新リース会計基準の対応で、経理課長が表計算のひな形を作る。契約番号、開始日、解約不能期間、延長オプションの扱い、月額賃料、割引率を入れると、リース負債の返済表と使用権資産の償却表が出てくる。 試しに本社と主要な店舗の20件を入れると、影響額は半日で出た。経営会議への報告もこの数字で済んだ。課長は、残りの契約もこのひな形に入れていけばよいと考える。 その翌月、総務部から、4月の改定で賃料が変わった店舗の一覧が回ってくる。41件ある。 課長は、改定した月から返済表を作り直す手順を書き出してみて、手が止まる。41件は、年に何度かある改定の時期の一回分にすぎない。

POINT
計算をどこで持つかを決める要件は、基準の本文より、変更の定めのほうに書かれている。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(2024年9月13日公表)第58項は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとし、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用を認める。 第31項は、借手のリース期間を、解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定するとする。第41項は、契約条件の変更がない場合でも、借手の統制下にあり、かつオプションの行使が合理的に確実かどうかの決定に影響を与える、重要な事象又は重要な状況が生じたときに、借手のリース期間を見直し、リース負債の計上額を見直すとする。 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」は、計算の手順をさらに具体的に書く。第45項は、独立したリースとして扱わない契約条件の変更について、変更の発効日に、変更後の条件を反映した借手のリース料の現在価値までリース負債を修正し、範囲が縮小される変更は使用権資産を減額して差額を損益に計上し、それ以外の変更は修正額を使用権資産に加減するとする。 第46項は、契約条件の変更を伴わないリース期間の変更などの場合に、事象が生じた日にリース負債を修正し、修正額を使用権資産に加減し、使用権資産をゼロまで減額してもなおリース負債の減額が残る場合は、残額を損益に計上するとする。そして第24項は、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料を、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料に含め、第48項は、その指数又はレートが変動して今後支払うリース料に変動が生じたときに、残りの期間にわたりリース負債を修正し、修正額を使用権資産に加減するとする(第26項により将来の変動を見積る方法を選んだリースは、第49項により決算日ごとに見直す)。賃料改定の協議条項は、日本の不動産の賃貸借では珍しくない。 計算を省ける範囲も決まっている。第20項は、リース開始日に借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まない短期リースについて、第22項は、重要性が乏しい減価償却資産を購入時に費用処理する方法を採用している場合の、その基準額以下のリースや、事業内容に照らして重要性が乏しくリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース、新品時の原資産の価値が少額のリースについて(後の二つはいずれかを選択し、選んだ方法を首尾一貫して適用する)、使用権資産とリース負債を計上しない簡便的な取扱いを選べるとする。 結論の背景は、この1件当たりの金額の判定が、旧適用指針のリース料総額300万円以下の判定を踏襲する目的だと説明している。最後に税務である。 令和7年度の税制改正で、法人が税務上のオペレーティング・リース取引により資産を賃借した場合は、引き続き賃貸借取引として、支払うこととされている金額のうち債務の確定した部分を損金の額に算入することとされた(法人税法第53条)。一方、中途解約ができず、借手が資産からの経済的利益を実質的に享受し使用に伴う費用を実質的に負担する、法人税法第64条の2のリース取引は、従前どおり売買があったものとして扱い、所有権移転外リース取引はリース期間定額法で償却する。税務上のオペレーティング・リース取引では、会計上は減価償却費と利息になり、税務上は支払賃料のまま残る。 税務上のリース取引では、会計の償却費と利息と、税務の償却費との差を追う。どちらにしても、契約ごとに税務上の区分を持ち、二本の計算を持つことになる。

表計算で組めるのは、初回の計算だけである

リース負債の初回の計算そのものは、難しくない。リース料の支払予定を並べ、割引率で現在価値に直し、その額から返済表と使用権資産の償却表を作る。 表計算で十分に組める。冒頭の課長が半日で20件の影響額を出せたのは、そのためである。経営に上げる影響額の見立ても、賃料の大きい上位の契約で足りる(新リース会計基準の影響、借手が契約の洗い出しより先に見る財務指標)。

重いのは、その後である。基準は、契約が動くたびに計算のやり直しを求める。 賃料を改定すれば、改定後の賃料で残りの期間のリース負債を修正する。店舗の改装で延長の見込みが変われば、リース期間を見直して修正する。一部の区画を返せば、範囲の縮小として使用権資産を減らし、差額を損益に入れる。どの変更も、変更した日を起点に、その契約の返済表と償却表を作り直し、修正の仕訳を切ることになる。

表計算では、この作り直しが一件ずつの手作業になる。作り直すたびに式を上書きすれば、変更前の計算が消え、監査で経緯を聞かれても再現できない。 変更前のシートを残せば、一つの契約に版が増え、どれが最新かの管理が要る。表計算で持てるかどうかは、契約の件数だけでなく、年に何件の変更が起きるかでも決まる(SAPから出したExcelが正本になっていないか、加工した集計表をどこまで許すか)。

変更の件数は、総務と店舗開発の記録から数える

変更の件数は、経理の台帳には残っていない。これまでオペレーティング・リースとして賃料を費用で処理してきた契約では、賃料が変わっても、経理が見るのは翌月からの支払額の変化だけだったからである。

数えるには、契約を管理している部門の記録に当たる。不動産なら総務や店舗開発の賃料改定の稟議と、出退店・改装の計画。車両なら入替と中途解約の記録。 過去3年分を集めれば、年間の変更件数の見当がつく。区分は、基準が求める処理に合わせて四つにする。賃料の改定(適用指針第48項)、リース期間の見直しにつながる改装や出退店の計画の変更(基準第41項)、契約条件の変更による範囲の拡大や縮小(適用指針第45項)、中途解約である。

件数が出たら、一件あたりの作業時間を掛ける。再計算、修正仕訳、レビューまで含めて一件1時間半なら、年216件の変更は月に平均18件、27時間になる。 この時間が決算の締めの週に重なるかどうかで、表計算の限界が見える。

ERP標準か専用システムかは、件数・変更頻度・子会社の数で決める

計算の器の候補は三つある。表計算、ERPの標準機能、リース会計の専用システムである。 ERPの標準機能は、SAP S/4HANAなら、不動産管理(RE-FX)の契約管理を基盤にしたContract and Lease Managementが、契約の管理と使用権資産・リース負債の評価をERPの中で持つ。専用システムは、契約の管理と再計算に特化し、仕訳をERPに送る。

器は、契約件数と年間の変更件数の二軸で分けると、象限ごとに候補が絞れる
年間の変更件数(改定・期間の見直し・条件変更) 多 →
専用システムで持つ
件数は少ないが賃料改定や期間の見直しが多い。ERPに契約管理を組むほどの量はないので、再計算の履歴と根拠を契約ごとに残せる専用システムを優先する
表計算は選ばない
不動産を多く借りる小売・外食・物流。変更を契約管理の側で検知して再計算と仕訳を流す。子会社が共通のERPに乗っていればERPの契約管理、乗っていなければグループで一つの専用システム
表計算で持つ
計上対象が数十件で変更も年に数件。計算式の検証、版の管理、レビューの記録を決めれば足りる
ERPの標準機能と一体で持つ
車両や機器のように件数は多いが契約が定型で変更が少ない。固定資産と同じ器で償却と仕訳を自動で回すことを優先する
計上対象の契約件数 多 →
表計算の限界は、件数だけでなく変更の件数でも決まる。右上に入る会社が、最も早く選定を終える必要がある。

三つ目の軸が、連結の対象となる子会社の数と、子会社が親会社と同じERPに乗っているかどうかである。ERPの標準機能は、そのERPに乗っている会社しか覆えない。子会社が別の会計システムを使っていれば、親会社だけがERPで計算し、子会社は表計算という形になり、連結の段階で割引率の決め方や簡便的な取扱いの選択の揃い方を確かめる作業が残る。 適用指針第21項は、連結財務諸表において、個別財務諸表で科目ごと又は類似する原資産のグループごとに行った短期リースの簡便的な取扱いの選択を見直さないことができるとしている。見直さないことができるということは、子会社ごとに選択が違ったまま連結に上がってくるということでもある。 グループで選択を揃えたいなら、計算の器を一つにするのが早い(グループ会社にも同じERPを入れるべきか、テンプレート展開の範囲の考え方)。

どの器を選ぶにしても、確かめることが二つある。一つは、日本の基準の簡便的な取扱いと経過措置を、その器がどこまで標準で持っているかである。 少額リースの判定、短期リースの期間の変更の扱い(適用指針第50項)、適用初年度の経過措置は、IFRS第16号向けに作られた機能と一致しない部分がある。バージョンと日本向けの提供状況は、ベンダーに要件を書いて確認する。もう一つは、税務の計算を同じ器で持てるかである。 法人税法第53条により、税務上のオペレーティング・リース取引の借手は、支払賃料を損金に算入する。第64条の2のリース取引に当たる契約は、売買として税務の償却費を計算する。契約ごとに税務上の区分を持ち、オペレーティング・リース取引なら会計の償却費と利息を加算して支払賃料を減算する、リース取引なら会計と税務の償却費の差を調整する、その申告調整の元データを出せる器を選ぶ(SAPの複数元帳は税務簿価のために増やさない、元帳を分けるべき評価の条件)。

適用初年度の前に、並行計算の期間を先に確保する

3月決算の会社が2027年4月1日以後開始する年度から適用する場合を考える。適用指針第118項は、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとし、ただし書きで、適用初年度の累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法を認めている。第123項は、このただし書きの方法を選んだ場合に、旧基準でオペレーティング・リースに分類していたリースについて、期首時点の残りのリース料を期首時点の借手の追加借入利子率で割り引いてリース負債を計上できるとしている。 この経過措置を選べば、過去の期間を遡って計算し直す必要はなく、期首の残高は2027年4月1日時点の残りのリース料と、その時点の追加借入利子率で決まる。 第119項は、同じくただし書きの方法を選ぶ場合に限り、旧基準を適用していたリース取引について、契約にリースが含まれているかの判断をやり直さずに適用することも認めている。

経過措置で軽くなるのは、過去の計算である。期首の残高そのものと、期首から毎月起きる変更の再計算は軽くならない。 期首の直前に器を入れ替えると、最初の四半期決算が、新しい器での初めての締めになる。

だから、旧基準の決算と並行して、新しい器で新基準の計算を試す期間を、適用初年度の期首の前に確保する。 並行して計算するのは少なくとも一回の四半期決算で、期末の決算と合わせて二回あれば、期首の残高の予行演習にもなる。並行計算で確かめるのは、残高が合うかだけではない。 その期に起きた賃料改定や期間の見直しを、変更の発生から修正仕訳まで、決算の締めの日程の中で流しきれるかである。ERPの契約管理を新たに導入するなら、要件定義から並行計算の開始までに数か月単位の期間が要る。選定の締切は、並行計算を始める日から逆算して決める(SAPのカットオーバー計画の立て方、期首残高の確定と業務凍結期間の決め方)。

設例

売上高2,300億円の食品スーパー(3月決算、連結子会社4社)。店舗は約180、物流センターは6か所で、店舗の土地・建物のほとんどを賃借している。 親会社はSAP S/4HANAで会計を持ち、惣菜の製造子会社と物流子会社の2社は別の会計システムを使っている。新リース会計基準の影響額は、経理部が上位30件の不動産の契約を表計算に入れて半年前に経営会議へ報告済みだった。 計算の器を決める段階で、経理部長は契約の件数より先に、変更の件数を数えさせた。グループ全体の計上対象の候補は、不動産420件、車両310件、機器1,900件。 機器は、少額リースの簡便的な取扱いの判定を当てはめると、計上対象は260件に絞れた。変更の件数は、総務部の賃料改定の稟議、店舗開発部の出退店と改装の計画、車両の入替の記録から過去3年分を拾い、年平均を出した。不動産は、賃料改定の協議条項が付いた契約が318件あり、賃料改定が年68件、改装や出退店の計画の変更による期間の見直しが年41件、中途解約が年14件で、合計123件。車両の入替と中途解約が年71件、機器の変更が年22件で、グループ全体では年216件、月に平均18件になった。 経理部の担当者2名が、2026年3月末の契約で期首の残高を表計算で試算したところ、6週間かかった。一件の変更の再計算からレビューまでは平均1時間半で、月に27時間の作業が、毎月の締めに加わる見込みになる。 経理部長は表計算を候補から外した。親会社だけならS/4HANAの契約管理で持てるが、子会社2社が覆えない。比較の結果、不動産・車両・機器をグループで一つのリース会計の専用システムに入れ、仕訳を親会社のS/4HANAと子会社2社の会計システムに送る構成を選んだ。 短期リースと少額リースの簡便的な取扱いの選択は、グループで揃えて専用システムの設定に入れている。契約ごとに税務上の区分も持たせた。 店舗の賃貸借のような税務上のオペレーティング・リース取引は、申告調整に使う支払賃料の額を同じシステムから出す。車両と機器のうち法人税法第64条の2のリース取引に当たる契約は、リース期間定額法などによる税務の償却費と、会計の償却費と利息との差を出す。 選定の要件書には、賃料改定の協議条項の有無を契約マスタの項目として持つこと、変更前の計算を上書きせずに版として残すことを書いた。適用初年度の前年度は、第3四半期末と期末の2回、旧基準の決算と並行して新基準の計算を実施する計画にし、そこから逆算して選定の締切を置いた。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、器を選ぶ前に、年間の変更件数を数える。 使用権資産とリース負債の初回の計算は表計算で組めるが、企業会計基準第34号第41項のリース期間の見直し、適用指針第33号第45項の契約条件の変更、第46項の契約条件の変更を伴わない見直し、第48項の賃料改定による修正は、どれも変更の日を起点に返済表と償却表を作り直し、使用権資産を加減する。第24項は、市場賃料を反映するよう協議で見直すと契約に定めたリース料を指数又はレートに応じて決まる変動リース料に含めるので、協議条項付きの不動産は改定のたびに修正が要る。 総務や店舗開発の記録から賃料改定、期間の見直し、条件変更、中途解約の過去3年分を数え、一件あたりの作業時間を掛けて、決算の締めに重なる時間を出す。

第二に、契約件数、変更件数、子会社の数とERPの状況で器を決める。 件数も変更も少なければ表計算、件数が多く変更が少なければERPの標準機能、件数が少なく変更が多ければ専用システム、両方が多ければ表計算は選ばない。ERPの標準機能は、そのERPに乗っている会社しか覆えないので、子会社が別の会計システムなら、グループで一つの専用システムも比べる。 日本の基準の簡便的な取扱いと経過措置への対応はベンダーに要件を書いて確認する。税務上のオペレーティング・リース取引は法人税法第53条で支払賃料が損金に算入され、第64条の2のリース取引は売買として償却するため、契約ごとに税務上の区分を持ち、区分に応じた申告調整の元データを出せることを要件に入れる。

第三に、適用初年度の期首の前に、並行計算の期間を確保し、そこから選定の締切を逆算する。 第58項により2027年4月1日以後開始する年度から適用され、適用指針第118項のただし書きの方法を選んで累積的影響額を期首の利益剰余金に加減し、第123項で旧オペレーティング・リースを期首の追加借入利子率で割り引けば、過去の計算は軽くなる。だが期首の残高と、期首から毎月起きる変更の再計算は軽くならない。 第3四半期末と期末のように旧基準の決算と並行して新基準の計算を実施し、変更の発生から修正仕訳までを締めの日程の中で流しきれるかを確かめる。

まとめ
リース会計の計算を持たせる器は、初回の計算のしやすさでは選べない。耐えるべきは変更の再計算である。まず賃料改定、期間の見直し、条件変更、中途解約の年間件数を過去3年の記録から数え、一件あたりの作業時間を掛けて、毎月の締めに加わる時間を出す。子会社が別の会計システムを使っているなら、ERPの標準機能に加えて、グループで一つの専用システムも比べる。選定の締切は、適用初年度の期首の前に旧基準の決算と並行して新基準で計算する期間を確保し、そこから逆算して置く。

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