中期経営計画をやめるか続けるかを議論する前に、確かめることがある。計画に書いた施策の金額が、初年度の年度予算に入っているかどうかである。筆者は、予算に載らない施策は計画に書かないほうがよいと考えている。予算に載っていない施策には人も資金も付かず、初年度の途中で計画と実績が離れていくからだ。この記事では、中期経営計画の目的、意味がないと言われる理由、作り方の手順、数字の組み立て、見直しの方式、実行の順に整理する。
- 中期経営計画が初年度で外れる原因は、財務目標と施策のつなぎにある。目標の数字と施策が別々に書かれ、施策の金額が年度予算に入っていない。
- 数字は、財務目標、施策、KPIの順に金額で結ぶ。施策ごとの効果額を積み上げ、目標との差を計画の段階で見えるようにする。
- 3年間固定する計画にするか、毎年見直す計画にするかを、作り始める前に決める。どちらを選んでも、変えてよいものと変えないものを先に書いておく。
中期経営計画は何のために作るか
中期経営計画は、数年先の財務目標と、そこへ至る戦略と施策を示す計画である。読み手は2者いる。1者は株主と投資家で、もう1者は従業員である。
上場会社の場合、株主に向けた説明はコーポレートガバナンス・コードに書かれている。2026年改訂版の原則4-1は、取締役会は経営戦略や経営計画の策定・公表に当たり、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示し、収益力・資本効率等に関する目標を提示すべきだとする。さらに、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関し、具体的に何を実行するのかを説明すべきだとしている。同じ原則の解釈指針は、中期経営計画を策定・公表した場合には、これも株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、実現に向けて最善の努力を行うべきだと書く。
従業員に向けた役割もある。スピーダが経営企画部500名を対象に行い2024年8月に公表した調査では、回答者のうち上場企業の約8割が中期経営計画を策定していた。上場企業と非上場企業のどちらでも、約4割が従業員向けに策定していると答えている。
読み手が2者いると、計画に求められることも2つになる。株主には、目標の根拠と資源の配り方を示す。従業員には、自分の部門が何をいつまでに実行するのかを示す。どちらにも要るのは、目標の数字と施策のつながりである。目標だけを掲げた計画は、株主にとっては根拠がなく、従業員にとっては自分の仕事との関係が見えない。
中期経営計画は意味がないと言われる3つの理由
中期経営計画を続けるかやめるかの議論は、社内でも起きている。先のスピーダの調査では、調査対象500名のうち約4割が「中期経営計画を策定すべきか、やめるべきかについて議論したことがある」と回答している。同じ調査は、事業部や経営者とのコミュニケーションと、市場環境や競合の分析のための情報収集に時間がかかることを、策定の課題として挙げている。
同じ調査には、計画を評価する回答もある。上場企業の約7割、非上場企業の約6割が目標を「80%以上達成した」と答え、上場・非上場とも約7割が「自社の中期経営計画は評価されている」と答えた。どちらも回答者の自己評価である。達成したという回答と、やめるべきかという議論が、同じ調査の中に並んでいる。
筆者は、意味がないと言われる理由を次の3つと見ている。3つとも、計画という仕組みそのものの欠陥というより、作り方から生じている。
1つ目は、財務目標と施策がつながっていないことである。「3年後に営業利益率8%」のような目標が先に決まり、各事業部の計画を合算し、足りない分を「全社施策」という項目で埋める。この作り方では、目標がなぜ実現できるのかを支える施策の積み上げがない。施策の章には成長戦略やDXが並ぶが、それぞれが利益を何円動かすのかは書かれていない。
2つ目は、資金と人の動きが書かれていないことである。投資、採用、撤退は、どれも限られた資金と人を何に振り向けるかの意思決定である。計画がそこを各事業部の努力に委ねていると、初年度にある事業が想定を上回り、別の事業が下回っても、資金を動かす根拠が計画の側にない。施策の金額が年度予算に入っていなければ、施策は初年度に着手されにくい。
3つ目は、外れたときの動き方が決まっていないことである。計画は達成する前提で書かれ、前提が崩れたときに何を見直すのかが書かれていない。事業環境が変わると、どの数字を直せばよいかが分からず、計画は参照されなくなりやすい。
3つの理由は、計画をやめても解消しない。やめた会社にも、数年先の財務目標と、そこへ向けた投資の判断は残る。先に直すのは、目標、施策、予算のつなぎと、見直しの条件である。以下、その作り方を手順で示す。
中期経営計画の作り方
中期経営計画の作り方は、5つの手順に分けられる。現状の数字を確かめ、財務目標を置き、施策に金額を付け、KPIを決め、年度予算へ落とす。施策の一覧から書き始めると、目標とのつながりを後から付けることになり、うまく結べない。
現状の数字
最初に、現状の数字を事業別に並べる。売上と利益に加えて、投下資本と資本収益性を見る。東京証券取引所が2023年3月31日に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」は、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に、現状分析として、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価を取締役会で分析・評価することを要請している。全社での分析に加えて、事業セグメントごとにROIC等を算出して分析・評価することも考えられるとしている。
数字と合わせて、事業環境と自社の強みを分析する。ここでの分析は、後の手順で施策の効果額を見積もる前提になる。市場の成長率、主要な顧客の動き、原材料の価格など、見積もりに使う前提を書き出しておく。事業ごとの位置づけの決め方は事業ポートフォリオの見直し方、ROICと成長性で事業を仕分ける手順で扱った。
財務目標
次に、最上位の財務目標を置く。ビジョンや長期の方針から、計画の最終年度に到達する水準を決める。指標は営業利益、ROIC、ROEなどから、自社の課題に合うものを選ぶ。
目標は、現場が動かせる要素まで分解する。ROIC(投下資本利益率。投じた資本が年に何%の利益を生むかを示す)であれば、売上高利益率と投下資本回転率に分け、さらに売上原価率、在庫回転率、売掛金の回収日数へと枝分かれさせる。筆者は、分解は会計の勘定科目に届くところまで行うのがよいと考えている。たとえば「顧客満足度を上げる」で止めると金額に結べない。「解約率を1.0%から0.7%に下げる」まで分ければ、継続課金の売上がいくら増えるかを計算できる。
施策と金額
分解した要素のうち、利益への影響が大きいものを選び、そこに施策を当てる。施策には3つの項目を書く。動かす財務要素、効果額と投資額、担当である。効果額には、いつの時点の金額かを添える。「DX推進」という施策名だけでは足りない。たとえば「商談支援の仕組みを入れて受注率を2ポイント上げる。年間の利益への効果は4,000万円。営業本部長が初年度の上期に導入する」まで書く。
実行したい施策をすべて載せる必要はない。影響の大きい要素に当たる施策に絞る。資金の使い道を成長投資、M&A、株主還元などにどう配るかは、キャピタルアロケーション(資本配分)の決め方、原資と使い道の優先順位にまとめた。
KPI
KPI(重要業績評価指標)は、施策が効いているかを、利益の実績が出る前に知らせる指標である。売上や利益は結果であり、月次で見たときにはすでに動かせない。商談化の件数、試用の申込数、稼働率のように、現場が今月動かせる指標を選ぶ。
数は絞る。筆者は、1つの施策につき1個か2個で足りると見ている。指標を増やすと、1つひとつの指標に目が届きにくくなる。KPIには、四半期ごとに到達する水準も書いておく。最終年度の目標値だけでは、初年度の途中で遅れているかどうかを評価できない。
年度予算への落とし方
最後に、施策の初年度分を年度予算に載せる。施策の投資額と費用が予算の科目に入っているか、担当部門の予算に人員が付いているかを確かめる。ここが冒頭で述べた確認である。予算に入らなかった施策は、計画から外すか、開始の年度を後ろにずらす。
KPIは、予算の前提値としても使う。中期経営計画の施策を測る指標を、予算の前提に同じ名前で置き、月次の報告でも同じ行で実績と並べる。計画、予算、月次の報告で指標の名前がそろっていると、月次の差異を見たときに、計画のどの前提が外れたのかが分かる。予算編成の進め方は予算管理の進め方、編成・統制・見直しを一つの年間サイクルにするで扱った。
数字の作り方
中期経営計画の数字は、財務目標、施策、KPIの順に金額で結んで作る。目標から売上を割り付けるだけでは、数字の根拠が残らない。
施策ごとの効果を積む
施策ごとの効果額を足し上げ、財務目標と突き合わせる。設例で確かめる。営業利益を現在の20億円から3年後に30億円へ増やす目標を置いた会社を考える。増やす利益は10億円である。施策は3つあり、効果額、投資額、担当、KPIを次の表のように書いた。
| 施策 | 動かす財務要素 | 3年後の効果額 | 3年間の投資額 | うち初年度の投資額 | 担当 | KPI |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 既存顧客への価格改定 | 売上単価 | 4億円 | 0.5億円 | 0.5億円 | 営業本部長 | 価格改定に応じた顧客の割合 |
| 新製品の投入 | 売上数量 | 3億円 | 6億円 | 2億円 | 事業開発部長 | 試用の申込数 |
| 生産拠点の集約 | 売上原価率 | 2億円 | 4億円 | 1億円 | 生産本部長 | 拠点ごとの稼働率 |
| 合計 | 9億円 | 10.5億円 | 3.5億円 |
効果額の合計は9億円で、目標の10億円に1億円届かない。この差が、計画の段階で向き合う対象になる。選択肢は2つある。差を埋める施策を足すか、目標を9億円の増益に下げるかである。どちらを選ぶかは経営の判断で、取締役会で議論する。
表からはもう1つ確かめられる。初年度の投資額3.5億円が、年度予算に入っているかどうかである。入っていなければ、施策は初年度に始まらず、3年後の効果額9億円も後ろへずれる。
前提指標を書く
効果額は、前提を置いて見積もった数字である。前提にした指標を、施策ごとに書き添える。価格改定であれば対象の顧客数と改定の幅、新製品であれば市場の規模と獲得する割合、拠点の集約であれば集約後の生産量である。為替や原材料の価格のように、自社で動かせない前提も書く。
前提を書いておくと、実績が計画と離れたときに、原因を2つに分けて評価できる。前提が外れたのか、前提は合っていたが実行が遅れたのかである。前者なら計画の数字を見直し、後者なら施策の進め方を見直す。前提を書いていない計画では、この区別ができない。
3年固定か、毎年の見直しか
中期経営計画には、3年間の目標を固定する方式と、毎年見直して計画期間を1年ずつ先へ延ばす方式がある。後者はローリング方式と呼ばれる。どちらにするかは、数字を作り始める前に決める。方式によって、目標の意味と見直しの手順が変わるからである。
固定方式を選ぶ場合は、目標を見直す条件を先に書く。たとえば、前提にした市場の規模や為替が、決めた幅を超えて動いたときである。条件を書かずに固定すると、前提が崩れても見直しを言い出しにくい。
見直し方式を選ぶ場合は、変えてよいものと変えないものを分ける。筆者は、変えてよいのは前提とKPIの水準までとし、投資の採否に使う収益率の基準と、事業から撤退する基準は原則として動かさない設計がよいと考えている。基準まで毎年変えると、計画は実績の後追いになる。
どちらの方式でも、上場会社には、公表した目標に届かなかったときの説明が求められる。コーポレートガバナンス・コードの原則4-1の解釈指針は、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきだとしている。単年度の見通しの示し方は業績予想の出し方、保守的なガイダンスはなぜ自社の評価を下げるのかで扱った。
実行に移す
計画を実行に移す場は、月次の会議である。月次の会議が実績の報告で終わると、差異が出ても翌月以降の挽回を約束して終わる。進捗の見方と、見直しの条件を決めておく。
進捗の見方
月次で先に見るのは、利益の差異よりKPIの差異である。売上が計画に届かなかった月には、その月に打てる手はすでに残っていない。KPIがいつから計画と離れていたかを見て、どの前提が外れたのかを特定する。
差異は、一時的なものと傾向とに分ける。一時的であれば経過を見る。傾向であれば、KPIにひも付く施策までさかのぼり、どこが効いていないのかを確かめる。数字の更新だけで会議を終えず、効いていない施策を入れ替えるところまで議論する。
見直しの条件
見直しの条件は、計画を作る段階で数値と一緒に書いておく。たとえば「新製品は、2年目の末までに試用の申込数が決めた水準に届かなければ、追加の投資を止め、資金を既存事業に戻す」と書く。事後に判断すると、すでに投じた資金への思いが入り、撤退の判断は遅れやすい。
条件を先に書いておくと、会議の議題が変わる。続けるかやめるかをその場で議論する形から、条件に照らしてどう動かすかを確認する形になる。経営管理の仕組み全体の中での計画の位置づけは、経営管理の仕組みの作り方、数字を次の打ち手に変える月次の流れにまとめた。
よくある質問
中期経営計画は何年で作るか
年数に決まりはない。コーポレートガバナンス・コードは経営計画の年数を定めていない。年数は、自社の投資が回収までにかかる年数と、前提を見通せる年数から決める。設備の回収に長い年数がかかる事業では、長期の方針を別に置き、その中の一区切りとして中期経営計画を作る方法がある。
誰が作るか
方向付けは取締役会の役割である。コーポレートガバナンス・コードの原則4-1は、取締役会が具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきだとしている。実務では、経営企画が全体の取りまとめを担い、施策と効果額は事業部が見積もり、CFOと経理・財務の部門が数字の整合と年度予算とのつながりを確かめる分担が考えられる。
やめた会社があるのはなぜか
スピーダが2024年8月に公表した調査は、中期経営計画の策定を取りやめた大手企業もあると述べ、約4割が策定を続けるべきかを議論したことがあるとしている。背景として同調査が挙げるのは、策定の業務負荷の大きさと、数年先を見通すことの難しさである。筆者は、やめても数年先の目標と投資の判断は残るので、先に目標・施策・予算のつなぎを確かめるのがよいと考えている。
開示しなくてもよいか
コーポレートガバナンス・コードは、中期経営計画という形式の資料の策定と公表そのものは求めていない。原則4-1の解釈指針は「中期経営計画を策定・公表した場合には」という書き方をしている。一方で原則3-1は、上場会社は経営戦略と経営計画を開示し、主体的な情報発信を行うべきだとする。コードは、原則を実施するか、実施しない理由を説明するかを求める手法を採っている。原則3-1を実施しない場合は、その理由を説明する。コードの対象は上場会社で、非上場会社は社内と金融機関などの関係者に向けた計画として作る。
- 中期経営計画が初年度で外れる原因は、財務目標と施策のつなぎにある。施策の金額が年度予算に入っているかを先に確かめる。
- 数字は、財務目標、施策、KPIの順に金額で結ぶ。施策ごとの効果額を積み、目標との差は施策を足すか目標を下げるかの判断の対象にする。
- 3年固定か毎年の見直しかを先に決め、変えてよいものと変えないものを書いておく。月次ではKPIの差異から施策までさかのぼる。
次に読むなら、年度予算へのつなぎ方を扱った予算管理の進め方、編成・統制・見直しを一つの年間サイクルにすると、資金の配り方を扱ったキャピタルアロケーション(資本配分)の決め方、原資と使い道の優先順位を勧める。



