月次決算の3営業日目、債権の担当者が年齢表を締めた。支払期日を過ぎた売掛金は1億8,000万円、そのうち90日を超えたものが4,200万円ある。 半年前より、どちらも増えている。経理は毎月、期日を過ぎた取引先の一覧を営業部に送り、担当の営業から催促してもらうよう頼んできた。返ってくるのは、先方の担当者に伝えてあります、今は大きな商談の途中なので少し待ってほしい、という返事である。 経理課長は、CFOに相談する。経理から直接、取引先に連絡してよいでしょうか。営業部長からは、以前、経理が取引先に電話をして先方の部長の機嫌を損ねたことがあるので、やめてほしいと言われています。 CFOは一覧を見ながら、90日を超えた4,200万円のうち、最初に誰かが先方に連絡したのがいつだったかを聞く。課長は答えられない。

POINT
督促は、回収の手段である前に、法的な意味を持つ行為である。2020年4月1日に施行された改正民法の166条は、債権の消滅時効を、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年とした。 商品の代金は2年とした旧法の短期消滅時効は廃止され、同日以後に結んだ契約から生じる売掛金には新しい規定が適用される。督促の効き目も、民法に書かれている。 150条は、催告があった時から6か月を経過するまで時効は完成しないとし、催告で完成が猶予されている間に重ねた催告には、その効力がないとしている。時効を振り出しに戻すのは、152条の権利の承認である。 取引先が残高を認める書面に署名したり、分割での支払に合意したりすれば、時効はその時から新たに進行を始める。税務も、督促の記録を見る。法人税基本通達9-6-3は、継続的な取引を行っていた取引先の資産の状況や支払能力の悪化で取引を停止した後、1年以上経過した担保物のない売掛債権について、備忘価額を残して貸倒れとして損金経理することを認めている。 同じ通達は、同じ地域の取引先に対する売掛債権の総額が取立ての旅費などの費用に満たない場合に、支払を督促したにもかかわらず弁済がないときも、同様に扱うとしている。誰が、いつ、どの相手に、何を求めたかの記録は、そのまま時効と税務の証拠になる。

滞留が残るのは、督促が誰の仕事にもなっていないからである

滞留債権が増えると、議論は与信に向かいやすい。取引の開始時の審査が甘かった、限度額の見直しをしていなかった。だが、期日を過ぎた売掛金の多くは、審査の段階では健全だった取引先のものである。 滞留が残るかどうかを決めるのは、期日の翌日からの数週間に、誰かが先方に連絡したかどうかである。

営業に任せると、督促は先送りされる。 営業の評価は受注と売上の計上で決まり、入金は評価に入っていないことが多い。取引先の担当者は、次の商談の相手でもある。督促の電話は、その関係を損ねるかもしれない仕事であり、評価の上では何も得られない。営業が督促を後回しにするのは、怠慢ではなく、評価の設計に対して合理的に動いた結果である(営業インセンティブを売上ではなく貢献利益で払う設計と、変える前の三つの前提)。

経理は、営業の顔を立てて連絡を控える。 取引先との窓口は営業であり、経理が割り込めば営業の立場を傷つけると考える。結果として、期日を過ぎた売掛金は、営業も経理も手を付けない状態で月をまたぐ。一覧を送る、伝えてあると返事が来る、翌月にまた一覧を送る。 この往復が続く間に、30日超は60日超になり、90日超になる。

期日を過ぎた理由の多くは、先方の事務にある

督促を営業に預けたままにしている会社が見落としていることがある。期日を過ぎた売掛金の少なくない部分は、取引先の資金繰りではなく、事務の行き違いで止まっている。

請求書が先方の経理に届いていない。届いているが、発注番号が書かれていないので、先方の支払のシステムに登録できない。検収が済んでいないので、支払の対象に上がっていない。値引きの合意が請求書に反映されておらず、先方が金額の相違で支払を保留している。先方の支払の締め日に請求書が間に合わず、1か月後ろにずれている。 どれも、先方の経理や支払の担当に聞けば、一度の連絡で原因が分かる。

ここに、関係の問題を避ける道がある。 経理が連絡する相手は、営業が日頃会っている発注の担当者ではない。先方の経理や支払の担当である。 経理から経理への事務の確認は、先方にとっても日常の仕事であり、営業の関係を損ねることはほとんどない。入金が確認できていない、行き違いであればご容赦いただきたい、請求書の受領と支払の予定日を教えてほしい。この定型の連絡で解消する分を先に落とせば、営業が動くべき債権は、ずっと少なくなる。

入金の消込が遅れて、期日を過ぎたのかどうかが月次決算まで分からない会社では、この最初の一手が打てない。督促の段階を組む前に、入金を毎日消し込める状態にしておく(入金消込が月次決算を止める原因、消込できない入金と滞留売掛金)。

経過日数で、担当と相手が自動的に移る段階を組む

督促の担当は、営業か経理かの二択で決めるものではない。期日からの経過日数で、担当と連絡の相手が自動的に移る段階として設計する。 段階が移るたびに、先方の中で連絡を受ける相手の立場も上がる。

段階期日からの経過日数(例)担当先方の相手やること
第1段階翌営業日から14日経理の債権担当経理・支払の担当定型のメールと電話で、請求書の受領、検収、支払の予定日を確かめる
第2段階15日から44日営業の担当発注の担当とその上長経理の記録を引き継ぎ、支払の予定日を取り付ける
第3段階45日から89日営業部長・担当役員先方の役職者新規の出荷を保留し、分割での支払は書面で合意する
第4段階90日以降CFO・法務先方の代表者書面で催告し、法的な手続と個別の引当を検討する

大事なのは日数の値ではなく、日数が来れば人の判断を待たずに担当が移ることである。 営業に頼んでよいか、経理が連絡してよいかを、その都度誰かが決める仕組みでは、決める人が迷った分だけ遅れる。日数は、自社の支払サイトと取引先の支払の締めの周期に合わせて決めればよい。

SAPの督促(Dunning)の機能は、もともとこの考え方で作られている。 督促の手続に延滞日数ごとの督促レベルを設定し、督促の実行(トランザクションF150)で、レベルに応じた文面と対象を出す。SAPを使っていない会社でも、年齢表の区分ごとに担当者の欄を置けば同じことができる。

督促の担当は、営業か経理かを都度決めるのではなく、経過日数で自動的に移す。
STEP 1
経理が事務を確かめる
期日の翌営業日から、先方の支払担当へ定型の連絡。請求書の未着、発注番号の漏れ、検収の未了を先に落とす
→
STEP 2
営業が予定日を取る
15日を超えたら、経理の記録を引き継いで発注の担当へ。支払の予定日を取り付けて台帳に書く
→
STEP 3
役職者が条件を変える
45日を超えたら、新規の出荷を保留し、先方の役職者と分割の支払を書面で合意する
→
STEP 4
CFOと法務が権利を守る
90日を超えたら、書面で催告し、法的な手続と個別の引当を検討する
土台土台=すべての段階の記録を、一つの台帳に残す。誰が、いつ、どの相手に、何を求め、何と言われたか。その記録が次の段階への引継ぎであり、時効と税務の証拠になる。
担当が日数で移れば、督促を始めるかどうかで誰も迷わない。

第3段階の出荷の保留は、与信の管理と一体で運用する。 期日を過ぎた債権が一定の日数を超えた取引先には、新規の受注の出荷を止める。その解除の権限を担当の営業に置けば、段階の設計は形だけになる(SAPの与信管理で出荷保留の解除権限を営業に置くと限度額が形だけになる理由)。分割の支払を合意するときは、残高と支払の予定を書いた書面に先方の署名をもらう。 民法152条の承認として時効が振り出しに戻り、後の段階で争いになったときの証拠にもなる。

係争と保留の依頼は、督促の外に出して期限を付ける

段階を自動で移すと、二つの例外が出てくる。

一つは係争である。 納めた製品に不具合があり、先方が支払を保留している。値引きの交渉が続いている。こうした債権に定型の督促を送れば、先方の不信を買う。係争の債権は、督促の対象から外して係争の区分に移し、解決の担当と期限を決める。 担当は営業と品質保証の部署、期限は例えば30日で、期限を過ぎたら役職者の段階に上げる。区分に移したまま誰も見ていない債権を作らないことが、例外の扱いの要点である。

もう一つは、営業からの保留の依頼である。 大きな商談の途中なので、督促を待ってほしい。これは、営業の判断としては正当なことがある。だが、依頼は営業部長の承認を要件とし、保留の期限を付ける。 期限の来た債権は、元の段階に戻る。保留の件数と金額は毎月の経営会議に出す。

段階の設計と一緒に、営業の評価にも回収を入れる。 期日を過ぎた債権の残高を、部門の資本の負担として評価に載せれば、営業が督促を先送りする理由の一つが消える(部門に資本コストを課すと在庫と売掛が減る理由、利益だけの評価の限界)。

設例

業務用の厨房機器の販売と保守を行う会社(売上高60億円、3月決算、取引先約1,800社)。期日を過ぎた売掛金は1億8,000万円、そのうち90日を超えたものが4,200万円あり、督促は営業に任せていた。 CFOは、経理と営業の双方と話したうえで、経過日数で担当が移る4段階の運用を決め、営業部長と連名で社内に通知した。最初の1か月、経理の債権担当2人は、期日を過ぎた約310件のすべてについて、先方の支払担当に定型の連絡を入れた。 約6割の件数は2週間以内に入金され、原因の多くは、発注番号の書かれていない請求書が先方の支払のシステムに登録されていなかったことと、検収の書類の返送が止まっていたことだった。請求書の様式に発注番号の欄を必須で設けたところ、同じ原因の期日超過はその後ほとんど出なくなった。 一覧を見直すと、品質のクレームで支払が保留されている債権が11件、約2,600万円含まれていた。これらは係争の区分に移し、営業と品質保証の部署に30日の解決の期限を置いた。営業からの保留の依頼は、最初の3か月で14件あり、部長の承認と期限を付けて受けた。 半年後、期日を過ぎた売掛金は約7,000万円、90日を超えたものは約1,300万円になった。90日を超えて残った取引先のうち2社とは、分割の支払を書面で合意し、残高の確認書に署名を受けた。 取引を停止して1年以上経過していた1社の債権は、督促の記録を添えて貸倒れとして処理した。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

売掛金の督促について決める三つ

第一に、滞留の原因を与信の甘さではなく、督促の担当が決まっていないことに求める。 営業は評価の設計どおりに督促を後回しにし、経理は営業の顔を立てて連絡を控える。期日の翌日の最初の連絡を、誰の仕事にするかを決める。

第二に、最初の連絡は経理が、先方の経理や支払の担当へ、定型で行う。 期日超過の少なくない部分は、請求書の未着、発注番号の漏れ、検収の未了といった先方の事務で止まっている。そこから先は、営業、役職者、CFOと法務へと、担当と先方の相手が経過日数で自動的に移る段階を組む。 出荷の保留の解除の権限は営業に置かない。

第三に、例外は督促の外に出して、期限を付ける。 係争の債権は区分を分けて解決の担当と期限を置き、営業からの保留の依頼は部長の承認と期限を要件とする。すべての段階の記録を一つの台帳に残す。 民法150条の催告は6か月の猶予にとどまり、時効を振り出しに戻すのは152条の承認であり、法人税基本通達9-6-3の貸倒れの扱いも督促の記録を前提にしている。

まとめ
督促の仕組みを直すなら、最初に決めるのは期日翌日の一本目の連絡を誰がするかである。そこは経理が先方の支払担当へ定型で入れ、15日・45日・90日の区切りで担当と相手が移る段階表を作っておく。係争と保留の依頼は督促から外して期限を付け、すべてのやり取りを一つの台帳に残す。その台帳が、時効の管理と貸倒れの税務処理の証拠にもなる。

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