3月決算の食品メーカーで、新リース会計基準の準備が予定どおりに進んでいた。経理部は、リース台帳の312件と、総務部が管理する事務所と社宅の賃貸借契約の86件を、新しい計算システムに載せ終えた。 適用は2027年4月1日に始まる期からで、半年の余裕がある。進み具合を監査法人に説明した席で、担当の会計士が一つだけたずねた。物流の委託契約と、製造の委託契約は確認しましたか。経理部長は、それはリースではなく業務委託ですと答えた。会計士は、契約の名前ではなく中身で判断することになっています、と言った。 購買部と物流部の書棚には、業務委託と保管と運送の契約書が、合わせて500件近くあった。経理部は、その1件も読んでいなかった。
経過措置が免除するのは、台帳にある契約の再判定だけ
経過措置の読み方を、先に確かめておく。準備を台帳の移行から始めた会社は、この措置を広く読みすぎていることが多い。
第119項(1)が対象にするのは、前期末に企業会計基準第13号を適用していたリース取引である。ファイナンス・リースとして資産に計上していた契約と、オペレーティング・リースとして賃貸借の処理をしていた契約がここに入る。事務所や店舗の賃貸借もこの側である。これらの契約は、リースを含むかどうかを改めて判定せず、新しい基準の計上と測定に進める。 必要なのは、リース期間や支払の条件といった、計算のための情報を集めることである。計算の器の選び方は、新リース会計基準の計算システム、ERP標準・専用システム・表計算の比べ方で扱った。
第119項(2)が対象にするのは、適用初年度の期首に存在する、企業会計基準第13号を適用していない契約である。業務委託、保管、運送、保守、電力やガスの供給。これらは、期首の時点の事実と状況で、リースを含むかどうかを判断する。 契約を結んだ当時にさかのぼらなくてよいので、その分の負担は軽い。それでも、判断そのものは要る。
3月決算の会社なら、適用初年度の期首は2027年4月1日である。期首に存在する契約を期首の事実で判断するには、その前の期、つまり今の期のうちに、契約を集めて読み終えていなければならない。 期首を過ぎてから読み始めると、第1四半期の決算に間に合わない。
経営への影響の見立ては、全件の洗い出しを待たずに、賃料の大きい契約から先に出せる(新リース会計基準の影響、借手が契約の洗い出しより先に見る財務指標)。ここで扱うのは、その後に残る全件の洗い出しのうち、漏れやすい部分である。
業務委託や保管の契約で、リースを含みやすい四つの型
リースと名の付かない契約のうち、読み直す優先度が高いものを四つ挙げる。
一つ目は、倉庫の専用区画である。 物流の委託契約で、倉庫の特定の階や区画を自社の貨物の専用とし、契約書や図面で場所が決まっている場合がこれに当たる。適用指針第6項は、資産は通常、契約に明記されることで特定されるとしたうえで、サプライヤーが使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を持ち、かつ代替によって経済的利益を得る場合には、特定された資産に該当しないとしている。倉庫会社が、自社の都合で貨物をほかの区画へ自由に移せて、移すことに得があるなら、リースは含まれない。 専用の棚や冷蔵の設備を据え付けていて、移すには大きな費用がかかるなら、代替の権利は実質的とはいいにくい。区画は建物の一部だが、階や区画のように物理的に区切られていれば、それ自体が特定された資産になりうる(同第7項)。
二つ目は、製造の委託先に置かれた専用の設備である。 自社の製品だけを作る生産ラインや機械を委託先が持ち、加工賃にその設備の費用が含まれている契約である。設備の生産する物のほとんどすべてを自社が受け取っていれば、経済的利益の要件は満たしやすい。分かれ目は、使用を指図する権利である。 適用指針第8項は、顧客が使用期間全体を通じて、経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を持つ場合などに、この権利があるとする。何を、いつ、どれだけ作るかを自社の発注が決めているのか。それとも、委託先が自社の生産計画の中で決めているのか。契約書と、実際の発注の流れの両方を見て判断する。
三つ目は、情報システムの契約に含まれる専用の機器である。 データセンターの専用のラックや区画、自社の拠点に置かれた専用のサーバーやネットワークの機器が、運用の委託契約や回線の契約に含まれていることがある。ほかの利用者と共用する設備の能力の一部を使う契約は、資産の稼働能力の一部分にすぎず、特定された資産に該当しない(同第7項)。共用の基盤の上で提供されるクラウドのサービスが、ふつうリースにならない理由の一つはここにある。
四つ目は、自社の敷地や建物に置かれた、他社の所有する設備である。 工場の構内に置かれたガスの貯蔵設備、屋根に置かれた発電の設備、構内で使う専用の車両や荷役の機械。供給や運送の契約の形を取っていても、設備が特定されていて、ほかの顧客のために使えない場合は、判定の対象になる。結論は、設備の使い方を誰が決めているかで分かれるので、契約ごとに読むしかない。
契約の母集団は、契約書の棚ではなく支払の記録から作る
読むべき契約を集めるとき、各部門に契約書の提出を頼むやり方は、漏れが出る。契約書がどこにあるかを、部門も把握していないからである。 自動更新で10年続いている契約は、担当者が替わるうちに、契約書の所在がわからなくなっている。
確実なのは、支払の記録から逆にたどる方法である。総勘定元帳から、賃借料、業務委託費、外注加工費、運賃と保管料、通信費、水道光熱費の12か月分を、取引先別に集計する。そこから、毎月ほぼ同じ額を払っている取引先を抜き出す。 定額の支払は、相手が何かを自社のために用意し続けていることの印で、リースが含まれやすい。使った量に比例して変わる支払は、優先度を下げてよい。
抜き出した取引先に、金額の基準を当てる。適用指針には、短期リース(リース開始日において借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないもの)と、少額リースについて、資産と負債を計上しない簡便的な取扱いがある(第20項、第22項)。現行の基準で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリースに簡便的な取扱いを使ってきた会社は、その考え方を引き継げる。年間の支払が小さい取引先は、仮にリースを含んでいても、簡便的な取扱いに収まる見込みが高い。 読む順番は、年間の支払額の大きい取引先からにする。
残った取引先について、契約書を集める。契約書が見つからない取引は、それ自体を記録する。 請求書の内訳と、担当部門への聞き取りで中身を確かめ、次の更新のときに契約書を作り直す。請求書と契約書を伝票に紐づけて保管していれば、この作業は検索で済む(請求書と契約書の保管はERPの内か外かでなく、伝票との紐づけ単位から考える)。
契約は、契約を持つ部門と一緒に読む
集めた契約を、経理だけで読んではいけない。契約書に書かれていない運用が、判定を左右するからである。 倉庫会社が実際に貨物を移したことがあるか。製造の委託先が、空いた時間にその設備でほかの会社の製品を作っているか。契約書からは読めず、物流部や購買部の担当者に聞けばすぐにわかる。
聞くことは、三つの問いにまとめられる。一つ目は、使っている資産が、契約書や図面や実際の運用で特定されているか。 二つ目は、相手が、自分の都合でその資産を別のものに入れ替えられるか、入れ替えたことがあるか。三つ目は、その資産で何をいつどれだけ行うかを、自社が決めているか。三つとも自社の側に倒れる契約を、経理が契約書と突き合わせて判定する。問いを質問票にして部門に配り、回答が分かれた契約だけを会議で扱えば、500件を一つずつ議論せずに済む。
リースを含むと判定した契約では、もう一つ作業がある。対価を、リースを構成する部分と、構成しない部分に分けることである。 適用指針第9項は、リースを含む契約について、原則として両者を分けて会計処理するとし、第11項は、借手が対価をそれぞれの部分の独立価格の比率で配分するとしている。物流の委託料であれば、区画を使う対価と、荷役や配送の作業の対価に分ける。委託料が一本で決まっている契約では、相手に内訳を出してもらうか、近隣の倉庫の賃料の相場から見積もることになる。内訳の入手には相手との交渉が要り、時間がかかる。識別の判定を期首の直前に終えたのでは、配分が間に合わない。
判定の結果は、契約ごとに記録する。含むと判定した契約だけでなく、含まないと判定した契約にも、理由を残す。監査では、含まないとした契約の根拠も問われる(会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録)。
適用の後は、契約を結ぶ入口で判定する
期首の時点の契約を読み終えても、仕事は終わらない。基準は、契約の締結時にリースを含むかどうかを判断するとしている。 適用の後に結ぶ契約は、結ぶときに判定しなければならない。
経理が、新しい業務委託の契約を決算のたびに探して読むやり方は、続かない。判定を、契約の稟議と審査の手順に入れる。 稟議書に、先の三つの問いを確認の項目として加える。該当する契約は、決裁の前に経理へ回す。法務の契約審査がある会社なら、審査の観点に加えてもらう。物流や製造の委託のように、型が決まっている契約では、区画や設備の対価を作業の対価と分けて記載する条項を、ひな型に入れておく。契約の段階で内訳があれば、対価の配分で相手と交渉し直す必要がない。
開示に必要な情報を期中の入口で取るという考え方は、リースに限らない(注記情報の収集設計、開示に必要なデータを期中の入口で取る仕組み)。契約の入口に一つ項目を足すことで、期末の洗い出しをなくせる。
冷凍食品のメーカー(売上高680億円、3月決算)。経理部は、リース台帳の約290件と、事務所と社宅の賃貸借の約70件を、新しい基準の計算の対象として集め終えていた。 監査法人の指摘を受け、台帳の外の契約を調べることにした。総勘定元帳から、業務委託費、外注加工費、保管料、運賃の12か月分を取引先別に集計すると、毎月ほぼ定額の支払がある取引先は142社あった。年間の支払が1,000万円以上の38社から契約書を集め、物流部と購買部に質問票を配った。リースを含むと判定したのは、6件だった。 冷凍倉庫の専用の階を使う保管の契約が3件、自社の製品だけを作る包装のラインを持つ委託先との契約が2件、工場の構内に置かれた液化ガスの貯蔵設備の契約が1件である。倉庫の3件は、自社の仕様の棚が据え付けられ、倉庫会社が過去に貨物を別の階へ移したことがなかった。包装のラインは、生産の品目と数量を自社の週次の発注が決めていた。一方、共用の倉庫で保管の場所を倉庫会社が日々決めている契約や、委託先がほかの会社の製品も同じ設備で作っている契約は、含まないと判定し、理由を記録した。6件の使用権資産とリース負債の見積もりは、合わせて約21億円になり、台帳から集計していた額を2割ほど押し上げた。 倉庫の契約は委託料が一本で決まっていたため、倉庫会社に保管と作業の内訳を出してもらうのに3か月かかった。会社は、稟議書に三つの確認の項目を加え、物流の委託契約のひな型に、区画の対価を分けて記載する条項を入れた。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
契約の洗い出しで決める三つ
第一に、経過措置が免除する範囲を正しく読む。 判定のやり直しが要らないのは、現行の基準でリース取引としていた契約だけである。業務委託や保管の契約は、適用初年度の期首の事実で判定する必要があり、その作業は前の期に置く。
第二に、契約の母集団を、支払の記録から作る。 定額の支払がある取引先を抜き出し、金額の大きい順に契約書を集める。資産の特定、入替の可否、使い方の決定の三つを、契約を持つ部門に聞く。
第三に、適用の後の判定を、契約の稟議と審査の手順に入れる。 型の決まった契約には、区画や設備の対価を分けて記載する条項を、ひな型に入れておく。



