UATの参加を求められた経理に渡されるのは、たいてい伝票入力のテストケース一覧だ。取引先を選び、金額を入れ、転記する。想定どおりの仕訳が出たらOK欄にチェックを入れる。二週間かけて数百件を消化し、「経理部:合格」と署名する。そして稼働から三か月後、月次が締まらなくなる。ベンダーの単体テストが通っても経理が後で困るのは、1件の伝票が正しいかどうかではなく、積み上がった後に出てくるものだからだ。 残高、繰越、期間、集計、突合。どれも1伝票のテストでは絶対に姿を現さない。経理のUATは、操作の確認ではなく締めを1サイクル通す場として設計し直す必要がある。

POINT
経理のUATを機能させる要点は四つある。第一に、テストケースを伝票から作らない。月次試算表、部門別P/L、勘定明細、開示のもとになるデータ、税務の申告調整、経営会議資料という出口の成果物を先に並べ、それを作るために必要な項目を逆算して、どの伝票にどの属性が入っていなければならないかを辿る。伝票は通るが分析軸が入っていないという事故は、この逆算を省いたときに起きる。第二に、粒度を「発生頻度」と「誤ったときの後戻りコスト」の2軸で決める。全部を同じ厚さでやると全部が薄くなる。低頻度かつ高コストの領域、つまり期末・年次・例外処理こそシナリオで通す。第三に、テストデータをきれいに作らない。桁違い、マスタ不備、部分入金、マイナス伝票、締め後に届く請求書といった汚れを、本番相当の件数で入れる。第四に、合否の判定を「不具合ゼロ」でなく「残った不具合の運用回避が決まっていること」に置く。稼働判定で必要なのは完璧な状態ではなく、何が未解決でどう回すかが書かれた一覧である。

単体テストが通っても、経理が困る理由

ベンダーが実施する単体テストと結合テストは、機能が仕様どおりに動くかを見る。1件の伝票を入れ、想定の勘定に転記されることを確認する。これは必要な工程で、ここを経理が重複してやる意味はほとんどない。

経理が詰まるのは、その先だ。伝票が数万件積み上がった状態で、月次の残高が前月から正しくつながるか。期間をクローズした後に修正が入ったとき、どちらの月に落ちるか。自動仕訳が想定外のマスタ組み合わせで別の勘定に飛んでいないか。サブシステムから来た数字と会計側の残高が一致するか。どれも「積み上げ」と「時間」が要る現象で、1件ずつのテストケースを何百件消化しても出てこない。

だから経理のUATで最初に決めるべきは、テストケースの数ではなく何サイクル回すかである。月次を1回だけ通したUATは、繰越の検証をしていないに等しい。最低でも2か月分、可能なら四半期の締めを含めて回す。

テストケースは、伝票でなく決算成果物から逆算する

範囲の決め方は、出口から入るのが唯一まともな方法だ。稼働後に経理が作らなければならないものを、先に全部並べる。

月次試算表と勘定明細。部門別・製品別のP/L。連結パッケージに入れる数字。開示注記のもとになるデータ。税務申告の別表と申告調整の材料。経営会議に出す資料。銀行に出す試算表。この一覧を作り、それぞれについて「どの項目が、どの粒度で必要か」を書き出す。そこから逆に辿って、各伝票にどの属性が入っていなければならないかを確認する。

この逆算を省くと、典型的な事故が起きる。伝票は正常に転記されるが、後から部門別に割れない。取引先別に集計できない。プロジェクト別の実績が出ない。原因は、分析軸が伝票に入っていないことだ。そして分析軸は後から遡って付けられない。稼働してから「この軸で見たい」と言っても、過去の伝票には入っていないので、その期は分解できないまま終わる(管理会計の分析軸(ディメンション)設計|あとから分解できない粒度を先に決める)。

税務も同じ構造で見落とされやすい。交際費の区分、寄附金、減価償却の税務差異、貸倒引当の限度超過。申告調整に必要な情報が伝票や補助科目に落ちていないと、決算後に手作業で集計し直すことになる。UATの段階なら、勘定科目か補助情報の設計を直せる。稼働後に気づけば、毎期のExcel作業として固定する(税務申告と決算をつなぐ|申告調整を期末に慌てて作らない期中の分担)。

粒度は「頻度」と「後戻りコスト」の2軸で決める

すべてを同じ厚さでテストしようとすると、限られた期間の中で全部が薄くなる。粒度は明示的に配分する。

経理のUATは、頻度と後戻りコストで厚みを配分する。
発生頻度 高 →
型の確認で足りる
日常の伝票起票。ベンダーの単体テストで押さえられている。少数サンプルで型だけ見る
実データ量で複数サイクル
月次締め、自動仕訳、入金消込、サブシステム連携。毎月起き、間違えば全月分をやり直す
手順書で吸収する
稀な費用計上や単発の振替。詰まっても影響が小さい。テストより手順書で受ける
必ずシナリオで通す
期末・年次・例外。減損、償却方法の変更、遡及訂正、外貨換算、期間の再オープン。落とすと本番の期末で初見に当たる
誤ったときの後戻りコスト →
右側の二つに時間を寄せる。左上を丁寧にやるUATは、消化率だけが高くなる。

右下の扱いが、そのプロジェクトの成熟度を分ける。年に一度しか起きない処理は、UATの期間中に自然発生しない。だから意図的にシナリオを作って通す必要がある。ここを飛ばすと、本番の期末で初めて操作することになり、しかも締めの真っ最中に初見の画面と向き合う。

右上も軽視されやすい。日次で回る処理は「毎日やっているから大丈夫」と思われがちだが、間違いが毎月積み上がる分だけ後戻りが重い。入金消込のロジックが甘いまま稼働すると、消し込めない入金が滞留し、売掛の残高が回収の意思決定に使えなくなる(SAPの債権・債務管理(AR/AP)を回収と支払の意思決定に効かせる)。

テストデータを、きれいに作らない

UATが「通ってしまう」最大の原因が、テストデータの品質が良すぎることだ。ベンダーが用意する検証用データは、マスタが揃い、金額が丸く、取引が正常系で完結している。そのデータで回せば、当然ほとんど通る。

本番のデータは違う。取引先マスタの支払条件が空欄、住所が旧本社のまま、同じ会社が二重登録、桁が一つ多い伝票、部分入金と過入金、マイナスの請求、締めた後に届く前月分の請求書、他通貨の少額取引。これらを意図して混ぜる。

いちばん確実なのは、過去の実データを移行して回すことだ。前年同月の取引を丸ごと入れて締めてみれば、当時の決算数値と突き合わせられる。差が出たところが、設計と現実のずれである。移行データの品質はここで一緒に検証できるので、データ移行の工程とUATを分断しないほうがよい(SAP移行のデータ移行で失敗しない|マスタ品質を上げる進め方)。

件数も本番相当に寄せる。数十件で通った月次締めが、数万件では時間内に終わらないことがある。処理時間は非機能要件としてベンダー側で検証されている前提だが、経理が締めのスケジュールを組めるかどうかは、実際の件数で回してみないと判断できない。5営業日で締める計画なら、どの処理が何日目の何時に走るかまでUATで確定させる(決算スケジュール表の作り方:5日締めを支えるWBSとクリティカルパス)。

「期間」を動かさないテストは、締めのテストではない

経理のUATで最も抜けやすいのが、時間軸の操作だ。伝票を入れるテストは誰でも思いつくが、期間を閉じたり開けたりするテストは、テストケース一覧に載らない。

見るべきは次のような点になる。会計期間をクローズした後、そこへ伝票を起票しようとするとどうなるか。誰が期間を再オープンできるのか。再オープンした事実が記録に残るか。月をまたぐ検収の費用がどちらの月に落ちるか。前月の誤りを当月で訂正した場合、部門別P/Lの前月分は動くのか動かないのか。年度の繰越処理を実行した後で前年度の伝票を直したら、繰越残高は自動で追随するのか。

このあたりは設計上の選択が入るところで、正解が一つではない。だからこそ、UATで経理が「この挙動でよい」と確認する意味がある。締めた後の修正をどう統制するかは、内部統制の評価でも問われる論点になる(SAPの会計期間クローズ(期間オープン管理):締めた後の修正をどう統制するか)。

内部統制といえば、システム導入そのものが評価の対象になる点も押さえておきたい。2023年4月に改訂された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」は、2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用されている。基幹システムの入替えは、IT全般統制とIT業務処理統制の両方に影響する事象であり、稼働年度の内部統制評価では監査人から必ず論点になる。UATの記録は、そのときの証跡そのものだ。誰が何をテストして誰が承認したかが残っていない受入れは、後で説明ができない。

合否を「不具合ゼロ」で判定しない

UATの終盤で必ず起きるのが、残った不具合をどう扱うかの綱引きだ。ベンダーは「軽微なので稼働後の対応で」と言い、経理は「直ってから」と言う。この議論は、判定基準を不具合の数に置いている限り終わらない。

置き換えるべき基準は一つで、残った不具合それぞれについて、稼働後どう回すかが決まっているかである。回避手順があり、担当が決まり、いつまでに恒久対応するかの期日が入っている。この三点が揃っていれば、直っていなくても稼働の判断はできる。揃っていないものが一件でもあれば、それは軽微かどうかにかかわらず未決である。

そして、この一覧はUATの成果物として稼働後に引き継がれなければならない。落とした要件と運用での回避策が現場に渡らないと、担当者は自分でExcelを作って埋める。稼働後に二重管理が生まれる典型的な経路がこれだ(SAP稼働後にユーザーが使わなくなる理由|定着を決めるのは操作研修ではない)。Fit-to-Standardの議論でアドオンを見送った箇所も同じで、見送りの判断とセットの運用回避策が議事録の中に眠ったままになる(SAPアドオン(追加開発)をどこまで作るか|Fit-to-Standardの判断基準)。

現場では
ある製造業のS/4HANA移行で、経理のUATに割り当てられた期間は三週間だった。当初のテストケースは伝票起票を中心に四百件強。担当の課長がまずやったのは、そのリストを一度脇に置き、稼働後に自分たちが作る資料を全部書き出すことだった。月次試算表、工場別と製品グループ別のP/L、原価差異の分析表、連結パッケージ、申告調整の材料、銀行提出用の試算表。書き出してみると、原価差異の分析表に必要な区分が伝票に入らない設計になっていることが分かった。設計変更が間に合う時点で見つかったのは、この逆算のおかげだった。次に、前年の10月と11月の実データを移行環境に入れ、月次を二回連続で締めた。1回目は通ったが、2回目の繰越で在庫の評価差額が合わなかった。原因は月末の在庫評価と期間クローズの順序で、手順書のほうを直して決着した。三週間で消化できたテストケースは当初リストの六割だったが、稼働後に月次が止まることはなかった。落とした四割は、左上の日常伝票だった。

UATは検収でなく、運用のリハーサル

UATを検収の手続きだと捉えると、経理の関わり方は「渡されたケースを消化して署名する」になる。それで署名した合格は、稼働後に何の役にも立たない。

代わりに、稼働後の1か月をここで先に生きるのだと考える。同じ件数、同じ汚れたデータ、同じスケジュール、同じ人員で締めてみる。詰まった箇所が、稼働後に詰まる箇所である。テストの合格率でなく、締めが何日で終わったかを持ち帰る。プロジェクトに経理がどう関わるかという議論はよくあるが、関わり方の中身はここに集約される(SAP移行プロジェクトに経理財務はどう関わるべきか|丸投げで失敗しない)。

まとめ
経理のUATが機能しないのは、伝票入力のテストケースを消化する場になっているためである。ベンダーの単体テストは1件の伝票が仕様どおり転記されるかを見ており、そこを経理が重複してもほとんど価値がない。経理が稼働後に詰まるのは、伝票が積み上がった後に出る残高・繰越・期間・集計・突合の問題で、1件ずつのテストでは姿を現さない。したがって最初に決めるべきはケース数でなく何サイクル回すかであり、繰越を検証するには最低2か月分、可能なら四半期の締めを含めて回す。テストケースは決算成果物から逆算して作る。月次試算表、部門別P/L、連結パッケージ、開示注記のもとになるデータ、税務の申告調整、経営会議資料を先に並べ、必要な項目から逆に伝票の属性を辿る。逆算を省くと、伝票は通るのに部門別や取引先別に分解できないという事故が起き、分析軸は後から遡って付けられない。税務も同様で、申告調整に必要な情報が落ちていなければ毎期の手作業として固定する。粒度は発生頻度と後戻りコストの2軸で配分し、日常伝票は型の確認にとどめ、月次締め・自動仕訳・入金消込・サブシステム連携は実データ量で複数サイクル、期末と年次と例外処理は意図的にシナリオを作って必ず通す。年に一度の処理はUAT期間中に自然発生しないため、飛ばせば本番の期末に初見で当たることになる。テストデータはきれいに作らない。マスタ不備、二重登録、桁違い、部分入金、マイナス伝票、締め後に届く請求書を混ぜ、件数も本番相当に寄せる。最も確実なのは過去の実データを移行して回し、当時の決算数値と突き合わせる方法で、移行データの品質検証も同時に済む。時間軸の操作も必ずテストする。期間クローズ後の起票、再オープンの権限と記録、月跨ぎ検収、前月訂正が部門別P/Lに及ぼす影響、年度繰越後の前年度修正。2023年4月改訂の財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準は2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されており、基幹システムの入替えはIT統制の論点になる。UATの記録はその証跡そのもので、誰が何をテストし誰が承認したかが残っていない受入れは後から説明できない。合否は不具合ゼロでなく、残った不具合ごとに回避手順・担当・恒久対応の期日が決まっていることで判定する。この一覧は稼働後の運用に必ず引き継ぐ。渡らなければ、現場は自分でExcelを作って埋め、そこから二重管理が始まる。

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