記帳を外に出して二年になる。委託料は年間で相応の額を払っている。それでも経理課の残業は減っていない。上がってきた仕訳を全件見て、直して、差し戻して、また見る。会議では毎回「委託先の品質が上がらない」という言葉が出て、毎回そこで終わる。だが品質という言葉は、測っていないものを指すときにだけ便利に使われる。 何が何件、どういう理由で戻っているのかを紙に書いた会社は、この会議を二度としない。書いた瞬間に、戻っているものの多くが委託先の落ち度ではないと分かるからだ。
委託しても、内部統制の責任は一歩も動かない
まず、この前提を経営会議で共有しておく。共有されていないと、委託先管理は経理課の私的な不満処理に格下げされる。
実施基準は、委託業務の例として「企業が財務諸表の作成の基礎となる取引の承認、実行、計算、集計、記録又は開示事項の作成等の業務を企業集団の外部の専門会社に委託している場合や情報システムの開発・運用・保守などITに関する業務を外部の専門会社に委託する場合」を挙げる。記帳代行も経理BPOも、正面からここに入る。
そのうえで、責任の所在をこう書く。「委託業務に関しては、委託者が責任を有しており、委託業務に係る内部統制についても評価の範囲に含まれる」。さらに、「経営者は、委託業務に係る内部統制について、当該受託会社が実施している内部統制の整備及び運用状況を把握し、適切に評価しなければならない」と続く。
外に出したことで減るのは作業であって、責任ではない。 ここを取り違えたまま「専門の会社に任せているから安心」と説明している会社は、内部統制報告制度の評価範囲を組む段階で必ず躓く(J-SOX財務報告内部統制:3点セットを形骸化させない更新運用の実務)。
評価の手立ては二つ示されている。
一つ目が「サンプリングによる検証」で、実施基準は「委託業務結果の報告書と基礎資料との整合性を検証するとともに、委託業務の結果について、一部の項目を企業内で実施して検証する」と書く。給与計算の例が具体的で、対象人数と計算データの件数を突き合わせ、無作為抽出した一部を自社で検算する、という水準まで示されている。
二つ目が「受託会社の評価結果の利用」で、「委託業務に関連する内部統制の評価結果を記載した報告書等を受託会社から入手して、自らの判断により委託業務の評価の代替手段とすることが考えられる」とされる。日本ではこの報告書として、日本公認会計士協会の保証業務実務指針3402(旧・監査・保証実務委員会実務指針第86号)に基づく保証報告書が用いられ、一時点の整備状況を対象とするタイプ1と、一定期間の整備及び運用状況を対象とするタイプ2がある。
ただし実施基準は釘を刺している。「その際、経営者は、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない」。報告書のファイルを受け取って棚に置くことは、評価ではない。 対象期間が自社の評価対象期間を覆っているか、対象となる業務の範囲が自社の委託範囲と一致しているか、そして報告書が前提として置いている委託会社側の統制を自社が実際に行っているか。この三点を確認しない利用は、証拠として成立しない。
指標は「委託先の成績表」でなく「境界面の成績表」にする
ここから運用の話に入る。多くの会社が最初に作るのは、委託先を採点する表である。これは作らないほうがよい。作った瞬間に、委託先が守りに入って情報が出てこなくなる。
作るべきは、自社と委託先の境界面を測る表だ。中心に置くのは差戻しである。ただし件数を数えるだけでは意味がない。原因で割る。
| 差戻しの原因 | 責任の所在 | 直す主体 |
|---|---|---|
| 証憑が読めない・不足している | 自社 | 現場と経費規程 |
| 勘定科目の判断を要する取引 | 境界 | 判断基準を文書化する側 |
| 取引先マスタ・部門マスタが未整備 | 自社 | 経理と情報システム |
| 資料の提出が締切に間に合わなかった | 自社 | 現場と経理 |
| 過去の経緯を知らないと判断できない | 境界 | 委託範囲そのものの設計 |
| 手順書どおりに処理していない | 委託先 | 委託先 |
| 転記・計算の誤り | 委託先 | 委託先 |
この表を3か月ぶん埋めた会社で共通して起きるのは、下二行の件数が想定よりずっと少ないという発見である。委託先の落ち度と呼べるものは、たいてい全体の三割にも届かない。残りは自社の証憑と締切とマスタ、そして「判断が要る仕事を渡してしまった」という設計の問題である。
判断を含む工程を渡してしまう理由もはっきりしている。委託の範囲を「記帳」という粒度で決めているからだ。記帳という語には、入力と判定と照会が全部入っている。粒度を工程まで下げないと、渡した瞬間に境界が消える。業務を工程で描く作業を先にやっておくと、この線が引ける(経理業務フローの可視化:As-Isを描いて初めてムダが見える業務棚卸の進め方)。
三つの指標と、一つの金額
測る項目は増やさない。三つで足りる。
- ① 差戻し率(原因別)=差戻し件数÷処理件数。上の7原因で内訳を持つ。合計だけの数字は使わない
- ② 期日遵守率(工程別)=期日内完了件数÷対象件数。自社から資料を渡した日を起点にする
- ③ 問い合わせ件数(自社の所要時間つき)=委託先から自社への照会件数と、その回答に要した自社の時間
②の「自社から資料を渡した日を起点にする」が肝である。委託契約の締切を暦日で固定すると、自社の資料提出が遅れた月も委託先の遅延として記録される。起点を渡した日にすると、遅れの責任が自動的に分離される。指標の設計で責任を分けておけば、会議で責任の話をしなくて済む。
③は件数だけでなく、自社側の所要時間を必ず併記する。照会が月に80件あり、1件あたり自社の回答に平均12分かかっているなら、月16時間である。この16時間は委託料に含まれていない。契約書のどこにも書かれていない、自社が負担している委託コストだ。
そして、判断に使う金額は一つに束ねる。
総コスト=委託料+(社内確認工数+照会回答工数)×自社の時間単価
内製との比較はこの総コストで行う。委託料だけを内製の人件費と比べる比較は、必ず委託が安く見える。固定費と遊休を無視した比較が判断を歪める構造は、内製と外注の議論一般に当てはまる(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。
改善しないときの選択肢は三つで、順番がある
三巡回しても件数が減らない原因が残る。そのときの選択肢は三つだが、試す順番がある。
第一に、手順ではなくインプットの規定を変える。 差戻しの原因が証憑不備なら、直すべきは委託先の処理手順ではなく、社内の証憑提出のルールである。経費規程の例外を削る、証憑の提出期限を締める、写真の解像度を規定する。地味だが、効き方は大きい。
第二に、委託範囲を狭める。 判断を含む工程を自社に戻す。狭めると委託料は下がるが、社内工数は増える。総コストで比べて、下がるなら実行する。ここで注意したいのは、狭める対象を「難しい工程」で選ばないことだ。選ぶ基準は難易度ではなく、社内の経緯を知らないと止まるかどうかである。
第三に、内製へ戻す。 これは最後の手段だが、選択肢として持っていることを委託先に伝えておく意味はある。伝えていない交渉は、値下げ交渉にしかならない。
逆の方向もある。判断ごと渡す。 差戻しの多くが「判断を要する取引を渡してしまったこと」に起因しているなら、判断基準を文書化して権限ごと渡す手がある。ただしこれは委託料が上がり、内部統制の評価も重くなる。実施基準が求める評価の水準を満たせるかどうかを先に確かめてから決める。シェアードサービスとの比較も含めて、機能のどこを外に出すかという設計論に戻る(シェアードサービスとBPOの判断 経理機能のどこを外に出すか)。
個人データを渡しているなら、監督義務は契約書では終わらない
給与計算や経費精算を委託していれば、個人データを渡している。ここは別立ての義務がかかる。
個人情報保護法は、個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合について、第三者提供の制限の例外として扱っている(第27条第5項第1号)。本人の同意なく渡せる。ただしその代わりに、委託元は第25条により、個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対して必要かつ適切な監督を行わなければならない。
問われるのは契約書の条項ではなく、監督を実施した記録である。 委託契約に守秘義務条項を入れてあることは、監督を行った証拠にならない。年に一度、委託先の取扱状況を確認した記録、アクセス権限者の一覧を受け取った記録、再委託の有無を確認した記録。この種の記録がないまま事故が起きれば、委託元の管理が問われる。
なお、委託先が独自の目的でデータを使う構成なら、それはもはや委託ではない。第三者提供か共同利用として整理し直す必要がある。生成AIの機能を組み込んだ経理サービスを使う場合、入力データが学習に使われるかどうかがここに直結する。サービスの利用規約を読まずに契約している委託は、この整理ができていない可能性が高い。
更新の判断は、更新月の3か月前に始める
契約更新の判断を更新月に始めると、選択肢は「続ける」しか残らない。移行には引き継ぎ期間が要り、内製に戻すなら採用が要るからだ。3か月前に始める。
- ① 直近12か月の総コスト(委託料+社内工数×時間単価)と、その前年比
- ② 差戻し率の推移(原因別)。減っていない原因が何か、それは誰が直すものか
- ③ 委託範囲の実態と契約書の記載のずれ(契約外の作業を頼んでいないか、逆に払っているのに使っていない範囲がないか)
- ④ 受託会社の保証報告書の対象期間と対象業務が、自社の評価対象と一致しているか
④で不一致が見つかる会社は多い。報告書の対象業務が自社の委託範囲より狭い、あるいは対象期間が自社の事業年度を覆っていない。このずれは委託先に言えば直ることもあるが、更新の直前に言っても間に合わない。 3か月前という時期は、ここから逆算している。
決めるのは三つ
委託先管理を立て直すとき、決めることは三つである。
第一に、差戻しを原因別に数える。 合計件数は使わない。証憑不備、判断を要する取引、マスタ未整備、締切遅れ、経緯依存、手順逸脱、転記誤り。7原因で3か月ぶん数えれば、直す順番は自動的に決まる。数えていない品質は、改善できない品質である。
第二に、判断は総コストで行う。 委託料に、社内の確認工数と照会回答工数を時間単価で足す。この額を内製の人件費と比べる。委託料だけの比較は、必ず委託を安く見せる。
第三に、内部統制の評価を、指標の運用と同じ帳票の上に載せる。 実施基準が求めるのはサンプリングによる検証か、受託会社の評価結果の利用である。前者を選ぶなら、毎月の差戻し確認の一部をサンプリング検証の証跡として設計し直せば、二重の作業にならない。後者を選ぶなら、報告書の対象期間と対象業務、そして報告書が前提とする自社側の統制を毎年確認する。
最後に一つ。委託先を替える判断は、指標が三巡しても改善しないときに限る。替えた直後は必ず数字が悪化する。 前の委託先が持っていた自社固有の知識が消えるからだ。数えないまま替えると、悪化した数字を見てまた替えることになる。境界面を締めてから替えれば、悪化の幅は小さい。渡し方の設計は、外部人材を受け入れるときの線引きと同じ構造をしている(経理と事業部門の役割分担|「経理がやってくれない」と言われる会社の依頼の受け方)。



