SAPに関わる仕事には、はっきりした分岐点がある。「コンサルとして外に出て稼ぐ」一本道に見えて、実は居場所は三つある。ユーザー企業の運用・保守、社内でプロジェクトを回す推進役(PMO=計画通りにプロジェクトを前に進める司令塔)、そして外部コンサル。求められる力も、稼ぎ方も、そして「賞味期限」もまるで違う。
POINT
SAP人材の居場所は三つ。求められる力も稼ぎも賞味期限も別物で、それぞれに違う時計が回っている。いま一番高く売れる場所と、波が引いた後も価値が残る場所は、同じではない。
しかもいま、地図そのものが書き換わろうとしている。現行のSAP ERP(ECC)の標準保守は2027年末で終わる。そこへ向けてS/4HANA(次世代の基盤)への移行案件が一気に積み上がり、終わればその山は崩れていく。波が来ているうちに自分をどこに置くか。それで5年後の手取りと選択肢が決まる。本稿は、その三つの居場所を「力・稼ぎ・賞味期限」で並べて比べ、波が引いた後どこへ動くかまで描く。
まず地図を正しく引く 三つの居場所#
同じ「SAP人材」でも、立っている場所で見える景色は正反対だ。月次決算を止めない側、プロジェクトを社内側で着地させる側、複数の会社を渡り歩いて設計する側——稼ぎも安定も賞味期限も、立つ場所で入れ替わる。
同じSAP人材でも、稼ぎ・安定・賞味期限は立つ場所で入れ替わる深く一社運用・保守
自社のSAPを動かし続ける側。月次決算を止めない、税制改正に追従、現場の不具合を捌く。年収は控えめだが雇用が安定し、常駐の負荷も小さい。システムが動く限り面倒を見る人は要る。
人を動かす社内推進(PMO)
移行や改修を社内側の責任者として回す立場。ベンダー折衝、現場の巻き込み、スコープと予算の番人。設定を叩くより「決められること・止められること」の判断力。2027年へ各社が最も欲しがる。
広く多数外部コンサル
複数の会社を渡り歩いて導入・移行を設計。FI(財務会計)やCO(管理会計)の得意領域を持ち、案件ごとに最適な型を当てる。報酬は三つで最も高い。ただし「移行の波がある今」の値段だ。
報酬の高さと賞味期限の長さは必ずしも一致しない。「今高い」と「先も残る」は別の軸だ。
求められる力が、根っこから違う#
ここを混同すると、転職して「思っていた仕事と違う」になる。鍛えている筋肉が、そもそも別物なのだ。
三つの居場所は、鍛える筋肉そのものが違う深さは一社限定、広さは波に連動、運び方だけが業種を超えて持ち運べる。
賞味期限を直視する 2027年の波と、その後#
ここが本稿で一番伝えたい点だ。SAP人材の「価値の時計」は、立つ場所によって進み方が違う。まず、保守期限という事実から押さえる。
2027年問題の事実関係
2027/12
ECC標準保守 終了
現行SAP ERPの標準保守がここで終わる
+2%
延長保守の割増
追加料金で2030/12まで延長可
2031–33
私的版移行オプション
一部大規模顧客にRISE切替を条件に用意
つまり「2027年で全部終わり」ではない。ただし延長は割増を払い続ける時間稼ぎであって、移行の宿題が消えるわけではない(SAPサポート方針、Rimini Street解説)。
そして「2027年問題」の本当の難所は、保守期限そのものより移行を担うSAP人材の枯渇にあると指摘されている。提案を出しても担い手が足りずプロジェクトが組めない、という事態が現実に起きている(ITmedia、フリーコンサルタント.jp)。だからいまは外部コンサルの最盛期だ。移行という非連続な大仕事が各社で同時多発し、設計できる人の単価が跳ねている。
問題はその先だ。波が来ている「いま」と、波が引いた「その後」では、価値の比重がはっきり入れ替わる。
波が来ている今と、引いた後で、価値の比重が入れ替わるBEFORE波の最盛期(2027年前後)
移行という非連続な大仕事が各社で同時多発。設計できる外部コンサルの単価が跳ねる。価値の主役は「導入を設計する人」。
→
AFTER波が引いた後
新規構築の案件は細っていくと見られる。一方、移行を終えた会社には運用・保守を担う人が引き続き要る。価値の主役は「動かし続け、改善し続ける人」へ移る。
比重は『導入を設計する人』から『動かし続け、改善し続ける人』へ移る。
賞味期限を一行でまとめるとこうだ。**外部コンサルの「移行設計」スキルは2027年前後がピークで、その後はゆるやかに陳腐化リスクを抱える。ユーザー企業の運用・保守とPMOは、波が引いた後にこそ相対的な価値が上がる。**今が一番高く売れる場所と、これから価値が上がる場所は、同じではない(クラウドERP実践ポータル)。
波が引いた後、どこへ動くか#
では具体的に、どの一手が賢いのか。立ち位置別に、波があるうちに仕込んでおく動きを描く。
波があるうちに、波が引いた後も残る軸へ半歩動かすSTEP 1
運用・保守の人
移行プロジェクトの渦中で「社内PMO」へ半歩出る。自社の文脈という最強の武器を持ったまま、人を動かす力を上乗せ。深さに持ち運べる広さが足され、最も陳腐化しにくい中核になる。
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STEP 2
外部コンサルの人
移行ラッシュの今のうちに移行後を見据えた領域へ軸足を移す。運用設計・内製化支援(ユーザー企業が自走できる仕組みと人を育てる)や、FI/COを核にした経営管理の高度化へ。
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STEP 3
分岐前の若手
最初の数年で「広さ」をコンサルで一気に仕込む。一社では絶対に貯まらない型の引き出しが短期で手に入る。ただしどこかで深さかPMOの力を軸に据え直す日が来る、と最初から意識する。
土台共通の読み筋=内製化の流れは止まらない。「移行して終わり」ではなく「移行後にどう経営に効かせるか」を語れる人の価値は、波が引いても落ちにくい。
今いる場所の武器を捨てず、波が引いた後も価値が残る軸へ半歩動かす。
内製化の流れは止まらず、「移行して終わり」ではなく「移行後にどう経営に効かせるか」を語れる人の価値は、波が引いても落ちにくい(フリーコンサルが読むメディア)。
結局のところ、SAP人材のキャリアは「コンサルが上がりで、ユーザー企業は下り」ではない。求められる力が違う三つの居場所があり、それぞれに別の時計が回っているだけだ。
まとめ
SAP人材の居場所は三つ。運用・保守=深さ(一社を深く・賞味期限長)、PMO=運び方(人を動かす・持ち運べる)、外部コンサル=広さ(多数を広く・今が最盛期)。鍛える筋肉が違う。2027年のECC保守終了で移行の波が来ており、いまは外部コンサルの単価がピーク。だが波が引けば価値の主役は「設計する人」から「動かし続ける人」へ移る。だからこそ、いま一番高く売れる場所に居続けることと、波が引いた後も価値が残る場所(PMO・運用設計・内製化支援)へ半歩動いておくこと——その両方を、波があるうちに設計しておく。それがこの地図の、いちばん大事な読み方だ。
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