請求書の読み取りと自動照合の仕組みを入れて1年がたった。導入の時の目標は、請求書の7割を人の手を介さずに支払の準備まで進めることだったが、実績は5割強で止まっている。 読み取りの精度は99パーセントを超えていて、原因はそこにはない。残りの半分近くは、発注書のない請求書で、経理が発注した部署を探し、承認をメールで回してから計上している。経理部長は、全社に通達を出したいと言う。発注番号のない請求書は受け付けない、つまりNo PO No Payである。 購買部も賛成した。法務部の担当者だけが、取引先によっては、その通達どおりに運用すると法令に触れると指摘した。CFOが確かめたかったのは、締め付けの向きが正しいかどうかだった。 発注書を切らずに発注しているのは、社内の発注者のほうである。

POINT
発注書をめぐる法令の要請は、2026年1月1日から一段強くなった。 この日に、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改正した中小受託取引適正化法(取適法)が施行され、対象となる取引の範囲が広がった。対象の取引では、発注する側に、発注の内容を書面か電磁的方法で明示する義務があり、支払期日は、物品やサービスを受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で定めなければならない。 手形による支払は禁じられた。2024年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)も、個人や一人法人への業務委託について、取引条件の明示と、受領から60日以内の支払期日を求めている(支払期日の定めは、従業員を使用する発注者に課される)。このため、対象の取引で発注書を切らずに発注すれば、それ自体が発注者の側の法令違反になりうる。 発注番号がないことを理由に請求書を突き返しても、支払期日は受領の日から数えるので、期限は止まらない。No PO No Payの「No Pay」は、取引先に向けられる規則ではなく、社内の発注者に向けて作る規則である。

自動化の上限を決めるのは、発注書のない請求と事後発注の割合である

請求書の自動照合が成立するのは、発注書と入荷の記録と請求書の三つがそろった請求だけである。発注書のない請求書は、請求書と誰かの承認の二面でしか照合できず、その承認は人が行う。 したがって、支払の自動化の上限は、発注書のある請求の割合でほぼ決まる。ここまでは、請求書の読み取りの自動化を検討した会社なら知っている(請求書OCRの自動化が三面照合の例外処理で止まる理由とERP側に寄せる設計)。

見落とされやすいのは、事後発注である。 請求書が届いてから、発注した部署が慌てて発注書を切り、入荷の記録を入れる。そうすれば三面照合は形の上で通り、自動化の率も上がって見える。だが、発注の前に予算と取引の条件を承認するという統制は、そこで空になっている。 事後に切った発注書は、届いた請求書の金額を写しただけで、価格を交渉した記録でも、誰かが発注を認めた記録でもない。

事後発注は、ERPのデータで数えられる。 SAPなら、発注書の登録日(EKKO-AEDAT)と、請求書の伝票日付(RBKP-BLDAT)や入荷の記帳日を比べれば、発注書が請求や入荷より後に作られた件数が出る。自動化の率を報告するときは、事後発注を除いた率を並べる。 冒頭の会社で数えれば、5割強の自動照合のうち、どれだけが事後発注で底上げされているかが分かる。

線は費目で引き、三つの型に分ける

全社一律のNo PO No Payは、現場で運用できない。電気料金や税金に発注書を切れと言われても、切る意味がないからである。意味のない規則は、すぐに抜け道が常態化し、意味のある規則まで守られなくなる。

線は、その費目に、発注の前の意思決定があるかどうかで引く。 費目は三つの型に分かれる。

一つ目は、発注の意思決定がそもそもない型である。 税金、社会保険料、電気やガスなどの公共料金、銀行の手数料。相手を選ぶ余地も、金額を交渉する余地もほとんどない。この型は発注書の対象から外し、口座振替の契約や、取引先のマスタと費目のルールで自動計上し、費目の責任者が月次で事後に確認する。 発注書を求めれば、事後発注を量産するだけである。

二つ目は、意思決定が契約の時に一度だけある型である。 事務所の賃料、リース料、保守の契約、クラウドサービスの月額料金。意思決定は契約の締結で終わっていて、毎月の請求は契約の履行である。この型は、契約をERPに登録し、期間と上限の金額を持った包括の発注書か、定期の支払の計画にする。 毎月の請求書は、登録した契約と照合する。契約の更新や金額の改定のときだけ、改めて承認を回す。

三つ目は、意思決定が都度ある型である。 外注の加工や設計、広告、修繕、備品、士業やコンサルティングへの報酬。相手を選び、金額を決め、発注するかどうかを決める判断が、取引のたびにある。この型は発注書を必須にし、請求書が届いてから切る発注は、すべて例外として扱う。 取適法やフリーランス法の対象になる取引の多くも、この型に入る。

発注書を求める線は、全社一律で引くより、費目ごとの意思決定の有無で引くほうが守られる
よくある通達全社一律のNo PO No Pay
現場の守りやすさ ●○○
事後発注の見えやすさ ●○○
法令への適合 ●○○
公共料金にも賃料にも発注書を求める。守れない規則は、請求が届いてから発注書を切る運用で形だけ満たされ、事後発注が自動化の率を底上げして統制は空になる。請求書を突き返しても、取適法やフリーランス法の支払期日は止まらない。
先に決める費目を三つの型に分ける
現場の守りやすさ ●●●
事後発注の見えやすさ ●●●
法令への適合 ●●●
意思決定がない費目はマスタと口座振替で、契約時に一度決める費目は契約の登録と包括の発注で処理し、都度決める費目だけ発注書を必須にする。事後発注は理由と承認をERPに残させ、部署別に数える。
発注書を必須にするのは、都度の判断がある費目だけでよい。そこで事後発注を例外として記録させれば、自動化の率と統制の両方が上がる。

事後発注は禁止せず、例外として記録させる

三つ目の型でも、事後発注はゼロにはならない。夜間の設備の故障で修理業者を呼ぶ、発注の権限を持つ人が出張で不在のまま納期が来る。 こうした例外を禁じれば、例外の処理が見えないところに潜るだけである。

そこで、ERPの中で、例外としての印と理由を付けて事後発注を切らせる。 発注書に事後発注の区分を持たせ、理由を、緊急の修繕、発注者の不在、取引先の事情などの決まった選択肢から選ばせる。承認は、通常の発注の承認者に加えて、発注した部署の上長に回す。 メールで承認を回すと、記録が伝票からたどれなくなり、監査や税務調査のたびに突合の説明が要る(支払と稟議の承認をSAPに置くか外部ワークフローに置くか、二重承認が生まれる境目)。

記録させれば、数えられる。 部署別、費目別、取引先別に、事後発注の件数と金額を毎月集計する。集計した結果が特定の部署や取引先に偏っていれば、原因はたいてい決まっている。発注の権限を持つ人が少なすぎる、包括の発注にすべき反復の取引を都度の発注で回している、発注書の入力が面倒で後回しにされている、のいずれかである。原因が分かれば、権限の見直しや、二つ目の型への付け替えで、例外そのものを減らせる。

発注書のない請求と事後発注は、不正の入口にもなる。 架空の取引先からの請求書や、実在の取引先を装った振込先の変更は、発注の記録と照らせないところを狙ってくる。例外を記録し、承認者を二人にすることは、支払の担当者を守る仕組みにもなる(なりすまし送金指示から支払担当を守る、経理の運用と権限の組み直し方)。

締め付ける相手は、取引先でなく社内の発注者である

No PO No Payを取引先に向けると、法令の問題になるうえに、効き目も薄い。発注書を切らなかったのは取引先ではない。 請求書を突き返されて困るのは取引先で、発注した部署は困らない。

取引先にお願いできるのは、請求書に発注番号を書いてもらうことまでである。取引の基本契約や、取引の開始の時の案内で、発注番号の記載を求める。ただし、発注番号の書かれていない請求書が届いても、受け取った日から数える支払期日は守る。 取適法やフリーランス法の対象でない大手の取引先でも、合意した支払条件より遅らせれば、信用を失う(支払条件の見直し、手形廃止と支払サイト短縮を運転資本で吸収する方法)。

社内の発注者には、三段で効かせる。 第一に、事後発注の件数と金額を、部署別に毎月の経営会議の資料に載せる。見えるだけで減る部署は多い。第二に、事後発注の金額を、部門の予算の実績の上で未承認の支出として区別して示す。第三に、繰り返す部署には、発注の権限の範囲を見直す。 権限が広すぎて自分で切れるのに切らない部署と、権限が足りずに切れない部署とでは、手当ての向きが逆になる。

支払の段階の統制は、ERPの支払ブロックでかける。発注書のない請求書や事後発注の請求書には、承認が済むまで支払ブロックを付け、自動支払の対象から外す。 ただし、ブロックを外す期限を支払期日から逆算して管理し、社内の承認の遅れで取引先への支払が遅れないようにする(SAPの自動支払処理から支払ブロックと手振込の例外が消えない原因と減らし方)。

設例

電子部品のメーカー(売上高650億円、3月決算)。請求書は月に約9,000枚で、読み取りと自動照合の仕組みを入れて1年たっても、自動照合の率は51パーセントで止まっていた。 経理部が1か月分の請求書を費目と発注の有無で分けると、発注書のない請求書が全体の34パーセントあり、その内訳は、公共料金や税金などの意思決定のない型が9パーセント、賃料や保守やクラウドサービスの月額料金など契約時に一度決める型が12パーセント、都度決める型が13パーセントだった。さらに、自動照合できた51パーセントのうち、発注書の登録日が入荷や請求書の日付より後の事後発注が、全体の15パーセントを占めていた。 設計部門では、取適法の対象となる外注先への図面の作成の依頼の一部で、発注書を切らずに作業を始めていたことも分かった。会社は、全社一律のNo PO No Payの通達案を取り下げた。意思決定のない型は取引先のマスタと費目のルールで自動計上し、契約時に一度決める型は契約をERPに登録して包括の発注書に切り替えた。 都度決める型は発注書を必須にし、事後発注には区分と理由の選択と、部署の上長の承認を加えた。設計部門の外注は、作業の開始の前に発注書を出す手順に改め、法務部が過去の取引の確認に入った。 部署別の事後発注の件数は、経営会議の資料に載せた。6か月後、事後発注は全体の6パーセントまで下がり、事後発注を除いた自動照合の率は36パーセントから68パーセントに上がった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、自動化の率を、事後発注を除いて測る。 請求書が届いてから切った発注書で三面照合を通しても、発注の前の承認という統制は空である。発注書の登録日と請求書や入荷の日付を比べ、事後発注の件数と金額を出す。

第二に、発注書を求める線を費目の三つの型で引く。 意思決定のない費目はマスタと口座振替で、契約時に一度決める費目は契約の登録と包括の発注で処理し、都度決める費目だけ発注書を必須にする。都度決める費目の事後発注は、禁止せず、理由と承認をERPに記録させる。

第三に、締め付ける相手を社内の発注者にする。 取適法やフリーランス法の対象の取引では、発注内容の明示は発注者の義務で、支払期日は受領から60日以内である。取引先には発注番号の記載をお願いするにとどめ、支払期日は守る。 部署別の事後発注は経営会議で見せ、繰り返す部署は発注の権限を見直す。

まとめ
自動照合の率が伸びないなら、読み取り精度より先に、発注書のない請求と事後発注の割合を疑う。事後発注を除いた率で測り直すと、発注前の承認が抜けている件数が見えてくる。発注書を必須にするのは都度決める費目だけでよく、事後発注は禁止せずに理由と承認をERPに残させる。取引先には発注番号の記載をお願いするにとどめて支払期日を守り、締め付けは社内の発注者に向ける。

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