資金繰り表を月次で作るだけでは、月中の谷が見えない。月末の残高を並べた表は、入金の前に支払が重なる週の残高を映さないからだ。筆者は、借入枠を銀行と交渉する前に、予定日つきの入出金から週次の予測を作るのが先だと考えている。谷の深さが分からないまま枠を頼んでも、いくら要るのかを説明できない。この記事では、会社の資金管理の業務の全体と、経理と財務の分担、週次の予測の作り方を設例で示す。

この記事の要点
  • 資金管理は、出納と残高管理、資金繰りの予測、調達と運用の3層でできている。
  • 経理は入出金の実績を記録して確かめ、財務は先の残高を予測して不足と余剰に手当てをする。
  • 月次の資金繰り表に加えて、予定日つきの入出金から作る週次の予測を持つ。

資金管理とは

資金管理とは、会社の現金と預金について、いまの残高を確かめ、先の残高を予測し、足りなければ調達し、余れば置き場所を決める一連の仕事である。支払を期日どおりに済ませることが出発点で、そのうえで資金を事業と返済と運用にどう振り向けるかまでを扱う。

似た語に資金繰りがある。資金繰りは、入金と出金の時期を合わせて支払に困らないようにすることを指し、資金管理の一部にあたる。これに、日々の出納、口座と残高の管理、銀行との取引、余った資金の運用、支払の不正を防ぐ手続を加えた範囲が資金管理になる。

経理と財務の役割の違い

この仕事は、経理と財務の両方にまたがる。経理は入出金を実行して実績を確かめ、財務はこれから起きる入出金を見積もる。

経理は入出金の実績を扱い、財務はこれからの入出金を扱う
実績経理
支払の実行、入金の消込、預金残高と帳簿の照合を担う。残高と明細が正しいことを確かめ、月次の資金繰り実績をまとめる。
予測と手当て財務
先の残高を予測し、足りない時期と金額を見つける。借入や枠の確保、余った資金の置き場所、銀行との取引を担う。
実績の残高を経理が確かめ、その残高を出発点に財務が先を見積もる。

部署が経理部の1つだけの会社でも、2つの役割は両方ある。その場合は、支払を実行する担当と、先の残高を見積もる担当を分けて考えると、どちらが空いているかが分かる。部署を分けるかどうかの判断は経理部と財務部を分けるか、資金担当を独立させる判断と分けたときの隙間で扱った。

業務の3層

資金管理の業務は、3つの層に分けると整理しやすい。

資金管理は、3つの層を足し合わせた仕事である
出納と残高管理
払う、受け取る、残高を確かめる
+
資金繰りの予測
先の残高と不足する時期を見積もる
+
調達と運用
足りなければ借り、余れば置き場所を決める
=
資金管理
今日の支払から先の資金計画までを扱う
出納と残高管理の残高が正しくないと、予測も手当ても合わなくなる。

層ごとの担当、頻度、使う資料を表にまとめた。

層業務主な担当頻度使う資料
出納と残高管理支払の実行、入金の消込経理日次支払依頼書、請求書、銀行の入出金明細
出納と残高管理預金残高と帳簿の照合、口座の管理経理日次・月次預金の残高、総勘定元帳、口座の一覧
資金繰りの予測月次の資金繰り表(実績と見込み)経理・財務月次資金繰り実績、予算、月次決算
資金繰りの予測週次の残高の予測財務週次売掛金と買掛金の期日の一覧、給与や返済の予定日
調達と運用借入、借入枠の確保、返済の管理財務随時・月次借入の一覧、返済予定表、契約書
調達と運用余った資金の置き場所の決定財務随時・四半期運用の方針、残高の予測
担当と頻度は筆者が置いた整理の例で、会社の規模や組織によって変わる。

出納と残高管理

出納は、支払を期日どおりに実行し、入金を請求と照らして消し込む仕事である。残高管理は、すべての口座の残高を確かめ、帳簿と合っていることを示す仕事である。地味に見えるが、ほかの2つの層はこの残高を出発点にする。口座が複数の銀行に分かれている会社では、どの口座にいくらあるかを1枚で見られる一覧を毎日更新するところから始める。

資金繰りの予測

予測は2つ持つ。1つは月次の資金繰り表で、数か月から1年先までの月末残高を見る。もう1つは週次の予測で、およそ3か月先までの週末残高を見る。月次の表は借入の計画や投資の時期を考えるのに向き、週次の予測は月の途中の不足を見つけるのに向く。

2つの違いを設例で確かめる。ある会社の10月の入出金を、月の合計と週ごとの内訳で並べる。

期間入金出金期間末の残高主な入出金
月初の残高--300-
1日〜7日40110230外注費の支払
8日〜14日3090170仕入先への支払
15日〜21日5060160経費の支払
22日〜28日6020020給与の支給、借入の返済
29日〜末日32020320売掛金の回収
月の合計500480320-
設例。単位は百万円。数値と日付は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

月次の表に載るのは、月初の300、入金500、出金480、月末の320だけである。残高は月初より20増えており、問題は見えない。週ごとに並べると、28日の時点で残高は20まで下がっている。月末に回収する売掛金320が入る前に、給与と返済が出ていくためである。

同じ10月でも、月の合計と週ごとの残高では見えるものが違う
月の合計月次の資金繰り表
月初300、入金500、出金480、月末320。残高は20増える。月の途中の残高は載らない。
週ごとの残高週次の予測
週末の残高は230、170、160、20、320と動く。28日に残高が20まで下がることが、月が始まる前に分かる。
月次の表は月末の320を示し、週次の予測は28日の20を示す。

週次の予測のうち手前の週は、日付が決まっている入出金を、その日付のまま置いて作る。請求書や発注がまだ無い先の週は、売上の見込みと回収・支払の条件から置き、予定日が決まるたびに置き換える。谷を見つけて手当てを決めるのに使うのは、予定日で埋まっている手前の週である。

手前の週は、予定日つきの入出金を並べて作る
STEP 1
予定日つきの入出金を集める
売掛金と買掛金の期日、給与、返済の予定日
→
STEP 2
週ごとに並べる
週の入金と出金を足し、週末の残高を出す
→
STEP 3
谷を見つける
週末の残高が最も低い週と、その金額を確かめる
→
STEP 4
手当てを決める
支払日の調整、回収の前倒し、借入枠の確保
谷の時期と深さが分かってから、銀行に頼む枠の金額を決める。

作り方の細部と、毎週の更新で何を見るかは13週キャッシュフロー予測の作り方、月次の資金繰り表では見えない月中の谷で扱った。

調達と運用

予測で不足が見えたら、手当てを選ぶ。支払日や回収日を動かせるなら、まずそれを検討する。動かせない分を、借入や借入枠で埋める。借入をどの銀行からどれだけ受けるかは、1回ごとの条件に加えて、銀行ごとの取引の配分として決めておく。考え方は取引銀行は何行が適切か、メインバンクのシェアと借入の分散方針にまとめた。借入契約に財務の条件が付いている場合は、その条件を守れているかの点検も資金管理の仕事に入る。点検の方法はコベナンツ(財務制限条項)の管理、抵触の前に余裕度を四半期で見るで扱った。

予測で余剰が見えたら、置き場所を決める。使う時期が決まっている資金と、当面は使う予定のない資金を分け、後者について預け先と期間の方針を持つ。方針と社内規程の作り方は余剰資金の運用方針と社内規程、金利がある時代の置き場所の考え方に書いた。

キャッシュフロー経営と資金管理の関係

キャッシュフロー経営は、会計上の利益に加えて、現金がどれだけ増減したかを経営の判断の軸に置く考え方を指して使われる語である。利益が出ていても、売掛金の回収が遅れたり在庫が増えたりすれば、現金は減る。この差を経営の数字として追うのがキャッシュフロー経営である。

現金の増減を見る枠組みは、キャッシュ・フロー計算書にある。企業会計審議会の意見書は、キャッシュ・フロー計算書の資金の範囲を現金(手許現金及び要求払預金)及び現金同等物とし、一会計期間のキャッシュ・フローを「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに区分して表示するとしている。

出典:企業会計審議会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」三 2.資金の範囲、3.表示区分(金融庁、1998年3月13日公表、2026年10月1日確認)

資金管理との関係は、時間の幅の違いとして整理できる。キャッシュフロー経営は、年や四半期の単位で、事業がどれだけ現金を生み、それを投資と返済と株主還元にどう配るかを決める。資金管理は、その決定を日や週の単位で実行できる状態に保つ。営業活動によるキャッシュ・フローが年間で黒字の会社でも、設例のように月の途中で残高が下がる週はある。筆者は、キャッシュフロー経営を掲げる会社ほど、年の数字と週の数字の両方を持つ必要があると見ている。年の数字だけでは、支払の日に資金があるかどうかは確かめられない。

手元資金をいくら持つか

手元資金の水準は、下限と、月中の谷の深さの2つから考える。

下限は、これを下回らないと決める残高である。入金が遅れても払わなければならない支出、たとえば人件費や家賃などの固定費を何か月分まかなえるかから置く。何か月分とするかは、事業の入金がどれだけ止まりやすいかで変わる。

谷の深さは、月初の残高から、週末の残高が最も低い週の残高までの落差である。設例では、月初の300から28日の20まで、280下がっている。仮にこの会社が下限を100と決めたとすると、28日の残高を100に保つには、月初に380が要る。月初の残高は300だから、80足りない。

月末の残高だけで下限を判定しない
設例の会社は、月末の残高が320あり、下限の100を大きく上回って見える。下限を下回るのは28日の残高で、これは月次の表には載らない。下限を守れているかは、月末の残高だけで判定せず、週末の残高が最も低い週でも確かめる。週末の残高も、週の途中の動きは映さない。給与と返済のように支払が重なる週は、日ごとの残高でも確かめる。

足りない80の埋め方は3つある。支払日や返済日を月末の回収の後へ動かすこと、回収を早めること、80以上の借入枠を持っておくことである。借入枠で埋める場合は、枠を含めた金額で下限を判定することになる。そのときは、枠が必要な日に使える契約かどうかを確かめておく。

持ちすぎにも費用がある。使う予定のない資金を預金に置いたままにすると、事業への投資や返済に使えたはずの資金が働かない。下限と谷の深さから必要な金額を出し、それを超える部分には使い道を決める。固定費から下限を置く考え方は手元流動性はいくら持つべきか、固定費と月商倍率で自社基準を作るで扱った。

グループの資金をまとめる

子会社を持つ会社では、資金がグループの中に分かれて置かれる。ある子会社には余剰があり、別の子会社は銀行から借りている、という状態が起きることがある。グループ全体で見れば、余っている資金で不足を埋められる分だけ、外からの借入を減らせる。

グループの資金をまとめる仕組みは、キャッシュマネジメントシステム(CMS)と呼ばれる。主な機能は3つある。子会社の口座の資金を親会社の口座へ集め、不足する子会社へ貸すプーリング、グループ会社の間の債権と債務を相殺して差額だけを決済するネッティング、子会社の支払を親会社などがまとめて行う支払代行である。

まとめる前に確かめることがある。グループの中の貸し借りには、利率と契約の定めが要る。子会社に少数株主がいる場合や、海外の子会社を含める場合は、資金を動かせる範囲に制約がかかることがある。集めた資金を親会社が管理するので、子会社ごとの残高の予測を親会社が受け取る流れも要る。導入の判断はCMS・キャッシュプーリングの導入判断、効果が出る会社の三条件で扱った。

不正と誤りを防ぐ分担

資金は、不正と誤りの影響が直接に出る資産である。防ぐ手段の基本は、1人で支払を完結できない分担にすることである。

企業会計審議会の実施基準は、不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために、職務を複数の者の間で適切に分担又は分離させることが重要だとしている。例として、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させ、担当者間で相互牽制を働かせることが考えられるとしている。

出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」実施基準Ⅰ.2.(3)(金融庁、2023年4月7日公表、2026年10月1日確認)

これを資金の業務に当てはめると、筆者は次の4つを分けるのがよいと考えている。

資金の業務で分ける4つの役割
  • 支払を依頼する人と、支払を承認する人
  • 振込のデータを作る人と、銀行のシステムで送信を承認する人
  • 振込先の口座の情報を登録・変更する人と、支払を実行する人
  • 出納を担当する人と、預金残高と帳簿を照合する人

人数が少なくて分けきれない場合は、事後の確認で補う。出納の担当者以外が、銀行の入出金明細と帳簿を月に1回照らし合わせる、といった手当てである。振込先の変更の依頼を装った送金の指示への備えはなりすまし送金指示から支払担当を守る、経理の運用と権限の組み直し方にまとめた。

資金管理システムを使う場面

資金管理システムは、複数の銀行口座の残高と明細を1か所に集め、資金繰りの予測や、グループの資金の集約、借入と預金の管理を支えるソフトウェアである。トレジャリー・マネジメント・システム(TMS)とも呼ばれる。機能の範囲は製品によって違う。

使う場面は、表計算ソフトでの管理に手間がかかりすぎるようになったときである。筆者は、次の3つのどれかに当たったら検討を始めるのがよいと考えている。

1つ目は、口座と銀行の数が増え、毎日の残高の一覧を作るのに時間がかかるときである。銀行ごとに画面を開いて残高を写す作業は、口座が増えるほど誤りが入りやすくなる。2つ目は、子会社の資金をまとめ始めるときである。会社をまたぐ残高と貸し借りの記録は、表計算ソフトでは追いにくい。3つ目は、週次の予測を毎週更新する負担が大きいときである。会計システムの売掛金と買掛金の期日を取り込めれば、手で写す作業が減る。

順番には注意が要る。週次の予測を表計算ソフトで作ったことがない会社がシステムを入れると、何を見たいかが決まっていないので、画面の設定が定まりにくいと筆者は見ている。まず手で作って、見る項目と更新の手順を決め、それからシステムに載せる。

よくある質問

資金管理と資金繰りの違いは

資金繰りは、入金と出金の時期を合わせて支払に困らないようにすることで、資金管理の一部にあたる。資金管理は、これに日々の出納、口座と残高の管理、借入と運用、銀行との取引、支払の不正を防ぐ手続を加えた範囲を指す。

経理と財務のどちらが担うか

両方が担う。経理は支払の実行、入金の消込、残高と帳簿の照合といった実績の側を受け持ち、財務は先の残高の予測と、借入や運用といった手当ての側を受け持つ。部署が1つの会社でも、支払を実行する担当と、先の残高を見積もる担当は分けて考える。

資金管理システムとは

複数の銀行口座の残高と明細を1か所に集め、資金繰りの予測、グループの資金の集約、借入と預金の管理を支えるソフトウェアである。機能の範囲は製品によって違う。口座や子会社の数が増え、表計算ソフトでの管理に手間がかかりすぎるようになったときに検討する。

どのくらいの現預金を持つべきか

一律の正解はなく、自社の下限と月中の谷の深さから決める。下限は、入金が遅れても払う固定費を何か月分まかなうかで置く。谷の深さは、週次の予測で、月初の残高から週末の残高が最も低い週の残高までの落差を測る。この2つを足した金額を目安にし、借入枠で埋める場合は、枠が必要な日に使える契約かを確かめる。

まとめ
  • 資金管理は、出納と残高管理、資金繰りの予測、調達と運用の3層でできている。経理は実績を、財務は予測と手当てを受け持つ。
  • 月次の資金繰り表は月の途中の残高を示さない。予定日つきの入出金から週次の予測を作ると、月中の谷の時期と深さが分かる。
  • 手元資金の水準は、下限と谷の深さから決める。借入枠を頼むのは、谷の深さが分かってからがよいと筆者は考えている。

次に読むなら、週次の予測の作り方を扱った13週キャッシュフロー予測の作り方、月次の資金繰り表では見えない月中の谷を勧める。