購買が試算表を持ってくる。内製の加工費は一個あたり420円、外注の見積は360円。差は60円で、年間10万個なら600万円。会議はここで「外注のほうが安い」と結論する。だがこの比較は、ほぼ確実に間違っている。420円のなかには、外注に切り替えても一円も減らない費用が入っているからだ。設備の減価償却費、建屋の固定資産税、監督者の給与、本社間接費の配賦分。これらは注文を止めた翌月も、同じ額で出ていく。 比べるべきだったのは420円と360円ではない。止めれば実際に消える現金支出と、外注に切り替えて新たに出ていく現金支出の差である。
単価表の420円は、選択のために作られた数字ではない
原価計算基準は、制度としての原価計算を財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系と位置づけている。棚卸資産の評価と売上原価の算定、そして期間損益の測定が目的だ。だから製造間接費は配賦される。配賦しなければ製品の原価が出ず、棚卸資産の金額が決まらないからである。
配賦は正しい。ただし配賦された金額は、その製品を作るのをやめたときに消える金額ではない。減価償却費を1万個で割って一個40円を乗せたとして、その製品の生産を止めても減価償却費の総額は変わらない。残った製品に薄く広がるだけだ。稼働が落ちたときに製品単価が上がって見えるのと、同じ構造である(遊休キャパシティのコスト:稼働が落ちた工場の固定費を製品原価に乗せてはいけない)。
原価計算基準はこの限界を隠していない。「二 原価計算制度」は、選択的事項の決定に必要な特殊の原価として差額原価、機会原価、付加原価等を挙げ、その調査測定を制度の範囲外に置いた。作れ、ただし常設の仕組みからは出ない。 内製と外注の比較表を誰かが随時作らなければ、この世に存在しない数字である。
にもかかわらず、会議で回っているのは単価表のほうだ。手元にある数字が使われる。そして手元にある数字は、選択のためには作られていない。
比較に載せてよいのは、現金の出方が変わるものだけ
比較表の作り方は、実は単純である。費目を一つずつ見て、外注に切り替えたときに現金の出方が変わるかどうかだけを問う。変わるものは載せる。変わらないものは、いくら製品原価に乗っていても載せない。
右側の「外注で新たに出る現金支出」は、たいてい試算から抜け落ちる。理由もはっきりしている。外注単価は見積書に書いてあるが、受入検査の工数や不良が出たときの切り分けの手間は、誰の見積書にも書かれていないからだ。内製していた間は工程内で解決していたものが、外注になると社外との折衝になる。この工数は購買と品質保証に発生し、既存の人員が吸収するので、当初の試算には現れない。
現れないだけで、消えているわけではない。数年後に「外注比率を上げたのに間接部門が増えた」という話が出るのは、この工数が後から人数の形で表面化するからである。
もう一つ、差額を見る期間を先に決めておく必要がある。ここを決めずに単年度で比べると、答えが設備の償却の進み具合で変わってしまうからだ。償却が終わる直前の設備は、来期以降の減価償却費がゼロになるので内製が急に有利になる。逆に導入したばかりの設備は、単年度で見れば外注が圧倒的に有利に見える。どちらも設備の会計処理の都合であって、事業の実力ではない。 比較の期間は、設備の残存耐用年数と、外注に切り替えた場合に自社が縛られる期間の長いほうに合わせる。金型や治具を外注先に預ける、図面を渡す、社内の要員を配置転換する。いずれも戻すのに年単位の時間と費用がかかる以上、判断の射程は単年度ではない。
止めた設備の費用は、原価の外へ移るだけ
内製をやめる判断で最も誤解が多いのが、設備の扱いだ。
原価計算基準「五 非原価項目」(一)は、経営目的に関連しない価値の減少の第一に、次の資産に関する減価償却費、管理費、租税等の費用を置く。投資資産たる不動産、有価証券、貸付金等。未稼動の固定資産。長期にわたり休止している設備。その他経営目的に関連しない資産。内製をやめて設備を長期に休止させれば、その減価償却費は原価計算制度上の原価ではなくなる。
ここで多くの会社が読み違える。原価でなくなったのだから原価は下がった、と読む。単価表を見ればたしかに下がっている。だが非原価項目は財務会計上の費用でなくなったわけではない。製品に算入しないというだけで、損益計算書には残る。製品原価が下がって、全社の営業利益が減る。この組み合わせが起きた年、社内の説明は必ず紛糾する。
そして遊休は、次の会計イベントを呼ぶ。企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」二1は、減損の兆候として、資産または資産グループが使用されている事業に関連して営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか継続してマイナスとなる見込みであること、そして資産または資産グループが使用されている範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたかあるいは生ずる見込みであることを挙げている。内製の停止は、後者に真正面から当たる。
つまり外注化の判断は、翌期の減損の判定を自分から動かす判断でもある。比較表に載せるべきは、まだ見積もれない減損の金額ではない。この判断が減損の兆候の判定に影響するという一行である。判定は決算期に会計士との論点になる。先に握っておかないと、内製停止を決めた期の決算で初めて議題に上がる。
人件費は、判断のあとに残る
設備よりさらに動かないのが人だ。
労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定める。内製をやめても、その工程に張り付いていた正社員の給与は現金支出として残る。比較表に「直接工の人件費が消える」と書いた瞬間、その表は現実から離れる。
だから人件費については、扱いを分ける。残業代と派遣費、繁忙対応の一時的な費用は、稼働がなくなれば消えるので載せてよい。基本給と賞与は、配置転換の行き先が具体的に決まっている分だけ載せる。行き先が「他部署で活用」としか書かれていないなら、載せない。
この線引きに納得しない人は必ず出る。それでは永久に外注化できない、と言われる。答えは、外注化できないのではなく、削減額の計上時期が違うというだけだ。空いた人が別の付加価値を生む配置に移り、その配置で以前は外部に払っていた費用が減るなら、その時点で削減が実現する。判断の時点ではまだ実現していない。
機会原価として先に見込みたいなら、見込んでよい。ただし条件がある。空いた設備と人が、いつ、どの製品または業務で、いくらの貢献利益を生むかを書くことだ。書けないなら、それは機会原価ではなく願望である。
2026年、外注側の現金支出の前提が二つ動く
外注に切り替えたあとの現金支出は、いま制度の側で動いている。試算を作るなら、この二つを織り込む。
一つは下請法の改正である。下請代金支払遅延等防止法は2026年1月1日施行の改正で名称を含めて刷新され、通称は取適法(中小受託取引適正化法)になった。受注者の資金繰り負担となる手形払い等が禁止され、価格転嫁のための協議に応じない一方的な代金決定も禁止される。用語も親事業者・下請事業者から委託事業者・中小受託事業者へ改められた。外注化の試算で支払サイトを手形前提に置いていた会社は、その前提が使えない。 支払期日までの期間が、そのまま現金の出る日になる。運転資金の増加分は、削減額から差し引く必要がある。
もう一つは消費税である。免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置は、2023年10月からの3年間は仕入税額相当額の80%を控除できる扱いだったが、令和8年度税制改正で刻みが見直され、2026年10月1日以後は70%になる(国税庁「インボイス制度」)。外注先に免税事業者が含まれる場合、同じ請求額でも会社の負担は10月から増える。小口の加工や個人事業主への委託を積み上げている会社では、この差が試算の結論を動かす。
どちらも「外注単価」の外側にある。だから見積書を何枚集めても出てこない。
逆向きの判断でも、同じ物差しを使う
外注から内製へ戻す判断でも、間違いは対称に起きる。
内製化の稟議は、たいてい「外注費が年間8,000万円かかっている。設備を1.5億円で入れれば、内製の加工費は年間5,000万円で済む」という形で出てくる。ここで比較されている5,000万円は、多くの場合、既存の配賦率で計算した社内原価だ。だが内製化で本当に増える現金支出は、材料と労務と電力と保全であって、既存設備に紐づいた配賦分ではない。外注化のときは配賦固定費を過大に見て内製を不利にし、内製化のときは配賦率を流用して内製を有利にする。 同じ会社で、方向によって物差しが変わる。
防ぎ方は一つで、内製と外注の比較表の様式を社内で固定してしまうことだ。費目の行と、消えるか消えないかの判定列と、判断の期間。この三点が入った様式を稟議の添付にすれば、方向によって計算が変わる余地が消える。様式が無いと、毎回その場で組み直され、そのたびに結論を出したい側の都合が入り込む(設備投資予算の執行管理|承認後に膨らむ工事費をどこで止めるか)。
費目ごとに、消えるかどうかを一行で書く
比較表の作り方を、費目の一覧に落とすとこうなる。
| 内製原価に入っている費目 | 外注に切り替えたときの現金支出 | 判断に使う差額 |
|---|---|---|
| 材料費・購入部品費 | 発注を止めれば翌月から出なくなる | 入れる |
| 直接工の残業代・派遣費 | 稼働がなくなれば消える | 入れる |
| 電力・工具・消耗品 | 生産量に連動して減る | 入れる |
| 正社員の基本給・賞与 | 労働契約法第16条があり、配置転換しない限り消えない | 行き先が決まった分だけ入れる |
| 設備の減価償却費 | 売却または除却しない限り消えない。休止後は原価計算基準五(一)により非原価項目へ移るだけ | 入れない |
| 建屋の賃借料・固定資産税 | 契約を解約し資産を手放すまで消えない | 入れない |
| 本社間接費の配賦分 | 配賦をやめても本社の費用は減らない | 入れない |
| 受入検査・調達管理・輸送・在庫 | 外注化で新たに発生する | 増加側に入れる |
この表を一度作ると、会議の時間が短くなる。議論の対象が「安いか高いか」から「この費目は本当に消えるのか」へ移るからだ。後者は事実の問題なので、決着がつく。
一列だけ足しておくとさらに効く。それぞれの費目について、消えると答えた人の名前を書く列だ。材料費が消えることは誰でも言える。だが正社員三名の労務費が消えると書くなら、その配置転換を実行する責任者の名前が要る。名前が入らない削減額は、削減額ではなく期待値である。 名前の列を作った瞬間に、比較表の合計は半分近くまで縮む。縮んだ後の数字が、判断に使える数字だ。
決めるのは価格ではなく、空いた資源の行き先
内製と外注の比較でいちばん多い失敗は、計算の誤りではない。単価の差を見て、資源の行き先を決めないまま結論を出すことだ。
外注化が本当に効くのは、空いた設備と人が、より高い貢献利益を生む用途に移ったときだけである。移らないなら、会社から出ていく現金は減らず、製品原価だけが下がる。数字の上では改善したように見え、損益は悪化する。この乖離が数か月遅れで表面化し、原因の特定にさらに時間がかかる。
だから判断の文書には、価格の比較と並べて三行を書く。空いた設備を何に使うか、決まっていないなら売却か除却をいつ判断するか。空いた人をどこに配置し、その配置で何の費用が減るか。外注化で新たに発生する管理工数を、どの部門の誰が持つか。三行が埋まらないまま決議した外注化は、単価表の上でだけ成功する(撤退・損切りの意思決定基準:サンクコストに引きずられない撤退ルールの設計)。
逆に言えば、三行が埋まるなら、単価が多少不利でも外注化は成立する。判断の軸は最初から価格ではなかった、ということである。
そして三行を埋める作業は、購買の仕事でも工場の仕事でもない。設備の行き先は投資計画の話であり、人の行き先は要員計画の話であり、管理工数の引受先は組織の話だ。三つとも、部門の外に出ないと決まらない。単価の比較だけが購買の机の上で完結してしまうから、比較が単価の話に縮む。 比較表を経理が持ち、三行が空欄のうちは決議に上げない。この一手で、内製と外注の議論は価格交渉から資源配分の議論に戻る。



