収益認識基準の判定を経理の知識だけで解こうとすると、月末に同じ所で止まる。判定に使う事実は、契約書の条項と、営業が顧客と合意した内容の中にあり、経理の手元には無いからである。筆者は、適用後に残るつまずきの原因は、基準の解釈の難しさよりも、契約情報が経理に届く時期の遅さにあると見ている。月末に営業へ問い合わせる運用をやめ、受注の時点で確認票を通す仕組みに変える。
- 収益認識基準は、契約の識別から充足までの5つのステップで収益を認識する。
- 筆者は、つまずきの原因は判定の難しさよりも契約情報の遅れにあると見ている。5つのステップのうち前の4つは、契約の条項、営業が合意した内容、価格表など、経理の外にある情報に左右される。
- 受注時に経理が見る項目を決め、確認票にする。契約変更は、変更した本人が登録する手順にする。
収益認識基準の5つのステップ
収益認識基準は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の通称である。顧客との契約から生じる収益の会計処理と開示を定めており、適用指針第30号と合わせて使う。基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、それと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益を認識することである(第16項)。この原則に従うための手順が、第17項の5つのステップである。
2020年に改正された基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されている(第81項)。国税庁の資料は、中小企業(監査対象法人以外)については、引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能としている。
以下、ステップごとに、基準の定めと、判定に使う情報のありかを確かめる。項番は、断りのない限り企業会計基準第29号のものである。
契約の識別
基準を適用する対象は、第19項の5つの要件をすべて満たす顧客との契約である。要件には、当事者が契約を承認していること、支払条件を識別できること、対価を回収する可能性が高いことなどがある。承認の方法は書面に限られない。基準は、契約は書面、口頭、取引慣行等により成立するとしている(第20項)。
同じ顧客とほぼ同時に結んだ複数の契約は、同一の商業的目的で交渉された場合などに、結合して単一の契約とみなす(第27項)。本体の売買契約と保守契約を別々に結んでいても、1つの契約として判定することがある。どの契約が同時に交渉されたかを知っているのは、営業である。
履行義務の識別
取引開始日に、契約で約束した財又はサービスを評価し、別個のものをそれぞれ履行義務として識別する(第32項)。別個と扱うのは、顧客がその財又はサービスから単独で便益を享受できる(容易に利用できる他の資源と組み合わせる場合を含む)こと、その約束を契約に含まれる他の約束と区分して識別できることの、いずれも満たす場合である(第34項)。
据付、初期設定、操作の教育、保守が本体と別の履行義務になるかは、何を約束したかで決まる。約束の中身は、契約書だけでなく提案書や仕様書にも書かれている。
取引価格の算定
取引価格は、財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で、第三者のために回収する額を除く(第47項)。算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮する。対価のうち変動する可能性のある部分は変動対価と呼び、その額を見積る(第50項)。
値引き、リベート、返品の条件は、基本契約とは別の覚書に書かれていることがあり、その場合は覚書まで読まないと取引価格を決められない。
配分
取引価格は、独立販売価格の比率に基づいて、それぞれの履行義務に配分する(第66項)。独立販売価格は、財又はサービスを独立して顧客に販売する場合の価格である(第9項)。直接観察できない場合は、合理的に入手できるすべての情報を考慮して見積る(第69項)。
配分に使う情報は、価格表と、単独で販売したときの実績である。契約書に書かれた内訳の金額が、独立販売価格の比率と一致するとは限らない。
充足
収益は、履行義務を充足した時に、又は充足するにつれて認識する(第35項)。一定の期間にわたり充足されるのは、第38項の3つの要件のいずれかを満たす場合である。いずれも満たさなければ、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転した時に認識する(第39項)。支配の移転を検討する際に考慮する指標の例には、法的所有権、物理的占有の移転、顧客による検収などがある(第40項)。
国内の商品又は製品の販売には、代替的な取扱いがある。出荷時から支配が顧客に移転する時までの期間が通常の期間である場合は、出荷時や着荷時など、その間の一時点で収益を認識することができる(適用指針第98項)。通常の期間とは、国内における出荷及び配送に要する日数に照らして、取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいう。
5つのステップのうち、出荷や検収の実績データを主に使うのは最後の充足である。その充足にも、検収の条件や、一定の期間にわたり充足されるかどうかの判定のように、契約の条項に左右される部分がある。
適用後に残る論点
適用の初年度に契約類型ごとの会計方針を決めても、判定は終わらない。契約の条件が変わったとき、新しい売り方を始めたときに、同じ判定をやり直すことになる。取引類型ごとに、論点と、受注の時点で確かめておきたい項目を表にまとめた。
| 取引類型 | 主な論点 | 受注時に確かめる項目 |
|---|---|---|
| 製品の販売と据付 | 据付が別個の履行義務か。充足の時点 | 据付の有無と作業の内容、検収の条件 |
| ソフトウェアのライセンスと保守 | ライセンスと保守が別個か。取引価格の配分 | 保守の期間、無償で提供する期間、単独で販売するときの価格 |
| 工事、受注制作のソフトウェア | 一定の期間にわたる充足か。進捗度。契約変更 | 中途解約時の支払の定め、仕様変更を合意する手続 |
| 代理店や卸への販売 | リベートと返品権による変動対価 | 割戻しの条件、返品の条件、年度ごとの覚書の有無 |
| 仕入先から顧客へ直接提供する取引 | 本人か代理人か | 履行の主たる責任、在庫リスク、価格の決め方 |
| ポイントや値引券を付ける販売 | 追加の財又はサービスを取得するオプションが履行義務になるか | 付与の条件、通常の値引きの範囲との違い |
このうち、筆者が受注時の確認にとくに向くと考える3つを取り上げる。
履行義務の識別
約束を区分して識別できるかどうかは、財又はサービスを個々に移転する約束なのか、それらをインプットとして使った結合後のアウトプットを移転する約束なのかで判断する(適用指針第6項)。区分できないことを示す要因の例として、適用指針は、統合する重要なサービスを提供していること、一方が他方を著しく修正する又は顧客仕様にすること、相互依存性又は相互関連性が高いことを挙げている。
保証も論点になる。合意された仕様に従っているという保証のみであれば、引当金として処理する(適用指針第34項)。それに加えて顧客にサービスを提供する保証を含む場合、その部分は履行義務であり、取引価格を配分する(適用指針第35項)。提案の段階で営業が保証の延長を付けると、履行義務が1つ増えることがある。
ポイントや値引券を付ける取引はポイント・値引券の会計処理、発行時に負債計上するか使用時に費用処理するかで扱った。
変動対価
変動対価の額は、最頻値による方法と期待値による方法のうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法で見積る(第51項)。見積った額は、不確実性が事後的に解消される際に、それまでに計上した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限って、取引価格に含める(第54項)。
変動対価が含まれる取引の例として、適用指針は、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等と、返品権付きの販売を挙げている(適用指針第23項)。見積りの方法より手前に、そうした条件が契約にあることを経理が知っているか、という問題がある。
リベートを管理会計でどう扱うかは値引き・リベート・販促費はネット売上で管理する、総額売上では顧客別の採算が読めないにまとめた。
本人か代理人か
顧客への提供に他の当事者が関与する取引では、企業が本人に該当すれば対価の総額を、代理人に該当すれば報酬又は手数料の金額(あるいは純額)を収益として認識する(適用指針第39項、第40項)。財又はサービスが顧客に提供される前に、企業がそれを支配していれば本人、支配していなければ代理人である(適用指針第43項)。
支配しているかどうかを判定する際の指標として、適用指針第47項は3つを例に挙げている。約束の履行に対する主たる責任、在庫リスク、価格の設定における裁量権である。どれも契約の条項と取引の実態から読み取るもので、売上と仕入の伝票からは分からない。仕入先から顧客へ直送する取引や、他社のサービスを取り次ぐ取引を新しく始めるときは、受注の前に確かめる。判定の進め方は収益認識の本人か代理人かの判定、総額表示と純額表示の違いで扱っている。
つまずく原因は契約情報が届かないこと
ここまでの論点には共通点がある。判定に使う事実が、経理の外にあることである。同時に交渉した契約は営業が、標準と違う条項は法務が、保証や無償提供の約束は提案書が持っている。金額と日付が入った受注データと請求データだけでは、これらは読み取れない。
筆者は、届き方がとくに遅くなりやすいのは契約変更だと見ている。基準は契約変更の処理を分けている。別個の財又はサービスの追加で契約の範囲が拡大し、価格が独立販売価格に適切な調整を加えた金額分だけ増額される場合は、独立した契約として処理する(第30項)。この要件を満たさない場合は、未だ移転していない財又はサービスが、すでに移転したものと別個かどうかで分かれる。別個であれば、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する。別個でなく、部分的に充足されている単一の履行義務の一部であれば、既存の契約の一部と仮定し、契約変更日に収益の額を累積的な影響に基づき修正する(第31項)。両方を含む場合は、それぞれの方法で処理する。
このうち、既存の契約の一部と仮定する処理(第31項(2))を、数値の設例で確かめる。
受注制作の契約で、対価が1,000万円、見積った原価の総額が800万円とする。進捗度は発生した原価の割合で見積っている。原価が400万円発生した時点で、進捗度は50%、計上済みの収益は500万円である。ここで仕様の追加が合意され、対価が200万円、原価の見積りが200万円増えた。追加の作業は既存の作業と別個ではない。変更後の取引価格は1,200万円、原価の総額は1,000万円になり、進捗度は400万円÷1,000万円で40%に下がる。累計の収益は1,200万円×40%の480万円となり、契約変更日に収益を20万円減額する。
契約の金額は200万円増えたのに、変更した時点の収益は20万円減る。経理に「金額が1,200万円に変わった」とだけ伝わった場合、この修正にはたどり着けない。追加の作業が別個かどうかと、変更日までにどこまで進んでいたかが分かって、処理が決まる。原価の総額の見直しについては工事進行基準で追加原価が期末に集中する原因、原価総額見積りの見直し方で扱った。
依頼を重ねても契約情報が届きにくい理由について、筆者は次のように見ている。営業にとって、契約書を経理に渡す行為には見返りが乏しい。渡せば質問が来て、確認のあいだ受注の手続が止まる。渡さなくても、月末に経理から問い合わせが来るだけで済む。全社への通達や決算前の依頼で届き方を変えるのは難しく、営業が毎回通る手続の中に確認を組み込むほうが確実だと筆者は考える。監査での指摘が期末に集まる構造は監査法人の指摘が期末に集中する原因と、四半期ごとに論点を前倒しする方法に書いた。
契約から計上までの流れを作る
営業、法務、経理のあいだで、契約情報をいつ、どの形で渡すかを決める。流れの例を図にした。
経理に届ける契約を金額で選ぶと、判定の要らない大型の定型契約が届き、判定の要る小口の非定型契約が漏れるおそれがある。このため筆者は、選ぶ基準を、金額よりも、標準の条項との違いに置くほうが合理的だと考える。そのためには、主要な契約類型ごとに標準契約書を決め、標準の場合の会計処理を先に決めておく。
受注時の確認票
確認票は、営業が受注を登録するときに答える短い質問の一覧である。質問は、会計の用語を使わず、営業が契約書を見れば答えられる形にする。設例を示す。
| 確認する項目 | 答え方 | 関係するステップ・論点 |
|---|---|---|
| 標準契約書の条項を変更したか | 有・無。有の場合は変更した条項 | 契約の識別 |
| 同じ顧客と同じ時期に結ぶ別の契約があるか | 有・無。有の場合は契約番号 | 契約の識別(契約の結合) |
| 本体のほかに約束したものがあるか(据付、教育、保守、無償の提供、保証の延長) | 有・無。有の場合は内容と金額 | 履行義務の識別、配分 |
| 値引き、リベート、返品、違約金の定めがあるか(覚書と慣行を含む) | 有・無。有の場合は条件 | 取引価格の算定(変動対価) |
| 検収の条件は標準どおりか | 標準・標準外。標準外の場合は条件 | 充足 |
| 中途解約のときに、完了した部分の対価を受け取れる定めがあるか | 有・無 | 充足(一定の期間か一時点か) |
| 仕入先から顧客へ直接提供する部分があるか | 有・無。有の場合は対象 | 本人か代理人か |
7つの項目のどれかが「有」または「標準外」であれば、その契約を経理の確認の対象にする。すべて「無」と「標準」であれば、標準の処理をそのまま適用する。項目を増やしすぎると、読まずに「無」が選ばれるおそれがある。筆者は、1画面に収まる数にとどめるのがよいと考えている。
経理が判定した結果は、契約ごとに記録する。記録の残し方は会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録で扱った。
契約変更の連絡
契約変更は、営業と顧客のあいだで合意され、注文書の金額の書き換えだけで済まされることがある。経理が知りたいのは次の3点である。
- 何が変わったか(範囲、価格、その両方)
- 追加された財又はサービスは、既存のものと別個か
- 変更の時点で、既存の約束がどこまで移転していたか
この3点を、変更を合意した本人が登録する手順にする。登録が済むまで変更後の金額で請求を起票できない設定にしておけば、申告の漏れを後から探す作業は減る。
追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には、第30項又は第31項のいずれの方法も適用することができるという代替的な取扱いがある(適用指針第92項)。軽微な変更にこの取扱いを使うかどうかを会計方針として決めておくと、経理が個別に読む変更を絞り込める。
システムへの持ち方
確認票の項目は、受注を登録する画面の必須項目として持つのが扱いやすい。別の帳票にすると、記入されない契約が出るおそれがある。
データの単位も決めておく。受注は契約の単位で登録されるが、収益は履行義務の単位で認識する。1つの契約に複数の履行義務がある場合に、履行義務ごとの配分額と充足の時点を、契約番号にひも付けて持てるようにする。請求の明細と収益の明細が契約番号でつながっていれば、契約負債の残高を契約ごとに説明できる。
四半期ごとに、その期間に締結された契約と変更された契約の一覧を出し、確認票の答えと、適用した会計処理を照合する。期末にまとめて行うより、経緯を知っている人に確かめやすい。
注記と開示で要るデータ
収益認識基準は、注記も定めている。重要な会計方針として、主要な事業における主な履行義務の内容と、履行義務を充足する通常の時点を注記する(第80-2項)。収益認識に関する注記としては、次の3つを注記する(第80-5項)。開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる事項は、記載しないことができる。
- 収益の分解情報
- 収益を理解するための基礎となる情報
- 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
3つ目には、契約資産と契約負債の残高等(第80-20項)と、残存履行義務に配分した取引価格(第80-21項)が含まれる。残存履行義務の注記は、当初に予想される契約期間が1年以内の契約などについて、含めないことができる(第80-22項)。
これらの注記は、期末に集計を始めると元のデータが足りないことがある。収益の分解情報は、分解する区分を売上の明細に持っていないと作れない。残存履行義務の注記は、契約ごとに、未充足の履行義務に配分した額と、認識を見込む時期が要る。どちらも、受注時の確認票と、履行義務の単位のデータがあれば、同じ情報から作れる。注記のデータを期中に集める設計は注記情報の収集設計、開示に必要なデータを期中の入口で取る仕組みにまとめた。
よくある質問
収益認識基準はいつから適用か
2020年に改正された企業会計基準第29号は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されている(第81項)。それより前の年度から適用することも認められていた(第82項、第83項)。
中小企業は対象か
国税庁の資料は、中小企業(監査対象法人以外)については、引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能としている。上場会社の子会社で、親会社の連結決算のために同じ会計方針での報告を求められている場合は、親会社の方針を確かめる。
出荷基準は使えるか
国内の商品又は製品の販売で、出荷時から支配が顧客に移転する時までの期間が通常の期間である場合は、出荷時に収益を認識することができる(適用指針第98項)。この取扱いは国内の販売について定められている。輸出や、据付と検収を伴う取引は、支配が移転する時点を契約の条件から判定する。
注記で何を書くか
重要な会計方針として、主な履行義務の内容と、履行義務を充足する通常の時点を注記する。収益認識に関する注記としては、収益の分解情報、収益を理解するための基礎となる情報、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報の3つを注記する。重要性に乏しい事項は記載しないことができる。
- 収益認識基準の5つのステップは、契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、配分、充足である。
- 筆者は、適用後のつまずきの原因は、判定の難しさよりも契約情報が経理に届く時期の遅さにあると見ている。前の4つのステップは、契約の条項、営業が合意した内容、価格表など、経理の外にある情報に左右される。
- 受注時に経理が見る項目を確認票にし、標準と違う契約だけを経理の確認の対象にする。契約変更は、合意した本人が登録する手順にする。
次に読むなら、総額と純額の判定を扱った収益認識の本人か代理人かの判定、総額表示と純額表示の違いと、注記のデータを期中に集める注記情報の収集設計、開示に必要なデータを期中の入口で取る仕組みを勧める。



