八月の下旬に、子会社の社長が資金繰り表を持って本社に来る。十一月に三億円が足りない。取引銀行は貸すと言っているが、親会社の保証が要る。取締役会は来週である。この場面で「保証しない」と言える会社は、ほとんどない。 言えないのは経営陣が甘いからではなく、断る根拠が社内のどこにも書かれていないからである。そして翌年、同じ会議が同じ順番で開かれる。
誰が差し入れたか分からない文書が、注記に載る
保証の管理台帳を作ると、たいてい最初に困るのが「どこまで拾うか」である。実務指針第61号の書き方は、この問いに対してかなり踏み込んでいる。標題では判断できない、標題が付いていないものもある、だから存在の把握に留意せよ、と書いてある。基準の側が「見つけにくい」と明言している文書は、社内では確実に見つかっていない。
差し入れる場面を思い浮かべると理由が分かる。子会社の資金調達の最終局面で、金融機関から一枚だけ書面が欲しいと言われる。保証状ではないので、稟議の重さも変わる。決裁は財務部長か、場合によっては子会社の担当役員で通る。取締役会には上がらない。署名して渡した文書のコピーが本社の保証台帳に載る保証は、どこにもない。
だから台帳の作り方は、社内文書からではなく相手方から逆算するほうが速い。子会社ごとの借入一覧を取り、その一本ごとに、貸し手が親会社から何を受け取っているかを子会社に確認させる。保証状、保証予約、念書、覚書、そのいずれもないという回答まで含めて、書面で残す。貸し手は必ず把握している。把握していないのは親会社だけである。
そのうえで、拾った文書を三つに仕分ける。法的効力が保証契約と同様と認められるもの、保証予約と同様と認められるもの、実質的に債務保証義務又は損害担保義務を負っていると認められるもの。実務指針第61号は、この解釈にあたって「法律専門家等の見解を考慮することが望ましい」としている。顧問弁護士に読ませる文書を、経理が集めてくることになる。
引当金を積む日は、こちらが決められない
保証を出した時点では損益に何も出ない。だから軽く見える。重くなる日は突然来るのではなく、子会社の状態が一定の線を越えた日に来る。そしてその線は、支援する側ではなく、監査人が見る。
実務指針第61号は債務保証損失引当金の計上基準をこう書く。主たる債務者の財政状態の悪化等により債務不履行となる可能性があり、その結果、保証人が保証債務を履行し、その履行に伴う求償債権が回収不能となる可能性が高い場合で、かつ、これによって生ずる損失額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を計上する必要がある。具体的な対象として挙げられているのは三つの状態である。法的・形式的な経営破綻の状態にある場合。経営破綻の事実は発生していないが深刻な経営難の状態にあり再建の見通しがないなど実質的に経営破綻に陥っている場合。そして、経営破綻の状況にはないが経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が高いと認められる場合である。
三つ目に注意が要る。破綻していなくても、再建計画の進捗が芳しくないというだけで引当の対象になり得る。 支援を続けている当事者からは「計画は少し遅れているが方向は合っている」と見える状態が、外からは引当事由に見える。この認識のずれが、期末の監査で一気に表面化する。
計上額は、債務保証の総額から主たる債務者の返済可能額及び担保により保全される額等の求償債権についての回収見積額を控除した額である。見積りに幅が生じる場合は、その幅の中から最も合理的な金額を算定する。そして計上額は決算期ごとに見直す。
引当金を積まない場合も、逃げ切れるわけではない。実務指針第61号は損失発生の可能性を高い場合・ある程度予想される場合・低い場合の三段に分け、それぞれ金額の見積りが可能か不可能かで扱いを分けた別表を置いている。可能性が高く見積り可能なら引当金。可能性が高いが見積りが不可能なら、その旨・理由・主たる債務者の財政状態等を追加情報として注記する。 可能性がある程度予想される場合も、損失発生の可能性がある程度予想される旨と主たる債務者の財政状態等を追加情報として注記する。注記に書かれる内容は、主たる債務者の財政状態(大幅な債務超過等)、主たる債務者と保証人との関係内容(出資関係、役員の派遣、資金援助、営業上の取引等)、債務履行についての今後の見通しである。支援の事実そのものが、有価証券報告書に文章で出る。
税務の防波堤は、計画の合理性ひとつしかない
無利息貸付け、債権放棄、損失負担。子会社支援の実行手段はどれも、そのままでは経済的利益の供与にあたる。法人税法第37条は寄附金の損金不算入を定めており、支援額の大半が損金にならないという結末は、支援を決めた翌々年に確定する。
この扱いを外す通達が二本ある。法人税基本通達9-4-1は、子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等をした場合 について、「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるとき」は、供与する経済的利益の額は寄附金の額に該当しないものとする。畳む局面の通達である。
続く9-4-2が、続ける局面を扱う。子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等をした場合 について、「その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるとき」は、寄附金の額に該当しないものとする。
要点は注書きのほうにある。合理的な再建計画かどうかは、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断される。 そのうえで通達は、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として合理的なものと取り扱うとする。利害の対立する第三者がいない支援、つまり親会社が単独で決めた支援は、この推定が働かない。 合理性を自分で立証しに行く側に回る。
もうひとつ、9-4-1の注書きが「子会社等」の範囲を広く取っていることも押さえておく。子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる。 出資していない取引先への支援も射程に入る。
したがって実務の順序は逆になる。支援を決めてから税務を相談するのではなく、再建計画の四要素(支援額・再建管理・支援者の範囲・支援割合)を書けるかどうかを、支援の可否の判断材料そのものにする。 書けない支援は、税務上守れないだけでなく、そもそも再建の設計がない支援である。
保証料を取らないという判断は、二つの制度に触れる
親会社が子会社の債務を保証して、保証料を取らない。慣行としては珍しくないが、制度の側では二か所に触れる。
国内子会社であれば、無償の役務提供として法人税法第37条の寄附金の問題になり得る。通達9-4-2は無利息貸付け等について相当な理由がある場合の救済を置いているが、それは業績不振の子会社の倒産防止という文脈での話であり、健全な子会社への無償保証を一般的に是認するものではない。
海外子会社であれば、租税特別措置法第66条の4の移転価格税制の領域に入る。保証は国外関連者に対する役務提供であり、対価の設定が独立企業間価格から乖離していれば課税の対象になる。国税庁の移転価格事務運営要領は3-11で企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討を扱い、支援的な性質で中核的事業活動に直接関連しないなどの要件をすべて満たす役務提供については、「役務提供に係る総原価の額を従事者の従事割合、資産の使用割合その他の合理的な方法により当該役務提供を受けた者に配分した金額に、当該金額に100分の5を乗じた額を加算した金額」 を対価としていれば、その額を独立企業間価格として取り扱うとしている。保証がこの簡易な方法の射程に入るかどうかは個別に検討が要るが、論点は「取るか取らないか」ではなく「いくらで、どういう根拠で取るか」に置き換わっている。
そして、保証料を取ることには制度対応以外の効用がある。料率を決めると、子会社ごとの信用力の差が社内で数字になる。 無償で出している限り、支援の重さは誰の損益にも現れない。料率を親会社の収益として立て、子会社の費用に落とすと、支援を受けている事業の採算がその分だけ悪化して見える。採算が悪化して見えることが、支援を打ち切る議論の入口になる。 保証料の徴収は税務対応であると同時に、管理会計の装置である。
決裁と体制を、金額基準の外側で書く
最後に、決める場所の設計である。会社法第362条第4項は、取締役会が重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない事項として、第1号に重要な財産の処分及び譲受け、第2号に多額の借財 を挙げる。債務保証がこの「多額の借財」に含まれると解されている以上、規程上の保証枠の内側であっても、個別の保証が多額に当たるなら取締役会の決議は外せない。枠があることを理由に決議を省いた保証は、後から必ず問題になる。
もうひとつ、見落とされやすい経路がある。子会社の代表取締役が親会社の取締役を兼ねている場合、親会社が子会社の債務を保証する取引は、会社法第356条第1項第3号の間接取引(株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引)に当たり得る。取締役会設置会社では第365条第1項により取締役会の承認が要り、同条第2項により取引後遅滞なく重要な事実を取締役会に報告しなければならない。そして第423条第3項は、この取引によって会社に損害が生じたときは、取引をした取締役、取引を決定した取締役、承認決議に賛成した取締役は、任務を怠ったものと推定する と定める。役員の兼務が多いグループほど、この推定の射程は広い。
体制の側も明文がある。会社法第362条第4項第6号を受けた会社法施行規則第100条第1項第5号は、企業集団における業務の適正を確保するための体制として四つを挙げ、そのイに子会社の取締役等の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制、そのロに「当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制」 を置く。子会社の損失の危険を管理する規程がある会社で、保証と支援の上限や条件がそこに書かれていない、という状態は説明が難しい。
さらに、監査役には固有の武器がある。会社法第381条第3項は、監査役はその職務を行うため必要があるときは子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができるとする(同条第4項により子会社は正当な理由があるときは拒める)。支援先の実態を親会社の意思とは別に確認できる経路が、法律上一本用意されている。 使われていないだけである。
決めるのは三つ
第一に、保証残高ではなく保証の種類を数える。 実務指針第61号は注記の対象に保証予約(停止条件付保証契約、予約完結権行使型保証予約、保証契約締結義務型保証予約)と経営指導念書等の差入れを含め、経営指導念書等については標題により記載内容を画一的に判断できないこと、標題そのものが付されていないものもあることを明記して、存在の把握に留意するよう求めている。台帳は社内文書からではなく貸し手側から逆算して作る。注記の根拠は財務諸表等規則第58条と会社計算規則第103条第5号であり、簿外という言葉は使えない。
第二に、支援の可否を、再建計画の四要素が書けるかどうかで判定する。 法人税基本通達9-4-2は、業績不振の子会社等の倒産を防止するためやむを得ず行われる合理的な再建計画に基づく無利息貸付け等について寄附金該当性を否定するが、その注書きは合理性の判断要素を支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性、支援割合の合理性としている。利害の対立する複数の支援者の合意により策定された計画は原則として合理的と取り扱われる一方、親会社単独の支援にはその推定が働かない。 畳む局面には9-4-1が別に用意されており、子会社等の範囲には資本関係のない取引先も含まれる。
第三に、保証料を取り、上限と条件を毎期の更新制にする。 国内子会社については法人税法第37条の寄附金、海外子会社については租税特別措置法第66条の4の移転価格が論点になる。移転価格事務運営要領3-11は一定の要件を満たす企業グループ内役務提供について、総原価の配分額に100分の5を乗じた額を加算した金額を対価としていればそれを独立企業間価格として取り扱うとしている。料率を子会社の費用に落とすと、支援の重さが事業の採算に現れる。 そのうえで、会社法第362条第4項第2号の多額の借財に当たる保証は枠の内側でも取締役会決議を要し、役員兼務がある場合は第356条第1項第3号の間接取引として第423条第3項の任務懈怠の推定が働く。体制の根拠は会社法施行規則第100条第1項第5号ロの「子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制」である。



