決算の数字が固まり、取締役会の招集通知も出た週に、営業本部長から電話が来る。先月から止まっていた取引先の再建計画が不調に終わり、今日、民事再生の申立てをしたらしい、と。決算日は三月末で、その取引先への売掛金は決算日にも残っていた。この電話が一週間早ければ、貸倒引当金を積んで終わっていた。 遅れた一週間で、数字を作り直し、監査法人に説明し、招集通知の差替えを検討することになる。翌年も同じことが起きる。営業本部長を責める会社は多いが、彼に落ち度はない。報告する義務も、報告先も、期限も、誰も彼に伝えていない。
変わるのは会計処理ではなく、締切と、締切を決める人である
第41号の中身の大半は、監基報560実務指針第1号の会計に関する部分を移管したものである。修正後発事象の考え方も、開示後発事象の考え方も踏襲されている(BC8)。会社法と金融商品取引法の二つの開示制度が併存する日本固有の特例的な取扱いも、基本的にそのまま残された(BC7)。
動いたのは、期間の切り方である。 これまで「監査報告書日まで」と言えたのは、日付を監査人が決めていたからだ。会社は監査の完了を待つ側にいた。第41号のもとでは、評価期間の末日は会社が承認する日になる。誰が承認するのか、いつ承認するのかを、会社が自分で設計する。
設計が要ることは、基準自身が認めている。経過措置の理由を述べたBC32は「本会計基準の適用後に財務諸表の公表の承認プロセスを改めて構築する必要がある場合」を前提に、遡及適用は適切でないとしている。つまり、多くの会社に承認プロセスがないことが織り込まれている。 適用まで一年半あるうちに決めておくべきことは、少なくとも三つある。
第一に、公表を承認する機関又は個人を特定する。取締役会か、代表取締役か、決算報告を審議する会議体か。連結財務諸表と個別財務諸表のそれぞれについて承認が必要になる(BC30)。第二に、その承認をいつ行うかを決算スケジュールに置く。有価証券報告書の提出日や監査報告書日との前後関係を含めて決める。第三に、承認までに情報を上げる期限を、社内の各部署に配る。三つ目が本題である。
経理が探しに行っても出てこないのは、探す場所が違うから
「後発事象はありませんか」というメールを全部門に出し、返信を集めて締めに反映する。この運用が空振りするのは、聞き方が抽象的だからではない。拾うべき情報が、そもそも会計の情報として現場に認識されていないからである。
第41号は、後発事象の「発生」の時点を三つに分けて示している(BC29)。
新株の発行等のように企業の意思決定により進めることができる事象は、当該意思決定があったとき。合併のように企業が他の企業等との合意等に基づいて進めることができる事象は、当該合意等の成立又は事実の公表があったとき。災害事故等のように企業の意思に関係のない事象は、当該事象の発生日又は当該事象を知ったとき。
三つとも、発生の場所は経理の外にある。 取締役会の決議録、契約の締結記録、現場からの事故の一報。経理の帳簿には、そもそも載らない。載るのは、載せる判断をした後である。
設例1が示す期日の効き方は、実務家にとって示唆的である。新株の発行について、決議と払込みのどちらが評価期間に入るかで結論が変わる。
| 取締役会決議 | 払込み | 後発事象としての扱い |
|---|---|---|
| 決算日後・公表承認日まで | 公表承認日後 | 決議が開示後発事象に該当 |
| 決算日以前 | 決算日後・公表承認日まで | 払込みが開示後発事象に該当 |
| 決算日以前 | 公表承認日後 | いずれも該当しない |
三つ目に注目したい。決議も払込みも評価期間の外にあるため、開示後発事象には該当しない。同じ資金調達が、日付の並びだけで注記に載ったり載らなかったりする。 これは判断の緩さではなく、評価期間という概念が持つ性質である。だからこそ、評価期間の末日を確定させないまま締めを進めることに、実務上の意味がない。
修正になり得るものだけ、締切を前に出す
拾う情報を一律に扱うと、工程が重くなりすぎる。修正後発事象と開示後発事象では、締めの工程における位置がまったく違う。
修正後発事象は、決算日後に発生した事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断又は見積りをする上で、追加的又はより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象をいう(第5項)。重要なものは財務諸表を修正する(第8項)。基準は例として、決算日後における訴訟事件の解決により決算日時点で既に負債が存在したことが明確となった場合の引当金の修正・計上と、決算日後に発生した販売先の倒産により決算日において既に債権に損失が存在していたことが裏付けられた場合の貸倒引当金の追加計上を挙げている(BC19)。
開示後発事象は、決算日後において発生し、当期の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌期以降の財務諸表に影響を及ぼす事象をいう(第6項)。重要なものについて、内容及び影響額等を注記し、影響額の見積りができない場合はその旨及び理由を注記する(第11項)。
工程上の差は決定的である。 修正は数字を作り直す作業であり、決算のクリティカルパスの上に乗る。連結、税効果、開示書類の数値まで波及する。開示は注記の文言を書く作業で、数値の確定と並走できる。
したがって、社内に配る締切は二段にする。修正になり得る情報の締切を早く、開示にとどまる情報の締切を遅く置く。この切り分けを現場に判断させてはいけない。部署ごとに「この事象が起きたら第1報の対象」というリストを渡す。 判断ではなく、該当の有無だけを答えてもらう形にする。
会社法と金商法で、期日が二つある
日本の会社にとって、後発事象の期日は一本ではない。
会社法の側では、会社計算規則第98条第1項第17号が注記表の区分として「重要な後発事象に関する注記」を置き、同規則第114条第1項が、個別注記表における重要な後発事象に関する注記を「当該株式会社の事業年度の末日後、当該株式会社の翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合における当該事象」と定めている。第2項は連結注記表について同旨を定め、決算日の異なる子会社及び関連会社については当該子会社等の事業年度の末日後に発生した事象とするとしている。
金融商品取引法の側では、財務諸表等規則第8条の4が「貸借対照表日後、財務諸表提出会社の翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象」を重要な後発事象として注記を求める。
そして第41号は、監基報560実務指針第1号にあった特例的な取扱いを基本的に踏襲した(BC7)。すなわち、修正後発事象が計算書類及び附属明細書に対する監査報告書日後に発生した場合に、金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表において当該修正後発事象を開示後発事象に準じて取り扱う、という取扱いである。国際的な会計基準とは異なる整理であり、抜本的な見直しは有価証券報告書と事業報告等の一体開示の検討状況等を踏まえて今後判断するとされている。
実務にとっての意味ははっきりしている。会社法の監査報告書日を一日過ぎたかどうかで、同じ事象が数字の修正になるか注記になるかが分かれる。 期日の設計が会計処理を決める、という珍しい構造である。逆算のスケジュールを持っていない会社は、この分岐を意図せず渡ることになる(会社法決算のスケジュール|計算書類・監査役監査・株主総会から逆算する期日設計)。
発生源ごとに、拾う情報を名指しする
全社宛ての抽象的な依頼をやめ、部署ごとに具体名で配る。渡す紙は一枚でよい。
| 発生源 | 拾う情報 | 第1報の対象になりやすい型 |
|---|---|---|
| 法務 | 訴訟の判決・和解、行政処分、重要な契約の締結・解除 | 決算日以前の事実に関する判決や和解は修正になり得る |
| 営業・債権管理 | 取引先の法的整理の申立て、支払遅延、信用情報の格下げ | 決算日に債権が残っていれば修正になり得る |
| 購買 | 主要サプライヤの経営破綻、供給停止 | 決算日時点の前渡金や在庫評価に及ぶ場合がある |
| 財務 | 資金調達、借入条件の変更、財務制限条項への抵触 | 多くは開示。ただし返済期限の変更は表示に影響する |
| 経営企画 | M&A・事業譲渡の合意、組織再編の決議 | 合意の成立又は事実の公表があったときが発生の時点 |
| 人事 | 重大な労務紛争、大規模な人員施策の決定 | 決算日以前の事実に基づく紛争は修正になり得る |
| 総務・工場 | 災害、火災、重大事故、設備の滅失 | 発生日又は知ったとき。決算日後の災害は開示 |
この表を渡すときに、一つだけ言い添える。該当するかどうかの判断は経理がやるので、思い当たったら中身を書かずに一行で知らせてほしい、と。 判断まで求めると、現場は「たぶん関係ない」と考えて止めてしまう。止まった情報は、監査の場で監査人の質問によって出てくる。そのときには、締めはもう終わっている(監査法人の指摘が期末に集中する会社の共通点|論点を前倒しする四半期の使い方)。
決めるのは三つ
第一に、財務諸表の公表を承認する機関又は個人を決め、承認日を決算スケジュールに置く。 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から、この日付が評価期間の末日になり、承認日と承認した機関又は個人の名称が注記される。連結財務諸表と個別財務諸表の双方について決める。早期適用の定めはないため、全社が同じ期から一斉に切り替わる。準備の遅れを吸収する仕組みは用意されていない。
第二に、発生源の部署に、部署別の該当事象リストを配って報告義務を課す。 判断は求めず、該当の有無だけを答えさせる。締切は二段にし、修正になり得る情報は決算日後の早い時点、開示にとどまる情報は承認日の直前とする。修正はクリティカルパス上に乗り、開示は数値確定と並走できるからである。
第三に、「該当なし」の報告を義務にする。 ゼロ報告のない部署は、事象が無かったのか、拾えていないのかを区別できない。拾い切れたことの証明は、全部署から無しの報告が揃っている状態でしか作れない。この一点が、監査人への説明と、翌期の改善の両方を支える。
そのうえで、会社法の監査報告書日を過ぎてから発覚した修正後発事象が、金融商品取引法の財務諸表では開示後発事象に準じて扱われるという特例が残っていることを、スケジュール設計の前提として共有しておきたい。期日の一日が、会計処理を変える。 逆算していない会社は、その分岐を意図せず渡っている。



