「経理を外に出して、間接費を二割落とす」。号令はここから始まる。ところが検討会の二回目で必ず止まる。何を外に出すのかを一覧にしようとすると、出てくるのが「支払担当のAさんの仕事」「決算補助のBさん」という人単位のリストになるからだ。人の仕事は定型作業と例外判断と社内調整が一人の中で混ざっている。混ざったまま外に出せば、判断が要る場面で毎回問い合わせが返ってきて、社内の工数はほとんど減らない。外出しの成否は、価格交渉ではなく、この切り分けの粗さで先に決まっている。

POINT
経理の外出しを人単位で考えると失敗する。業務を工程に割り、「定型で量がある」ものと「判断や統制が要る」ものに分けたうえで、前者だけを外に出す。社内シェアードサービス(SSC)とBPOは同じ「外」ではない。SSCは統制と業務知識を社内に残したまま集約する手段、BPOは変動費化と要員リスクの移転に効く手段で、向く業務が違う。そして移管より難しいのは、残す側の設計だ。仕様を決め、品質を測り、例外を裁く発注者機能を社内に置かないと、外に出した工数は問い合わせの形で戻ってくる。

「誰の仕事か」でなく「どの工程か」で切る

まず対象の粒度を変える。買掛管理という単位では外に出せないが、工程に割れば話が具体になる。請求書の受領と読み取り、注文書との三点照合、仕訳の起票、支払データの作成、振込実行の承認、取引先からの問い合わせ対応、月次の残高確認——ここまで割ると、外に出せる工程と出せない工程がはっきり分かれる。

分ける物差しは二つでいい。ひとつは定型度と量。手順が文書化でき、判断の余地が小さく、件数がまとまってあるか。もうひとつは判断と統制の必要度。会計基準の適用や税務の方針、承認権限に触れるか。この二軸で並べると、外出しの候補は自然に浮き上がる。逆に言えば、手順書が書けない工程はまだ外に出す段階にない。属人化したまま渡すと、相手は自社の暗黙のやり方を推測で埋めるしかなくなる(決算の属人化を解く:引き継ぎ可能な経理にする標準化の手順)。

工程を「定型度・量」と「判断・統制の必要度」で並べると、外に出す順番が見える。
判断・統制の必要度 高 ↑
社内に残す
会計方針の決定、税務判断、決算数値の確定、開示。件数は少ないが誤ると取り返しがつかない。外に出す対象ではない
社内SSCに集約
決算の定型部分、債権債務の残高確認、固定資産の管理。判断は要るが手順化でき量もある。統制を社内に残したまま集約する
そもそも触らない
年に数回の特殊処理や個別対応。量がないので集約しても効果が出ず、移管コストだけが残る
BPOの本命
請求書の入力、三点照合、支払データ作成、経費精算の一次チェック。手順が明確で量があり、外部の標準プロセスに乗せやすい
定型度・量 少 ← / 多 →
右下から着手し、右上は社内SSCで受ける。左上を外に出そうとした瞬間、検討は必ず頓挫する。

SSCとBPOは、同じ「外」ではない

この二つはよく並べて語られるが、解決している問題が違う。混同したまま比較表を作ると、単価の安いほうが選ばれて後で困る。

社内シェアードサービス(SSC)BPO(外部委託)
統制の所在自社に残る委託先と分担。契約と監査で担保する
業務知識社内に蓄積される社外に出る。戻すのに時間がかかる
コスト構造人件費は固定のまま。集約で単位あたりを下げる件数連動にできれば変動費化できる
効き方拠点ごとのばらつきを潰す、標準化する要員の採用・離職リスクを外に移す
戻しやすさ組織変更で戻せる契約期間と引き継ぎの制約がかかる

自社の痛みが「拠点ごとにやり方が違って全社の数字が揃わない」ならSSCが効く。痛みが「採用できない、辞められると止まる」ならBPOが効く。単にコストが高いという理由だけで外に出すと、標準化されていない業務が外部で同じように非効率に回るだけで、そこに管理費が乗る。

順番としては、標準化してから外に出すのが原則だ。SSCで一度集約して手順を揃え、揃った工程をBPOに移す——この段取りを踏んだ会社は、委託の見積もりが安く出る。標準化されていない業務は、相手も読めないぶん高く見積もる。

残す側の設計を、移す設計より先に

外出しで最も見落とされるのが、社内に残る発注者側の機能だ。移管が終わったのに社内工数が減らない会社は、ほぼ例外なくここを設計していない。

残すべきものは四つある。第一に、業務の仕様を決めて維持する役割。勘定科目の使い方や税区分の判断基準を決め、変更があれば委託先に伝える。第二に、品質を測る役割。処理件数、期日遵守、誤処理の件数といった指標を毎月見る。第三に、例外を裁く役割。仕様外の取引が来たときに、その場で判断して返す窓口をひとつに絞る。第四に、会計上の最終責任。委託先が作った数字であっても、決算として出す責任は社内に残る。

現場では
ある会社が請求書処理を外部に委託した。単価は下がったが、半年経っても経理の残業は減らなかった。調べると、委託先からの照会が月に百件を超えていた。中身は「この費用はどの部門に付けるのか」「この請求書は前払か」といった、仕様が決まっていない類のものだった。移管前に例外処理の判断基準を書き出さず、これまで担当者の頭の中で処理していたからだ。判断基準を三十項目ほど文書にして委託先に渡したところ、照会は月十件台まで落ちた。外に出す難所は作業の移管ではなく、暗黙の判断を言語化することにある。

契約と移行の段取りで、後の自由度が決まる

委託の条件交渉で、単価の水準だけを見て決めると後で身動きが取れなくなる。実務で効く論点は他にある。

第一に、料金の建て方だ。完全な固定額にすると、取引量が減っても支払いが減らず、変動費化という目的が果たせない。件数連動にすると量の変動を吸収できるが、繁忙期の単価が跳ねる設計になっていないかを確かめる。多くの契約は基本料と従量部分の組み合わせになるので、その比率が自社の業務量の振れ幅に合っているかで見る。

第二に、業務範囲の変更手続き。制度改正や新規事業で処理が増えたときに、どう合意して料金を改定するのかを最初に決めておく。ここが曖昧だと、変更のたびに交渉が発生して現場が疲弊する。

第三に、終了時の引き継ぎだ。委託を解消する、あるいは別の委託先に切り替える場面で、手順書やマスタ、処理履歴をどの形式で返してもらうかを契約に書いておく。ここを書いていないと、業務知識が社外に出たまま戻らない。実際に切り替えるかどうかとは無関係に、戻せる状態にあること自体が交渉力になる。

移行そのものは一括でやらない。取引の少ない拠点や、季節性のない業務から先に移し、二〜三か月は旧体制と並走させる。並走期間に見るのは処理の正確さだけでなく、照会の件数と内容だ。照会が減らないなら、仕様の言語化が足りていない証拠なので、次の対象を移す前に潰す。

効果を測る単位を決めておく

外出しの効果は「削減額」だけで見ると必ず揉める。委託費が新たに乗るぶん、総額では下がらない年も出るからだ。測るなら、処理一件あたりの原価、月次決算の日数、経理人員のうち判断業務に充てられている時間の割合——この三つを移管前に取っておく。取っていないと、移管後に「で、良くなったのか」に誰も答えられない。要員計画そのものの組み立て方は別稿で扱った(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。

まとめ
経理の外出しが止まるのは、対象を人単位で考えるからだ。業務を工程に割り、「定型度・量」と「判断・統制の必要度」の二軸で並べれば、外に出す順番は自然に決まる。定型で量のある工程(請求書入力、三点照合、支払データ作成)はBPOの本命、判断は要るが手順化できる工程(決算の定型部分、残高確認)は社内SSCで受ける。会計方針や税務判断、決算数値の確定は外に出す対象ではない。SSCとBPOは解決する問題が違い、拠点間のばらつきを潰したいならSSC、要員リスクを移したいならBPOになる。標準化してから外に出す順番を守った会社は、見積もりが安く出る。そして移管より難しいのは残す側の設計で、仕様の維持・品質の測定・例外の裁き・会計上の最終責任という四つを社内に置かないと、外に出した工数は問い合わせとなって戻ってくる。効果を測る指標は、移管前に取っておく。

関連記事