月曜の朝の生産会議に、二つの数字が並んでいる。営業部が出した下期の販売見込みは、前年比マイナス8パーセント。工場が出した下期の生産計画は、前年とほぼ同水準。 誰もこの矛盾を指摘しない。工場長には理由がある。ラインの稼働を落とせば製品一個あたりの原価が上がり、原価差額が出る。年間の稼働計画も人員配置も、期初に決めてある。 営業部長にも理由がある。見込みは見込みであって、下期に挽回する可能性はある。 会議に出ている経理課長は、この議論に入る言葉を持っていない。在庫が増えますよ、と言っても、だから何だという顔をされるからである。 四半期後、棚卸資産の回転月数が2.0か月から2.5か月に伸び、期末に経理が評価損の話を持ち込むと、事業部から返ってくる。作れと言ったのは会社だ。

POINT
生産計画が販売計画から独立して走っても短期的に誰も痛まないのは、会計と税務の仕組みがそうなっているからである。法人税法施行令第32条第1項第2号は、自己の製造、採掘、採取、栽培、養殖その他これらに準ずる行為により取得した棚卸資産の取得価額を、イとして当該資産の製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額、ロとして当該資産を消費し、又は販売の用に供するために直接要した費用の額の合計額としている。 作った分の労務費と経費は棚卸資産の取得価額に入り、売れるまで売上原価にならない。作れば当期の損益は良く見える。 さらに、法人税基本通達5-3-1は、法人が各事業年度において製造等をした棚卸資産につき算定した取得価額が、令第32条第1項に規定する取得価額に満たない場合には、その差額(原価差額)のうち期末棚卸資産に対応する部分の金額を当該期末棚卸資産の評価額に加算するとする。 ただしこれには免除がある。同5-3-3は、原価差額が少額、すなわち総製造費用のおおむね1パーセント相当額以内の金額である場合において、法人がその計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したときは、原価差額の調整を行わないことができるものとする。 少額かどうかは事業の種類ごとに判定するが、法人が製品の種類別に原価計算を行っている場合には、継続して製品の種類の異なるごとに判定できる。そして帳尻は、後から合わない。 法人税法第33条第1項は資産の評価換えによる減額を原則として損金不算入とし、同条第2項が政令で定める事実がある場合に限って損金算入を認めるところ、法人税基本通達9-1-6は、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、法人税法施行令第68条第1項第1号に掲げる事実に該当しないことに留意する、とする。 作りすぎて安くなった分は、税務上の評価損にならない。

作れば利益が出る構造を、まず認めるところから始める

S&OP(Sales and Operations Planning:販売計画と生産計画を一つにそろえる月次の仕組み)が定着しない会社の会議では、たいてい「部門最適をやめよう」という話から入る。この入り方は効かない。 工場が生産を落とさないのは部門最適だからではなく、落とすと目の前の原価指標が悪化し、作ると当期の損益が良く見えるという、制度どおりの構造があるからである。

構造を確認しておく。法人税法施行令第32条第1項第2号イが取得価額に含めるのは、原材料費、労務費及び経費の額である。 固定的な性質の労務費や経費も、製造した棚卸資産の取得価額に入る。売れなければ、それは貸借対照表に残り、損益計算書には現れない。 逆にラインを止めれば、同じ費用が製品に乗らず、期間の費用として表に出る(遊休キャパシティのコストは製品原価に乗せない、稼働低下で単価が上がる問題の解き方)。

つまり工場長は、正しく行動している。 彼の指標では、作るほうが良い。この前提を否定せずに、別の金額を会議に持ち込むのが財務の役割である。 部門最適という言葉は、相手を責める言葉になるだけで、数字を動かさない。

財務が持ち込むのは、三つの金額である

計画差そのものは、数量の話である。数量のままでは、営業と工場のどちらが正しいかという議論にしかならない。 財務が変換するのは、この数量を三つの金額にすることである。

一つ目は、在庫金額の増分である。 生産計画と販売計画の差に製造原価単価を掛ければ出る。期末の棚卸資産がいくらになり、回転月数が何か月になるかまでを、会議の一行に書く。

二つ目は、運転資本の増分である。 在庫金額の増分は、そのまま現金の固定である。借入で賄っているなら金利が乗り、自己資金なら他に使えたはずの資金が減る(運転資本(CCC)の管理、在庫・売掛・買掛から黒字なのに資金が足りない原因を探る)。

三つ目は、評価損の見込みと、その税務上の扱いである。 増えた在庫のうち滞留判定に入る見込みの割合を過去の実績から置き、会計上の切下げ額を見積もる。会社法の側では、会社計算規則第5条第3項第1号が、事業年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産(当該資産の時価がその時の取得原価まで回復すると認められるものを除く)について、事業年度の末日における時価を付さなければならないとし、同条第6項第1号は、時価が取得原価より低い資産についてその時の時価又は適正な価格を付すことができるとする。 一方で税務は追随しない。法人税基本通達9-1-6により、物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情による時価の低下は評価損の事実に該当しない。切り下げた期に申告で加算され、その在庫を売却または処分して損金に算入されるまで、将来減算一時差異として繰延税金資産に残る(回収可能性の判断は別途要る)(安全在庫の水準を財務が決めるべき理由、欠品コストを置かない在庫削減の危うさ)。

数量の差を、会議で使える三つの金額に変換する
計画差
生産計画と販売計画の差を製造原価ベースの数量で出す
→
在庫金額の増分
差に製造原価単価を掛け、期末残高と回転月数まで書く
→
資金と損失の見込み
運転資本の増分と、滞留見込み分の評価損(税務は追随しない)
=
経営の議題
工場の判断でなく、経営が引き取る判断に変わる
数量のままなら、営業と工場のどちらが正しいかの議論で終わる。金額にした瞬間、判断の主語が経営に移る。

どの会議に、どの数字を持ち込むか

新しい会議体を作ろうとすると、定着しないことが多い。既存の生産会議の議題に一行足すほうが、定着する。

会議財務が持ち込む数字決めること
月次の需給会議(既存の生産会議)計画差の金額換算、期末在庫の見込み残高と回転月数翌月以降の生産計画を、販売計画の原価換算に安全在庫の増減を足した水準に寄せるかどうか
月次の業績レビュー在庫増減が当期の売上原価と利益に与えた影響の分解利益の増減のうち、作ったことによる繰延がいくらかを明示する
四半期の予実レビュー着地見込みの在庫残高と運転資本、滞留見込みの評価損生産の前倒しや後ろ倒しを、四半期の着地と資金の両面で判断する(フォーキャストの精度を測る)
期末に近い時期の原価会議原価差額の年度見込みと、総製造費用に対する比率稼働を落とした場合の原価差額が、通達5-3-3の枠の内に収まるかを確かめる
期末の引当会議滞留区分ごとの切下げ額と、税務上の取扱いの差会計と税務の差を全社で持つと先に決めておく(棚卸資産の評価損と滞留在庫)

表の四行目が、工場との対話を変える。 工場長が「稼働を落とすと原価差額が出る」と言うとき、その差額がどのくらいなら実務上の問題にならないかを、財務は数字で返せる。法人税基本通達5-3-3は原価差額が総製造費用のおおむね1パーセント相当額以内であれば、計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付することを条件に調整を要しないとしている。 この1パーセントについては、締めの設計の側で別稿が扱っている(製造原価の確定を待たずに月次決算を締める方法、標準原価と原価差異の扱い、購買のコストダウン実績が粗利に出ない理由、購買価格差異と標準単価改訂のつなぎ方)。本稿で使うのは同じ基準の別の用途で、需給会議の席で工場長の懸念に金額で応じるための道具としてである。 使うときに落としてはいけない条件が二つある。一つは、判定されるのが稼働を落とした分だけではなく、材料費差額や労務費差額、内部振替差額を含めた原価差額の総額だということ。 もう一つは、生産計画を落とせば分母である総製造費用そのものが下がるため、枠の金額も一緒に下がるということである。 年間の総製造費用を250億円と置いて1パーセントを2.5億円と計算したまま、生産を7億円分落とした後の差額と比べると、分母と分子の期がずれる。判定は、落とした後の総製造費用で引き直す。

月次の一周に、財務をどこで入れるか

S&OPは、月に一度同じ順番で繰り返すことに意味がある。順番が毎月違うと、数字を作る側が間に合わず、会議は前月の報告会になる。

月に一度、同じ順番で進める。財務は第三段で金額に変える
① 需要の見込みを出す
営業が実力ベースの見込みを出す。目標に寄せない
→
② 供給の計画を出す
工場が能力・要員・段取りの制約を置いた計画を出す
↑
計画を一つにする
↓
④ 経営が一つに決める
どちらかに寄せるか、どこを崩すかを決め、翌月の前提として引き継ぐ
←
③ 差を金額に変える
財務が在庫金額・運転資本・評価損の見込みに換算する
財務が入るのは第三段であって、第一段や第二段の数字を作り直す役ではない。

第一段で大事なのは、営業に目標ではなく見込みを出させることである。 目標に寄せた数字が出てくると、生産計画はその数字を前提に組まれ、差が会議に現れない。達成したい数字と、今の打ち手のまま置いたときに着地する数字は別のものである(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。

第三段で財務が気をつけることは一つ。需要の見込みや供給の計画そのものを作り直さないことである。 財務が数量に手を入れ始めると、営業も工場も自分の数字に責任を持たなくなる。変換するだけにとどめ、変換の式は毎月同じものを使う。

第四段で経営が決めた内容は、翌月の第一段の前提として明示的に引き継ぐ。 引き継がないと、毎月同じ議論を最初からやり直すことになる(着地見込みの下方修正が遅れる原因、悪い数字が経営に上がらない評価の構造)。

財務は日程の調整役にならない

S&OPの導入を任された財務が、最初に陥りやすいのが事務局化である。各部門から数字を集め、様式を揃え、会議を設定し、議事録を書く。 これをやると、会議は開かれるが何も決まらない。

財務が持つべきは、会議の運営ではなく換算の責任である。 誰がいつ出すかは経営企画の領分に寄せ、財務は出てきた数量を金額に直すところだけを持つ(経営企画とCFOの役割分担、計画づくりを4つの局面に分けて重複と空白をなくす)。

そして、換算の式を毎月変えない。 製造原価単価の出どころ、滞留見込みの割合、金利の置き方を最初に決めて文書にする。式が同じなら、月ごとの金額の動きが意味を持つ。式が毎月変わると、数字が動いたのか式が動いたのか分からなくなる。

設例

売上高340億円の電子部品メーカー。売上原価は250億円、年間の総製造費用も概ね同水準で、期首の棚卸資産は42億円、回転月数は約2.0か月だった。下期に入る前の需給会議で、営業の販売見込みは前年比マイナス8パーセント、工場の生産計画は前年同水準という、よくある形の乖離が出ていた。 原価ベースに直すと、下期の販売見込みに対応する売上原価は125億円、生産計画は135億円で、差の10億円がそのまま在庫に積み上がる計算になる。経理部長は、この10億円を三つの金額に変換して会議に出した。 第一に、期末の棚卸資産は42億円から52億円になり、回転月数は2.0か月から約2.5か月に伸びる。第二に、在庫の10億円は現金の固定であり、年1.5パーセントの調達金利で賄うなら年1,500万円が乗る。 第三に、過去3年の実績では増加した在庫のうち約2割が12か月超の滞留区分に入っており、当てはめると約2億円の評価損の見込みが立つ。そして税務は追随しない。法人税基本通達9-1-6により、過剰生産による時価の低下は法人税法施行令第68条第1項第1号の事実に該当しないため、会計上切り下げた額は切下げの期に申告で加算され、その在庫を売却または処分して損金に算入されるまで繰延税金資産として残る(回収可能性の判断は別途要る)。 工場長の反論は、稼働を落とせば原価差額が出るというものだった。ここで経理部長は、法人税基本通達5-3-3のおおむね1パーセント相当額を、生産計画を落とした後の総製造費用で引き直したうえで、年度の原価差額の総額が枠の内に収まるかを一緒に試算した。 結論として、下期の生産計画は、販売見込みの原価換算125億円に、新製品の立ち上がりに備えた安全在庫の積み増し3億円を足した128億円に見直された。在庫の増分は10億円から3億円に縮み、期末の棚卸資産は45億円、回転月数は約2.16か月に収まっている。 生産を7億円分落としたことで年間の総製造費用は250億円から約243億円になり、1パーセントの枠は約2.43億円。材料費差額と労務費差額を含めた年度の原価差額の総額は約1.8億円の見込みで枠の内に収まったため、計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したうえで調整を行わない処理とした。 滞留見込みの評価損は約2億円から約0.6億円に下がっている。 この会社は新しい会議体を作っていない。既存の月次生産会議の議題に、計画差の金額換算という一枚を足しただけである。 財務は日程も議事録も持たず、出てきた数量を毎月同じ式で金額に直す役だけを持った。二年目に入って、工場長のほうから「この差だといくらになりますか」と先に聞いてくるようになっている。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

S&OPで財務が押さえる三つのこと

第一に、作れば当期の利益が良く見える構造を否定せず、前提として置く。 法人税法施行令第32条第1項第2号は、自己の製造等により取得した棚卸資産の取得価額を、イの製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額と、ロの消費または販売の用に供するために直接要した費用の額の合計額としている。固定的な性質の労務費や経費も製造した棚卸資産に乗り、売れるまで損益計算書に出てこない。 工場が生産を落とさないのは部門最適だからではなく、制度どおりに行動しているからである。部門最適という言葉は相手を責めるだけで、数字を動かさない。

第二に、財務が持ち込むのは数量ではなく三つの金額である。 在庫金額の増分と期末残高および回転月数、運転資本の増分と金利、そして滞留見込み分の評価損とその税務上の扱いである。会計の側では会社計算規則第5条第3項第1号が、事業年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産(取得原価まで回復すると認められるものを除く)に時価を付すことを求めるが、税務は追随しない。 法人税基本通達9-1-6は、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは法人税法施行令第68条第1項第1号に掲げる事実に該当しないとする。作りすぎて安くなった分は、切り下げた期に申告で加算され、その在庫を売却または処分して損金に算入されるまで繰延税金資産として残る。回収可能性の判断は別途要る。

第三に、財務は事務局にならず、換算の責任だけを持ち、式を毎月変えない。 月次の一周は、営業が実力ベースの見込みを出し、工場が制約を置いた計画を出し、財務が差を金額に変え、経営が一つに決めて翌月の前提として引き継ぐ、という順番で進める。稼働を落とすと原価差額が出るという主張に対しては、法人税基本通達5-3-1が原価差額のうち期末棚卸資産に対応する部分を在庫の評価額に加算させる一方、同5-3-3が総製造費用のおおむね1パーセント相当額以内であれば計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付することを条件に調整を要しないとしていることを、金額で返す。 判定されるのは稼働を落とした分だけでなく原価差額の総額であり、生産計画を落とせば分母の総製造費用も下がるので、枠は落とした後の数字で引き直す。 これは年度の税務の取扱いであって月次の判断基準ではない。需給会議で使うのは、工場長の懸念を否定するためではなく、懸念の大きさを双方が同じ金額で見るためである。

まとめ

営業と工場の数字が合わないのは、作れば当期の利益が良く見える制度の上で各部門が動いているからで、部門最適を責めても生産計画は動かない。財務は既存の月次生産会議に一枚を足し、計画差を在庫金額の増分、固定される運転資本と金利、滞留見込み分の評価損という三つの金額に換える。評価損は切り下げた期には税務で損金にならないことも、同じ一枚に並べる。

換算の式は最初に文書にし、毎月変えない。

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