月次の予実会議に、二年目の新規事業が載っている。売上は計画の六割。営業損益は月次で二千万円のマイナス。事業責任者が説明を始めるが、話は「想定より導入が遅れている」に落ち着く。役員から出る質問はいつも同じで、いつ黒字になるのか、そして今期の未達をどこで埋めるのか。この二問に答えられる立ち上げ期の事業は存在しない。 それでも会議は毎月あるので、答えは出される。来期には黒字化する見込みです、そして販促費を三割落として損益を圧縮します。

翌月、導入はさらに遅れる。販促を落としたからだ。

POINT
先に押さえるべきことが三つある。第一に、この会議で起きているのは撤退判断ではなく縮小均衡である。撤退は誰かが決める行為だが、縮小均衡は誰も決めないまま進む。未達の説明が求められ、説明の材料として費用の圧縮が出され、圧縮の結果として検証が遅れ、遅れがまた未達になる。第二に、立ち上げ期を別に扱うことは温情ではなく、会計基準の側がすでに条件付きで認めている扱いである。企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第12項(4)は「事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない」とする。同適用指針第81項は、ここでいう合理的な事業計画を**「当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの」**と定義している。年度予算の一行は、これに当たらない。第三に、測り方はB/Sに跳ねる。同適用指針第7項は、資産のグルーピングについて「実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられる」としている。管理会計で新規事業を独立の区分に切った瞬間、その事業は単独で減損の兆候判定を受ける単位になる。 新規事業をどう測るかは、管理の趣味ではない。

同じ物差しが起こすのは、撤退ではなく縮小均衡

まず、この会議の何が壊れているのかを正確に言う。壊れているのは目標水準ではない。議題の立て方である。

全社の予実会議は、差異の説明と挽回策を求める場として設計されている。既存事業に対しては、これで正しい。市場も原価構造も既知で、差異の原因が特定でき、挽回策が実際に打てるからだ。ところが立ち上げ期の事業には、差異の原因を特定するだけの母数がない。導入社数が七社の事業で、計画十二社に対する五社の差異を分解しても、出てくるのは個社の事情だけである。

それでも会議は挽回策を求めるので、事業責任者は打てる手を探す。売上側は自分の意思では動かない。動かせるのは費用だけだ。だから販促費、外注費、採用計画の順に削られる。この三つは、いずれも仮説を検証する速度そのものである。 削れば損益は改善し、翌月の会議は少し静かになる。そして検証は止まる。

一年これを続けると、事業は「小さいまま赤字が減った状態」に着地する。撤退の判断は下されていない。継続の意思決定もされていない。誰も決めていないのに、芽だけが枯れている。

撤退なら、まだましなのだ。撤退は資源を解放し、次の投資に回せる。縮小均衡は資源を解放しないまま、成果だけを失う。事業ポートフォリオの入れ替えが進まない会社の内側では、たいていこれが起きている(事業ポートフォリオの組み替え)。

会計基準は立ち上げ期を別に扱う。ただし条件がついている

ここからが、経理財務の責任範囲の話になる。

企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」二 1.は、減損の兆候の第一の例示として「資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること」を挙げる。適用指針第12項(2)は、この「継続してマイナス」について「おおむね過去2 期がマイナスであったことを指すが、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えることが適当である」とする。

立ち上げ期の事業は、この定義にそのまま当てはまる。 二年目で営業損益がマイナス、当期もマイナス見込み。文言どおりに読めば兆候である。

そこで効くのが第12項(4)の例外だ。事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない。

条件は二つある。予め合理的な事業計画があること。そして、実績が計画のマイナス額から著しく下方に乖離していないこと。

第81項が、この「合理的な事業計画」の中身を書いている。括弧書きで「当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの」とされている。回収の絵が描けていない計画は、ここでいう事業計画ではない。 年度予算に置いた売上と費用の一行は、投資額の回収を語っていないので、この要件を満たさない。

そして二つ目の条件が、月次の運用に直結する。実績が計画から著しく下方に乖離していないこと。ここで、毎月の予実会議が「未達」と記録し続けてきた事実が効いてくる。

未達の記録は、そのまま乖離の証跡に見える。 監査で説明を求められたとき、社内の資料が十二か月連続の未達を示していれば、著しい下方乖離ではないという主張は苦しくなる。しかもその未達は、全社の年度予算に対する未達であって、当初の事業計画のマイナス額からの乖離とは別物である。両者を区別して記録していない会社は、区別して説明することもできない。

つまり、立ち上げ期の事業を年度予算の土俵だけで管理してきた会社は、会計基準が用意した例外を使う根拠を、自分の手で削っている。

本社費の配賦が、兆候判定の損益に入る

もう一つ、管理会計の設計が直接効く論点がある。配賦だ。

適用指針第12項(1)は「営業活動から生ずる損益」の中身をこう定めている。営業上の取引に関連して生ずる損益であり、これには当該資産又は資産グループの減価償却費や本社費等の間接的に生ずる費用が含まれ、損益計算書上は原価性を有しないものとして営業損益に含まれていない項目でも、営業上の取引に関連して生じた損益であれば含まれる。ただし支払利息など財務活動から生ずる損益や、利益に関連する金額を課税標準とする税金は含まれない。大規模な経営改善計画等により生じた一時的な損益も含まれない。

そして続けて、実務上、営業活動から生ずる損益は管理会計上の損益区分に基づいて行われるものと考えられる、とする。

読み替えるとこうなる。新規事業に本社費を配賦している会社は、その配賦額を含んだ損益で兆候を判定される。売上の比率で全社共通費を配る運用にしていれば、事業が伸びるほど配賦も増える。逆に、立ち上げ期は配賦しないと決めている会社は、その分だけ判定される損益が軽い。

配賦方針は、たいてい経理と経営企画のあいだで、公平さの議論として決められている。その議論の結論が、数年後に減損の兆候判定の入口を決めている。 配賦のルールを事業の段階で切り替えるなら、切り替えの根拠を規程に残す。残していなければ、恣意的に判定を回避したように見える。

配賦の設計そのものは別の論点として整理した(配賦の設計をどう決めるか)。ここで言いたいのは一点だけだ。管理会計の区分と配賦は、内部管理の道具であると同時に、外部報告の判定材料になっている。

同じことは開示にも及ぶ。企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」第6項は、事業セグメントを、収益を稼得し費用が発生する事業活動に関わるもの、最高経営意思決定機関が資源配分の意思決定を行い業績を評価するために経営成績を定期的に検討するもの、分離された財務情報を入手できるものと定義したうえで、**「ただし、新たな事業を立ち上げたときのように、現時点では収益を稼得していない事業活動を事業セグメントとして識別する場合もある」**と付け加えている。売上がゼロでも事業セグメントになりうる。基準の側が、黒字化前の事業を独立に扱う想定を最初から持っているということだ。

そして第12項の量的基準は、売上高だけでなく、利益又は損失の絶対値が、利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額または損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10パーセント以上であることを含む。損失の側でも量的基準に引っかかる。 赤字が大きいほど、開示に出やすくなる。

同基準がマネジメント・アプローチを採用した理由は、第50項に書かれている。財務諸表利用者が経営者の視点で企業を理解できる情報を開示することで、意思決定により有用な情報を提供できると判断した、というものだ。裏を返せば、外部開示は内部の管理会計に従属している。 社内で新規事業を別建てにしていない会社は、開示でもそれを分けて説明できない。

評価軸は、段階で切り替える

では何を見るのか。順序がある。

立ち上げ期の事業に、いきなり収益性を当てない。見る指標を段階で切り替え、切り替えの条件を先に書く。
① 検証済みの仮説
金額ではなく仮説の数と質を見る。誰が、どの課題に、いくらなら払うか。検証できた仮説と、否定された仮説の両方を記録する
② 単位あたり経済性
顧客一件・案件一件の粗利と獲得費用。ここが成立しない事業は、規模を追うほど損失が増える
新規事業の評価
④ 収益性
既存事業と同じ土俵に載せる。営業利益率、投下資本利益率、全社の予実。ここまで来たら特別扱いをやめる
③ 回収期間
累計投資をいつ回収するか。ここで初めて時間軸の約束が入る。単価と獲得速度の実績が揃ってから当てる
段階を飛ばして④から当てると、①と②の検証費用が最初に削られる。順序を守ることが設計の中身である。

段階①で数えるのは金額ではない。検証済みの仮説の数である。誰が、どの課題に、いくらなら払うか。この三つのうち二つが実データで確認できているなら、売上がゼロでも前進している。逆に、売上が立っていても、それが社長の紹介一件によるものなら、仮説は何も検証されていない。紹介経由の初期売上は、事業の成立ではなく人脈の成立を示している。 ここを取り違えると、段階を一つ飛ばすことになる。

段階②の単位あたり経済性は、規模を追う前の関門である。顧客一件あたりの粗利が獲得費用を下回っているなら、売上を伸ばすほど損失が増える。この状態で「まずシェアを取る」と言うのは、赤字の量産を宣言しているのと同じだ。ここは既存事業でも同じ規律で見る(ユニットエコノミクスで事業の芯を測る)。

段階③でようやく時間軸の約束が入る。累計投資をいつ回収するか。ここまで来て初めて、回収期間や正味現在価値の議論が意味を持つ(投資判断の物差しをどう使い分けるか)。単価と獲得速度の実績がない段階でこれを当てても、置いた前提がそのまま答えになるだけである。

段階④で、既存事業と同じ土俵に載せる。特別扱いをやめる日は、事業の側の実績で決まる。

この順序は、政策文書の側でも支持されている。経済産業省「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(2020年7月)は、資本収益性と成長性を軸とする四象限で事業を評価する枠組みを示したうえで、資本収益性が低く成長性が高い新規の成長事業について、**「Aに属する新規の成長事業の資本収益性については、過去の実績や単年度で評価するのではなく、事業のライフサイクルを踏まえた中長期的な時間軸で評価することが重要である」**としている。同指針の脚注は「新規事業の資本コストは、高い事業リスクを反映し、既存事業の資本コストより高くなる傾向にあることを認識した上で、事業の成長性について継続的に確認する必要がある」とも書いている。

資本コストが違うのに、同じ利益率で並べて優劣をつけている。 多くの会社の月次資料で起きているのは、これである。同じ指針は続けて「こうした新規事業への成長投資については、不確実性が高く、投資回収までの期間の管理は重要であり、当初想定した回収期間の長期化は最も注意すべき課題である」とも述べる。放任していいという話ではない。見る欄が違うだけだ。

切り替えの条件を、日付でなく事実で書く

段階を切り替えるトリガーの置き方が、この設計の成否を分ける。

日付で置くと、必ず形骸化する。「三年目から通常の予実に載せる」と決めた会社は、三年目に事業の実態と評価軸がずれる。そしてずれた側を直すのではなく、事業計画のほうを書き直す。

だから条件で書く。段階①から②への移行条件は、たとえば「紹介以外の経路で獲得した顧客が十社を超え、そのうち更新が三社出ていること」。②から③は「顧客一件あたりの粗利が獲得費用を上回った状態が二四半期続くこと」。③から④は「単月の営業損益が黒字化し、累計投資の回収見込みが十八か月以内に入ること」。

数字は事業によって違う。重要なのは、条件を投資の意思決定と同時に書き、書いた紙を役員会の議事に残すことである。 これが第12項(4)の「予め合理的な事業計画」の実体になる。後から作った計画は、予めではない。

そして、条件を満たさなかった場合に何が起きるかも同じ紙に書く。追加投資を止めるのか、規模を維持したまま仮説を組み替えるのか、撤退するのか。撤退基準を投資判断と同時に決めておく話は、単独でも成立する論点だ(撤退基準を先に決める)。

損益が先に痛むのは、会計処理の帰結である

新規事業を既存事業と並べると必ず最下位になる理由の一部は、事業の巧拙ではなく処理の定めにある。

「研究開発費等に係る会計基準」(1998年3月 企業会計審議会)三は「研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければならない」と定める。同基準一は、研究を「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」、開発を「新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」と定義している。

ソフトウェアについても要件は厳しい。同基準四3は、社内利用のソフトウェアについて、完成品を購入した場合のように、その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合に、当該ソフトウェアの取得に要した費用を資産として計上しなければならないとする。ソフトウェアを用いて外部へ業務処理等のサービスを提供する契約等が締結されている場合については、その提供により将来の収益獲得が確実であると認められる場合に資産計上するとしている。いずれも「確実」である。立ち上げ期の事業が使うシステムで、この要件を満たすと言い切れる場面は多くない。

結果として、新規事業の初期支出は資産にならず、その期の費用として営業損益に落ちる。一方、既存事業の設備投資は資産計上され、耐用年数にわたって費用化される。同じ一億円を使っても、片方は当期に全額、片方は十年に分けて損益に出る。 この二つを同じ営業利益率の表に並べれば、結論は投資の内容ではなく処理の定めで決まる。

だから、並べる表を分ける。

見るもの既存事業立ち上げ期の事業
損益営業利益率、対予算差異投資枠の消化率と、消化に対する検証の進捗
資本投下資本利益率、資産回転率累計投資額と、回収の前提が変わっていないか
売上前年比、計画比経路別の内訳(紹介/自力獲得)と更新率
費用予算統制、削減余地検証に使った費用と、検証以外に使った費用の比率
会議で問うこと差異の原因と挽回策前回から何が分かったか、次に何を確かめるか
会議の結論挽回策の実行責任次の資金を出すか、条件を変えるか、止めるか

右の列に「対予算差異」を置かないことが要点である。置いた瞬間に、会議は挽回策を求める場に戻る。

縮小を決めた瞬間に、会計に出る

最後に、縮小均衡が会計上どう扱われるかを確認しておく。

適用指針第13項(1)は、減損の兆候となる変化として「資産又は資産グループが使用されている事業を廃止又は再編成すること」を挙げ、続けて「事業の再編成には、重要な会社分割などの組織再編のほか、事業規模の大幅な縮小などが含まれる」としている。

つまり、撤退しなくても、大幅に縮小すれば兆候である。予実会議で費用を削り続けた結果として事業規模が縮んだなら、その縮小は判定の対象になる。

タイミングも定められている。第82項は「実際に変化が生じた場合のみならず、取締役会等において決定された段階で減損の兆候に該当することとなる」とし、社内規定等に基づき他に決定権限が委譲されている場合には、当該決定権限に従った権限者の承認の時点で減損の兆候となるとする。

会議体で縮小を決めた日が起点になる。「様子を見る」と口では言いながら、稟議では人員と予算を半分にする。この組み合わせが最も悪い。事業としては前進が止まり、会計としては兆候が立つ。

縮小を決めるなら、減損の検討も同じ会議で議題に載せる。 別の月に別の部署が気づく形にしていると、決算直前に発覚して締めが止まる。

現場では
産業用機器の製造販売を本業とする従業員900名の会社が、保守データを使った稼働監視サービスを新規事業として立ち上げた。初年度の投資枠は3億円。二年目に入り、月次の経営会議に既存三事業と並べて損益が載るようになった。二年目の第2四半期時点で、契約は11社、月次の営業損益はマイナス2,100万円。全社予算に対する売上の達成率は58パーセントだった。会議で毎月問われたのは達成率で、事業責任者は毎月挽回策を出した。出せる挽回策は費用側しかない。展示会の出展を2回から1回に、検証用の試験導入を無償から有償に、採用予定だったデータ分析の中途採用を1名見送り。半年後、月次の赤字は1,300万円まで縮んだ。同時に、新規の商談は月4件から1件に落ちていた。転機は、監査法人からの質問だった。この事業の資産グループについて、減損の兆候の検討はどうなっているか。経理部長が資料を探すと、当初の事業計画は投資決定時の役員会資料に一枚だけあった。そこには三年目の黒字化と、投下3億円の五年回収が書かれていたが、月次の管理はすべて全社予算に対する達成率で行われており、当初計画のマイナス額と実績のマイナス額を突き合わせた資料はどこにもなかった。作ってみると、当初計画は二年目の営業損益をマイナス2億4千万円と見込んでおり、実績はマイナス1億9千万円で、計画より軽かった。計画からの著しい下方乖離はなかったのである。にもかかわらず、社内の会議資料はすべて「未達」で埋まっていた。全社予算のほうが、当初の事業計画より強気に置き直されていたからだ。ここで管理部門が入れた変更は三つだった。第一に、この事業の月次資料から対予算達成率を外し、当初事業計画のマイナス額との比較と、投資枠の消化率に置き換えた。第二に、段階の切り替え条件を書いた紙を作り、役員会で承認して議事に残した。紹介以外の経路で獲得した契約が10社を超え、うち更新が3社出るまでは収益性を問わない。第三に、本社費の配賦を、段階③に入るまで行わないことを配賦規程に明記した。翌期、商談は月3件まで戻り、契約は19社になった。単月の赤字はむしろ増えたが、会議でそれを咎める発言は出なくなった。見る欄が変わったからである。経理部長が後から言ったのは、数字を作り直したのではなく、どの数字を会議の議題にするかを変えただけだ、ということだった。そして監査法人への説明が一番楽になったのも、この期だった。

三つだけ決める

立ち上げ期の事業を月次に載せる前に、決めるべきことは三つに絞られる。

第一に、当初の事業計画を、投資額の回収まで書いた形で残し、その紙を役員会の議事に紐づける。適用指針第81項が言う「当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの」が要件である。年度予算の一行では足りない。

第二に、月次の資料から対予算達成率を外し、当初計画のマイナス額との比較と、投資枠の消化に対する検証の進捗に置き換える。予実の欄を残したまま「特別扱いする」と口で言っても、会議は必ず予実の欄を見る。

第三に、段階の切り替え条件を事実で書き、条件を満たさなかったときの扱いも同じ紙に書く。止める、条件を変える、追加投資する。この三択を先に文書化していない会社は、三年目に自動的に縮小均衡へ入る。

これらは経営企画の仕事に見えて、実際には経理財務の仕事でもある。管理会計上の区分は資産のグルーピングを決め、配賦の方針は兆候判定の損益を決め、月次資料の書きぶりは監査での説明可能性を決める。新規事業の測り方を設計しないという選択は、B/Sの側でだけ結果が出る。

まとめ
立ち上げ期の事業を全社の予実会議に載せると、起きるのは撤退判断ではなく縮小均衡である。差異の説明を求められた事業責任者が動かせるのは費用だけで、削られる販促費・外注費・採用は、いずれも仮説を検証する速度そのものだからだ。この扱いは管理の好みの問題では終わらない。企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第12項(2)は、減損の兆候における「継続してマイナス」をおおむね過去2期がマイナスであったことを指すとしており、立ち上げ期の事業はそのまま当てはまる。例外を定めるのが同第12項(4)で、事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しないとする。同第81項は、その合理的な事業計画を「当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの」と定義しており、年度予算の一行はこれに当たらない。加えて、月次で全社予算に対する未達を記録し続けることは、当初計画のマイナス額からの乖離とは別物でありながら、社内資料としては乖離の証跡に見える。区別して記録していなければ、区別して説明することもできない。管理会計の設計は判定の入口にも効く。同第7項は、資産のグルーピングについて、実務的には管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮して定めることになるとしており、新規事業を独立の区分に切れば単独で兆候判定を受ける単位になる。同第12項(1)は「営業活動から生ずる損益」に減価償却費や本社費等の間接的に生ずる費用が含まれるとし、その把握は管理会計上の損益区分に基づくとしているため、本社費の配賦方針がそのまま判定される損益を動かす。配賦を段階で切り替えるなら、切り替えの根拠を規程に残す。評価軸は四段階で切り替える。第一に検証済みの仮説の数と質、第二に顧客一件あたりの粗利と獲得費用という単位あたり経済性、第三に累計投資の回収期間、第四に既存事業と同じ収益性である。段階を飛ばして収益性から当てると、第一と第二の検証費用が最初に削られる。切り替えのトリガーは日付でなく事実で書き、投資の意思決定と同時に役員会の議事へ残す。損益が先に痛むこと自体は事業の巧拙ではない。「研究開発費等に係る会計基準」三は研究開発費をすべて発生時に費用として処理しなければならないとし、同四3は自社利用のソフトウェアについて、その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合に取得に要した費用を資産として計上しなければならないとしている。既存事業の設備投資が耐用年数にわたって費用化されるのに対し、新規事業の初期支出は当期に落ちる。同じ表に並べれば、結論は投資の内容ではなく処理の定めで決まる。だから見る欄を分け、立ち上げ期の列に対予算差異を置かない。最後に、縮小そのものが会計に出る。同第13項(1)は減損の兆候となる変化として事業の廃止又は再編成を挙げ、事業の再編成には重要な会社分割などの組織再編のほか事業規模の大幅な縮小などが含まれるとする。同第82項は、実際に変化が生じた場合のみならず、取締役会等において決定された段階で減損の兆候に該当し、決定権限が委譲されている場合には権限者の承認の時点で兆候となるとしている。縮小を決めるなら、減損の検討を同じ会議の議題に載せる。決めることは三つ、当初計画を回収まで書いて議事に残すこと、月次資料から対予算達成率を外すこと、段階の切り替え条件と未達時の扱いを同じ紙に書くことである。

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