経営会議で在庫を一割落とせという指示が出る。三か月後、在庫は九パーセント減っている。目標は達成された。同じ四半期に、航空便への切替えが増え、代替品の緊急手配が増え、製造現場の段取り替え回数が増えている。粗利率は0.4ポイント下がった。誰もこの二つを結びつけない。在庫の減少は台帳に一行で出るが、欠品の代償は物流費と製造原価と失注の三か所に散らばって出るからである。

POINT
会計の計器は、在庫の持ちすぎだけを映すようにできている。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項は、通常の販売目的で保有する棚卸資産について、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には当該正味売却価額を貸借対照表価額とし、差額は当期の費用として処理すると定める。第9項は、営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について合理的に算定された価額によることが困難な場合には、処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)まで切り下げる方法、又は一定の回転期間を超える場合に規則的に帳簿価額を切り下げる方法によるとする。第17項は簿価切下額を売上原価とし、製造に関連して不可避的に発生すると認められるときは製造原価、臨時の事象に起因しかつ多額であるときは特別損失に計上するとし、第18項は注記又は売上原価等の内訳項目としての独立掲記を求める。持ちすぎは、切り下げられ、原価に入り、注記に出る。経路が四つある。 対して欠品は、会計上の事象ですらない。売れなかった売上は計上されず、特急輸送費は物流費に紛れ、ライン停止は操業度の差異に溶ける。片側だけを映す計器で、両側のバランスを取ろうとしている。 これが在庫の議論が毎回噛み合わない構造的な理由である。

総額で降ろすと、削ってはいけない側から減る

在庫削減の指示は、ほとんどの場合「金額」で降りる。総額十億円を九億円に、あるいは在庫月数を1.8か月から1.6か月に。この降ろし方をすると、現場は必ず削りやすいところから削る。

削りやすいのは、発注を止めても誰にも怒られない品目である。単価が低く、発注ロットが小さく、担当者の裁量で調整できるもの。ところがこの層は、需要のばらつきが大きく、切らすと即座に業務が止まる部類でもある。補修部品、副資材、汎用の消耗部材。一個あたりの在庫金額は小さいが、一個足りないときの損害は大きい。 ここを削っても総額はほとんど動かないので、翌月にもう一段削られる。

逆に、総額に効くのは単価の高い主力部材だが、こちらは発注が長期契約や内示で縛られており、担当者の一存では動かせない。会議で議題にすると購買と生産管理と営業が出てくるので、話が重い。結果として、金額の大きい層は動かず、金額の小さい層だけが痩せる。 総額目標は、意図と逆の並べ替えを現場に起こさせる。

これを止める方法は一つしかない。削減目標を総額でなく、層ごとに出すことである。 そのためには、まず品目を層別する軸を決める。

欠品の金額を、四つに分けて置く

層別の前に、欠品コストを数字にしておく。ここを置かずに始めると、議論は「切らすと困る」という主観に戻る。金額に落とせるのは四つある。

第一に、失注。注文が他社に流れた分。受注生産なら見積の失注記録から、見込生産なら販売機会の逸失として、限界利益で置く。売上高で置くと過大になるので、限界利益で置くのが実務的な落としどころである(貢献利益と限界利益で考える採算管理:固定費の壁をどう越えるか)。

第二に、特急対応の追加費用。航空便への切替え、小ロット手配による単価上昇、緊急の外注。ここは伝票が残っているので、拾おうと決めれば拾える。多くの会社で拾われていないのは、勘定科目が通常の物流費や外注費と同じだからである。特急対応にだけコード体系上のフラグを立てるところから始める。

第三に、代替調達の価格差。指定品が切れて、上位品や他社品を使う場合の差額。品質保証の再確認が要るなら、その工数も入る。

第四に、ライン停止と段取り替え。停止時間×時間あたりの固定費、および計画外の段取り替えによる能力損失。制約工程で起きた場合は、失われたのは時間ではなく生産能力そのものなので、影響が桁で変わる(限界利益率の高い順に売ると利益が落ちる場面|制約工程あたりの採算で受注を選ぶ)。

四つを足して、直近一年で何円だったかを出す。この数字が経営会議に一度出るだけで、在庫の議論の温度が変わる。 削減目標と並べて置けば、どちらが大きいかは全員が見て判断できる。

在庫金額と需要のばらつきで四つに分ける。層が違えば、守り方も削り方も違う。
在庫金額(単価×使用量)大 →
削る本丸
金額が大きく、読める。安全在庫は薄くてよい。発注ロットとリードタイム短縮で回転を上げる。総額への効きが最も大きい層
在庫では守らない
金額が大きく、読めない。積むと最も高くつく。分納・内示の精度・複社購買・後工程引取りで、在庫でなく調達の柔軟性で守る
発注点で放置
金額も小さく読める。人が毎月見直す価値がない。発注点方式で自動化し、管理工数を他へ回す
むしろ厚くする
金額が小さく、読めない。切らすと業務が止まるのに、積んでも総額はほとんど動かない。ここを削るのは経済合理性に反する
需要のばらつき(変動係数)大 →
削減が右下から始まっているうちは、在庫は減っても利益は増えない。

許容欠品率は、全社一律の数字ではない

安全在庫の水準は、需要のばらつきと調達リードタイムから機械的に決まる部分と、経営が決める部分に分かれる。決まる部分は、需要の標準偏差にリードタイムの平方根と安全係数を掛ける形で計算される。経営が決めるのは、この安全係数だけである。 そして安全係数は、許容する欠品率をどこに置くかで決まる。

置き方は、限界分析で出る。在庫を一単位余分に持つコストは、資本コストと保管費と陳腐化リスクの合計に単価を掛けたもの。一単位足りないコストは、先に置いた四つの欠品コストを一単位あたりに割り戻したもの。この二つの比が、許容欠品率の上限を決める。 足りないコストが余るコストより桁違いに大きければサービス率は高く置くべきで、逆なら低くてよい。

ここで効くのが層別である。前掲のマトリクスで言えば、左上の層は在庫金額が大きいので余るコストが重く、欠品コストは読めるので低めのサービス率で足りる。右下の層は在庫金額が小さいので余るコストが軽く、欠品の痛みは大きい。同じ会社の中で、サービス率が95%の層と99.5%の層が並存するのが正しい姿である。 全社一律で98%と決めている会社は、左上で在庫を持ちすぎ、右下で切らしている。両方で損をしている。

サービス率を上げると必要な安全在庫は直線では増えない。95%から99%へ上げるより、99%から99.9%へ上げるほうが、必要な在庫の増分は大きい。上位の数パーセントは高い。 だからこそ、どの層でそれを買うのかを金額で選ぶ意味がある。

在庫は結果である。上流の三つを先に触る

サービス率を下げずに在庫を減らす方法は、実は在庫の外にある。安全在庫の水準を決めているのは、需要のばらつきと調達リードタイムだからである。

第一に、リードタイム。安全在庫はリードタイムの平方根に比例して増える。調達期間を四週間から二週間に縮めれば、同じサービス率を保ったまま安全在庫は約三割減る。削減の指示を購買の発注量に出すより、リードタイムの短縮に出すほうが、痛みなしに減る量は大きい。 国内在庫を持つか海外から直送するかの判断も、輸送日数の差がそのまま安全在庫の差になる。

第二に、発注ロット。発注ロットは平均在庫のうち安全在庫でない部分、つまりサイクル在庫を決める。ロットを半分にすればサイクル在庫は半分になるが、発注回数と段取り替えが増える。ここは在庫金額と作業コストの直接的な取引である。 取引条件として値引きと引き換えに大ロットを飲んでいる品目は、値引額と在庫の増分を並べて計算し直す価値がある。

第三に、予測の粒度と頻度。月次で品目群単位に立てている予測を、週次で品目単位に落とすだけで、需要のばらつきの一部は予測誤差から外れる。予測の精度が上がった分だけ、同じサービス率に必要な安全在庫は減る。在庫削減の目標を購買部門に降ろしている会社は多いが、上流の三つのうち二つは購買の外にある。

管理指標を、総額から層別回転日数に置き換える

層別が決まったら、月次の管理指標も置き換える。総額と全社の在庫月数だけを見る運用をやめ、層ごとの回転日数とサービス率の実績を並べる。四つの層について、回転日数の目標と実績、欠品件数、欠品コストの実績を一枚に並べる。 これだけで、削減が意図した層で進んでいるかが分かる。

同時に、月次の在庫増減を「意図した増加」と「意図しない増加」に分ける。新製品の立ち上げ、需要増への備え、調達リードタイムの延伸への対応は前者。売れ残りと予測外れは後者である。前者を悪として扱うと、備えるべき局面で誰も在庫を積まなくなる(運転資本(CCC)の管理:キャッシュを生む在庫・売掛・買掛の回し方)。

滞留在庫は、安全在庫と同じ会議で扱わない

在庫の議論が紛糾するのは、性質の違う二つを一つの議題にしているからでもある。安全在庫は将来の需要への備えで、滞留在庫は過去の判断の残骸である。前者は水準を決める話、後者は損失を確定させる話で、決め方も決める人も違う。

滞留の側には、明確な処理の道筋がある。会計では、企業会計基準第9号第9項が処分見込価額までの切下げか、一定の回転期間を超える場合の規則的な切下げを認めている。第12項は収益性の低下の判断と簿価切下げを原則として個別品目ごとに行うとしつつ、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときは、継続適用を条件にその方法によることを認める。社内で層別を作ってあれば、この一括りの単位と会計上の判断単位を揃えられる。

税務は狭い。法人税法施行令第68条第1項第1号は、棚卸資産の評価損を計上できる事実を、災害により著しく損傷したこと(イ)、著しく陳腐化したこと(ロ)、これらに準ずる特別の事実(ハ)に限っている。法人税基本通達9-1-4は、ロの「著しく陳腐化したこと」を、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態と説明し、季節商品の売れ残りで今後通常の価額では販売できないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかである場合や、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品の発売により今後通常の方法により販売できなくなった場合を例示する。9-1-5は、ハに破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれるとする。

そして9-1-6が釘を刺す。時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、これらの事実に該当しない。 つまり「作りすぎて安くなった」は税務上の評価損にならない。会計上切り下げても税務では否認され、将来加算されるまで繰延税金資産として残る。過剰在庫は、キャッシュを寝かせたうえに、損失の実現まで遅らせる。 二重に高い(棚卸資産の評価損と滞留在庫|期末に事業部と揉めない引当ルールの決め方)。

なお判定の単位も定められている。法人税基本通達9-1-1(4)は、棚卸資産の評価損の是否認を計算する単位を、種類等の異なるものごと、かつ施行令第68条第1項に規定する事実の異なるものごととする。理由の異なる滞留を一括りにして処理すると、単位の切り方から崩れる。

製造中止品の補修部品には別の道具がある。法人税基本通達9-1-6の2は、法令の規定、行政官庁の指導、業界の申合せ等に基づき製品の製造を中止した後一定期間保有することが必要と認められる補修用の部品を相当数量一時に取得して保有する場合に、所定の算式による補修用部品在庫調整勘定への繰入れを認める。保有期間の年数は、法令又は行政官庁の指導によるものはその年数、業界の申合せその他の事由によるものはあらかじめ所轄税務署長の確認を受けた年数による。繰入額は翌事業年度の益金に算入され(9-1-6の3)、確定申告書への明細の添付が要る(9-1-6の4)。「持たされている在庫」と「読み違えた在庫」を、税務は最初から分けている。 社内の議論も同じところで分けたほうがよい。

現場では
売上高310億円の産業機器メーカーで、CFOが在庫の議題を財務側に引き取った。前年度は総額目標で臨み、在庫は11%減ったが、同じ期の航空便利用が前年の2.4倍になり、粗利率が0.5ポイント落ちていた。着手は欠品コストの集計からである。物流費の中に特急便のフラグを立て、購買に代替調達の価格差を伝票単位で拾わせ、生産管理から計画外の段取り替え回数を取り、営業から欠品を理由とする失注案件を限界利益で拾った。直近一年の合計は4億1千万円だった。同じ期の在庫削減額は6億8千万円、在庫の資本コストと保管費を合わせた年間の削減効果は約5千万円である。在庫を減らして得たものより、切らして失ったもののほうが八倍大きかった。 この一枚で議論は終わっている。次に品目を層別した。約12,000点を、年間使用金額と需要の変動係数で四象限に分ける。金額の大きい上位層は約900点で全在庫金額の68%を占めたが、前年度の削減の実績はここでわずか9%だった。逆に金額の小さい下位層は在庫金額の7%しかないのに、点数ベースの削減の大半がここで起きていた。削減は金額に効かないところで進み、欠品はそこで起きていた。 層ごとに許容欠品率を置き直した。金額が大きく需要が読める層は96%、金額が大きく読めない層は在庫でなく分納と内示精度で守る方針に切り替え、金額が小さく読める層は発注点方式で自動化、金額が小さく読めない層は99.5%に引き上げている。月次の管理指標は総額をやめ、層別の回転日数と欠品件数と欠品コストの四行に置き換えた。翌年度の在庫は、総額では前年比2%増で着地している。総額は増えたが、特急便は前年の三分の一に減り、粗利率は0.6ポイント戻った。 経営会議の議題名も変わった。「在庫削減」から「在庫の配置」になっている。

決めるのは三つ

第一に、欠品コストを四つに分けて金額で置く。 失注は限界利益で、特急対応は伝票にフラグを立てて、代替調達は価格差で、ライン停止は時間あたり固定費と制約工程への影響で。直近一年の実績を一度出す。この数字がないうちは、削減目標も適正在庫も根拠を持たない。

第二に、品目を在庫金額と需要のばらつきで層別し、層ごとに許容欠品率を決める。 全社一律のサービス率は、金額の大きい層で持ちすぎ、金額の小さい層で切らす。許容欠品率は、一単位余分に持つコストと一単位足りないコストの比から逆算する。層ごとに数字が違うのが正しい。

第三に、管理指標を総額から層別の回転日数に置き換える。 総額で降ろした目標は、削減を金額の小さい層に押し流す。層別の目標と、欠品件数・欠品コストの実績を同じ一枚に並べる。在庫の増加も、意図した増加と意図しない増加に分ける。

そのうえで、滞留在庫は別の会議で扱う。安全在庫は水準を決める話、滞留は損失を確定させる話である。過剰在庫は税務上も高くつく。 物価変動や過剰生産による値下がりは評価損として認められないので、キャッシュが寝るだけでなく、損失の実現まで遅れる。在庫は減らす対象ではなく、置き場所を決める対象である。

まとめ
在庫削減が利益を削るのは、会計の計器が持ちすぎだけを映すからである。企業会計基準第9号第7項は正味売却価額が取得原価を下回る場合の簿価切下げと差額の費用処理を、第9項は営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)までの切下げか一定の回転期間を超える場合の規則的な切下げを、第17項は簿価切下額の売上原価計上(製造に関連し不可避的に発生する場合は製造原価、臨時かつ多額であれば特別損失)を、第18項は注記又は独立掲記を定める。一方で欠品は会計事象ではなく、失注は計上されず、特急輸送費は物流費に紛れ、ライン停止は操業度差異に溶ける。だから欠品コストを自前で置く。失注は限界利益、特急対応は伝票へのフラグ、代替調達は価格差、ライン停止は時間あたり固定費と制約工程への影響。直近一年の合計を削減目標と並べる。削減目標を総額で降ろすと、現場は担当者の裁量で動かせる単価の低い品目から削るため、金額に効かず欠品だけが増える。品目は在庫金額と需要の変動係数で層別する。金額が大きく読める層は安全在庫を薄くして回転で締める本丸、金額が大きく読めない層は在庫でなく分納・内示精度・複社購買で守る、金額が小さく読める層は発注点方式で自動化、金額が小さく読めない層はむしろ厚くする。安全在庫の計算のうち経営が決めるのは安全係数だけで、それは許容欠品率で決まり、許容欠品率は一単位余分に持つコストと一単位足りないコストの比から逆算される。同じ会社の中でサービス率が層ごとに違うのが正しい。上位の数パーセントは必要在庫の増分が急に大きくなるので、どの層でそれを買うかを金額で選ぶ。管理指標は総額と全社在庫月数をやめ、層別の回転日数・欠品件数・欠品コストに置き換え、在庫の増加も意図した増加と意図しない増加に分ける。滞留在庫は安全在庫と別の会議で扱う。会計では第9号第12項が個別品目ごとの判断を原則としつつ継続適用を条件に一括りの単位を認めるため、社内の層別と判断単位を揃えられる。税務は狭く、法人税法施行令第68条第1項第1号は災害による著しい損傷(イ)、著しい陳腐化(ロ)、これらに準ずる特別の事実(ハ)に限る。法人税基本通達9-1-4はロを経済的環境の変化による価値の著しい減少で回復が見込まれない状態とし季節商品の売れ残りや新製品発売を例示、9-1-5はハに破損・型崩れ・たなざらし・品質変化を含め、9-1-6は物価変動・過剰生産・建値の変更等による時価の低下は該当しないとする。過剰在庫はキャッシュを寝かせたうえに損失の実現も遅らせる。評価損の判定単位は9-1-1(4)により種類等の異なるものごと、かつ施行令第68条第1項の事実の異なるものごと。製造中止品の補修部品については9-1-6の2が補修用部品在庫調整勘定への繰入れを認め、保有期間の年数は法令・行政指導によるものはその年数、業界の申合せ等によるものは所轄税務署長の確認を受けた年数とし、繰入額は翌事業年度に益金算入され明細の添付を要する。持たされている在庫と読み違えた在庫は、税務が最初から分けている。

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