職務権限規程の金額基準を他社の雛形から写すと、自社の決裁の実態と合わなくなりやすい。取引の規模も件数も会社ごとに違うからだ。雛形の金額をそのまま使うと、部長に決裁が集中したり、社長に小口の案件が届き続けたりする。筆者は、金額基準は過去1年の決裁を金額順に並べ、どの職位に年に何件届くかを数えてから決めるのがよいと考えている。この記事では、規程の位置づけ、権限表に載せる項目、金額基準の決め方、作成の手順を順に示す。

この記事の要点
  • 職務権限規程は、どの職位が何をいくらまで決められるかを定める規程である。決裁者を決めるのがこの規程の役割になる。
  • 規程の本体は条文より権限表(別表)にある。項目と職位を縦横に並べ、決裁、合議、報告の別を書く。
  • 金額基準は、自社の決裁の実績の分布から決める。雛形の金額は出発点にとどめる。

職務権限規程とは

職務権限規程とは、会社の職位ごとに、決められる事項と金額の範囲を定めた社内規程である。誰の責任で意思決定するかを、案件が起きる前に決めておくための規程といえる。社長、役員、部長、課長といった職位に、契約の締結、購買、投資、採用、資金の支出などについて、どこまでを自分の判断で決めてよいかを割り当てる。条文は短くまとめ、具体的な内容は別表の権限表に書く形をとる。

権限という語の意味は、内部統制の基準に定義がある。企業会計審議会の実施基準は、権限を「組織の活動を遂行するため付与された権利」、職責を「遂行すべき活動を遂行する責任ないし義務」とし、事業活動の目的に適合した権限及び職責が設けられ、適切な者に割り当てられていることが、内部統制の目的の達成のために重要だとしている。

出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」実施基準Ⅰ.2.(1)⑥(金融庁、2023年4月7日公表、2026年10月1日確認)

職務分掌規程・稟議規程との違い

職務権限規程は、職務分掌規程、稟議規程とあわせて語られる。3つは定める対象が違う。

3つの規程は、部署の担当、職位の権限、決裁の手続を分けて定める
部署の担当職務分掌規程
どの部署がどの業務を担当するかを定める。組織図の各部署に仕事を割り当てる規程である。
職位の権限職務権限規程
どの職位が何をいくらまで決められるかを定める。決裁者を決める規程である。
決裁の手続稟議規程
決裁をどの書式で起案し、誰に回付し、どう記録するかを定める。
分掌で担当部署が決まり、権限で決裁者が決まり、稟議で手続が決まる。

3つの違いを表にまとめた。

規程定める内容主語読むのはどんなとき
職務分掌規程部署ごとの担当業務部署この仕事はどの部署の担当かを確かめるとき
職務権限規程職位ごとの決裁事項と金額の範囲職位この案件は誰の決裁が要るかを確かめるとき
稟議規程起案、回付、決裁、記録の手続手続決裁をどう取るかを確かめるとき

会社によっては、3つを1本の規程にまとめたり、職務権限規程を「決裁権限規程」と呼んだりする。名前より、部署の担当、職位の権限、決裁の手続の3つがどこかに書かれているかを確かめる。

会社法と内部統制での位置

会社法は、職務権限規程という名前の規程を作ることを直接には求めていない。ただし、規程で定める権限には、会社法が置いた上限がある。取締役会設置会社では、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任、支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止などの重要な業務執行の決定を、取締役会は取締役に委任することができない(会社法第362条第4項)。社長の決裁権限をいくら大きく書いても、ここに当たる事項は取締役会の決議が要る。取締役会設置会社では、権限表の最上位の列を取締役会にする。監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社には別の定めがあり(会社法第399条の13、第416条)、委任できる範囲が異なる。

何が「重要」「多額」に当たるかは、条文に金額が書かれていない。会社の規模や資産の状況に照らして判断することになるため、取締役会規程に付議基準として金額を定めておく方法がとられる。職務権限規程の金額基準は、この付議基準とつながる形で作る。

内部統制との関係では、職務権限規程は統制の土台になる。実施基準は、統制活動に「権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続」が含まれるとし、全社的な内部統制の評価項目の例に「責任の割当てと権限の委任が全ての従業員に対して明確になされているか」を挙げている。上場会社は、権限が文書で定められ、そのとおりに運用されているかを確かめられる状態にしておく必要がある。上場を準備する会社も、これに備えることになる。内部統制の文書全体の整え方は内部統制の3点セットの作り方と更新、形だけの文書にしない運用で扱った。

出典:会社法(平成17年法律第86号)第362条第4項、第399条の13、第416条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)。企業会計審議会の上記意見書 実施基準Ⅰ.2.(3)、Ⅱ(参考1)「財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例」(金融庁、2026年10月1日確認)

権限表に載せる項目

権限表は、縦に決裁事項、横に職位を並べた一覧表である。載せる項目は、契約、購買、投資、人事、資金の5つの領域から拾うと漏れにくい。

領域載せる項目の例金額以外で分ける軸
契約販売契約、仕入契約、業務委託契約、秘密保持契約、賃貸借契約契約期間、自動更新の有無、独占や競業避止の条項
購買物品の購入、外注、経費の支出、交際費予算内か予算外か、継続取引か新規取引か
投資設備投資、ソフトウェアの開発、出資、子会社の設立予算に計上済みか、撤退に費用がかかるか
人事採用、昇格、異動、懲戒、給与の改定職位、正社員か有期か
資金借入、預金口座の開設、保証、資金の貸付、支払の実行相手先、期間、担保の有無

金額だけで分けると抜ける事項がある。金額が小さくても会社を長く縛る契約、たとえば独占条項のある契約や長期の賃貸借は、金額基準では下位の職位で決裁できてしまう。会計方針の変更や値引きの承認のように、支出の金額では測れない事項もある。こうした事項は、金額とは別の行として権限表に書く。赤字になる受注の承認を金額基準と別に定める考え方は赤字受注・大幅値引きは誰がどう承認すべきか、稟議ではなく採算の下限をルールにするで扱った。

権限表の各マスには、決裁のほかに起案、合議、報告の別を書く。起案は、案件をまとめて決裁を求めることである。合議は、決裁の前に関係する部署の同意や意見を得ることである。法務部の合議が要る契約、経理部の合議が要る支出、というように使う。報告は、決裁した後に上位の職位へ知らせることである。次の表は権限表の設例である。

決裁事項課長部長担当役員社長取締役会
予算内の物品の購入50万円まで500万円まで1,000万円まで1,000万円超-
予算外の支出-100万円まで500万円まで(社長へ報告)500万円超付議基準に当たるもの
設備投資-500万円まで(担当役員へ報告)3,000万円まで3,000万円超付議基準に当たるもの
独占条項のある契約--起案決裁(法務部が合議)重要なもの
正社員の採用-起案決裁(人事部が合議)管理職の採用重要な使用人
新規の借入--起案決裁(経理部が合議)多額のもの
設例。金額と職位は架空のもので、自社の基準は次の節の手順で決める。

金額基準の決め方

金額基準は、決裁の実績を数えてから決める。雛形にある金額、たとえば「課長10万円、部長100万円、役員500万円」といった数字は例示であり、自社の取引の大きさを踏まえた数字ではない。

手順は4つである。

金額基準は、決裁の件数を職位ごとに数えてから置く
STEP 1
決裁の実績を集める
過去1年の稟議と支出の記録を項目別に並べる
→
STEP 2
金額帯ごとに数える
金額順に並べ、帯ごとの件数を出す
→
STEP 3
職位に届く件数を試算する
基準の案ごとに、各職位の年間の件数を数える
→
STEP 4
基準を置く
各職位が内容を見られる件数に収まる案を選ぶ
見るのは、各職位に年に何件届くかである。

設例で確かめる。ある会社の購買の決裁が、過去1年で1,200件あったとする。金額帯ごとの件数は次のとおりである。

金額帯件数雛形の基準での決裁者見直し案での決裁者
10万円以下620件課長課長
10万円超〜50万円340件部長課長
50万円超〜100万円120件部長部長
100万円超〜500万円90件役員部長
500万円超〜1,000万円20件社長役員
1,000万円超10件社長社長
設例。件数は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。雛形の基準は仮に「課長10万円、部長100万円、役員500万円」、見直し案は「課長50万円、部長500万円、役員1,000万円」とした。

雛形の基準では、課長に年620件、部長に460件、役員に90件、社長に30件が届く。見直し案では、課長に960件、部長に210件、役員に20件、社長に10件になる。社長の決裁は年30件から10件に減り、月に1件に満たない。部長は460件から210件になり、1件ごとの金額は大きくなる。

どちらが正しいかは、この表だけでは決まらない。決めるのは、各職位が1件ずつ内容を確かめられる件数かどうかである。件数が多すぎる職位では、決裁が押印だけの作業になり、意思決定の責任が形だけになる。少なすぎる職位は、権限を持っていても使う場面がない。件数を並べると、基準を上げるか下げるかを、数字をもとに議論できる。

基準を上げるときに合わせて決めること
基準を上げて上位の職位の件数を減らすと、下位の職位が決められる金額が増える。そのぶん、同じ相手への発注を基準の金額以下に分けて上位の決裁を避けたときの影響も大きくなる。基準を上げるときは、同じ相手・同じ目的の支出は合算して判定すると規程に書き、分割した発注がないかを経理部が事後に確かめる手続を合わせて置く。

作成の手順

規程を初めて作るときも、作り直すときも、手順は同じである。現状を集め、表に並べ、例外を決め、承認を取る。

現状の決裁を集める

最初に、いま実際に誰が何を決めているかを集める。稟議書、支払の承認の記録、契約書の押印の記録を過去1年分並べる。規程がない会社でも、決裁の慣行はある。慣行と大きく違う規程を作ると、守られない。

集めるときは、決裁者と金額に加えて、決裁にかかった日数も記録する。起案から決裁までに日数がかかっている項目は、決裁者が多すぎるか、決裁者に件数が集中している疑いがある。

項目と職位を並べる

次に、集めた決裁を項目に分け、権限表の縦軸を作る。項目は細かくしすぎない。最初の版では行を絞り、運用しながら足す。横軸の職位は、組織図の階層と合わせる。部長と本部長のように階層が近い職位は、両方に決裁させるのか、片方に寄せるのかを決める。同じ案件を何人もが順に決裁する形は、責任の所在が分かりにくくなる。

金額基準は、前の節の手順で件数を数えて置く。取締役会の付議基準に当たる事項は、取締役会の列に書く。

例外と代行を決める

権限表だけでは決まらない場面を、条文で決めておく。少なくとも次の4つである。

条文で決めておくこと
  • 決裁者が不在のときに誰が代わりに決裁するか(代決)。代決した案件は、後で本来の決裁者に報告する
  • 上位の職位の権限を、下位の職位に常時任せる場合の範囲(専決)。任せた範囲を文書に残す
  • 権限表に載っていない事項が出たときに誰が決裁者を決めるか
  • 自分が当事者になる案件(自分の経費、自分の親族との取引など)を誰が決裁するか

代決と専決は、言葉が似ているが場面が違う。代決は決裁者がいないときの一時的な代行で、専決は権限そのものを下位に任せておく取り決めである。どちらも、任せた後の報告の仕方まで書く。

承認と周知

取締役会設置会社では、規程の制定を取締役会の決議事項にする。改訂の権限も決めておく。別表の金額基準の変更まで毎回取締役会に諮る形にすると、改訂が遅れ、規程と実態がずれたままになりやすい。条文の改訂は取締役会、別表の軽微な改訂は社長、というように分ける方法がある。どこまでを軽微とするかは規程に書く。

周知では、権限表だけを1枚で配る。条文を全員が読むことは期待しにくい。起案する人が、自分の案件の決裁者をすぐ引ける状態にしておく。

形だけにしない運用

規程は、作った日から実態とずれ始める。ずれを小さく保つ手当てを2つ挙げる。

システムの承認経路と合わせる

経費精算、購買、稟議のシステムには、承認の経路が設定されている。この経路が権限表と違っていると、規程では部長の決裁なのに、システムでは課長の承認で支払まで進む、といったことが起きる。権限表を改訂したら、同じ日にシステムの経路も変える。経路の変更を担当する部署と、変更の記録を残す場所を決めておく。

システムが複数あるときは、どの承認がどのシステムで行われるかも整理する。同じ案件を稟議のシステムと会計のシステムで二重に承認していないかも確かめる。この整理は支払と稟議の承認をSAPに置くか外部ワークフローに置くか、二重承認が生まれる境目で扱った。発注や支払の処理を自動化の仕組みに任せる場合の権限の考え方はAIエージェントの発注・支払権限は、人向けの決裁権限規程では管理できないにまとめた。

組織変更時の改訂

組織が変わると、権限表の横軸が変わる。部が統合されれば部長の数が減り、1人の部長に届く件数が増える。新しい職位ができれば、どの列に入れるかを決める必要がある。組織変更の決裁と同じ稟議に、権限表の改訂案を付けることを決まりにしておくと、改訂の漏れを防ぎやすい。

組織変更がない年も、年に1回は件数を数え直す。前の年に置いた基準で、各職位に何件届いたかを確かめる。取引の規模が変われば、同じ金額基準でも件数は変わる。

グループ会社に広げるとき

子会社にも職務権限規程は要る。ただ、親会社の規程をそのまま渡すと合わない。子会社は取引の規模が小さく、職位の階層も少ないからである。子会社ごとに、同じ手順で決裁の件数を数えて金額基準を置く。

グループでは、もう1つ決めることがある。子会社の決裁のうち、親会社の承認や親会社への報告が要る事項である。これは子会社の中の権限とは別の表になる。切り分け方はグループ会社の決裁権限規程、親会社が承認する事項の切り分け方で扱った。規程を含む経営管理の仕組み全体の中での位置づけは経営管理の仕組みの作り方、数字を次の打ち手に変える月次の流れを参照してほしい。

よくある質問

職務権限規程は必ず要るか

会社法は、この名前の規程の作成を直接には求めていない。ただし、誰が何を決められるかが文書になっていないと、決裁のたびに確認が生じ、権限のない人が契約を結ぶおそれも残る。上場会社では、内部統制の評価で、権限の委任が明確かどうかが評価項目の例に挙がっており、上場を準備する会社もこれに備えることになる。人数が増えて社長がすべてを決裁できなくなった時点で、作る意味が出てくる。

雛形はあるか

書籍や各社のウェブサイトで、条文と権限表の雛形が公開されている。条文は雛形を使って差し支えない。権限表の項目と金額は、雛形を出発点にして、自社の決裁の実績で置き直す。金額をそのまま写すと、決裁が特定の職位に集中しやすい。

職務分掌規程との違いは

職務分掌規程は部署の担当業務を定め、職務権限規程は職位の決裁の範囲を定める。経理部が支払業務を担当すると決めるのが分掌で、経理部長がいくらまでの支払を決裁できるかを決めるのが権限である。

決裁権限規程との違いは

呼び方の違いで、定める内容は重なる。職務権限規程という名前で職位の権限全般を定め、金額基準の表を決裁権限基準表として別に持つ会社もあれば、決裁権限規程の1本にまとめる会社もある。自社の規程の体系の中で、決裁者と金額の基準がどこに書かれているかを確かめればよい。

まとめ
  • 職務権限規程は、職位ごとの決裁事項と金額の範囲を定める。本体は権限表で、契約、購買、投資、人事、資金の領域から項目を拾う。
  • 金額基準は、過去1年の決裁を金額帯ごとに数え、各職位に年に何件届くかを見て決める。金額で分けられない事項は別の行にする。
  • 代決、専決、権限表にない事項の扱いを条文に書き、権限表の改訂とシステムの承認経路の変更を同じ日に行う。

次に読むなら、子会社の決裁に親会社がどこまで関わるかを扱ったグループ会社の決裁権限規程、親会社が承認する事項の切り分け方を勧める。