月曜の経営会議で、第2事業部の8月の営業利益は1億8,000万円と報告された。計画を2,000万円上回り、事業部長は増員の前倒しを提案し、承認された。 翌週の火曜、その事業部長が自分でBIの画面を開くと、8月の営業利益は1億5,000万円になっている。差の3,000万円は、会議の後に再計算された本社費の配賦と、遅れて届いた仕入の請求書の計上だった。 次の経営会議の最初の20分は、どちらの数字が正しいのかという議論で消える。増員の承認を見直すべきかという話は、その後にやっと始まる。どちらの数字も間違ってはいない。違うのは、見た時点である。

POINT
財務会計には、数字を閉じる規律がある。実務では締めた会計期間を転記できないように閉じ、閉じた後の修正は承認を経て行う。 基準の側でも、過去の財務諸表に誤りが見つかれば、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に沿って修正再表示するかどうかを、重要性で判断する。どの数字がいつ確定し、確定した後に何があれば変わるのかが、決まっている。 管理会計には、これに当たる決まりがどこにもない。部門別の損益は、配賦を再計算すれば変わり、利益センタや顧客の所属を過去に遡って付け替えれば変わる。会計の事象が何も起きていなくても、先月の数字が書き換わる。 そしてこれは社内だけの問題でもない。企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」はマネジメント・アプローチを採り、事業セグメントを、最高経営意思決定機関が資源の配分を決め業績を評価するために経営成績を定期的に検討する単位として定めている。経営会議が見ている数字の作り方は、そのまま外部に開示するセグメント情報の土台になる(セグメント情報の区分は開示だけの話ではない、社内の報告単位がそのまま外に出る)。会議で見た数字と後日の数字が食い違う会社は、意思決定機関が何を検討したのかを、後から説明できない。

会議の後で数字が変わる経路は四つある

凍結のルールを作る前に、数字がどこから変わるのかを分ける。経路は四つあり、性質が違う。

一つ目は、締め後の遅れ計上。 請求書が遅れて届いた仕入、月をまたいで提出された経費精算、期ズレに気づいて後から入れた未払計上。会計の事象としては当月に起きていたものが、記録だけ遅れる(決算のカットオフ(期ズレ)が毎月出る原因、入荷データと請求書のずれ)。

二つ目は、配賦の再実行。 本社費や共通費の配賦サイクルを、会議の後に再実行する。配賦の基準に使う人員数や面積、売上の数字が遅れて確定したり、配賦の計算の誤りに気づいたりしたときに起きる。会計の事象は何も起きていない。 全社の利益は変わらず、事業部の間で数字が動くだけである(SAPの配賦(アロケーション)設計の実務と、共通費を納得感のある基準で割る考え方)。

三つ目は、マスタの遡及。 顧客の担当事業部を変えたとき、利益センタの割当を過去の月まで遡って付け替える。組織改編のたびにこれをやると、過去の実績が組み替わり、以前の会議資料と比べられなくなる(組織改編で管理会計の過去実績が比較できなくなる問題、遡及組替の範囲の決め方)。

四つ目は、財務の修正。 監査人の指摘や四半期の見積りの見直しで、財務会計の数字そのものが変わる。

二つ目と三つ目は、管理会計の中だけで起きている。 誰かが決めれば止められる。それなのに、多くの会社でこの二つが書き換えの過半を占めている。止めない理由がないのに、止めるルールがないのである。

凍結日を置き、会議は凍結した版だけで議論する

ルールの中心は一つである。毎月、決めた日時に管理会計の実績を凍結し、その時点の数字を版として保存する。経営会議は、凍結した版だけで議論する。

凍結日は、会議資料を作り始める前に置く。第5営業日に経営会議がある会社なら、第4営業日の17時のように、日だけでなく時刻まで決める。凍結した数字は、BIや計画系のシステムの版(スナップショット)として保存し、後から誰が開いても同じ数字が出るようにする。システムの中の「最新の実績」と「凍結した版」を、画面の上ではっきり分けて見せる。 事業部長が火曜に開いた画面が最新の実績で、会議の数字が凍結した版なら、食い違いは起きても混乱は起きない。

凍結日に間に合わせるために、前の工程を詰める。配賦の基準の数字(人員数、面積、事業部別の売上)を凍結日の前日までに確定させ、配賦は一度で終える。 遅れ計上を減らすには、請求書の未着分を見積りで計上するルールを締めに入れる(月次決算はどこまで正確にすべきか、概算でよい項目と実額に寄せる項目)。

凍結後の修正は、翌月に「前月以前の修正」として一行で見せる

凍結した後に見つかった修正は、どうするか。凍結した版は書き換えない。修正は、翌月の報告の中に「前月以前の修正」という行を設けて、当月の数字とは分けて見せる。

財務会計の誤謬の扱いとは、向きが逆になる。財務会計は重要な誤謬を過去に遡って直す。管理会計は、意思決定に使った数字を守るために、原則として過去を直さず、差を前に送る。 会議で議論した数字はそのまま残り、翌月の会議では、当月の実力と、過去の数字への修正が別々に見える。修正が毎月同じ事業部に同じ向きで出ていれば、それ自体がその事業部の締めの品質を示す指標になる。

ただし例外を一つだけ置く。事業部の営業利益の一定割合、あるいは一定額を超える誤りが見つかったときは、訂正版を出す。 訂正版には版番号と訂正の理由を付け、元の版も消さずに残す。基準を決めておかないと、「大きい修正だから直してほしい」という要望が毎月出て、凍結は形だけになる。

修正の経路凍結後に許すか見せ方
締め後の遅れ計上記録は許す(財務の数字として必要)翌月に「前月以前の修正」として一行で表示
配賦の再実行原則として許さない。実行権限と期間を絞る誤りがあれば翌月の配賦で調整し、同じ行で表示
マスタの遡及許さない。適用は翌月以降から過去の組替は年1回、別の版として作る
財務の修正許す(財務の数字として必要)基準を超えれば訂正版、超えなければ翌月の修正行

配賦の再実行とマスタの遡及を止めるには、システムの側の手当てが要る。 凍結後の期間に配賦サイクルを実行できる権限を絞り、マスタの変更には適用開始月を持たせて、過去の月への付け替えを通常の運用から外す(SAPの会計期間クローズ(OB52)で締め後の修正を統制する運用の作り方)。

凍結と版は、月次の締めと経営会議の間に一周する運用として定着させる
① 配賦を一度で終える
配賦の基準の数字を凍結日の前日までに確定させ、配賦サイクルは一回だけ実行する
→
② 決めた日時に凍結する
第4営業日の17時など時刻まで決め、その時点の実績を版として保存する
↑
管理会計の版管理
↓
④ 修正は翌月に前へ送る
凍結後の修正は翌月の報告に前月以前の修正として一行で表示し、基準を超える誤りだけ訂正版を出す
←
③ 会議は凍結した版で議論する
画面の上で最新の実績と凍結した版を分けて見せ、会議資料は版番号を付けて出す
凍結の目的は数字を正確にすることではない。会議で何を見て何を決めたかを、後から同じ数字で説明できるようにすることである。

「最新の数字で議論したい」という反論に答える

凍結を提案すると、事業部の側からよく出る反論がある。会議の時点で分かっている一番新しい数字で議論すべきで、古い数字で決めるほうが危ない、というものである。 もっともに聞こえるが、二つの点で筋が違う。

一つは、最新の数字は見てよいが、決める根拠にするなら版を指定する、という区別である。 事業部長が会議の前に最新の実績を開いて準備するのは自由である。ただし会議で提案し承認を取るときは、どの版の数字に基づくかを資料に書く。後から数字が変わっても、承認の前提が何だったかは残る。変わった結果として承認を見直すべきかどうかは、翌月の前月以前の修正行を見て、改めて判断すればよい。

もう一つは、速さが要る判断には、別の道具を使うということである。 月の途中で受注や粗利の動きを見て手を打ちたいなら、それは月次の実績ではなく、週次の速報の役目である(週次フラッシュレポートは月次決算の縮小版にしない、判断に使う3〜5指標の選び方)。月次の実績に速報の役目まで負わせるから、締めた後も数字を動かし続けることになる。月次の実績は動かない数字として、速報は動く数字として、役割を分ける。

期末と業績評価は、別の版で扱う

月次の凍結版を12か月分足しても、年度の財務諸表の数字とは一致しない。期末の見積りの見直しや監査の修正は、月次の凍結版には入っていないからである。

そこで期末には、財務の確定値に合わせた「年度確定版」を別に作る。 月次の凍結版の合計と年度確定版の差は、前月以前の修正行の累計と期末の修正に分けて、一枚の橋渡しで示す(管理会計と財務会計の数字が合わない原因と、毎月説明できるブリッジ表の作り方)。セグメント情報の差異調整も、この橋渡しから作れる。

そして、業績評価と賞与の計算にどの版を使うかを、規程に書く。 月次の凍結版の累計か、年度確定版か。書いていないと、評価の時期に、事業部ごとに有利な版を持ち出す議論が始まる。年度確定版を使うなら、期末の修正のうち事業部の責任でないもの(全社の見積りの変更など)をどう扱うかも、あわせて決めておく(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。

設例

売上高1,500億円の専門商社(3月決算、事業部6つ)。SAPとBIで事業部別の損益を毎月出していたが、経営会議の後に数字が変わることが常態化していた。 経営企画部が直近6か月を調べると、事業部と月の組み合わせ36のうち29で、会議の後に営業利益が変わっていた。変化の金額を経路別に分けると、配賦の再実行が48パーセント、遅れ計上が31パーセント、マスタの遡及が14パーセント、財務の修正が7パーセントだった。 配賦の再実行の原因の大半は、配賦の基準に使う事業部別の人員数が、人事部から第5営業日に届いていたことだった。会議は第5営業日の午後である。経理部と人事部は、人員数の確定を第3営業日に前倒しし、配賦は第4営業日の午前に一度だけ実行することにした。 凍結は第4営業日の17時とし、BIには「凍結版」と「最新」を別の画面として置いた。凍結後に配賦サイクルを実行できる権限は、経理部の管理会計担当2名に絞った。マスタの変更は適用開始月を翌月以降に限り、組織改編に伴う過去の組替は年1回、別の版として作ることにした。訂正版を出す基準は、事業部の営業利益の10パーセントか3,000万円のいずれか大きいほうとした。 運用を始めて6か月、前月以前の修正行の金額は、月平均で全社の売上総利益の0.4パーセントに収まり、訂正版を出したのは1回だった。経営会議の議事録で、数字の正否をめぐるやりとりに割かれた時間は、1回あたり平均22分から4分になった。 事業部長賞与の計算は年度確定版を使い、全社の見積りの変更による修正は評価の対象から除くと規程に明記した。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、会議の後で数字が変わる経路を四つに分けて測る。 締め後の遅れ計上、配賦の再実行、マスタの遡及、財務の修正である。財務会計には期間を閉じる仕組みと、企業会計基準第24号による修正再表示の判断があるが、管理会計には、どの時点の数字を正とするかの決まりがない。配賦の再実行とマスタの遡及は、会計の事象が起きていないのに過去を書き換えており、管理会計の中だけで止められる。

第二に、凍結日と版を置く。 凍結は日だけでなく時刻まで決め、その時点の実績を版として保存し、経営会議は凍結した版だけで議論する。凍結後の修正は版を書き換えずに、翌月の報告に前月以前の修正として一行で見せる。訂正版を出す基準を先に決め、出すときも元の版を残す。 配賦の基準の数字を凍結日の前日までに確定させ、凍結後の配賦の実行権限を絞り、マスタの変更は翌月以降からにする。

第三に、期末と業績評価の版を別に決める。 財務の確定値に合わせた年度確定版を作り、月次の凍結版の合計との差を一枚の橋渡しで示す。業績評価と賞与をどの版で計算するかを規程に書く。企業会計基準第17号のマネジメント・アプローチの下では、経営会議が見ている数字の作り方は、外部に開示するセグメント情報の土台にもなる。

まとめ
経営会議の後で部門別の実績が変わる経路は、締め後の遅れ計上、配賦の再実行、マスタの遡及、財務の修正の四つある。このうち配賦の再実行とマスタの遡及は、会計の事象なしに過去を書き換えている。決めた日時に実績を凍結して版として保存し、会議は凍結した版だけで議論する。凍結後の修正は版を書き換えずに翌月の報告で前月以前の修正として一行で見せ、基準を超える誤りにだけ訂正版を出す。期末は財務に合わせた年度確定版を別に作り、業績評価と賞与をどの版で計算するかを規程に書く。

関連記事