2月の第1週、年度決算の段取りを確かめる打合せ。昨年の夏に採択された設備投資の補助金4,000万円について、事務局から額の確定の通知が届いたと、経理の担当者が報告する。 対象は第2工場の自動化ラインで、取得価額は1億2,000万円、12月に検収を終えて稼働している。入金は5月になるが、額が期末前に確定したので、この期に補助金を収益に計上し、圧縮記帳もこの期で行う段取りになる。担当者は、顧問の税理士事務所に相談して、いつもどおり直接減額でやるつもりだと言う。 経営企画の課長が、手元の資料を見ながら口を挟む。来期の予算では、このラインの減価償却費を年1,200万円で置いている。直接減額にすると、帳簿の上では年800万円になる。どちらの数字で第2工場の採算を見るのか。 そして3年後に予定している第3工場の同じラインの増設は、補助金なしで計画している。

POINT
圧縮記帳の根拠は法人税法42条である。国や地方公共団体の補助金など(法は国庫補助金等と呼ぶ)の交付を受け、その目的に合った固定資産を取得または改良した場合で、期末までに返還を要しないことが確定しているとき、補助金の額を限度に、帳簿価額を損金経理で減額するか、確定した決算で積立金として積み立てれば、その額を損金に算入できる。 積立金は、決算の確定の日までに剰余金の処分として積み立てる方法でもよい。期末に返還の要否が確定していなければ、43条の特別勘定で受ける。申告書には別表十三(一)で明細を付ける。どちらの方式も、決算の手続そのものが要件になっている。 申告書の上だけで後から圧縮を足すことはできない。圧縮した後の設備の取得価額は、法人税法施行令54条により、圧縮した後の金額とされる。 以後の減価償却費は、その小さくなった取得価額から計算される。会計の側では、企業会計原則注解24が、国庫補助金等で取得した資産について補助金に相当する額を取得原価から控除することを認め、貸借対照表では控除する形式で書くか、控除後の残額だけを書いて補助金の額を注記するとしている。IFRSのIAS第20号も、補助金を繰延収益として示す方法と、資産の帳簿価額から控除する方法の両方を認めている。 もう一つ、補助金で取得した設備には処分の制限がかかる。補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条は、補助金で取得した一定の財産を、各省各庁の長の承認を受けずに、交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供することを禁じている。

圧縮記帳は税を消さない、後の期に回すだけ

最初に確かめておくべきことは、圧縮記帳で税金は減らないということである。

補助金4,000万円は、そのままなら受け取った期の益金になる。実効税率を3割とすれば、補助金の年に約1,200万円の税負担が生じ、手元に残るのは2,800万円である。 設備の購入を補助するための資金に、その年のうちに税がかかる。圧縮記帳は、この年の課税を避けるための仕組みである。

だが、圧縮した4,000万円は消えるわけではない。 直接減額なら、取得価額が8,000万円になり、10年の定額法で年の減価償却費は1,200万円から800万円に減る。毎年400万円ずつ損金が減り、10年で4,000万円が課税所得に戻ってくる。 積立金方式でも、積み立てた金額を以後の年に取り崩して益金に戻すので、結果は同じである。課税の総額は変わらず、変わるのは課税の時期だけである。

だから、圧縮記帳を使うかどうかは、ほとんどの会社で迷う余地がない。投資の年の資金繰りを考えれば、使うのが合理的である。迷うべきなのは、どちらの方式で使うか、そして、その結果として帳簿に残る設備の金額で、会社の中の何を測るかである。

直接減額と積立金方式で変わるのは、帳簿に残る設備の姿である

二つの方式は、課税の結果が同じでも、財務諸表と台帳に残るものが違う。

比べる点直接減額積立金方式
設備の簿価(取得時)8,000万円1億2,000万円
年の減価償却費800万円1,200万円
補助金の年の損益受贈益と圧縮損が相殺し、純額はゼロ受贈益4,000万円が特別利益に立つ。税効果を適用する会社では、同時に繰延税金負債が立つ
純資産の中の表示なし税効果を差し引いた額を圧縮積立金として繰越利益剰余金から振り替え、毎年取り崩す
申告書の手当別表十三(一)で明細を付ける積立額を減算し、以後の年の取崩額を加算する。別表五(一)で残高を10年追う
選べる期限決算で損金経理する時点まで決算の確定の日まで(剰余金の処分による積立てを含む)

直接減額は、仕組みとしては単純である。 補助金の年に損益が膨らまず、以後は小さくなった償却費を計上するだけで、申告書の手当も一度で済む。税効果会計を適用していない会社や、毎年の取崩しを追う人手のない会社では、これが現実的な選択になる。

積立金方式は、設備を取得価額のまま貸借対照表に残す。 償却費は設備の実際の値段で計上され、補助金の効果は純資産の中の積立金と繰延税金負債に分けて表れる。その代わり、10年にわたって毎年の取崩しを別表で追う必要がある。担当者が替わった年に取崩しの加算が漏れるのは、税務調査で指摘されやすい典型の一つである(税務申告と決算をつなぐ期中の分担、申告調整を期末に慌てて作らない)。

どちらが正しいという話ではない。問題は、多くの会社がこの選択を、決算の直前に、申告の手間だけで決めていることである。

直接減額は、その設備を使う工場の採算を実力より良く見せる

冒頭の経営企画の課長の問いは、方式の選択が税務の話で終わらないことを示している。

直接減額を選ぶと、第2工場の自動化ラインの償却費は年800万円になる。工場の損益を帳簿の償却費で作っている会社では、このラインの利益は、補助金がなかった場合より毎年400万円多く見える。 設備の簿価も8,000万円なので、工場の投下資本は小さく、資本の効率を測る指標は二重に良く見える。

補助金は、設備が生む力とは関係のない、一回きりの資金調達の条件である。 同じラインを来年もう一本入れるとき、補助金が採択される保証はない。冒頭の会社が3年後に計画している第3工場の増設は、補助金なしで1億2,000万円かかる。第2工場の実績の採算を根拠にして増設の稟議を書けば、償却費を400万円少なく見積もった投資案が通ることになる。 投資判断に補助金を織り込むときの問題と、根は同じである(補助金・税額控除を投資判断にどこまで織り込むか、採択前の金額の扱い)。

歪みは10年後にも来る。 直接減額した設備は、償却の終わりが近づくほど簿価が小さく、更新の時期には新しい設備の償却費との差が、補助金の分だけさらに大きく見える。償却の終わった設備を使う工場の原価が安く見えるのと同じ構造が、補助金の分だけ早く始まる(償却済み設備を使う工場の原価が安く見える問題、簿価ゼロが設備更新の判断を歪める)。

売却や組替えの場面でも、簿価の小ささが判断を誤らせる。 簿価の小さい設備を売れば売却益が大きく出るが、処分の制限の期間内であれば、承認と補助金の返還を求められることがある。帳簿の売却益だけを見て設備の移設や売却を決めれば、返還の額が後から出てくる。

方式より先に、管理会計で取得価額のまま償却すると決める

結論から言えば、先に決めるべきは方式ではない。管理会計では、補助金の有無にかかわらず、設備を取得価額のまま償却すると決めることである。

工場や事業の損益には、取得価額1億2,000万円に対する年1,200万円の償却費を載せる。直接減額で財務会計の償却費が800万円になっても、差の400万円は工場に返さず、全社の調整の行に計上する。 補助金は、工場の実力ではなく、会社がうまく資金を調達した結果として、全社の側に置く。工場の採算は補助金のない場合と同じ物差しで比べられ、増設の稟議にも同じ数字を使える。

この二重管理は、固定資産台帳で持つ。 台帳に取得価額、圧縮額、補助金の名称と交付決定の番号、処分の制限の期間を一つの資産番号に並べて登録する。SAPのFI-AAのように償却領域を複数持てる仕組みなら、圧縮額を反映する領域と反映しない領域を分け、管理会計の償却は後者から取る(SAP固定資産(FI-AA)の償却ずれは、決算時でなく取得時のマスタ登録で防ぐ)。表計算で台帳を管理する会社でも、列を二つ設ければ足りる。

管理会計の扱いを決めてしまえば、方式の選択は財務会計と税務の都合だけで選べる。 税効果会計を適用し、取崩しを10年追える体制がある会社は、積立金方式にすれば財務会計と管理会計の設備の金額が一致し、二重管理の手間そのものが小さくなる。税効果会計を適用していない会社や、経理が少人数で10年の取崩しを追う自信のない会社は、直接減額で構わない。 その場合も、台帳の取得価額の列が、管理会計を守る。

圧縮記帳の方式は、決算ではなく交付決定の稟議で決める。
STEP 1
交付決定
方式と、管理会計で取得価額のまま償却する扱いを、投資の稟議に書く
→
STEP 2
取得・検収
固定資産台帳に取得価額で登録し、補助金の名称・交付決定の番号・処分の制限の期間を同じ資産番号に持つ
→
STEP 3
額の確定
確定の通知の日付で、補助金を収益に立てる期を決める。取得の期とずれるなら、その期の決算の段取りを先に組む
→
STEP 4
決算
直接減額なら損金経理で減額し、積立金方式なら決算の確定の日までに積み立てる。別表十三(一)を付ける
→
STEP 5
以後の10年
積立金の取崩しと、処分の制限の期間を台帳で追う。設備の移設や売却の稟議には返還の要否の欄を置く
土台土台=管理会計では、補助金の有無にかかわらず取得価額で償却する。これを先に決めておけば、方式は税務と財務会計の都合だけで選べる。
決算の直前に申告の手間だけで選ぶと、帳簿の償却費がそのまま工場の採算と増設の判断に流れ込む。

取得の期と確定の期がずれると、決算の段取りが変わる

交付決定の稟議で方式を決めるべき理由は、もう一つある。補助金は、設備を取得した期に確定するとは限らない。

設備の補助金の多くは、交付決定の後に発注と取得を行い、実績を報告し、事務局の確定の検査を経て額が確定し、それから精算の支払になる。3月決算の会社が3月に検収すれば、額の確定は翌期の夏になることも珍しくない。 その場合、取得した期には補助金の収益も圧縮もなく、設備は取得価額のまま償却を始める。翌期に補助金の交付を受けて圧縮するとき、圧縮できる額は、法人税法施行令79条の2により、補助金の額に、返還不要が確定した日の帳簿価額が取得に要した金額に占める割合を掛けた額に縮む。 最初の期に償却した分だけ、圧縮の枠は小さくなる。

どの期に何が起きるかは、検収の月と確定の見込みの時期で、交付決定の時点でほぼ読める。 読めるのに決算の直前まで誰も並べないから、決算の打合せで慌てることになる。月次の決算で固定資産の増減を見るときに、補助金の対象の設備には確定の見込みの月を並べておけば、期末に何を計上するかは期中に決まる。

設例

精密部品を作るメーカー(売上高95億円、3月決算、工場3か所)。昨年の夏に設備投資の補助金4,000万円が採択され、第2工場に取得価額1億2,000万円の自動化ラインを入れた。 経理は顧問の税理士事務所の助言どおり直接減額で処理するつもりだったが、決算前の打合せで経営企画が償却費の差を指摘した。調べてみると、5年前に別の補助金2,500万円で入れた第1工場の検査装置も直接減額されており、第1工場の損益には、その分だけ軽い償却費が載っていた。 第3工場の増設の投資計画は、その第1工場の採算を目安に作られていた。会社は、財務会計は直接減額のまま続け、固定資産台帳に取得価額と圧縮額の列を分けて持つことにした。 工場の損益には取得価額で計算した償却費を載せ、第2工場のラインについて年400万円、第1工場の検査装置について年250万円の差額を、全社の調整の行に置いた。第1工場の営業利益は、この組替えで年250万円下がり、工場長には組替えの理由を書いた一枚の説明を渡した。 第3工場の増設の計画は、補助金なしの償却費で作り直し、回収期間は当初の見込みより1年あまり延びたが、稟議は通った。翌年度からは、補助金の申請を伴う投資の稟議の様式に、圧縮の方式、管理会計の扱い、確定の見込みの月、処分の制限の期間の四つの欄を加えた。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

補助金で設備を取得したら決める三つのこと

第一に、圧縮記帳は課税を消すのではなく、後の期に回すと理解する。 法人税法42条の圧縮記帳を使えば補助金の年の課税は避けられるが、以後の減価償却費が減る形で、同じ額が課税所得に戻ってくる。方式は、直接減額なら損金経理、積立金方式なら決算の確定の日までの積立てが要件で、決算が確定した後には選べない。

第二に、方式を選ぶ前に、管理会計では取得価額のまま償却すると決める。 直接減額は設備の簿価と償却費を補助金の分だけ小さくし、その設備を使う工場の採算と、補助金のない増設の判断を歪める。工場の損益には取得価額で計算した償却費を載せ、財務会計との差は全社の調整の行に置く。 固定資産台帳には、取得価額、圧縮額、補助金の名称、処分の制限の期間を並べて持つ。

第三に、方式は決算の直前ではなく、交付決定の稟議で決める。 税効果会計を適用し取崩しを10年追える会社は積立金方式、そうでない会社は直接減額でよい。取得の期と額の確定の期がずれるかどうかも、検収の月と確定の見込みでこの時点で読めるので、決算の段取りまで稟議に書いておく。

まとめ
圧縮記帳は税を消さず、後の期に回すだけだ。直接減額か積立金方式かを選ぶ前に、管理会計では補助金の有無にかかわらず取得価額で償却すると決め、固定資産台帳に取得価額・圧縮額・交付決定の番号・処分の制限の期間を同じ資産番号で持たせる。方式は、税効果会計を適用し取崩しを10年追える会社なら積立金方式、そうでない会社は直接減額でよい。決算が確定した後には選べないので、方式も額の確定の見込み月も、決算の直前でなく交付決定の稟議で決めておく。

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