海外子会社の月次が第15営業日を過ぎても届かない。数字の中身を聞くと、質問が本社と現地を二往復して、答えが返るころには締めが終わっている。この状態で会議に出る案は、たいてい二つに割れる。本社に巻き取るか、人を送るか。どちらも配置の話に見えて、実は責任の話を飛ばしている。 巻き取れば取引の実態が見えなくなり、人を送れば送った一人に全部が乗る。先に決めるべきは、現地に残さなければならない責任がどれかである。そして、それは好みで決められない。法令が先に決めている部分がある。
POINT
配置の前に、動かせない責任を三つ確認しておく。第一に、親会社の側の体制整備義務である。会社法第362条第4項第6号は「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を、取締役に委任することができない事項として掲げる。その法務省令にあたる会社法施行規則第100条第1項第5号イは、この体制の内容として「当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者……の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制」を挙げている。子会社から何を、誰が、いつ報告するかは、取締役会が決める事項である。 経理部長が現地と個別に握るものではない。第二に、税務の文書化義務は日本法人自身に課される。租税特別措置法第66条の4第6項は、国外関連取引を行った法人に対し、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類を、その事業年度の法人税法第74条第1項等の申告書の提出期限までに作成し、または取得し、保存しなければならないとする。同条第7項は、一の国外関連者との間で前事業年度に行った国外関連取引について、対価の額の合計額が50億円未満であり、かつ無形資産の譲渡・貸付け等に係る対価の額の合計額が3億円未満である場合に、この義務を適用しないとしている。判定は一の国外関連者ごとであり、取引が育てば個社単位で義務側へ移る。さらに同法第66条の4の4第1項は国別報告事項を、第66条の4の5第1項は事業概況報告事項を、いずれも最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に提供させる。対象となる特定多国籍企業グループは、同法第66条の4の4第4項第3号により、直前の最終親会計年度における総収入金額として財務省令で定める金額が1,000億円以上のものをいう。事業概況報告事項の義務は、最終親会社等でなくても構成会社等である内国法人に及ぶ。 第三に、決算日の扱いである。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第16項は「子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う」とし、注4は「子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができる」とする。この三つを先に置くと、集約できる工程と現地に残す責任の線が自然に引ける。集約してよいのは、証憑と規則だけで閉じる工程だ。記帳、支払、照合、連結パッケージの作成。残すのは、取引の実態を言葉にできる人と、現地当局の前に立つ人である。
集約と分散の議論が噛み合わないのは、単位が業務のままだから#
「経理を本社に集約すべきか」という問いの立て方が、そもそも答えを出しにくくしている。経理という塊は、性質のまったく違う工程の寄せ集めだからだ。
証憑があって規則が決まっていれば、どこで処理しても同じ結果になる工程がある。仕訳の起票、支払の実行、勘定の照合、連結パッケージへの転記。これらは距離と関係がない。一方で、その場にいなければ判断できない工程がある。この売上をいつ計上するのか。この値引きは販売促進費か売上控除か。この在庫はまだ売れるのか。判断の材料が、契約書と現場の会話の中にしかない。
分けるべきは業務の名前ではなく、判断に必要な情報がどこにあるかである。 情報が本社に運べるものは集約できる。運べないものは、運ぼうとした瞬間に質問の往復に化ける。第15営業日の締めは、この往復で溶けている。
現地に経理を置くかどうかの議論も、この線の上で考えるとぶれない。現地に必要なのは「経理担当者」ではなく、取引の実態を数字の言葉に翻訳できる人である。その人が経理の肩書きを持っている必要は、必ずしもない。
親会社の側に、先に決めなければならない義務がある#
体制の設計を経理部門の内輪の話にしている会社は多い。だが会社法は、これを取締役会の卓上に置いている。
会社法第362条第4項第6号は、企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制の整備を、取締役会が決定し取締役に委任できない事項として列挙する。会社法施行規則第100条第1項第5号は、その体制の中身として四つを挙げ、その筆頭のイが、子会社の取締役等の職務の執行に係る事項の親会社への報告に関する体制である。ロは子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制、ハは子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制、ニは子会社の取締役等および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制だ。
ここから逆算すると、決めるべきものの粒度が変わる。「子会社に経理を置くか」ではなく、「何を、誰が、いつ、どの経路で親会社に報告するか」を決めるのが取締役会の仕事である。 配置はその後に決まる従属変数だ。
順序を逆にすると、現地の担当者が変わるたびに報告の中身が変わる。人に紐づいた報告は、人が代わると途切れる。取締役会の決議に紐づいた報告は、担当者が代わっても項目が残る。子会社管理規程が一枚もない状態で人事だけを動かしている会社は、この差で毎年同じ苦労をしている。
現地からしか取れないものが、税務の側にもある#
移転価格の文書化は、実務では税務部門の宿題として扱われる。だが中身を見ると、経理の配置に直結している。
租税特別措置法第66条の4第6項は、国外関連取引を行った法人に、独立企業間価格の算定に必要と認められる書類を申告書の提出期限までに作成または取得し、保存することを求める。作成義務を負うのは日本法人である。そして、そこに書くのは機能とリスクの配分であり、現地が何をしていて何を負っているかという事実だ。義務は日本にあり、事実は現地にある。 この非対称が、集約の設計を難しくしている。
免除の線も押さえておきたい。同条第7項は、前事業年度に一の国外関連者との間で行った国外関連取引について、対価の額の合計額が50億円未満であり、かつ無形資産の譲渡もしくは貸付け等に係る対価の額の合計額が3億円未満である場合に、第6項を適用しないとする。判定は国外関連者ごとだ。全社合計では余裕があっても、成長した一社だけが先に義務側へ移る。
グループ全体の側にも期限がある。同法第66条の4の4第1項は、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人のうち最終親会社等または代理親会社等に該当するものに国別報告事項を提供させ、同法第66条の4の5第1項は、構成会社等である内国法人または構成会社等である恒久的施設を有する外国法人に事業概況報告事項を提供させる。いずれも最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内である。対象は、同法第66条の4の4第4項第3号にいう特定多国籍企業グループ、すなわち直前の最終親会計年度における総収入金額として財務省令で定める金額が1,000億円以上の多国籍企業グループである。事業概況報告事項のほうは、最終親会社等でなくても構成会社等である内国法人に義務が及ぶ点に注意がいる。
これらの提出物は、記帳の集約では埋まらない。埋めるのは、現地の事業がどう動いているかを説明できる人である。グループ内の価格の決め方そのものを整理しておくと、この作業は毎年の宿題から外れる(グループ内取引価格の決め方|移転価格と管理会計のねじれをどう解くか)。
配置は好みではなく、二つの軸で決まる。縦は現地でしか読めない事情の多さ、横は現地当局の前に立つ仕事の重さ。取引の現地固有性(現地でしか読めない事情)→
出向で橋を架ける
商流や商習慣が本社と違うが、法対応は軽い。期間を区切った出向で実態を読み取り、翻訳の型を残して引き揚げる。常駐の恒久化は目的ではない
現地に責任者を置く
実態も当局対応も現地でしか担保できない。現地採用の責任者を置き、集約するのは記帳・支払・照合だけにとどめる。ここを本社に巻き取ると両方が薄くなる
本社に集約する
取引が単純で法対応も軽い。現地に経理を置かず、証憑の受け渡しと承認だけ残す。人数の少ない販売子会社はここに入ることが多い
現地は当局対応に絞る
取引は単純だが申告や監査が重い。記帳は集約し、現地には法定対応の窓口だけを置く。外部の会計事務所への委託でも成立する
現地当局対応の重さ(申告・監査・移転価格)→
四象限のうち、人を送るのが正解なのは左上だけである。右上で人を送ると、送られた一人が実態把握と当局対応の両方を抱えて潰れる。
決算日と期日は、人事より先に決める#
配置の議論に入る前に決めておくべきものが、もう一つある。決算日と締めの期日だ。
連結会計基準第16項は、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合に、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うことを求める。注4は、差異が3か月を超えない場合に子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができるとする。決算日を揃えにいくのか、ずれたまま走るのか。この選択は、必要な人員の量と質を変える。 揃えるなら、その期の子会社決算は変則になり、同じ期に他の改善を重ねられない。
期日のほうは、もっと単純な理由で先に決める。人を替えても、前工程が遅ければ数字は早くならないからだ。第何営業日に何が確定しているかを現地に書かせると、遅れの実体が経理の外にあることが分かる場合が多い(月次決算が遅れる本当の原因と、最初に手をつける3つ)。回収の仕組みそのものを直したほうが早いこともある(連結パッケージの設計と回収:子会社からのデータ収集を遅らせない運用)。
会計方針の統一も、この段階で線を引いておく。連結会計基準第17項は「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一する」と定めている。統一の対象は同一環境下の同一性質の取引であり、現地固有の商流まで揃えろとは書かれていない。
出向は監督ではなく、翻訳のために使う#
人を送る判断そのものが悪いわけではない。送る役割を取り違えると失敗する。
管理職を送ると、現地の担当者は評価されていないと読む。読み方が正しいかどうかは関係ない。辞める。辞めれば、締めを回していた手順が同時に消える(属人化した決算を組織知に変える 担当者が辞めても締まる引き継ぎ設計)。
送る目的を翻訳に置くと、設計が変わる。現地の取引を本社の勘定科目の言葉に置き換える作業を、現地の担当者と並んで一緒にやる。 期間を区切り、置いてくるのはマッピング表と判断の記録である。人ではない。三か月の出向で残せるものは、現地の癖を知っている本社側の人間と、本社の要求を理解した現地側の人間が一人ずつできることだ。これは駐在員の常設より安い。
現地採用に踏み切る場合の要件も、経理の技能から書かないほうがいい。書くのは、現地の事業責任者と対等に議論できるか、当局の照会に自分の言葉で答えられるか、そして本社の締めの期日を守る意思があるかである。記帳の技能は、集約すれば要らなくなる部分だ。どの工程を外へ出すかは、国内のシェアード化と同じ判断軸で整理できる(シェアードサービスとBPOの判断 経理機能のどこを外に出すか)。
現場では
売上四百億円規模のメーカーで、アジアに三つの販売子会社と一つの製造子会社を持つ会社があった。連結の締めは第12営業日で、遅れの大半が製造子会社から出ていた。本社の経理部長は、その国に部長級を一人常駐させる案を役員会に出した。CFOはいったん止めて、四社について二つのことだけを調べさせた。第何営業日に何が確定しているかと、前事業年度の国外関連取引の金額である。結果は分かれた。販売子会社三社のうち二社は、取引が本社からの仕入と現地販売だけで、前事業年度の国外関連取引はいずれも一社あたり数億円台、無形資産の取引はなかった。この二社は記帳を本社のシェアード部門に巻き取り、現地には支払の承認者と、外部の会計事務所を使った申告の窓口だけを残した。三社目は現地の代理店網が複雑で、値引きとリベートの条件が契約ごとに違った。ここは記帳だけ集約し、条件を読める現地の担当者をそのまま残した。製造子会社は、前事業年度の国外関連取引が一社で五十数億円あり、租税特別措置法第66条の4第6項の文書化義務の側に入っていた。この会社に必要だったのは、締めを督促する管理職ではなく、工程と原価の実態を日本語で説明できる人だった。本社から送ったのは課長代理級が一人、期間は六か月。並行して、現地の経理担当者に連結科目へのマッピング表を作らせ、本社はレビューに徹した。六か月後、連結の締めは第9営業日になった。常駐は延長していない。残ったのはマッピング表と、月次で本社に上げる報告項目を定めた子会社管理規程の改定である。改定は取締役会に諮った。
配置は、責任の残余として決まる#
子会社経理の配置を「人をどこに置くか」の問題として扱うと、議論は必ず人事の好みに落ちる。責任から書き始めると、答えは短くなる。
決める順序はこうだ。まず、取締役会として子会社から何を報告させるかを決める。次に、その報告を作るために現地でしか取れない情報を洗い出す。移転価格の文書化に必要な事実は、たいていここに入る。そのうえで、証憑と規則だけで閉じる工程を集約する。残ったものが、現地に置くべき役割である。 人の配置は、この残余に対して当てる。
この順序で決めると、副次的な効果が出る。集約した工程は本社側の負荷になるが、その分は標準化と自動化で吸収できる。残した役割は少数で、要件がはっきりしているので採用の的が絞れる。そして何より、担当者が代わっても報告の項目が残る。
人を送るかどうかは、最後に来る。 先に来ると、送った人が辞めた瞬間に、その会社の子会社管理はゼロに戻る。
まとめ
子会社経理の配置は、人の問題ではなく責任の分割である。動かせない責任が三つある。第一に、親会社側の体制整備義務。会社法第362条第4項第6号は、企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備を、取締役に委任することができない取締役会の決定事項として掲げ、会社法施行規則第100条第1項第5号イは、その内容として子会社の取締役等の職務の執行に係る事項の親会社への報告に関する体制を挙げている。したがって決めるべきは「子会社に経理を置くか」ではなく「何を、誰が、いつ、どの経路で報告するか」であり、配置はその従属変数になる。第二に、税務の文書化義務。租税特別措置法第66条の4第6項は、国外関連取引を行った法人に対し、独立企業間価格の算定に必要と認められる書類を法人税法第74条第1項等の申告書の提出期限までに作成または取得し保存することを求める。義務は日本法人にあり、記載する事実は現地にある。同条第7項は、前事業年度に一の国外関連者との間で行った国外関連取引について、対価の額の合計額が50億円未満で、かつ無形資産の譲渡・貸付け等に係る対価の額の合計額が3億円未満である場合に適用を除外する。判定は国外関連者ごとであり、成長した一社だけが先に義務側へ移る。さらに同法第66条の4の4第1項は国別報告事項を、第66条の4の5第1項は事業概況報告事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に提供させ、対象となる特定多国籍企業グループは同法第66条の4の4第4項第3号により、直前の最終親会計年度における総収入金額として財務省令で定める金額が1,000億円以上のものをいう。事業概況報告事項の義務は、最終親会社等でなくても構成会社等である内国法人に及ぶ。第三に、決算日の扱い。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第16項は、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合に連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うことを求め、注4は差異が3か月を超えない場合に子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行えるとする。会計方針は第17項が同一環境下の同一性質の取引等について原則として統一することを定めており、現地固有の商流まで揃えることを求めてはいない。この三つを先に置くと線が引ける。集約してよいのは、証憑と規則だけで閉じる工程である。記帳、支払、照合、連結パッケージの作成。現地に残すのは、取引の実態を数字の言葉に翻訳できる人と、当局の前に立つ人だ。配置の四象限は、現地固有性と当局対応の重さで決まる。両方が軽ければ本社に集約し、現地には承認と窓口だけ残す。当局対応だけが重いなら、記帳を集約して法定対応の窓口を置く。現地固有性だけが高いなら、期間を区切った出向で翻訳の型を残す。両方が高い場合だけ、現地に責任者を置き、集約は記帳・支払・照合にとどめる。人を送るのが正解なのは、現地固有性が高く当局対応が軽い象限に限られる。送る場合も、役割は監督ではなく翻訳に置く。管理職を常駐させると現地の担当者が辞め、締めを回していた手順が同時に消える。決める順序は、報告項目、現地でしか取れない情報、集約できる工程、そして残余としての配置である。人を送るかどうかは、いちばん最後に来る。
関連記事#
会員特典:この記事に効く「経理キャリア・ロードマップ」(PDF)を無料で。
会員登録で、決算早期化・ROIC・SAP移行・経理キャリアの実務テンプレがすべて使えます。