計測機器のメーカーで、機器の保守料と、稼働データを見るクラウドサービスの利用料が売上の2割を超えた。契約は営業事務が表計算の台帳で管理し、毎月末に請求の明細をERPへ手で入力している。 年額を前受けする契約が多いので、経理は別の表計算で前受けの残高を月ごとに取り崩している。期末の監査で、その残高の明細が契約の台帳と合わなかった。差の原因は、期中に利用者の人数を増やした契約と、途中で上位のプランに変えた契約だった。 営業事務は追加の請求書を出していたが、経理の取崩しの表には変更が届いていなかった。情報システム部は課金システムの見積もりを取り、営業部はERPの標準機能でできるはずだと言う。CFOの手元には、どちらが正しいかを決める材料がない。

POINT
継続課金で請求と会計が止まるのは、毎月の定期請求を出す工程ではない。契約が途中で変わったときの処理である。 決まった金額を決まった周期で請求するだけなら、ERPの販売管理は標準で持っている。SAPであれば、契約の伝票に請求計画を付け、周期ごとに請求を自動で起こせる。手作業が残るのは、中途解約、プランの変更、数量の増減、そしてそれぞれに付く日割りである。 会計の側でも、契約変更は処理が分かれる。企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」は、別個の財又はサービスの追加で範囲が広がり、価格が独立販売価格に見合う分だけ増える変更を、独立した契約として処理するとしている(第30項)。それ以外の変更は、未だ移転していないサービスが移転済みのものと別個であれば、既存の契約を解約して新しい契約を結んだものと仮定して処理する(第31項(1))。請求の変更と収益計上の変更は、同じ契約変更から同時に生まれる。片方だけが届けば、冒頭の会社のように残高がずれる。 ERPの標準で足りるか、課金の基盤を別に挟むかは、契約の件数では決まらない。契約変更の型と日割りの規則がいくつあるか、その数で決まる。

定期請求だけなら、ERPの標準機能で回る

最初に、標準で足りる範囲を確かめておく。月額や年額が固定で、契約の更新が年に一度、条件の変更も更新のときにしか起きない契約なら、ERPの標準機能で請求まで回せる。

SAPの販売管理では、契約の伝票の明細に請求計画を持たせる。請求の周期、請求日の決め方、前払いか後払いかを規則として登録しておけば、請求の対象になった明細が毎月の一括処理で請求伝票になる。請求伝票は債権の明細になり、入金の消込と督促は、ほかの売上と同じ流れに乗る。 表計算の台帳から請求の明細を手で入力している会社は、契約を伝票として登録するだけで、月末の入力と転記の誤りがなくなる。

収益の計上も、この範囲なら単純である。年額を前受けした契約は、請求の時点で契約負債に計上し、サービスを提供した月ごとに売上へ振り替える。契約の開始日と終了日と金額が伝票にあれば、月ごとの取崩しの額は機械的に出る。 経理が別の表計算で残高を持つ理由はなくなる。

ここまでで済む会社は、課金システムを別に入れる必要がない。判断を誤るのは、定期請求の自動化を見て標準で足りると結論し、契約変更の処理を確かめないまま稼働した場合である。

手作業が残るのは、四つの契約変更と日割りである

継続課金の契約は、期間の途中で変わる。型は四つに分けられる。

一つ目は、プランの変更である。 月の途中で上位のプランに変えれば、旧料金の残りの日数分を戻し、新料金の残りの日数分を請求する。年額を前受けしていれば、戻す額と追加で請求する額を相殺した差額の請求書が要る。下位のプランへの変更では、返金するか、次回の請求から差し引くかを決めなければならない。

二つ目は、数量の増減である。 利用者の人数や機器の台数で課金する契約では、期中の追加がいちばん多い。追加した分だけ、追加した日から契約の終了日までを請求する。終了日を既存の契約にそろえるのか、追加した日から1年とするのかで、契約の束ね方が変わる。

三つ目は、中途解約である。 前受けした年額の残りを返すのか、返さないのか、違約金を取るのか。返すなら、すでに出した請求書に対する返金の処理が要る。消費税の適格請求書発行事業者は、売上に係る対価の返還を行ったとき、原則として適格返還請求書を交付する(税込1万円未満の返還は交付義務が免除されている)。日割りの返金は、請求の取消だけでなく、この書類の発行まで含めて一つの処理になる。

四つ目は、休止と無償期間である。 機器の入替の間だけ保守を止める、導入の初月は無償にする、といった取り決めは、請求の周期と収益計上の期間をずらす。

どの型にも、日割りの規則が付く。日数で按分するのか、月単位で切り上げるのか、変更した月は旧料金のままにして翌月から変えるのか。 約款で一つに決まっていればよいが、営業が顧客ごとに合意していると、規則は契約の数だけ増える。ERPの請求計画は、期間の途中で条件を変える処理を、既存の明細を終了させて新しい明細を足す操作で表す。規則が一つなら、この操作は手順書にできる。規則が顧客ごとに違えば、営業事務が契約書を読んで、1件ずつ金額を計算して入力することになる。表計算の台帳が消えない理由はここにある。

会計を止めるのは、請求ではなく契約負債の残高である

請求の誤りは、顧客からの指摘で見つかる。見つからないまま残るのは、契約負債の残高のほうである。

年額を前受けした契約で、期中にプランが変われば、残りの期間に配分する金額が変わる。基準の考え方に沿えば、まず変更が独立した契約に当たるかを見る。利用者を10人追加し、追加分の単価が通常の販売価格に見合っているなら、追加分は独立した契約として、追加した日から別に計上すればよい(第30項)。追加分に大きな値引きを付けた場合や、プランそのものを入れ替えた場合は、独立した契約にならない。 継続して提供するサービスは、残りの期間の分が提供済みの分と別個なので、既存の契約を解約して新しい契約を結んだものと仮定し、変更の時点で残っている対価と追加の対価を、残りの期間に配分し直す(第31項(1))。

実務で効くのは、重要性の定めである。収益認識に関する会計基準の適用指針第92項は、契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合、第30項、第31項(1)、第31項(2)のいずれの方法も適用できるとしている。 少額の追加が大半の会社は、処理を一つに決めてしまえる。決めた処理を、請求の側の日割りの規則と同じにしておけば、請求と収益計上は同じ計算から出る。

残高がずれるのは、基準の解釈が難しいからではない。契約変更の事実が、請求を起こす人と、収益を計上する人に、別々の経路で届くからである。 営業事務は追加の請求書を出して仕事を終え、経理は月末に契約の台帳の写しを受け取って取崩しの表を直す。写しが変更の前のものなら、残高は変更の前の計算のまま進む。契約の情報が経理に届かない構造は、収益認識基準の運用でつまずく原因、契約情報を経理へ届ける流れの作り方で扱った。継続課金では、それが毎月、少額で、大量に起きる。

契約変更を型別に数え、先に規則を減らす

ERPの標準で足りるかどうかは、過去の契約変更を数えれば見当がつく。過去12か月の契約変更を、台帳と追加の請求書と返金の記録から拾い、四つの型に分けて件数を出す。 あわせて、それぞれの変更で使った日割りの規則を書き出す。

数えると、会社は二つに分かれる。変更が月に数件で、規則が一つか二つに収まっている会社と、変更が毎月数十件あり、規則が顧客ごとに違う会社である。前者は、ERPの標準機能と手順書で足りる。 変更のたびに明細を終了させて足す操作は残るが、月に数件なら、課金の基盤を入れて連携を保守する費用のほうが高くつく。

後者は、器を選ぶ前にやることがある。規則を減らすことである。 日割りは日数按分に統一する。数量の追加の終了日は既存の契約にそろえる。中途解約の返金は、約款で有無を決める。この三つを営業と合意するだけで、処理の型は大きく減る。規則が顧客ごとに違うままでは、専用の課金システムを入れても、設定できない契約が例外として表計算に残る。課金システムが解くのは件数の問題で、規則の数の問題は解かない。

規則を減らしてもなお、変更の件数が多い会社と、使った量に応じて課金する従量の契約を持つ会社は、課金の基盤を別に持つことを検討する。利用量の記録を集めて単価を掛け、段階制の料金を当てる計算は、ERPの販売管理の標準が想定している処理ではない。標準で足りない機能を何で埋めるかの比べ方は、ERPの機能不足を標準機能・他社パッケージ・自社開発で埋める三択の比べ方にまとめてある。

器を選ぶ前に、契約変更を数えて規則を減らす
STEP 1
変更を型別に数える
過去12か月のプラン変更、数量の増減、中途解約、休止を、台帳と請求書から拾って件数を出す
→
STEP 2
日割りの規則を書き出す
日数按分、月単位、翌月からの変更など、実際に使った規則と使った件数を並べる
→
STEP 3
規則を約款でそろえる
日割りの方法、追加分の終了日、解約時の返金の有無を営業と合意し、型を減らす
→
STEP 4
収益計上の処理を一つに決める
独立した契約として扱う範囲と、残りの期間に配分し直す範囲を決め、請求の日割りと同じ計算にする
→
STEP 5
器を選ぶ
残った型と件数、従量課金の有無で、ERP標準か課金基盤かを決める
土台土台=契約変更が一か所に登録されること。請求と収益計上が、同じ登録から計算される。
規則が顧客ごとに違うままでは、どの器を選んでも表計算が残る。

課金の基盤を挟むなら、収益を計算する場所を一つにする

課金の基盤を別に持つと決めたら、ERPとの境界を先に決める。契約と料金の計算は課金の側に置き、債権の計上、入金の消込、督促、総勘定元帳はERPの側に置く。 この分け方はほぼ動かない。SAPにも、契約の管理、料金の計算、請求の統合を受け持つ製品群やクラウドの課金サービスがあり、他社の課金サービスをERPにつなぐ構成も取れる。どれを選んでも、決めることは同じである。

一つ目は、ERPへ渡す明細の粒度である。 請求書1枚を1件の債権として渡すのか、契約の明細ごとに渡すのか。入金の消込と督促は請求書の単位で足りるが、顧客別やサービス別の採算を見たいなら、売上の明細はサービスの単位で要る。合計だけを渡せば、ERPの中では何の売上かがわからなくなる(SAPとサブシステムの数字が合わない原因、販売・購買・経費・給与の連携設計)。

二つ目は、収益をどちらで計算するかである。 課金の側で月ごとの計上額を計算して仕訳として渡す方法と、ERPの収益認識の機能に契約の情報を渡して計算させる方法がある。どちらでもよいが、両方で計算してはいけない。計算する場所が二つあると、契約変更のたびに二つの結果を突き合わせる作業が生まれ、表計算をなくした意味がなくなる。

三つ目は、契約負債の残高を契約別に出せることである。 監査で求められるのは、期末の残高が、どの契約の、どの期間の分かという明細である。総額しか出ない構成にすると、明細を作るための表計算が戻ってくる。解約の影響を損益より早く捉えるための年間経常収益の集計も、同じ契約の明細から出す(サブスク・保守売上の解約がPLに満額で出るのは最大2年後、ARRブリッジで早く捉える)。

設例

業務用の厨房機器メーカー(売上高320億円、3月決算)。機器の保守契約が約4,200件、遠隔監視のクラウドサービスの契約が約1,100件あり、請求は営業事務の表計算からERPへ手で入力していた。 情報システム部は課金システムの導入を起案し、初期費用は6,000万円の見積もりだった。CFOは決裁の前に、過去12か月の契約変更を数えさせた。変更は年間で1,380件あり、そのうち960件は機器の台数の増減、270件は中途解約、150件がプランの変更だった。日割りの規則は、日数按分、月単位の切り上げ、翌月からの変更、営業が個別に合意した方法の四通りが混ざっていた。 個別の合意は210件で、営業事務はその都度、契約書を読んで金額を計算していた。会社は、日割りを日数按分に統一し、台数の追加の終了日を既存の契約にそろえ、解約時の返金は残りの月数分とする約款に改めた。収益の計上は、台数の追加を独立した契約として扱い、プランの変更は残りの期間に配分し直す処理に決めた。規則をそろえたあと、保守契約はERPの契約の伝票と請求計画に載せ、従量の料金があるクラウドサービスだけを課金サービスに載せた。 課金サービスの初期費用は1,800万円で済んだ。翌期末、契約負債の残高は契約別の明細と一致し、経理の取崩しの表計算は廃止した。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

器を決める前に決める三つ

第一に、過去12か月の契約変更を、型別に数える。 プランの変更、数量の増減、中途解約、休止の四つに分け、使った日割りの規則も書き出す。判断の材料は契約の件数ではなく、変更の型と規則の数である。

第二に、器を選ぶ前に、規則を約款でそろえる。 日割りの方法、追加分の終了日、解約時の返金を営業と合意する。収益計上の処理も一つに決め、請求の日割りと同じ計算にする。

第三に、課金の基盤を挟むなら、収益を計算する場所を一つにする。 契約変更の登録は一か所で行い、請求と収益計上をそこから出す。契約負債の残高は、契約別の明細で出せる構成にする。

まとめ
継続課金の請求は、定期請求だけならERPの標準機能で回る。手作業が残るのは、プランの変更、数量の増減、中途解約、休止と、それぞれに付く日割りである。過去12か月の変更を型別に数え、日割りの規則を約款でそろえてから、ERP標準か課金基盤かを選ぶ。収益の計算は一か所に置き、契約負債の残高を契約別に出せる構成にする。

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