監査法人の往査で、毎年同じ質問が出る。「GR/IR勘定(入庫請求書勘定)の残高3.8億円のうち、1年を超えて動いていない明細の内訳をいただけますか」。 経理課長は、前期も同じ資料を作った。明細を出力し、金額の大きい順に並べ、購買部に照会し、返ってきたのは「担当者が代わって分からない」が大半だった。期末が近づくと、課長は古い明細をまとめて雑収入と雑損失に振り替える。 残高は見た目が整い、監査法人の質問も一巡する。そして翌期、同じ勘定に同じくらいの残高が積み上がる。 問題は、この勘定の残高が減らないことではない。この勘定が、購買の運用のどこが壊れているかを毎日記録し続けているのに、誰もその記録を読んでいないことである。
残高は、購買の運用の写しである
SAPでは、発注に対して入庫を計上すると、在庫や費用の相手勘定として入庫請求書勘定(GR/IR)に貸方が立つ。請求書照合で同じ発注・同じ数量・同じ単価の請求書を計上すると、借方が立って相殺され、残高はゼロになる。 残高が残るということは、入庫と請求書のどちらかが足りないか、金額が違うということである。この勘定は、購買の運用のずれを自動で記録する装置として働いている。
だから、滞留している明細を眺めて「経理で処理しよう」と考えるのは、順番が逆である。残高は結果であって原因ではない。 原因は、発注書の単価が更新されていない、分納の端数が発注数量と合わない、入庫の取消を入れずに再入庫している、検収したのに購買が発注を締めていない、といった購買側の運用にある(SAPの自動仕訳(勘定決定)を経理が説明できない原因と、読めるようにする方法)。
滞留を四つの類型に仕分ける
解消に入る前に、明細を類型で分ける。金額順に並べて上から照会する方法は、毎年同じ苦労を生む。 類型で分ければ、返す先と打ち手が一つに絞れる。
第一が、未請求である。 入庫は計上済みだが、請求書が届いていない、または届いているが照合されていない。取引先の締め・請求のサイクルが自社の締めより遅いだけの正常な滞留と、請求書が社内のどこかで止まっている異常な滞留が混ざる。 後者は請求書の受領から照合までの経路の問題であり、購買の問題ではない(請求書OCRの自動化が三面照合の例外処理で止まる理由とERP側に寄せる設計)。
第二が、数量差である。 分納の最終便で端数が出た、入庫数量を誤って多く計上した、返品を入庫の取消ではなく別伝票で処理した。SAPの用語では、入庫が請求書を上回る状態(納入超過)と、請求書が入庫を上回る状態(請求超過)に分かれ、それぞれ解消したときの在庫評価への影響が逆になる。
第三が、単価差である。 発注単価が改定前のまま残っていて、請求は新単価で来ている。単価差は金額が小さく見えるため放置されやすいが、同じ品目で毎月発生するので、件数だけが増えていく。
第四が、誤入庫と発注の締め漏れである。 案件が中止になったのに発注が生きている、二重に入庫を計上した、試作品を発注扱いで入れてしまった。この類型は、金額が大きく、古く、そして解消に購買部門長の判断が要る。
期末の振替が、翌期また溜まる仕組みを作っている
SAPには、入庫と請求書の差を解消するための標準機能がある。発注ごとに納入超過・請求超過を一覧して消し込むMR11(入庫/請求書勘定の残高調整)や、勘定の残高を発注単位で分析する照会機能である。 機能自体は正しい。問題は使い方である。
期末に経理がMR11で一括して消すと、二つのものが同時に消える。 一つは残高であり、もう一つは、その残高が記録していた購買の運用の不具合である。翌期、同じ取引先の同じ品目で同じ単価差が出ても、前期に消したという記録しか残らない。 経理は毎年同じ資料を作り、購買は毎年同じことを繰り返す。
だから、振替そのものを禁じる必要はないが、振替には三つの条件を付ける。 第一に、責任者が調査したうえで解消不能と判断した明細に限ること。第二に、類型と理由を必ず入力すること。 第三に、一定金額を超える振替は購買部門長の承認を要件にすること。三つ目が効く。 自部門の運用の不具合を自分の承認印で消すことになるので、翌期の是正が自分の課題になる(SAPの手入力仕訳は件数でなく、アップロードと直接起票の経路を絞って統制する)。
| 類型 | 典型的な原因 | 返す先 | 解消期限の目安 | 振替してよいか |
|---|---|---|---|---|
| 未請求(正常) | 取引先の請求サイクルが自社の締めより遅い | 経理(貸借対照表上の表示の組替と、翌月の請求書照合) | 翌月 | 不要。入庫の時点でGR/IRに計上済みのため、追加の見越しはしない |
| 未請求(異常) | 請求書が現場で止まっている、発注番号が請求書に書かれていない | 購買のバイヤーと受付経路の管理者 | 30日 | 原則不可。督促と経路の是正が先 |
| 数量差 | 分納の端数、入庫の二重計上、返品を取消で処理していない | 購買と検収(受入) | 60日 | 調査後に限り可。数量の確定が前提 |
| 単価差 | 発注単価が改定前のまま、値引き・リベートを単価に織り込んでいない | 購買のバイヤーとマスタの管理者 | 60日 | 少額かつ再発防止を入れた場合に限り可 |
| 誤入庫・発注の締め漏れ | 案件中止後も発注が生きている、試作を発注扱いで入庫 | 購買部門長 | 90日 | 承認を取れば可。ただし理由の集計対象 |
単価差の行にマスタの管理者が入るのが要点である。 単価差は一件ずつ潰しても、購買情報マスタや契約の単価が直っていなければ翌月また出る(SAPのマスタデータが稼働後に劣化する原因と、登録権限と責任部門の決め方)。
未請求の滞留は、会計の外側にも出口がある
未請求の類型を、経理の見越しの問題としてだけ扱うと、二つの論点を落とす。
一つ目が、仕入税額控除の時期である。 消費税法第30条第1項第1号により、課税仕入れを行った日は入庫の日であり、控除はその日の属する課税期間で行う。ところが同条第7項により、帳簿及び請求書等を保存しない場合には第1項は適用されない。 ここで、期末に請求書が手元にないと当期の控除は取れない、と早合点する会社がある。条文が求めているのは保存であって、課税期間の末日時点での入手ではない。 消費税法施行令第50条第1項は、請求書等について、その受領した日(電磁的記録にあってはその提供を受けた日)の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、納税地等に保存しなければならないとしており、受領の期限を課税期間の末日に置いていない。
したがって判断の分岐は、申告期限までに適格請求書を入手して保存できるかどうかである。 3月決算で3月末に入庫し、適格請求書が5月に届く明細は、申告期限までに入手して保存できれば当期の控除に乗る。届くのが翌期の後半になることが確実な明細は、そこから外れる。 だから決算の工程では、未請求の滞留を「申告期限までに届く見込み」と「翌期に届くことが確実」の二つに分け、それぞれの件数と金額を出す。分けずに一括して「請求書が未達」とだけ把握している会社は、どちらの扱いにするかを申告の直前に決めることになる。 なお同条第7項のただし書は、災害その他やむを得ない事情により保存をすることができなかったことを事業者において証明した場合を除くとしているが、取引先から請求書がまだ届いていないという事情は、それ自体ではこのただし書を根拠にできない。
二つ目が、支払の期限である。 2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法のもとで、公正取引委員会のリーフレットは、委託事業者の義務として、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることを挙げ、支払遅延を禁止項目としている。入庫は済んでいるのに請求書が来ないから払っていない、という状態は、支払期日が受領日からの起算で定められているなら、遅延になりうる。 ただしこの義務が及ぶのは、製造委託、修理委託、特定運送委託、情報成果物作成委託、役務提供委託という取引の内容に該当し、かつ委託事業者と中小受託事業者が資本金基準または従業員基準のいずれかに当たる場合に限られる。まず、滞留している明細のうち、この対象に当たる取引先と取引の内容を切り出す。 対象に当たる明細だけを、受領日からの経過日数で並べ替える(支払条件の見直し、手形廃止と支払サイト短縮を運転資本で吸収する方法)。
ここで、締めの未払計上との関係を一度整理しておく。GR/IRに貸方残高が立っている明細は、入庫を計上した時点で相手勘定が在庫または費用に落ちている。つまり、もう計上されている。 この上に未払費用を立てれば二重計上になるので、正常な未請求に要るのは追加の見越しではなく、貸借対照表上の表示を買掛金・未払金へ組み替えることと、翌月に請求書を照合することだけである。 締めのたびに機械的に見越す工程が必要なのは、入庫の計上がされない役務の提供のように、そもそもGR/IRに乗らない未計上分のほうである(決算のカットオフ(期ズレ)が毎月出る原因、入荷データと請求書のずれ)。どちらの工程がどの取引を拾うかを先に分けておかないと、同じ取引に二重で手が入る。
売上高1,400億円の電子部品メーカー(3月決算、国内工場4拠点)。SAPの入庫請求書勘定の期末残高は3.8億円、未消込の明細は4,600行あり、うち計上から1年を超えるものが1,900行・2.4億円、3年を超えるものが610行・0.9億円だった。 毎期、経理が金額の大きい順に購買部へ照会し、回答が得られない分を期末に振り替えていた。新任の経理部長は、照会の順番を金額順から経過月数順に変え、さらに全明細を四つの類型に仕分けさせた。 仕分けの結果は、未請求が2,100行・1.55億円、数量差が1,480行・0.72億円、単価差が620行・0.31億円、誤入庫と発注の締め漏れが400行・1.22億円だった。行数では未請求が最も多く、金額では未請求と誤入庫の二つで全体の7割を占めた。 誤入庫の400行のうち、金額の大きい上位30行はすべて2年前に中止した開発案件の発注で、発注の締め処理がされないまま入庫だけが残っていた。単価差の620行は、3つの品目群に集中しており、いずれも購買情報マスタの単価が前回改定のままだった。 打ち手は三つに絞った。第一に、類型ごとに返す先を一つに決め、未請求(異常)は30日、数量差と単価差は60日、誤入庫と発注の締め漏れは90日の解消期限を置いた。第二に、振替の起票を、責任者の調査後かつ類型と理由の入力を必須とし、1件50万円超は購買部門長の承認を要件にした。 第三に、単価差については一件ずつの解消と並行して、購買情報マスタの単価を契約の改定と同時に更新する手順を作り、更新漏れを月次で検知する照会を設定した。あわせて、未請求2,100行のうち、製造委託に当たり相手方が資本金基準または従業員基準に該当する取引先の明細を切り出したところ、380行・0.21億円があり、そのうち受領日から60日を超えていたものが96行あった。 この96行は、請求書の到達を待たずに支払期日を確定させる運用へ切り替え、発注書に記載する支払期日の起算日を受領日に統一した。1年後、入庫請求書勘定の期末残高は1.1億円、3年超の明細はゼロになった。 振替の総額は前期の0.7億円から0.3億円に減り、振替の理由の集計では単価差が全体の6割を占めた。経理部長は、翌期の是正の対象を単価差一本に絞っている。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
GR/IR残高を減らすために決める三つのこと
第一に、明細を金額順ではなく経過月数順に並べ、四つの類型に仕分ける。 未請求、数量差、単価差、誤入庫と発注の締め漏れ。仕分けの基準は、入庫と請求書のどちらが欠けているか、数量が違うか、単価が違うかの三つで足りる。 類型が分かれば、返す先が購買のバイヤーなのか、検収なのか、マスタの管理者なのか、購買部門長なのかが一意に決まる。経理が持つのは期限の管理であって、原因の調査ではない。
第二に、振替を最後の手段に限り、三つの条件を付ける。 責任者が調査のうえ解消不能と判断したものに限ること、類型と理由の入力を必須とすること、一定金額を超える振替は購買部門長の承認を要件とすること。MR11のような標準機能で期末に一括して消すと、残高と一緒に、その残高が記録していた購買の運用の不具合まで消える。 振替の理由を類型別に集計し、翌期の是正の対象を一つに絞る。
第三に、未請求の滞留を、会計の外側の二つの期限と突き合わせる。 消費税法第30条第1項第1号により課税仕入れの日は入庫の日だが、同条第7項により帳簿及び請求書等を保存しない場合は控除が適用されない(災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを証明した場合を除く)。条文が求めているのは保存であり、課税期間の末日時点での入手ではない。 消費税法施行令第50条第1項は、請求書等の保存期間を、その受領した日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間としており、受領の期限を課税期間の末日に置いていない。だから分岐は、申告期限までに適格請求書を入手して保存できるかどうかである。未請求の明細を「申告期限までに届く見込み」と「翌期に届くことが確実」に分け、それぞれの件数と金額を出す。 また、2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法のもとで、公正取引委員会のリーフレットは、検査の有無を問わず受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める義務と、支払遅延の禁止、遅延利息年率14.6%を挙げている。ただしこの義務が及ぶのは、製造委託等の対象取引で、委託事業者と中小受託事業者が資本金基準または従業員基準のいずれかに該当する場合に限られる。 滞留明細のうち対象に当たるものを切り出し、受領日からの経過日数で管理する。



