監査法人から毎期同じ質問が来る。関連当事者との取引はありませんか、と。経理は取引先マスタを開き、役員の姓と一致する法人名を検索し、数件を目で確認して「ありません」と回答する。監査法人は「役員の方への確認書はいただけますか」と重ねる。経理は総務に依頼し、総務は役員に紙を回し、全員が「該当なし」に丸を付けて返ってくる。これで一年が終わる。この工程には、漏れを見つける仕組みが一つも入っていない。 見つからなかったのではなく、見つかる経路が存在しない。
マスタ突合では原理的に出ない
漏れる型を並べると、共通する性質が見える。
| 漏れる型 | 取引先マスタに現れない理由 | 拾える経路 |
|---|---|---|
| 役員の親族が過半数を持つ会社 | 法人名に個人名の痕跡がない。株主構成はマスタに項目がない | 役員本人の申告以外にない |
| 役員個人からの不動産賃借 | 相手先が個人で、支払先マスタに他の個人立替と混在する | 支払先マスタの個人区分の棚卸し |
| 相談役・顧問が代表を務める会社 | そもそも役員として登記されていない | 委嘱契約の一覧と申告の突合 |
| 退任した創業者の関係会社 | 現役員名簿に載っていない | 退任者の実質判定を年次で回す |
| 重要な子会社の役員との取引 | 親会社の経理が子会社の役員名簿を持っていない | 子会社からの名簿提出を年次で義務化 |
| 第三者を形式的に経由した取引 | 帳簿上の相手先が無関係の商社になっている | 取引条件の異常値からの逆引き |
最終行について、基準は明示している。第8項は「形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合には、開示対象に含めるものとする」とし、第10項(3)は開示にあたり形式上の取引先名を記載したうえで実質的には関連当事者との取引である旨を記載するとしている。帳簿を何度見ても出ない類型が、基準上は開示対象に指定されている。
第7項も同じ方向を向く。無償取引や低廉な価格での取引については、独立第三者間取引であったと仮定した場合の金額を見積った上で重要性の判断を行う。無償なら帳簿上の金額はゼロであり、金額基準の検索には引っかからない。
つまり、金額から入る検索も、名前から入る検索も、構造的に取りこぼす。 入口を変えるしかない。
入口は役員本人への申告に置く
設計の順序を逆にする。取引から関連当事者を探すのではなく、関連当事者の名簿を先に作り、取引をその名簿に照合する。
申告書の様式で外してはならない項目が四つある。第一に、本人と二親等以内の親族の氏名と続柄。第二に、それらの者が役員又は業務執行社員である会社の名称と法人番号。第三に、それらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社の名称と法人番号。第四に、当社又は当社グループとの取引の有無に関する認識。
法人番号を書かせるかどうかで、この仕組みの成否が決まる。 会社名だけでは表記ゆれで照合できない。法人番号なら、取引先マスタとの突合を機械的に回せる。国税庁の法人番号公表サイトで誰でも調べられるため、申告者に過度な負担をかけずに済む。
年次確認は、変更の有無だけを聞く形にする。全項目を毎年書き直させると、返ってこない。ただし「変更なし」を必ず書面で受け取ることは崩さない。空欄と「変更なし」は、監査人に対する意味がまったく違う。
個人との取引は1,000万円で全件、法人は率で判定する
重要性の判断基準は、法人グループと個人グループで非対称になっている。ここを取り違えると、開示が過剰にも過少にもなる。
適用指針第13号第13項は関連当事者を四つのグループに区分する。親会社及び法人主要株主等、関連会社等、兄弟会社等、そして役員及び個人主要株主等である。第14項は、このグループごとにさらに法人グループ(前三者)と個人グループ(最後)に区分して重要性の判断を行うとする。
法人グループの基準は第15項にある。損益計算書項目では、売上高又は売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引、営業外収益又は営業外費用の合計額の10%を超える損益に係る取引、特別利益・特別損失については1,000万円を超える損益に係る取引。ただし営業外と特別の項目については、取引総額が税金等調整前当期純損益又は最近5年間の平均の税金等調整前当期純損益の10%以下となる場合には開示を要しない。貸借対照表項目では、その金額が総資産の1%を超える取引、資金貸借取引や有形固定資産・有価証券の購入売却等については残高が総資産の1%以下であっても取引の発生総額が総資産の1%を超える取引、事業の譲受又は譲渡については対象となる資産又は負債の総額のいずれか大きい額が総資産の1%を超える取引。
個人グループの基準は第16項である。「連結損益計算書項目及び連結貸借対照表項目等のいずれに係る取引についても、1,000万円を超える取引については、すべて開示対象とする」。 率ではなく、絶対額の一本である。
総資産500億円の会社を考える。法人グループなら、貸借対照表項目の閾値は5億円になる。個人グループなら1,000万円である。五十倍の差がある。 役員が所有する土地を年間1,200万円で借りている取引は開示対象で、同じ金額の一般取引先との賃借は誰の目にも留まらない。この非対称があるからこそ、金額での検索は無力で、名簿の設計が先に来る。
もう一つ、第16項にはただし書きがある。会社の役員(親会社及び重要な子会社の役員を含む)若しくはその近親者が他の法人の代表者を兼務しており、当該役員等がその法人の代表者として会社と取引を行うような場合には、法人間における商取引に該当すると考えられるため、法人グループの取引として扱う。ただし当該役員等がその法人又はその親会社の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合は除かれる。兼務の事実だけで1,000万円基準を適用すると、開示が過剰になる。 名簿には、役員である会社と過半数を所有している会社を、別の列で持たせておく必要がある。
開示対象外の切り出し方に、実務の穴がある
基準第9項は、一般競争入札による取引、預金利息及び配当の受取り、その他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引と、役員に対する報酬・賞与・退職慰労金の支払いを開示対象外とする。適用指針第5項は、使用人兼務役員が会社の福利厚生制度による融資を受ける場合など、当該役員が従業員としての立場で行っていることが明らかな取引も対象外とする。
問題は役員報酬の線引きである。適用指針第24項は、役員報酬が対象外とされる理由をコーポレート・ガバナンスに関する非財務情報として別途開示されるためだと説明し、ここでいう役員報酬は会社法第361条等にいう報酬等、すなわち役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益を指すとしたうえで、こう続ける。金銭以外の経済的利益の供与であっても報酬等に含まれるものは役員報酬として開示され、含まれないものは役員報酬として開示されないため、関連当事者の開示の対象に含まれることになると考えられる、と。
ここが穴になる。株主総会の決議で定めた報酬等の枠に入っていない経済的利益は、関連当事者の開示に回る。実務でよく残るのは、会社所有物件の役員への低廉な賃貸、役員個人が契約すべき費用の会社負担、役員が代表を務める団体への協賛や寄付である。どれも「報酬ではない」と社内で整理されており、だからこそ関連当事者の開示にも上がらない。 二つの開示の間に落ちている。
洗い出しの実務としては、役員個人に対する支払と、役員個人からの受取を、支払先・入金元の単位で年に一度並べる。金額の大小を見る前に、性質を分類する。分類の結果、報酬等の枠に入っていないものが出てきたら、そこが検討対象である。
会社法の承認記録と突き合わせるのが、最も安い
もう一つ、コストのかからない照合経路がある。会社法の利益相反取引の承認記録である。
会社法第356条第1項は、取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(第2号)、株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき(第3号)に、重要な事実を開示して株主総会の承認を受けることを求める。第365条第1項により、取締役会設置会社ではこれが取締役会の承認になり、同条第2項は「第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない」と定める。
承認と事後報告の記録は、必ず取締役会の議事録に残る。 関連当事者の名簿と議事録を突き合わせれば、名簿に載っていない相手先が浮かぶことがある。逆に、名簿に載っているのに承認記録がない取引が見つかることもある。後者は関連当事者の開示の問題ではなく、会社法の手続の問題である。どちらの向きの発見も、経理が単独で作れる価値ではない(取締役会に出す財務資料|説明のための資料から、決議を取るための資料へ)。
会社法側の注記も忘れずに置く。会社計算規則第98条第1項第15号が注記表の区分として「関連当事者との取引に関する注記」を置き、同規則第112条が記載事項と関連当事者の範囲を定める。第112条第2項は、一般競争入札による取引や預金利息・配当の受取りその他取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役員に対する報酬等の給付、市場価格その他公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合の当該取引を、注記不要としている。金融商品取引法側は財務諸表等規則第8条の10であり、同規則第8条第17項が関連当事者の範囲を定める。会社計算規則と財務諸表等規則で範囲の書きぶりが微妙に異なるため、名簿は広いほうに合わせて作る。
決めるのは三つ
第一に、入口を役員本人の申告に置く。 就任時申告と年次確認書を制度にし、本人と二親等以内の親族について、役員である会社と議決権の過半数を自己の計算において所有している会社を、法人番号つきで書かせる。対象者は登記上の役員に限らず、執行役員、相談役、顧問、重要な子会社の役員まで広げる。適用指針が「これらに準ずる者」に相談役・顧問・執行役員を例示し、退任した役員も実質判定するとしている以上、名簿の範囲を登記に合わせる理由はない。
第二に、照合は法人番号で機械的に回す。 会社名の突合は表記ゆれで必ず落ちる。法人番号なら取引先マスタと機械照合でき、毎期の作業が数時間で終わる。経理の役割は探すことではなく、照合できる形の名簿を維持することに変わる。名簿の完全性は、経理ではなく申告した本人が負うと明記する。
第三に、重要性の判断は法人グループと個人グループで分ける。 個人グループは1,000万円超で全件、法人グループは売上高等の10%や総資産の1%といった率で判定する。役員等が他法人の代表者として取引する場合は法人グループとして扱う例外があり、ただしその法人の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合は除かれる。名簿に「役員である会社」と「過半数を所有している会社」を別の列で持たせるのは、この判定のためである。
そのうえで、役員報酬として開示されない経済的利益が関連当事者の開示に回るという適用指針第24項の整理を、社内で一度確認しておきたい。会社所有物件の役員への低廉な賃貸、役員個人が負担すべき費用の会社負担、役員が代表を務める団体への協賛。「報酬ではない」と整理された瞬間に、関連当事者の側からも見えなくなる構造がある。



