記帳を外に出して二年になる。委託料は年間で相応の額を払っている。それでも経理課の残業は減っていない。上がってきた仕訳を全件見て、直して、差し戻して、また見る。会議では毎回「委託先の品質が上がらない」という言葉が出て、毎回そこで終わる。だが品質という言葉は、測っていないものを指すときにだけ便利に使われる。 何が何件、どういう理由で戻っているのかを紙に書いた会社は、この会議を二度としない。書いた瞬間に、戻っているものの多くが委託先の落ち度ではないと分かるからだ。

POINT
先に三つ確認しておく。第一に、外に出しても責任は動かない。企業会計審議会が2023年4月7日に公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」は、委託業務の評価について「委託業務に関しては、委託者が責任を有しており、委託業務に係る内部統制についても評価の範囲に含まれる」とし、「委託業務が、企業の重要な業務プロセスの一部を構成している場合には、経営者は、当該業務を提供している外部の受託会社の業務に関し、その内部統制の有効性を評価しなければならない」と定める。契約で作業を渡しても、評価の義務は手元に残る。 第二に、その評価の手立ては二つしか示されていない。実施基準は「サンプリングによる検証」と「受託会社の評価結果の利用」を挙げ、前者の例として給与計算業務について「受託会社に委託した給与データの対象人数を受託会社から受領した計算データの件数と、企業において比較するとともに、無作為に抽出したその一部について、企業において検算を実施する」と具体的に書いている。後者を選ぶ場合は「経営者は、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない」とされる。受託会社の報告書をもらうこと自体は、評価の完了ではない。 第三に、指標は委託先の成績表ではなく境界面の成績表として作る。差戻し率を委託先起因と自社起因に割り、期日遵守率と問い合わせ件数を毎月測る。判断は委託料と社内確認工数を足した総コストで行い、改善しないなら範囲を狭めるか内製へ戻す。

委託しても、内部統制の責任は一歩も動かない

まず、この前提を経営会議で共有しておく。共有されていないと、委託先管理は経理課の私的な不満処理に格下げされる。

実施基準は、委託業務の例として「企業が財務諸表の作成の基礎となる取引の承認、実行、計算、集計、記録又は開示事項の作成等の業務を企業集団の外部の専門会社に委託している場合や情報システムの開発・運用・保守などITに関する業務を外部の専門会社に委託する場合」を挙げる。記帳代行も経理BPOも、正面からここに入る。

そのうえで、責任の所在をこう書く。「委託業務に関しては、委託者が責任を有しており、委託業務に係る内部統制についても評価の範囲に含まれる」。さらに、「経営者は、委託業務に係る内部統制について、当該受託会社が実施している内部統制の整備及び運用状況を把握し、適切に評価しなければならない」と続く。

外に出したことで減るのは作業であって、責任ではない。 ここを取り違えたまま「専門の会社に任せているから安心」と説明している会社は、内部統制報告制度の評価範囲を組む段階で必ず躓く(J-SOX財務報告内部統制:3点セットを形骸化させない更新運用の実務)。

評価の手立ては二つ示されている。

一つ目が「サンプリングによる検証」で、実施基準は「委託業務結果の報告書と基礎資料との整合性を検証するとともに、委託業務の結果について、一部の項目を企業内で実施して検証する」と書く。給与計算の例が具体的で、対象人数と計算データの件数を突き合わせ、無作為抽出した一部を自社で検算する、という水準まで示されている。

二つ目が「受託会社の評価結果の利用」で、「委託業務に関連する内部統制の評価結果を記載した報告書等を受託会社から入手して、自らの判断により委託業務の評価の代替手段とすることが考えられる」とされる。日本ではこの報告書として、日本公認会計士協会の保証業務実務指針3402(旧・監査・保証実務委員会実務指針第86号)に基づく保証報告書が用いられ、一時点の整備状況を対象とするタイプ1と、一定期間の整備及び運用状況を対象とするタイプ2がある。

ただし実施基準は釘を刺している。「その際、経営者は、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない」。報告書のファイルを受け取って棚に置くことは、評価ではない。 対象期間が自社の評価対象期間を覆っているか、対象となる業務の範囲が自社の委託範囲と一致しているか、そして報告書が前提として置いている委託会社側の統制を自社が実際に行っているか。この三点を確認しない利用は、証拠として成立しない。

指標は「委託先の成績表」でなく「境界面の成績表」にする

ここから運用の話に入る。多くの会社が最初に作るのは、委託先を採点する表である。これは作らないほうがよい。作った瞬間に、委託先が守りに入って情報が出てこなくなる。

作るべきは、自社と委託先の境界面を測る表だ。中心に置くのは差戻しである。ただし件数を数えるだけでは意味がない。原因で割る。

差戻しの原因責任の所在直す主体
証憑が読めない・不足している自社現場と経費規程
勘定科目の判断を要する取引境界判断基準を文書化する側
取引先マスタ・部門マスタが未整備自社経理と情報システム
資料の提出が締切に間に合わなかった自社現場と経理
過去の経緯を知らないと判断できない境界委託範囲そのものの設計
手順書どおりに処理していない委託先委託先
転記・計算の誤り委託先委託先

この表を3か月ぶん埋めた会社で共通して起きるのは、下二行の件数が想定よりずっと少ないという発見である。委託先の落ち度と呼べるものは、たいてい全体の三割にも届かない。残りは自社の証憑と締切とマスタ、そして「判断が要る仕事を渡してしまった」という設計の問題である。

判断を含む工程を渡してしまう理由もはっきりしている。委託の範囲を「記帳」という粒度で決めているからだ。記帳という語には、入力と判定と照会が全部入っている。粒度を工程まで下げないと、渡した瞬間に境界が消える。業務を工程で描く作業を先にやっておくと、この線が引ける(経理業務フローの可視化:As-Isを描いて初めてムダが見える業務棚卸の進め方)。

三つの指標と、一つの金額

測る項目は増やさない。三つで足りる。

毎月測る3指標
  • ① 差戻し率(原因別)=差戻し件数÷処理件数。上の7原因で内訳を持つ。合計だけの数字は使わない
  • ② 期日遵守率(工程別)=期日内完了件数÷対象件数。自社から資料を渡した日を起点にする
  • ③ 問い合わせ件数(自社の所要時間つき)=委託先から自社への照会件数と、その回答に要した自社の時間

②の「自社から資料を渡した日を起点にする」が肝である。委託契約の締切を暦日で固定すると、自社の資料提出が遅れた月も委託先の遅延として記録される。起点を渡した日にすると、遅れの責任が自動的に分離される。指標の設計で責任を分けておけば、会議で責任の話をしなくて済む。

③は件数だけでなく、自社側の所要時間を必ず併記する。照会が月に80件あり、1件あたり自社の回答に平均12分かかっているなら、月16時間である。この16時間は委託料に含まれていない。契約書のどこにも書かれていない、自社が負担している委託コストだ。

そして、判断に使う金額は一つに束ねる。

総コスト=委託料+(社内確認工数+照会回答工数)×自社の時間単価

内製との比較はこの総コストで行う。委託料だけを内製の人件費と比べる比較は、必ず委託が安く見える。固定費と遊休を無視した比較が判断を歪める構造は、内製と外注の議論一般に当てはまる(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。

改善は月次で一巡させる。四半期に一度しか見ない指標は、四半期に一度しか直らない。
① 原因別に測る
差戻しを7原因で割り、期日遵守は資料提出日を起点に、照会は自社の回答時間つきで数える
② 多い順に一つだけ直す
件数の最も多い原因を一つ選ぶ。同時に複数を直すと、何が効いたか分からなくなる
境界面が締まる状態
④ 範囲を動かす
三巡しても減らない原因は、改善でなく範囲の問題である。工程を戻すか、逆に判断ごと渡す
③ 直す主体へ返す
自社起因は現場か経理へ、委託先起因は委託先へ。境界のものは委託範囲の設計へ返す
指標を作る目的は評価でなく、翌月に何を一つ直すかを決めることにある。

改善しないときの選択肢は三つで、順番がある

三巡回しても件数が減らない原因が残る。そのときの選択肢は三つだが、試す順番がある。

第一に、手順ではなくインプットの規定を変える。 差戻しの原因が証憑不備なら、直すべきは委託先の処理手順ではなく、社内の証憑提出のルールである。経費規程の例外を削る、証憑の提出期限を締める、写真の解像度を規定する。地味だが、効き方は大きい。

第二に、委託範囲を狭める。 判断を含む工程を自社に戻す。狭めると委託料は下がるが、社内工数は増える。総コストで比べて、下がるなら実行する。ここで注意したいのは、狭める対象を「難しい工程」で選ばないことだ。選ぶ基準は難易度ではなく、社内の経緯を知らないと止まるかどうかである。

第三に、内製へ戻す。 これは最後の手段だが、選択肢として持っていることを委託先に伝えておく意味はある。伝えていない交渉は、値下げ交渉にしかならない。

逆の方向もある。判断ごと渡す。 差戻しの多くが「判断を要する取引を渡してしまったこと」に起因しているなら、判断基準を文書化して権限ごと渡す手がある。ただしこれは委託料が上がり、内部統制の評価も重くなる。実施基準が求める評価の水準を満たせるかどうかを先に確かめてから決める。シェアードサービスとの比較も含めて、機能のどこを外に出すかという設計論に戻る(シェアードサービスとBPOの判断 経理機能のどこを外に出すか)。

個人データを渡しているなら、監督義務は契約書では終わらない

給与計算や経費精算を委託していれば、個人データを渡している。ここは別立ての義務がかかる。

個人情報保護法は、個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合について、第三者提供の制限の例外として扱っている(第27条第5項第1号)。本人の同意なく渡せる。ただしその代わりに、委託元は第25条により、個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対して必要かつ適切な監督を行わなければならない。

問われるのは契約書の条項ではなく、監督を実施した記録である。 委託契約に守秘義務条項を入れてあることは、監督を行った証拠にならない。年に一度、委託先の取扱状況を確認した記録、アクセス権限者の一覧を受け取った記録、再委託の有無を確認した記録。この種の記録がないまま事故が起きれば、委託元の管理が問われる。

なお、委託先が独自の目的でデータを使う構成なら、それはもはや委託ではない。第三者提供か共同利用として整理し直す必要がある。生成AIの機能を組み込んだ経理サービスを使う場合、入力データが学習に使われるかどうかがここに直結する。サービスの利用規約を読まずに契約している委託は、この整理ができていない可能性が高い。

更新の判断は、更新月の3か月前に始める

契約更新の判断を更新月に始めると、選択肢は「続ける」しか残らない。移行には引き継ぎ期間が要り、内製に戻すなら採用が要るからだ。3か月前に始める。

更新3か月前に揃える4点
  • ① 直近12か月の総コスト(委託料+社内工数×時間単価)と、その前年比
  • ② 差戻し率の推移(原因別)。減っていない原因が何か、それは誰が直すものか
  • ③ 委託範囲の実態と契約書の記載のずれ(契約外の作業を頼んでいないか、逆に払っているのに使っていない範囲がないか)
  • ④ 受託会社の保証報告書の対象期間と対象業務が、自社の評価対象と一致しているか

④で不一致が見つかる会社は多い。報告書の対象業務が自社の委託範囲より狭い、あるいは対象期間が自社の事業年度を覆っていない。このずれは委託先に言えば直ることもあるが、更新の直前に言っても間に合わない。 3か月前という時期は、ここから逆算している。

現場では
従業員320名、経理4名のサービス業で、記帳と支払データ作成、給与計算を3年前から外部に委託していた。委託料は年間1,100万円台。にもかかわらず、経理課長の月次の残業は委託前とほとんど変わっていなかった。管理本部長が最初にやったのは、値下げ交渉でも委託先の変更でもなく、3か月分の差戻しを原因別に数えることだった。差戻しは月平均で210件。内訳は、証憑の不足と判読不能が38%、勘定科目の判断を要する取引が24%、取引先マスタの未整備が17%、資料提出の遅れが9%、委託先の転記誤りが8%、残りが手順逸脱だった。委託先の落ち度と言えるのは、合わせて1割強しかなかった。 数え終えてから、経理課長がこう言っている。二年間、毎月の会議で相手のせいにしていた。次に、照会の所要時間を測った。委託先から自社への照会は月に94件、回答に要した自社の時間は月19時間。委託料の外側で、年間228時間を負担していた計算になる。打ち手は三つ、順番に打った。まず経費規程の例外を六つ削り、証憑の提出をシステム経由に一本化した。三か月で証憑起因の差戻しが38%から14%に下がった。次に、勘定科目の判断が要る取引を洗い出し、判断基準を12ページの文書にした。判断を渡すのではなく、判断が要らない形に書き換える作業である。取引の型を24に分類し、型ごとに科目を固定した。分類に載らないものだけを自社に戻す運用にしたところ、この原因の差戻しが24%から7%になった。最後に取引先マスタを整備した。ここは3か月かかったが、恒久的に消える種類の例外だった。半年後、差戻しは月210件から78件へ、照会の回答時間は月19時間から6時間へ下がっている。委託料は1円も変わっていない。変わったのは、渡す前の自社の状態だけである。 契約更新のとき、管理本部長は範囲を広げる提案をした。狭めるのでも切るのでもなく、給与計算の年末調整まで含める形である。境界面が締まっていれば、渡せる範囲は広がる。この順序を逆にしていたら、範囲を広げた分だけ差戻しも増えていた。

決めるのは三つ

委託先管理を立て直すとき、決めることは三つである。

第一に、差戻しを原因別に数える。 合計件数は使わない。証憑不備、判断を要する取引、マスタ未整備、締切遅れ、経緯依存、手順逸脱、転記誤り。7原因で3か月ぶん数えれば、直す順番は自動的に決まる。数えていない品質は、改善できない品質である。

第二に、判断は総コストで行う。 委託料に、社内の確認工数と照会回答工数を時間単価で足す。この額を内製の人件費と比べる。委託料だけの比較は、必ず委託を安く見せる。

第三に、内部統制の評価を、指標の運用と同じ帳票の上に載せる。 実施基準が求めるのはサンプリングによる検証か、受託会社の評価結果の利用である。前者を選ぶなら、毎月の差戻し確認の一部をサンプリング検証の証跡として設計し直せば、二重の作業にならない。後者を選ぶなら、報告書の対象期間と対象業務、そして報告書が前提とする自社側の統制を毎年確認する。

最後に一つ。委託先を替える判断は、指標が三巡しても改善しないときに限る。替えた直後は必ず数字が悪化する。 前の委託先が持っていた自社固有の知識が消えるからだ。数えないまま替えると、悪化した数字を見てまた替えることになる。境界面を締めてから替えれば、悪化の幅は小さい。渡し方の設計は、外部人材を受け入れるときの線引きと同じ構造をしている(経理と事業部門の役割分担|「経理がやってくれない」と言われる会社の依頼の受け方)。

まとめ
経理を外注したのに社内工数が減らないのは、委託先の品質でなく境界面の設計に原因がある。前提として、外に出しても内部統制の責任は動かない。企業会計審議会が2023年4月7日に公表した実施基準の改訂は、委託業務の例として取引の承認・実行・計算・集計・記録・開示事項の作成等の外部委託やIT業務の外部委託を挙げたうえで、委託業務に関しては委託者が責任を有し、委託業務に係る内部統制も評価の範囲に含まれるとし、委託業務が重要な業務プロセスの一部を構成している場合には経営者が受託会社の内部統制の有効性を評価しなければならないと定める。評価の手立ては二つ示されている。一つはサンプリングによる検証で、委託業務結果の報告書と基礎資料との整合性を検証するとともに一部の項目を企業内で実施して検証するもので、給与計算については対象人数と計算データの件数の比較と無作為抽出した一部の検算が例示されている。もう一つは受託会社の評価結果の利用で、内部統制の評価結果を記載した報告書等を入手して評価の代替手段とするものだが、経営者はその報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない。日本ではこの報告書として保証業務実務指針3402(旧・監査・保証実務委員会実務指針第86号)に基づく保証報告書が用いられ、一時点の整備状況を対象とするタイプ1と一定期間の整備及び運用状況を対象とするタイプ2がある。受け取るだけでは評価にならず、対象期間と対象業務の一致、および報告書が前提とする委託会社側の統制の実施を確認する必要がある。運用面では、委託先を採点する表でなく境界面を測る表を作る。差戻しを、証憑不備、判断を要する取引、マスタ未整備、締切遅れ、経緯依存、手順逸脱、転記誤りの7原因で割ると、委託先の落ち度と呼べるものは全体の一部にとどまることが多い。測る指標は三つでよい。原因別の差戻し率、工程別の期日遵守率(起点は自社が資料を渡した日に置く)、そして自社の回答所要時間を併記した問い合わせ件数である。判断は、委託料に社内確認工数と照会回答工数を時間単価で足した総コストで行う。改善しない原因への対応は順番がある。まずインプットの規定を変え、次に委託範囲を狭め、最後に内製へ戻す。逆に判断基準を文書化して権限ごと渡す選択肢もあるが、委託料と内部統制評価の負荷が上がる。個人データを渡している場合、個人情報保護法は委託に伴う提供を第三者提供の制限の例外とする一方(第27条第5項第1号)、委託元に対し委託先への必要かつ適切な監督を求める(第25条)。問われるのは契約条項でなく監督の実施記録である。委託先が独自の目的でデータを使う構成は委託に収まらず、第三者提供または共同利用として整理し直す必要がある。契約更新の判断は更新月の3か月前に着手し、直近12か月の総コストと前年比、原因別の差戻し率の推移、委託範囲の実態と契約書のずれ、保証報告書の対象期間・対象業務と自社の評価対象の一致、の4点を揃える。委託先の交代は指標が三巡しても改善しないときに限る。交代直後は自社固有の知識が失われて必ず数字が悪化するため、境界面を締めてから動かす。

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