四月に事業本部の括りが変わる。三本部が二本部になり、一部の子会社が別の本部にぶら下がる。人事の発令が出て、システムの組織マスタが直り、六月の株主総会が終わる。そして十月ごろ、開示の担当者が気づく。今期のセグメントはどう出すのか。監査法人に相談すると、前年度を作り直せますかと聞かれる。このやりとりが毎回発生するのは、区分を決める場に経理がいないからではない。区分がすでに四月に決まっていたことを、誰も認識していないからである。
区分を決めているのは、経営会議に出している資料である
実務で最も多い誤解は、セグメント区分を「開示のための分類」として扱うことである。第6項の三要件を素直に読めば、決定要因は社内にしかない。
第一要件は、収益と費用が発生する事業活動であること。ここで見落とされやすいのが括弧書きで、同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益及び費用を含むとされている。 結論の背景の第62項は、製造から販売までの各段階の構成単位に関する情報が、特定の事業のために垂直に統合した企業を理解するうえで重要な場合があるとし、企業内部の事業活動であっても、その性質や経営環境が異なる場合には事業セグメントとなることがあるとする。外販していない製造部門も、対象から自動的に外れるわけではない。
第二要件が中核である。最高経営意思決定機関が資源配分の意思決定を行い、業績を評価するために経営成績を定期的に検討していること。検討していない単位は、どれだけ細かく数字が取れても事業セグメントではない。 逆に、検討している単位は、開示したくなくても事業セグメントになる。
第三要件は、分離された財務情報を入手できること。結論の背景の第65項と第66項によれば、この財務情報に資産などの一定の情報が含まれていることを条件とすべきかが検討されたが、実際に最高経営意思決定機関に利用されている情報を基礎とすべきであり、開示のみを目的とした情報の作成を要求すべきではないとして、条件としないこととされた。
なお第7項は、企業の本社又は特定の部門のように、企業を構成する一部であっても収益を稼得していない、又は付随的な収益を稼得するに過ぎない構成単位は、事業セグメント又は事業セグメントの一部とならないとする。本社は入らない。 区分方法が複数ある場合の扱いは第9項にあり、各構成単位の事業活動の特徴、それらについて責任を有する管理者の存在、及び取締役会等に提出される情報などの要素に基づいて決定するものとされている。
変更の引き金は二つあり、逃げ道が違う
区分が変わる場面は、基準上ふたつに分かれている。ここを混同すると、開示の作り方を間違える。
ひとつは量的な重要性の変化による変更で、第16項が扱う。ある事業セグメントの量的な重要性が変わって報告セグメントとして開示する範囲を変更する場合、その旨と、前年度のセグメント情報を当年度の報告セグメントの区分により作り直した情報を開示しなければならない。ただし、それが実務上困難な場合には、セグメント情報に与える影響を開示することができる。 基準は実務上困難な場合を、必要な情報の入手が困難な場合や、当該情報を作成するために過度の負担を要する場合としている。
もうひとつは管理手法の変更による変更で、第27項が扱う。企業の組織構造の変更等、企業の管理手法が変更されたために報告セグメントの区分方法を変更する場合、その旨と、前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示するものとする。ただし実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度の区分方法により作成した情報を開示することができる。
逃げ道が違う。 第16項は影響の開示に落とせるが、第27項の代替手段は「当年度を前年度の区分で作る」ことである。組織を変えた年は、前年度を新区分で作るか、当年度を旧区分で作るか、どちらかの向きで二組の情報が要る。 影響の記述だけで済ませる選択肢は置かれていない。さらに第28項は、第27項の開示を行うことも実務上困難な場合には、当該開示に代えて、それが実務上困難な旨及びその理由を記載しなければならないとし、開示はセグメント情報に開示するすべての項目について記載するものとしたうえで、一部の項目について記載することが実務上困難な場合はその旨及びその理由を記載しなければならないとする。作れませんで終わらせられない。理由まで書く。
実務的な帰結は単純である。組織変更の意思決定と同時に、新旧どちらの向きで作るかを決めておく。 十月に気づいて遡ると、期首時点のデータが揃わないという理由で選択肢が消える。なお、区分を変えなくても第24項(5)は、事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法を前年度に採用した方法から変更した場合に、その旨、変更の理由、及び当該変更がセグメント情報に与えている影響の開示を求めている。管理会計のKPI定義を変えた年も、開示が動く。
集約と結合は、条件も対象も別物である
複数の事業セグメントをまとめる規定は二本あり、混同されやすい。
集約は第11項で、対象は事業セグメント一般である。要件は三つで、集約がセグメント情報を開示する基本原則と整合していること、当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること、そして次のすべての要素が概ね類似していること。すなわち、製品及びサービスの内容、製品の製造方法又は製造過程・サービスの提供方法、製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類、製品及びサービスの販売方法、銀行・保険・公益事業等のような業種に特有の規制環境の五つである。
結合は第13項で、対象が違う。量的基準を満たしていない複数の事業セグメントについて、経済的特徴が概ね類似し、かつ第11項(3)に記載した要素の過半数について概ね類似している場合に、これらを結合して報告セグメントとすることができる。
つまり、五要素すべてが類似していなければ集約できないが、量的基準を満たさない小さなセグメント同士なら、過半数の類似で結合できる。この違いを踏まえずに「似ているからまとめた」と説明すると、集約基準の側で説明が立たない。 結論の背景の第71項は、事業セグメントの集約は、類似する事業上のリスクを有し、それらを集約しても財務諸表利用者の意思決定に重要な影響を与えない場合に限られるべきであるとしている。
量的基準そのものは第12項にあり、売上高(事業セグメント間の内部売上高又は振替高を含む)が全事業セグメントの売上高合計額の10%以上、利益又は損失の絶対値が、利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額と、損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上、資産が全事業セグメントの資産合計額の10%以上、のいずれかを満たすものである。二つ目の分母に注意が要る。 赤字のセグメントが出た年は分母が入れ替わり、前年と同じ実績でも判定が変わることがある。そして第14項は、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が損益計算書の売上高の75%未満である場合、75%以上が含まれるまで報告セグメントを追加して識別しなければならないとする。第15項により、報告セグメントに含まれない事業セグメント等は「その他」に一括して開示し、そこに含まれる主要な事業の名称等をあわせて開示する。
社内で見始めたものは、外に出る
マネジメント・アプローチの帰結で最も見落とされているのが、この方向である。管理会計を高度化すると、開示項目が自動的に増える。
第20項は、負債に関する情報が最高経営意思決定機関に対して定期的に提供され、使用されている場合、各報告セグメントの負債の額を開示しなければならないとする。事業別のバランスシートを作り始め、それを経営会議の常設資料にした瞬間に、セグメント別負債が開示項目になる(事業別バランスシートの作り方:ROICを語るなら、事業に資本を負わせる)。
第21項も同じ構造である。報告セグメントの利益(又は損失)の額の算定に含まれている場合に加えて、算定に含まれていなくても、事業セグメント別の情報が最高経営意思決定機関に定期的に提供され使用されているときは、外部顧客への売上高、事業セグメント間の内部売上高又は振替高、減価償却費、のれんの償却額及び負ののれんの償却額、受取利息及び支払利息、持分法投資利益(又は損失)、特別利益及び特別損失、税金費用、これらに含まれない重要な非資金損益項目を開示しなければならない。特別利益及び特別損失については主な内訳もあわせて開示する。第22項は、持分法適用会社への投資額と、有形固定資産及び無形固定資産の増加額について同じ扱いを定める。
そして第32項は、主要な顧客がある場合に、その旨、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客への売上高、及び当該顧客との取引に関連する主な報告セグメントの名称を開示するとしている。顧客名が出る。
一方で、第60項は歯止めも置いている。複数の企業を介在させて各企業の帳簿上を通過させるだけの取引のように、収益の総額表示が明らかに適当ではない取引について、損益計算書上は純額で処理しているにもかかわらず、最高経営意思決定機関に対して顧客からの対価の総額を報告していることを理由にセグメント情報上で総額により開示することは適当ではない、とする。社内の見え方をそのまま出すのが原則だが、財務諸表利用者の判断を誤らせる場合は例外になる。
「競合に見える」は、免除の理由にならない
区分を細かくしたくない理由として最も多く挙がるのが、競合に手の内が見えるという懸念である。基準はこの論点を検討したうえで、例外を置かないと明記している。
結論の背景の第52項は、公開草案へのコメントで指摘された事業活動上の障害を二つ挙げる。細分化されたセグメント情報の開示を求められる企業は、そうでない競争相手に対して事業活動上不利になる可能性があること。特定の顧客向け、もしくは特定の製品又はサービスに関するセグメント情報の開示を求められる企業は、顧客との価格交渉等を行う上で不利になる可能性があること。懸念そのものは基準の側も認識している。
第53項は、米国会計基準の検討の際になされた指摘を並べる。障害を生じさせる場合でも、それはマネジメント・アプローチによるセグメント情報を開示しない企業に比べ、より資本市場のメリットを得るために当該企業が負担すべき義務であること。企業の競争相手の多くは財務諸表の情報よりも詳細な情報を有しているため、開示が事業活動の障害となることはないこと。開示すべき情報は、単一の事業のみを行う小規模な企業が財務諸表において開示する情報よりも詳細ではないこと。そのうえで第54項は、当委員会は、企業の事業活動に障害を生じさせると考えられる場合における例外的な取扱いを定めないこととした と結んでいる。
したがって、この論点で交渉すべき相手は監査法人ではない。社内で、経営会議の報告単位そのものをどう置くかという議論に戻る。 ただし報告単位を開示都合で歪めれば、今度は経営の意思決定の質が落ちる。第48項は、マネジメント・アプローチの短所として、企業の組織構造に基づく情報であるため企業間の比較を困難にし、同一企業の年度間の比較も困難になることを挙げており、第55項によれば、製品及びサービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報という関連情報の開示は、この比較可能性の問題に対処する補完的な情報として位置づけられている。比較可能性は関連情報で補う設計になっているので、セグメント区分の側で無理に均す必要はない。
決めるのは三つ
第一に、組織変更の意思決定と同時に、開示の向きを決める。 管理手法の変更による区分方法の変更には第27項が適用され、その旨と前年度を当年度の区分方法により作り直した情報の開示が求められる。実務上困難な場合の代替は、当年度を前年度の区分方法により作成した情報であって、影響の記述で済ませる選択肢は置かれていない。量的な重要性の変化による第16項の変更とは逃げ道が違う。十月に気づくと、期首時点のデータが揃わないという理由で選択肢のほうが先に消える。 変更前の区分を復元できる属性を、移行前の伝票に付けておく。
第二に、社内の管理を一段深くするときは、開示への波及を同じ会議で確認する。 第20項により、負債に関する情報が最高経営意思決定機関に定期的に提供され使用されていれば、報告セグメント別の負債は開示項目になる。第21項と第22項も同じ構造で、利益の算定に含まれていなくても、その情報が定期的に提供され使用されていれば開示対象になる。第32項は主要な顧客について、顧客の名称又は氏名と売上高、関連する主な報告セグメントの名称の開示を求める。事業別バランスシートを常設資料にする判断は、管理会計の判断であると同時に開示の判断である。
第三に、集約と結合を混同しない。 第11項の集約は、基本原則との整合、経済的特徴の概ねの類似、そして製品及びサービスの内容・製造方法又は製造過程及びサービスの提供方法・販売する市場又は顧客の種類・販売方法・業種に特有の規制環境という五要素すべての概ねの類似を要件とする。第13項の結合は、量的基準を満たさない事業セグメントを対象に、経済的特徴の概ねの類似と、同じ五要素の過半数の概ねの類似で足りる。対象も条件も別物であり、「似ているからまとめた」という説明では集約基準の側が通らない。
そのうえで、細分化を避けたい理由が競争上の不利であるなら、その議論は監査法人ではなく社内に戻る。第52項から第54項が示すとおり、基準は事業活動上の障害を認識したうえで例外的な取扱いを定めないこととしている。比較可能性の問題は、第55項が述べるとおり関連情報の開示で補う設計になっている。 セグメント区分の側を歪めれば、失われるのは開示の質ではなく経営の意思決定の質のほうである。



