を先に決める。判断を先送りできる設計にしない
STEP 4
量産後に見積りを検証する
実際原価を設計時の見積原価と突き合わせ、外れた要因を次の案件の見積り前提に返す。ここが無いと見積り精度は永久に上がらない
土台土台=設計段階の原価は原価計算制度の外にある。原価計算基準「二 原価計算制度」は、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価(差額原価、機会原価、付加原価等)の調査を特殊原価調査と呼び、制度としての原価計算の範囲外に属するものとして基準に含めないとしている。月次の仕組みからは出ないため、誰が随時作るかを先に決める。
目標原価は割り付けた時点では紙にすぎない。ゲートの決議事項になって初めて、設計の判断を動かす。

決議事項にするとは、具体的にはゲート通過の条件に原価を入れるということだ。目標に対する乖離が一定率以内なら設計責任者の判断で通す。超えるなら、開発担当役員の決議で通す。決議した場合は、乖離を回収する手立て(売価、数量、量産後の改善計画のいずれか)を同じ議事に残す。これだけで、未達が誰にも見えないまま量産に流れる経路が塞がる。

乖離率の刻みは、後戻りの費用が跳ね上がる時点で切る。多くの製造業では、金型と治工具の手配が分水嶺になる。手配前なら設計変更の費用は工数で済むが、手配後は型費が乗り、納期も動く。だから刻みは一律にしない。 手配前の初期ゲートは乖離率を緩めに置いて設計の試行を許し、手配を承認するゲートで最も厳しく置く。量産移行後のゲートは、原価の可否ではなく改善計画の妥当性を見る場に切り替える。刻みを全ゲートで揃えると、いちばん効くゲートで止められない。

ここで避けるべきなのは、未達を理由に開発を止めることを既定路線にすることだ。 止める判断が重すぎると、目標原価は達成できる水準まで甘く置かれるようになる。目標は攻めた水準に置き、未達は上位者の決議で通す。この組み合わせが、目標の緊張感と開発のスピードを両立させる。

サプライヤーに原価を出させる前に、自社の要求を数える

原価企画を始めると、多くの会社が最初にサプライヤーへの原価開示要求に手を付ける。順序としては後のほうがいい。先にやることがある。

図面と仕様書に書かれた要求のうち、どれが原価を押し上げているかを自社側で数えることだ。公差の指定、表面処理の等級、検査項目、納入形態、ロットサイズ、変更のリードタイム。これらは自社が一方的に決めている条件で、相手の努力では動かない。相手に原価を下げろと言う前に、こちらの要求のうち機能に効いていないものを消すほうが早い。

この作業は、設計者と購買と品質保証が同じ図面を見て一項目ずつ潰すしかない。時間はかかるが、一度やると次の案件の初期条件になる。そして、この過程で出てきた「機能に効いていない要求」の一覧は、価格交渉の材料としても質が高い。条件を緩めた分の見返りとして価格を議論できるからだ(価格戦略に財務が入る|値上げ判断を勘でなく利益で決める)。

現場では
産業機械の部品を手がけるメーカーで、三年続けて主力機種の粗利率が落ちていた。工場には毎期の原価低減目標が課され、歩留も段取り時間も実際に改善していた。原価差異表を見る限り、現場は良くなっている。それでも粗利は戻らなかった。財務が製品別に分解すると、粗利の落ち込みは既存機種ではなく、直近二年に立ち上げた新機種に集中していた。新機種は既存機種より部品点数が多く、そのうち数点は公差の指定が厳しく、対応できる加工先が二社しかなかった。単価は既存部品の三倍近い。設計を追うと、その公差は初期の試作段階で組付け不良を避けるために厳しく置かれ、その後の設計変更で組付け構造が変わった後も見直されないまま図面に残っていた。誰も間違えていない。誰も見直す担当ではなかっただけである。この会社が変えたのは仕組みの一点だけだった。開発ゲートの通過条件に、主要部品ごとの目標原価と実見積りの乖離率を入れ、乖離が一定率を超える部品については、公差・材質・工法のどれが効いているかを一枚に書いて出すことを義務にした。書式は一枚で足りた。次の機種では、量産前に公差指定の見直しが四点入り、そのうち二点で調達先の候補が増えた。効果は初年度の損益にはほとんど出ていない。変わったのは、設計の判断が原価の言葉で議事録に残るようになったことだった。

量産後の検証を持たない原価企画は、二回目で止まる

原価企画を始めた会社が一年で息切れする理由は、ほぼ一つに絞られる。設計時の見積原価が当たったかどうかを、誰も確かめていないからだ。

確かめないと二つのことが起きる。第一に、見積りの精度が上がらない。設計者は毎回、根拠の薄い数字を出し続けることになる。第二に、外れたときの言い訳が無限に用意できる。市況が動いた、数量が計画に届かなかった、仕様が途中で変わった。どれも本当のことなので、検証の場が無ければ全部が理由になる。

やることは単純で、量産が安定した時点で、実際原価を設計時の見積原価と同じ粒度で並べる。差の要因を、数量要因・価格要因・仕様変更要因・見積り誤差の四つに割る。前の三つは外部要因や後発事象で説明がつく。見積り誤差として残った分だけが、次の案件の前提を直す材料になる。 ここを分けずに「差が出た」で終わると、検証は感想会になる。

差異を要因に割る作法そのものは、標準原価の世界で既に確立している(標準原価と原価差異分析の使い方:差異を改善行動に変換する読み方)。原価企画で必要なのは、その手法を量産前の見積りに対しても適用することだ。システム側で製品原価を持っているなら、標準原価の設定値と設計時の見積りを紐づけておくと、この照合はかなり軽くなる(製造業のSAP原価計算(製品原価管理)|標準原価から差異を経営に返す)。

原価低減の指示を、宛先ごと書き換える

工場への原価低減指示をやめる必要はない。ただ、それだけを続けている会社は、削り代の内側でしか動いていない。効くのは、削り代そのものの大きさを決める場所に手を入れることだ。

順序は決まっている。まず、直近に立ち上げた製品の粗利率を既存製品と分けて出す。落ちているのが新製品なら、原因は工場ではない。次に、その製品の主要部品を単価順に並べ、上位の数点について、単価を押し上げている指定(公差、材質、工法、検査)を図面から拾う。ここまでは既存のデータでできる。そのうえで、次の開発案件から、ゲートの通過条件に目標原価との乖離率を入れる。

原価計算基準が制度の外に置いた数字を、誰が随時作るのか。 原価企画の成否は、結局この一行が社内で埋まっているかどうかで決まる。経理は制度の側を持っている。設計は仕様を持っている。購買は市況を持っている。差額と機会原価を同じ表に載せて、開発の意思決定に間に合う速さで出す役目は、放っておくと誰のものにもならない。

まとめ
工場に原価低減を指示し続けても粗利率が戻らないのは、原価が決まる場所が工場ではないからである。図面が確定した時点で、部品点数と構成、材質、寸法公差、締結方法、表面処理、要求される加工方法、そして対応可能な調達先の範囲が固定される。工場と購買に残るのは、その内側での加工時間短縮・歩留改善・段取り削減・価格交渉であり、削り代の上限は設計が引いた線が決めている。ところが設計段階の原価は、社内の常設の仕組みからは出てこない。原価計算基準は「二 原価計算制度」において、原価計算制度以外に、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価(差額原価、機会原価、付加原価等)を随時に統計的・技術的に調査測定することがあるとしたうえで、かかる特殊原価調査は制度としての原価計算の範囲外に属するものとしてこの基準には含めない、と明記している。一方で基準は「一 原価計算の目的」(五)において、経営の基本計画を設定するに当たりこれに必要な原価情報を提供することを目的の一つに挙げ、基本計画を随時的に行なわれる決定と説明している。作れ、ただし常設の計算体系からは出ない、という建て付けである。会計上の線引きも押さえておく。企業会計審議会「研究開発費等に係る会計基準」は、研究を新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究、開発を新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として研究の成果その他の知識を具体化することと定義し、研究開発費をすべて発生時に費用として処理することを求めている。同基準の注解は、費用として処理する方法に、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法があるとしている。さらに日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」は、研究開発に含まれない典型例として、製品を量産化するための試作、製品の品質改良や製造工程における改善活動、既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更、客先の要望等による設計変更や仕様変更を挙げている。原価企画が扱う設計局面の多くはこの該当しない側にあり、製造原価として仕掛品と製品を通る。同じ設計行為でも、線のどちら側に置かれるかで期間損益への当たり方が変わり、その線を引いているのは設計部門ではなく会計方針である。自社の設計費用のうちどこまでが研究開発費でどこからが製造原価かを一枚で説明できない状態では、設計の意思決定が損益にいつどう当たるかは見えない。区分基準を自社の開発工程の段階名で文書化し、開発ゲートの各段階に紐づける。工程設計としては四つになる。第一に、目標原価を製品全体で一本置くのではなく、機能ブロックや主要部品まで分解し、割った先に責任者を置く。第二に、設計案は差額原価で比較し、既存設備が使えなくなる案には機会原価も足す。第三に、開発ゲートの通過条件に目標原価との乖離率を入れ、乖離を残したまま次工程へ進める場合の決議者を先に決める。未達を理由に開発を止めることを既定路線にすると目標が甘くなるため、目標は攻めた水準に置き、未達は上位者の決議で通す形にする。乖離率の刻みは全ゲートで揃えず、後戻りの費用が跳ね上がる時点――多くの製造業では金型と治工具の手配――を承認するゲートで最も厳しく置く。第四に、量産が安定した時点で実際原価を設計時の見積原価と同じ粒度で並べ、差を数量要因・価格要因・仕様変更要因・見積り誤差の四つに割る。見積り誤差として残った分だけが、次の案件の前提を直す材料になる。この検証工程を持たない原価企画は、二回目で止まる。なお、サプライヤーへの原価開示要求より先に手を付けるべきは、自社が一方的に決めている要求条件(公差、表面処理の等級、検査項目、納入形態、ロットサイズ、変更リードタイム)のうち機能に効いていないものを消す作業である。相手の努力では動かない条件を残したまま価格だけを求めても、原価は動かない。

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