新しい販売形態の立ち上げから三か月。事業部長が経理部に持ってきた月次の報告は、他社ブランドの商品を自社のECサイトで売った取扱高3億円を、そのまま売上高として積んでいる。 仕入先への支払は2.4億円で、差の6千万円が会社に残る。事業部の中期計画は、この新しい形態で3年後に売上高を倍にすると書いている。経理の担当者が契約書を読むと、商品は仕入先の倉庫から顧客に直送され、会社は一度も在庫を持たない。 契約書の表題は「販売委託契約」である。この取引の売上高は3億円なのか、6千万円なのか。 答えによって、事業部の計画の前提が崩れるかどうかが決まる。

POINT
判定の枠組みは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」に書かれている。適用指針は第39項から第47項で、顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合の扱いを定める。 企業は、顧客に提供する財又はサービスを識別し、それぞれが顧客に提供される前に、企業がそれを支配しているかどうかを判断する。支配していれば、企業は財又はサービスを自ら提供する本人であり、対価の総額を収益として認識する。 支配していなければ、他の当事者によって提供されるように手配する代理人であり、手配と交換に権利を得ると見込む手数料の金額、又は顧客から受け取る額から他の当事者に支払う額を控除した純額を収益として認識する。 ここでいう資産に対する支配は、会計基準第37項のとおり、資産の使用を指図し、資産からの残りの便益のほとんど全てを享受する能力である。第47項は、支配しているかどうかを判断するための指標として三つを例示する。 約束の履行に対して主たる責任を有していること。財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは返品権がある場合のように支配が顧客に移転した後に、在庫リスクを有していること。そして、価格の設定において裁量権を有していること。 IFRS第15号も、付録BのB34項からB38項で同じ構造を持つ。三つの指標は、支配の判断を助けるためのものであって、それ自体が判定の基準ではない。 日本公認会計士協会の解説は、百貨店の消化仕入を例に、商品の法的所有権を顧客への移転の直前に一時的に獲得しても、在庫リスクを負わず使用を指図する能力もなければ支配していないとして、売上10,000円・仕入先への支払8,000円の取引の売上高を純額の2,000円としている。

契約書の名目では決まらない

冒頭の契約書の表題は「販売委託契約」だった。表題から読むと代理人に見えるが、判定は表題では決まらない。 条項を読むと、販売価格は会社が決め、仕入先には会社が決めた卸値で支払う。顧客からの返品は会社が受け付け、返品された商品は会社が引き取って自社の倉庫で再販売する。顧客からの問い合わせと不良の交換は、会社の窓口が受ける。

この条項の組み合わせなら、直送であっても、会社は商品を顧客に移転する前に支配していると判断できる余地がある。顧客に対して商品の提供を約束しているのは会社で、価格を決めるのも会社で、返品後の在庫の損失を負うのも会社だからである。 逆に、表題が「売買契約」でも、価格は仕入先が決め、売れ残りは仕入先に返せて、顧客への責任を仕入先が負うなら、会社は代理人である。

名目が当てにならないのは、契約書の表題が法務や税務の都合で決まることが多いからである。 判定の材料は、価格・返品・顧客への責任・在庫の損失を、誰が負うかを定めた条項にある。契約の情報が経理に来ない会社では、この判定の材料そのものが揃わない(収益認識基準の運用でつまずく原因、契約情報を経理へ届ける流れの作り方)。

三つの指標は、点数表ではない

第47項の三つの指標を、二つ以上満たせば本人、という点数表として使う会社がある。それでは判定を誤る。 指標は、顧客に移転する前に支配しているかを判断するための材料であり、どれか一つが決め手になる取引もあれば、三つが割れる取引もある。

割れたときに重いのは、主たる責任である。 顧客が不良や遅延の苦情をどこに持ち込み、誰がそれを解決する義務を負うか。顧客から見て約束の相手が会社であれば、仕入先は会社の約束を果たすための外注先に近い。顧客から見て約束の相手が仕入先であれば、会社は取引の場を用意しているにすぎない。

在庫リスクは、在庫を実際に持っているかではなく、在庫の損失を負うかで見る。 直送の取引でも、返品された商品を会社が引き取るなら、支配が顧客に移転した後の在庫リスクを負っている。逆に、倉庫に商品が置かれていても、売れ残りを全量返品できる契約なら、在庫リスクは仕入先にある。

価格の裁量権も、表示価格を入力する作業ではなく、価格を決める権限で見る。 仕入先が指定した価格をそのまま掲げているなら、価格の裁量権はない。会社が値引きの原資を自分の取り分から出すかどうかも、裁量の実態を示す。

在庫の損失と価格の権限で四つに分け、割れた象限は主たる責任で決める
価格を決める権限(下:ない 上:ある)
割れる:価格だけ持つ
顧客への約束の相手が自社なら本人に寄る。仕入先なら代理人
本人の可能性が高い
総額で計上。直送でも返品在庫を負えば本人になりうる
代理人の可能性が高い
純額で計上。一瞬だけ所有権を持っても支配ではない
割れる:在庫だけ負う
価格が仕入先指定なら、主たる責任の所在を契約と実務で確かめる
在庫の損失を負うか(左:負わない 右:負う)
象限は目安にすぎない。判定の根拠は、顧客に移転する前に支配しているかの一点で書く。

判定は財又はサービスごとに行い、事業部単位で一括しない

適用指針第39項は、顧客に提供する財又はサービスを識別してから、それぞれについて支配を判断する順番を置いている。一つの販売形態、一つの契約の中に、本人の部分と代理人の部分が並ぶことがある。

冒頭の会社のECサイトには、二つの取引が混ざっていた。会社が価格を決め、返品を引き取り、顧客対応を持つ商品と、仕入先が価格を決め、出荷も返品も仕入先が受ける「出店」の商品である。 画面の上では同じ商品一覧に並んでいるが、前者は本人、後者は代理人と判定される可能性が高い。事業部単位で「この事業は総額」と一括すると、どちらかの判定を誤る。

判定は、契約の類型ごとに行い、根拠を文書にする。監査法人との協議は、この文書を土台に行う(会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録)。条項を変えれば判定が変わるので、新しい類型の契約を結ぶときに、経理が条項の段階で入る仕組みを作っておく。

判定一つで、売上高に連動するすべての数字が動く

本人か代理人かの判定は、利益の額を変えない。 冒頭の取引なら、総額でも純額でも会社に残るのは6千万円である。変わるのは、売上高と、売上高を分母や分子に使うすべての数字である。

2021年4月1日以後開始する事業年度から収益認識基準が適用されたとき、百貨店各社の売上高は、消化仕入の取引を純額にしたことで大きく減った。 三越伊勢丹ホールディングスは、従来の計上方法による「総額売上高」を、会計上の売上高と並べて決算資料に載せた。会計の売上高とは別に、事業の規模を示す指標が必要になったのである。

社内でも同じことが起きる。売上高の成長率、売上総利益率、売上高販管費率、売上高営業利益率は、判定一つで別の数字になる。 総額から純額に変われば、売上高は縮み、総利益率は跳ね上がる。営業の目標や賞与を売上高で置いていれば、同じ仕事をした担当者の評価が変わる(営業インセンティブを売上ではなく貢献利益で払う設計と、変える前の三つの前提)。社外にも、売上高に連動する条項がある。商業施設の歩合賃料、取引先との数量割戻しの条件、借入の財務制限条項の定義、事業計画を前提にした資金調達の説明である。

消費税も、会計の表示に連動しない。消化仕入のように会社が売手として顧客に販売している取引では、会計上は純額で売上高を計上していても、消費税の課税売上げと課税仕入れは総額のまま扱われる。 会計の売上高と申告の数字の差を説明する表が要る。

だから、判定の前に、売上高に連動している社内の目標、報酬、社外の契約を洗い出しておく。 そして、会計の売上高とは別に、取扱高を事業の指標として持つ。取扱高は会計の数字ではないので、定義を社内規程で固定し、会計の売上高との差を毎月示す(グループでKPIの定義がずれる問題、同じ名前の指標をそろえる定義書と改訂手続き)。

総額にしたいから条項を変える、は事業の判断である

判定の仕組みを知った事業部から、次に出てくる相談はたいてい同じである。条項をどう変えれば総額で計上できるか、である。

条項を変えれば判定は変わりうる。だが、本人になるということは、価格の裁量と引き換えに、顧客への約束の履行の責任と在庫の損失を実際に負うということである。 返品された商品を引き取れば、売れ残りの評価損が自社に出る。顧客への責任を負えば、仕入先の不良や遅延の苦情と補償を自社が受ける。売上高の見た目のために、損失の引受けを増やしていることになる。 条項の変更は、会計処理の相談ではなく、どのリスクを取って何の対価を得るかという事業の判断として稟議にかける。

期の途中で条項を変えれば、同じ取引先の売上高が、ある月から総額に変わる。前年と比べた売上高の成長率は、実力と無関係に跳ねる。 条項の変更の前後で取扱高と売上高を並べ、成長率は取扱高で示す。経営会議に出す売上高の成長率が、契約の書き換えで作られていないことを、経理が示せる形にしておく。

設例

売上高420億円のアウトドア用品メーカー(3月決算)。自社ブランドの商品を自社のECサイトと直営店で売ってきたが、2年前から他社ブランドの商品を自社のECサイトで扱い始めた。 事業部は、他社ブランドの取扱高36億円をそのまま売上高に計上する前提で、3年後に取扱高を100億円に伸ばす計画を立てていた。期末監査の前に、経理部が契約を読み直すと、仕入先との契約は三つの類型に分かれていた。 一つ目の類型は、会社が販売価格を決め、仕入先の倉庫から顧客に直送し、返品は会社が受けて引き取る契約で、取扱高は14億円だった。二つ目は、仕入先が販売価格を決め、会社は掲載と決済を代行し、出荷・返品・問い合わせを仕入先が受ける契約で、取扱高は19億円だった。 三つ目は、会社が買い取って自社の倉庫に置く契約で、取扱高は3億円だった。経理部は、一つ目と三つ目を本人、二つ目を代理人と判定する案を、条項の抜粋と第47項の指標ごとの評価を付けた文書にまとめた。 一つ目は、在庫を持たない直送だが、顧客への約束の相手が会社で、価格の裁量と返品後の在庫の損失が会社にあることを根拠にした。監査法人との協議を経て、二つ目の類型19億円は、仕入先への支払を控除した純額の3.3億円を売上高とすることになった。 他社ブランドの売上高は、36億円から20.3億円になる。会社全体の売上高で見れば、約16億円の減少である。同時に、事業部の中期計画は取扱高の目標と売上高の目標を分けて書き直した。 EC部門の賞与の指標だった売上高は、取扱高と貢献利益の二つに置き換えている。二つ目の類型で出店の数を増やすほど、取扱高は伸びても売上高は手数料分しか伸びないことが、計画の上で初めて見えるようになった。 事業部は、価格の裁量を自社で持てる一つ目の類型への切り替えを仕入先と交渉し始めている。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、判定を、契約書の名目ではなく、顧客に移転する前の支配で行う。 適用指針第39項から第47項は、財又はサービスを識別し、顧客に提供される前に企業が支配しているかで本人と代理人を分ける。第47項の主たる責任・在庫リスク・価格の裁量権は、支配の判断を支える指標であって、点数表ではない。 一瞬だけ法的所有権を持っても、在庫リスクと使用を指図する能力がなければ支配ではない。割れたときは、顧客から見た約束の相手が誰かを重く見る。

第二に、判定は財又はサービスごと、契約の類型ごとに行い、根拠を文書にする。 一つの販売形態の中に本人の取引と代理人の取引が並ぶことがあり、事業部単位で一括するとどちらかの判定を誤る。条項を変えれば判定が変わるので、新しい類型の契約には条項の段階で経理が入る。

第三に、判定の前に、売上高に連動する社内外の数字を洗い出し、取扱高を別の指標として持つ。 利益の額は変わらないが、売上高の成長率や利益率、売上高で置いた目標と賞与、歩合賃料や財務制限条項の定義が動く。消費税の課税売上げは会計の純額表示に連動しないことがある。 取扱高の定義は社内規程で固定し、会計の売上高との差を毎月示す。

まとめ
本人か代理人かは、契約書の表題ではなく、価格・返品・顧客への責任・在庫の損失を誰が負うかの条項で決まる。判定に入る前に、売上高を使っている社内外の数字を洗い出す。成長率や利益率、目標と賞与、歩合賃料、財務制限条項である。そのうえで取扱高の定義を社内規程で固定し、会計の売上高との差を毎月示す。

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