決算の数字が固まり、取締役会の招集通知も出た週に、営業本部長から電話が来る。先月から止まっていた取引先の再建計画が不調に終わり、今日、民事再生の申立てをしたらしい、と。決算日は三月末で、その取引先への売掛金は決算日にも残っていた。この電話が一週間早ければ、貸倒引当金を積んで終わっていた。 遅れた一週間で、数字を作り直し、監査法人に説明し、招集通知の差替えを検討することになる。翌年も同じことが起きる。営業本部長を責める会社は多いが、彼に落ち度はない。報告する義務も、報告先も、期限も、誰も彼に伝えていない。

POINT
制度が変わる。企業会計基準委員会は2026年1月9日に企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第35号「後発事象に関する会計基準の適用指針」を公表した。適用は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からで、早期適用の定めは置かれていない(第13項)。適用初年度は将来にわたって適用する(第14項)。最も重いのは評価期間の変更である。第4項は後発事象を「決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のうち、評価期間の末日までに発生した事象」と定義し、第7項は「第4項における評価期間の末日は、原則として、財務諸表の公表の承認日とする」と定める。従来の日本公認会計士協会 監査基準報告書560実務指針第1号は評価期間を監査報告書日までとしていたが、第41号はこれを踏襲していない(BC12)。理由として、会計基準の定めは財務諸表の監査が行われることを前提としていないこと、二重責任の原則が前提となると考えられることが挙げられている。ここで「財務諸表の公表の承認日」とは、財務諸表を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人が公表を承認した日付を指し、その機関又は個人は「企業の経営とガバナンスの構造に基づき決定されると考えられるため、企業ごとに異なり得る」とされる(BC16)。さらに第10項は、後発事象が生じているかどうかにかかわらず、財務諸表の公表の承認日と、公表を承認した機関又は個人の名称を注記することを求める。締切の日付そのものが、注記される。 監基報560実務指針第1号は2026年1月9日付で廃止が告知され、協会は2026年7月17日に監査基準報告書560「後発事象」の改正公開草案を公表している(コメント期限2026年8月17日)。

変わるのは会計処理ではなく、締切と、締切を決める人である

第41号の中身の大半は、監基報560実務指針第1号の会計に関する部分を移管したものである。修正後発事象の考え方も、開示後発事象の考え方も踏襲されている(BC8)。会社法と金融商品取引法の二つの開示制度が併存する日本固有の特例的な取扱いも、基本的にそのまま残された(BC7)。

動いたのは、期間の切り方である。 これまで「監査報告書日まで」と言えたのは、日付を監査人が決めていたからだ。会社は監査の完了を待つ側にいた。第41号のもとでは、評価期間の末日は会社が承認する日になる。誰が承認するのか、いつ承認するのかを、会社が自分で設計する。

設計が要ることは、基準自身が認めている。経過措置の理由を述べたBC32は「本会計基準の適用後に財務諸表の公表の承認プロセスを改めて構築する必要がある場合」を前提に、遡及適用は適切でないとしている。つまり、多くの会社に承認プロセスがないことが織り込まれている。 適用まで一年半あるうちに決めておくべきことは、少なくとも三つある。

第一に、公表を承認する機関又は個人を特定する。取締役会か、代表取締役か、決算報告を審議する会議体か。連結財務諸表と個別財務諸表のそれぞれについて承認が必要になる(BC30)。第二に、その承認をいつ行うかを決算スケジュールに置く。有価証券報告書の提出日や監査報告書日との前後関係を含めて決める。第三に、承認までに情報を上げる期限を、社内の各部署に配る。三つ目が本題である。

経理が探しに行っても出てこないのは、探す場所が違うから

「後発事象はありませんか」というメールを全部門に出し、返信を集めて締めに反映する。この運用が空振りするのは、聞き方が抽象的だからではない。拾うべき情報が、そもそも会計の情報として現場に認識されていないからである。

第41号は、後発事象の「発生」の時点を三つに分けて示している(BC29)。

新株の発行等のように企業の意思決定により進めることができる事象は、当該意思決定があったとき。合併のように企業が他の企業等との合意等に基づいて進めることができる事象は、当該合意等の成立又は事実の公表があったとき。災害事故等のように企業の意思に関係のない事象は、当該事象の発生日又は当該事象を知ったとき。

三つとも、発生の場所は経理の外にある。 取締役会の決議録、契約の締結記録、現場からの事故の一報。経理の帳簿には、そもそも載らない。載るのは、載せる判断をした後である。

設例1が示す期日の効き方は、実務家にとって示唆的である。新株の発行について、決議と払込みのどちらが評価期間に入るかで結論が変わる。

取締役会決議払込み後発事象としての扱い
決算日後・公表承認日まで公表承認日後決議が開示後発事象に該当
決算日以前決算日後・公表承認日まで払込みが開示後発事象に該当
決算日以前公表承認日後いずれも該当しない

三つ目に注目したい。決議も払込みも評価期間の外にあるため、開示後発事象には該当しない。同じ資金調達が、日付の並びだけで注記に載ったり載らなかったりする。 これは判断の緩さではなく、評価期間という概念が持つ性質である。だからこそ、評価期間の末日を確定させないまま締めを進めることに、実務上の意味がない。

修正になり得るものだけ、締切を前に出す

拾う情報を一律に扱うと、工程が重くなりすぎる。修正後発事象と開示後発事象では、締めの工程における位置がまったく違う。

修正後発事象は、決算日後に発生した事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断又は見積りをする上で、追加的又はより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象をいう(第5項)。重要なものは財務諸表を修正する(第8項)。基準は例として、決算日後における訴訟事件の解決により決算日時点で既に負債が存在したことが明確となった場合の引当金の修正・計上と、決算日後に発生した販売先の倒産により決算日において既に債権に損失が存在していたことが裏付けられた場合の貸倒引当金の追加計上を挙げている(BC19)。

開示後発事象は、決算日後において発生し、当期の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌期以降の財務諸表に影響を及ぼす事象をいう(第6項)。重要なものについて、内容及び影響額等を注記し、影響額の見積りができない場合はその旨及び理由を注記する(第11項)。

工程上の差は決定的である。 修正は数字を作り直す作業であり、決算のクリティカルパスの上に乗る。連結、税効果、開示書類の数値まで波及する。開示は注記の文言を書く作業で、数値の確定と並走できる。

したがって、社内に配る締切は二段にする。修正になり得る情報の締切を早く、開示にとどまる情報の締切を遅く置く。この切り分けを現場に判断させてはいけない。部署ごとに「この事象が起きたら第1報の対象」というリストを渡す。 判断ではなく、該当の有無だけを答えてもらう形にする。

締めの一工程として設計する。年に一度の呼びかけではなく、四つの手順にする。
① 公表の承認日を先に決める
誰が承認するかを機関又は個人まで特定し、決算スケジュール上に日付を置く。連結と個別のそれぞれについて決める
② 発生源の部署に報告義務を課す
法務・営業・購買・財務・人事・総務・経営企画に、部署別の該当事象リストを渡す。判断ではなく該当の有無だけを答えさせる
後発事象を工程に載せる
④ 「無し」の報告も義務にする
ゼロ報告がない部署は、事象が無いのか拾えていないのかを区別できない。空欄と無しは別物として扱う
③ 締切を二段に置く
修正になり得る情報は決算日後の早い時点、開示にとどまる情報は公表承認日の直前。第1報と第2報で分ける
拾い切れたことを証明できるのは、無しの報告が全部署から揃っているときだけである。

会社法と金商法で、期日が二つある

日本の会社にとって、後発事象の期日は一本ではない。

会社法の側では、会社計算規則第98条第1項第17号が注記表の区分として「重要な後発事象に関する注記」を置き、同規則第114条第1項が、個別注記表における重要な後発事象に関する注記を「当該株式会社の事業年度の末日後、当該株式会社の翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合における当該事象」と定めている。第2項は連結注記表について同旨を定め、決算日の異なる子会社及び関連会社については当該子会社等の事業年度の末日後に発生した事象とするとしている。

金融商品取引法の側では、財務諸表等規則第8条の4が「貸借対照表日後、財務諸表提出会社の翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象」を重要な後発事象として注記を求める。

そして第41号は、監基報560実務指針第1号にあった特例的な取扱いを基本的に踏襲した(BC7)。すなわち、修正後発事象が計算書類及び附属明細書に対する監査報告書日後に発生した場合に、金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表において当該修正後発事象を開示後発事象に準じて取り扱う、という取扱いである。国際的な会計基準とは異なる整理であり、抜本的な見直しは有価証券報告書と事業報告等の一体開示の検討状況等を踏まえて今後判断するとされている。

実務にとっての意味ははっきりしている。会社法の監査報告書日を一日過ぎたかどうかで、同じ事象が数字の修正になるか注記になるかが分かれる。 期日の設計が会計処理を決める、という珍しい構造である。逆算のスケジュールを持っていない会社は、この分岐を意図せず渡ることになる(会社法決算のスケジュール|計算書類・監査役監査・株主総会から逆算する期日設計)。

発生源ごとに、拾う情報を名指しする

全社宛ての抽象的な依頼をやめ、部署ごとに具体名で配る。渡す紙は一枚でよい。

発生源拾う情報第1報の対象になりやすい型
法務訴訟の判決・和解、行政処分、重要な契約の締結・解除決算日以前の事実に関する判決や和解は修正になり得る
営業・債権管理取引先の法的整理の申立て、支払遅延、信用情報の格下げ決算日に債権が残っていれば修正になり得る
購買主要サプライヤの経営破綻、供給停止決算日時点の前渡金や在庫評価に及ぶ場合がある
財務資金調達、借入条件の変更、財務制限条項への抵触多くは開示。ただし返済期限の変更は表示に影響する
経営企画M&A・事業譲渡の合意、組織再編の決議合意の成立又は事実の公表があったときが発生の時点
人事重大な労務紛争、大規模な人員施策の決定決算日以前の事実に基づく紛争は修正になり得る
総務・工場災害、火災、重大事故、設備の滅失発生日又は知ったとき。決算日後の災害は開示

この表を渡すときに、一つだけ言い添える。該当するかどうかの判断は経理がやるので、思い当たったら中身を書かずに一行で知らせてほしい、と。 判断まで求めると、現場は「たぶん関係ない」と考えて止めてしまう。止まった情報は、監査の場で監査人の質問によって出てくる。そのときには、締めはもう終わっている(監査法人の指摘が期末に集中する会社の共通点|論点を前倒しする四半期の使い方)。

現場では
売上高480億円の消費財メーカーで、三期続けて決算承認の直前に修正後発事象が出ていた。一年目は主要卸の民事再生、二年目は製造物責任に関する訴訟の和解、三年目は海外子会社の火災である。三期とも、経理は決算日後に全社宛てのメールを出していた。件名は「後発事象の有無についてのご確認」。返信率は毎年三割前後だった。CFOが四年目に変えたのは、三点だけである。第一に、経営会議で「財務諸表の公表を承認するのは取締役会とし、承認日を決算日後45日目に置く」と決議した。連結と個別の双方について同じ日とし、決算スケジュールの表に赤い縦線として引いた。第二に、全社宛てのメールをやめ、七つの部署宛てに個別の紙を配った。紙には、その部署が拾うべき事象が四つから六つ、具体名で書いてある。法務宛ての紙には「判決・和解が成立した訴訟」「行政庁からの処分・勧告」「解除された基本契約」の三行が書かれていた。第三に、返信様式を「該当あり/該当なし」の二択にし、該当なしも必ず返信させた。 締切は決算日後10営業日を第1報、承認日の3営業日前を第2報とした。初年度、第1報の返信は七部署中七部署から期限内に届いた。うち「該当あり」は二件で、いずれも法務からだった。一件は決算日の二週間後に和解が成立した労務紛争で、紛争の原因事実は決算日以前にあった。経理はこれを修正後発事象と判断し、引当金を追加計上している。金額は1,100万円で、決算を作り直す規模ではなかった。 だが担当役員はこう言った。作り直す規模でなかったのは、今回がそうだっただけだ、と。二件目は購買から上がった主要サプライヤの事業再編の公表で、開示後発事象として注記に落ちた。第2報では「該当なし」が七部署すべてから返っている。CFOは、この七通の「該当なし」が最も価値があると言っている。拾えなかったのか、無かったのかを、初めて区別できたからである。 なお同社は、2027年4月1日以後開始する事業年度に向けて、承認日を取締役会の開催日に合わせるか、代表取締役の承認とするかを再検討している。取締役会に合わせると評価期間が長くなり、拾う手間は増えるが、注記される承認日は投資家にとって分かりやすい。まだ結論は出ていない。

決めるのは三つ

第一に、財務諸表の公表を承認する機関又は個人を決め、承認日を決算スケジュールに置く。 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から、この日付が評価期間の末日になり、承認日と承認した機関又は個人の名称が注記される。連結財務諸表と個別財務諸表の双方について決める。早期適用の定めはないため、全社が同じ期から一斉に切り替わる。準備の遅れを吸収する仕組みは用意されていない。

第二に、発生源の部署に、部署別の該当事象リストを配って報告義務を課す。 判断は求めず、該当の有無だけを答えさせる。締切は二段にし、修正になり得る情報は決算日後の早い時点、開示にとどまる情報は承認日の直前とする。修正はクリティカルパス上に乗り、開示は数値確定と並走できるからである。

第三に、「該当なし」の報告を義務にする。 ゼロ報告のない部署は、事象が無かったのか、拾えていないのかを区別できない。拾い切れたことの証明は、全部署から無しの報告が揃っている状態でしか作れない。この一点が、監査人への説明と、翌期の改善の両方を支える。

そのうえで、会社法の監査報告書日を過ぎてから発覚した修正後発事象が、金融商品取引法の財務諸表では開示後発事象に準じて扱われるという特例が残っていることを、スケジュール設計の前提として共有しておきたい。期日の一日が、会計処理を変える。 逆算していない会社は、その分岐を意図せず渡っている。

まとめ
後発事象を決算承認の直前に取りこぼすのは、経理が探し方を誤っているからではなく、拾うべき情報が会計の情報として現場に認識されていないからである。制度の側が動いた。企業会計基準委員会は2026年1月9日に企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」と適用指針第35号を公表し、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。早期適用の定めはなく、適用初年度は将来にわたって適用する。第4項は後発事象を、決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のうち評価期間の末日までに発生した事象と定義し、第7項は評価期間の末日を原則として財務諸表の公表の承認日とする。従来の監査基準報告書560実務指針第1号は監査報告書日までとしていたが、会計基準の定めは監査が行われることを前提としないこと、二重責任の原則が前提となることを理由に踏襲されていない。公表の承認日とは、公表を承認する権限を有する社内の機関又は個人が承認した日付であり、その機関又は個人は企業の経営とガバナンスの構造に基づき決まるため企業ごとに異なり得る。第10項は、後発事象の有無にかかわらず、公表の承認日と承認した機関又は個人の名称の注記を求める。経過措置の理由を述べたBC32は、適用後に承認プロセスを改めて構築する必要がある場合を前提としており、多くの会社に承認プロセスがないことが織り込まれている。拾い方の設計は、発生の時点の理解から始まる。意思決定により進む事象は当該意思決定があったとき、合意等に基づき進む事象は合意等の成立又は事実の公表があったとき、災害事故等は発生日又は知ったときが発生の時点であり、いずれも経理の外で起きる。新株発行の設例では、決議と払込みのどちらが評価期間に入るかで結論が三通りに分かれ、両方が評価期間の外にあれば開示後発事象に該当しない。工程設計では、修正後発事象と開示後発事象を分ける。修正は実質的な原因が決算日現在に既に存在する事象で、重要なものは財務諸表を修正するため決算のクリティカルパス上に乗る。開示は当期に影響せず翌期以降に影響する事象で、内容及び影響額等を注記し、見積りができない場合はその旨と理由を注記する。数値確定と並走できるため締切を後ろに置ける。したがって社内の締切は二段とし、修正になり得る情報を早く、開示にとどまる情報を遅く設定する。運用は四工程になる。公表の承認日を連結と個別のそれぞれについて先に決める。法務・営業・購買・財務・人事・総務・経営企画に部署別の該当事象リストを配り、判断ではなく該当の有無だけを答えさせる。締切を第1報と第2報に分ける。そして該当なしの報告も義務にする。ゼロ報告がなければ、事象が無かったのか拾えていないのかを区別できない。制度の受け皿は二層である。会社法側は会社計算規則第98条第1項第17号と第114条、金融商品取引法側は財務諸表等規則第8条の4。第41号は、修正後発事象が計算書類等に対する監査報告書日後に発生した場合に金融商品取引法の財務諸表では開示後発事象に準じて扱うという日本固有の特例を基本的に踏襲しており、抜本的な見直しは一体開示の検討状況等を踏まえて今後判断するとされている。会社法の監査報告書日を一日過ぎたかどうかで、同じ事象が数字の修正になるか注記になるかが分かれる。期日の設計がそのまま会計処理を決める。

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