4月の経営会議で、事業部長が3月の損益の資料を指して言った。「3月の数字は毎年こうなる。見ても仕方がない」。 その会社の営業利益は、4月から2月までは月に8億円前後で動いている。3月だけが2.1億円だった。売上は落ちていない。3月の伝票には、月の取引のほかに、年度に一度の決算整理と、監査法人の指摘を受けた修正が入っていた。 経理部長は、SAPに特別会計期間という機能があることは知っていた。導入のときに会計年度の設定で四つ用意したとも聞いている。ただ、稼働してから6年、そこに伝票が入ったことは一度もなかった。
最終月の実績には、月の取引と年度の修正が混ざっている
冒頭の会社の3月を分けると、こうなる。月の取引だけで見た営業利益は8.6億円で、ほかの月より少し良い。そこから、年度に一度の決算整理で4.9億円、監査法人の指摘による修正で1.6億円が引かれ、2.1億円になっていた。
決算整理の4.9億円の中身は四つある。賞与引当金を支給見込みに合わせた差額が1.2億円、棚卸資産の評価損が1.8億円、原価差異の期末の調整が1.1億円、固定資産の除却の計上漏れが0.8億円である。どれも3月に起きたことではない。 評価損の対象になった在庫は秋から動いておらず、賞与の見込みは12月の支給実績で変わっていた。一年かけて溜まったずれを、3月の1か月が引き受けている。
困るのは事業部である。部門別の損益で3月だけが大きく沈むと、月次の比較も前年同月比も読めなくなる。翌年の予算を月に配るときも、3月の実績は季節性の参考にならない(年間予算を12で割ると月次の差異分析が機能しない理由と、季節指数での月次配分)。事業部長の「見ても仕方がない」は、数字の読み方として正しい。
経理の側にも不都合がある。監査修正が3月に入ると、3月の月次として一度報告した数字が、5月になって動く。どこまでが月次で締めた数字で、どこからが年度の手続で足した数字なのかを、後から伝票を拾って説明することになる。
通常の月次は第12期で締め、年度だけの修正は特別期間に分ける
解決の形は単純である。3月の月次は、ほかの月と同じ手順で、同じ日数で締める。 そのあとに入る年度の仕訳は、第13期以降に起票する。
四つの期間の使い分けは、会社が決めてよい。SAPが用途を固定しているわけではない。筆者が勧めるのは、手続の段階で分ける置き方である。第13期は会社が自分で起こす年度の決算整理、第14期は監査法人の指摘による修正、第15期は開示のための組替えに使い、第16期は空けておく。 こうしておくと、監査修正の合計は第14期の残高を見れば出る。未修正の差異の一覧と突き合わせる作業も、期間で絞るだけで済む。
期間の開閉も、この区切りに合わせる。転記期間の設定(OB52、S/4HANAではManage Posting Periodsのアプリでも同じテーブルを更新できる)では、開ける期間の範囲を複数持てる。3月の月次を締めたら第12期を閉じ、第13期以降だけを開ける。 一つ目の範囲には権限グループを付けられるので、特別期間に起票できる人を決算の担当者に絞ることもできる。締めた月を動かさないという統制は、ふだんの月次と同じ考え方である(SAPの会計期間クローズ(OB52)で締め後の修正を統制する運用の作り方)。
一つだけ、先に知っておくべき制約がある。特別期間は年度末にしか使えない。 転記日付が最終の通常期間に入っていることが条件なので、第1四半期から第3四半期の決算では、四半期だけの整理仕訳を同じ方法では分けられない。四半期では、決算整理用の伝票タイプを分けて起票し、レポートで伝票タイプを除いて月次を読む、という別の手当てが要る。
どの仕訳をどちらに入れるかは、期末の前に文書で決める
特別期間を使い始めた会社で最初に起きる問題は、線引きの揺れである。期末の忙しい時期に、担当者ごとの判断で第12期と第13期に振り分けると、毎年違う仕訳が特別期間に入る。前年と比べられない特別期間は、比べられない3月と同じである。
線引きの基準は一つでよい。その仕訳は、月次の締めでも毎月やっている処理か、年度に一度しかやらない処理か。
毎月やっている処理は、3月分も第12期に入れる。月次の減価償却、経過勘定の計上、賞与引当金の月割りの繰入、月次の原価差異の計算がこれに当たる。3月だからといって特別期間に回すと、今度は3月の費用が軽くなり、別の方向に歪む。
年度に一度しかやらない処理は、第13期に入れる。賞与引当金を支給見込みに合わせる差額、棚卸資産の評価の年次の見直し、原価差異の期末の配賦、退職給付の年次の計算、法人税等と税効果である(決算整理仕訳の全体像と、見落としやすい決算特有の仕訳のチェックリスト)。原価差異を売上原価と在庫にどう分けるかは工場の成績を左右するので、期間とあわせて配賦の方法も同じ文書に書く(原価差異の期末処理、売上原価への賦課と在庫への配賦で工場の成績はどう変わるか)。
この振り分けを、仕訳の種類ごとの一覧表にして、2月のうちに経理部長が承認しておく。一覧表には、仕訳の種類、入れる期間、起票の担当、利益センタの付け方の四つを書く。
四つ目の利益センタには、特に注意がいる。特別期間の仕訳を本社の共通の利益センタにまとめて付けると、事業部の年度の損益から決算整理が消える。特別期間は月次の比較から外すための箱であって、事業部の責任から外すための箱ではない。 評価損は在庫を持つ事業部に、賞与の差額は人のいる部門に付ける。事業部の年度の評価は第1期から第16期の合計で行い、月次の推移は第1期から第12期で見る。この二つの読み方を、事業部にも先に伝えておく(SAPの利益センタ会計で部門別の儲けを損益責任の単位で見る設計と判断基準)。
レポートの期間指定が12のままだと、決算と合わない数字が出回る
特別期間を使うと、同じ年度に二つの合計ができる。第12期までの合計と、第16期までの合計である。どのレポートがどちらを出しているかを決めておかないと、決算と合わない年度累計が社内に出回る。
SAPの財務諸表のレポートは、報告期間を画面で指定する。終わりの期間を12にすれば特別期間は含まれず、16にすれば含まれる。初期値や保存した実行条件が12のままになっていると、年度の数字のつもりで出した表から、特別期間の仕訳が丸ごと抜ける。冒頭の会社なら、6.5億円が抜けた営業利益になる。
外の仕組みに渡すデータにも、同じ問題がある。経営管理のツールや連結のシステムが12の期間しか持たない場合、特別期間のデータは落ちるか、連携の途中で最終月に足される。足されるなら、SAPの中で分けた意味が、会議の資料の上では消える。連携の仕様で、特別期間をどう受けるかを確かめる。 受け側に13番目の期間を作るか、月次の資料は第12期まで、年度の資料は第16期までと取り込みを分ける。
監査法人に渡す試算表も、どの期間までを含むかを表題に書く。期末の残高の確認は第16期までの数字で行い、月次の推移分析は第12期までの数字で行う、と先に伝えておけば、資料の出し直しが減る(監査法人の資料依頼(PBCリスト)の管理方法、期末に締めと監査を衝突させない分担)。
特別期間に残った金額は、月次の見積りの粗さを映す
特別期間を使うと、もう一つ見えるものがある。第13期の残高は、月次の決算が一年のあいだ見積り切れなかった金額の合計である。
冒頭の会社の4.9億円のうち、賞与引当金の1.2億円は、12月の支給実績が出た時点で月割りの額を直していれば、1月から3月の月次に分かれて入っていた。棚卸資産の評価損の1.8億円も、滞留の判定を四半期ごとにしていれば、秋の時点で一部が出ていた。年度末にしか分からないものは、実は多くない。
そこで、第13期の残高を仕訳の種類ごとに並べ、翌年の月次に戻せるものを選ぶ。月次で見積れるものは月次の手順に組み込み、特別期間に入る金額を毎年減らしていく。 月次をどこまで正確にするかの線引きは、この残高を見て決めるのがいちばん早い(月次決算はどこまで正確にすべきか、概算でよい項目と実額に寄せる項目)。
第14期の残高も同じように使える。監査修正が毎年同じ論点で入っているなら、それは期中に結論を出さないまま持ち越している論点である(監査法人の指摘が期末に集中する原因と、四半期ごとに論点を前倒しする方法)。
特別期間を、月次に入れたくない仕訳の置き場にしてはならない。置き場にすると、月次の利益は見かけだけ良くなり、年度末に第13期が膨らむ。事業部長の言葉が「3月は見ても仕方がない」から「月次は見ても仕方がない」に変わるだけである。
産業用部品のメーカー(売上高900億円、3月決算)。3月の営業利益だけがほかの月の3割前後に沈む年が、4年続いていた。 経理部長は、過去2年の3月の伝票を、月の取引、年度の決算整理、監査修正に分けた。年度の決算整理と監査修正は、2年とも合計で6億円を超えていた。会計年度の設定には特別期間が四つ用意されていたが、稼働の後は一度も開けていなかった。部長は2月に、仕訳の種類ごとに入れる期間を決めた一覧表を作り、第13期を決算整理、第14期を監査修正に割り当てた。 3月の月次は4月の第5営業日に締めて第12期を閉じ、特別期間だけを決算の担当者6人に開けた。利益センタは、評価損と賞与の差額を事業部に付けた。その年、第12期までで見た3月の営業利益は8.6億円で、事業部は初めて3月を前年同月と比べた。困ったのは経営管理のツールで、連携が12の期間しか受けず、年度の資料に特別期間の数字が載らなかった。連携を直して年度用の取り込みを分けるまで、年度の資料は経理が手で補った。 翌年は、賞与引当金の見直しを12月に、在庫の滞留の判定を四半期ごとに移した。第13期の残高は4.9億円から2.2億円に減った。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、3月の月次をほかの月と同じ手順で締め、第12期を閉じる。 年度に一度の決算整理は第13期、監査修正は第14期に入れる。四半期の決算には特別期間が使えないので、伝票タイプで分ける。
第二に、どの仕訳をどの期間に入れるかを、仕訳の種類ごとの一覧表にして期末の前に承認する。 毎月やっている処理は第12期に残す。特別期間の仕訳にも事業部の利益センタを付け、年度の評価は第16期までの合計で行う。
第三に、レポートと連携の期間指定を、月次は第12期まで、年度は第16期までにそろえる。 第13期に残った金額は種類ごとに並べ、月次で見積れるものを翌年の月次に戻す。
期末月の損益だけが振れるのは、月の取引と、年度に一度の決算整理と、監査修正が同じ期間に入っているからである。SAPの特別会計期間を使えば、転記日付は期末月のまま、年度の仕訳だけを第13期以降に分けられる。
分けた後に要るのは、仕訳の振り分けの文書と、レポートの期間指定の統一である。特別期間に残った金額は月次の見積りの粗さを映すので、翌年の月次に戻せるものから戻していく。



