四半期の事業部評価の会議で、二つの工場の数字が並ぶ。どちらも同じ型の成形ラインを1本ずつ増設し、生産量もほぼ同じなのに、第一工場の営業利益率は第二工場より2ポイント低い。 第一工場は本社の設備投資枠で10億円のラインを買い、第二工場は同じ能力のラインをリースで借りた。第一工場長は、償却が重いのは本社が買えと言ったからだと言い、第二工場長は、うちは身軽に回していると言う。翌年の設備投資計画では、四つの工場のうち三つが、次のラインをリースで入れたいと書いてきた。 経営企画は、リースの方が安いのならそれでいいのではないかと言う。CFOが確かめたかったのは、リースが本当に安いのか、それとも部門損益の作り方が借りる方を安く見せているだけなのか、だった。
同じ能力の設備が、買うと重く、借りると軽く見える
冒頭の10億円のラインで、部門損益に載る費用を比べてみる。耐用年数は10年とする。
買った場合、定額法なら償却費は毎年1億円である。 定率法で償却率が0.2なら、初年度の償却費は2億円になり、翌年は1.6億円、その翌年は1.28億円と減っていく。借りた場合、リース会社が年5パーセントの利回りで10年間に元本を回収する条件なら、年間のリース料はおよそ1.3億円になる。 保守や保険を含めない、元本と利息だけの金額である。
使い始めの3年を比べると、定率法で償却する第一工場の費用は2億円、1.6億円、1.28億円で、第二工場のリース料は毎年1.3億円である。同じ能力の設備を使って同じ量を作っているのに、第一工場の利益は最初の2年で合わせて1億円近く低く出る。 後半になると逆転し、償却の進んだ第一工場の方が軽くなる。どちらにしても、部門損益の差を生んでいるのは、設備の経済性の違いより、費用を期間に配る方法の違いである。
さらに、部門をROICで評価している会社では、差がもう一段開く。買ったラインは第一工場の資産として投下資本に入り、分母を10億円押し上げる。 借りたラインは、管理会計で賃借料として扱っている限り、第二工場のバランスシートのどこにも現れない。第二工場は、分母に何も載せないまま、ラインが生む利益だけを分子に受け取る。 部門に資本コストを課している会社なら、第一工場だけが10億円に対する資本コストを払い、第二工場は払わない(部門に資本コストを課すと在庫と売掛が減る理由、利益だけの評価の限界)。
放置すると、現場の判断は借りる方に流れる
この非対称は、一度の比較の誤りでは終わらない。部門長の評価と賞与が部門の利益率やROICで決まるなら、次の設備も借りたほうが自分の数字がよく見えると、部門長は学ぶ。 冒頭の会社で、四つの工場のうち三つがリースを希望してきたのは、その学習の結果である。
困るのは、全社で見たときに借りる方が高くつく場合でも、部門の判断は借りる方に流れることである。リース料には、リース会社の調達金利と利ざや、事務の費用、残価の見積りのリスクが含まれている。 自社の資金調達の金利が低い会社や、手元の現金が余っている会社なら、買った方が全社の負担は軽いことが多い。それでも部門の物差しが借りる方を有利に見せれば、全社の資本コストを上げる選択が、部門ごとの合理的な判断の積み重ねとして起きる。
逆向きの歪みもある。償却の終わった設備を使い続ける部門は、償却費がゼロなので原価が安く見え、設備を更新した部門より利益が出る。 更新を先送りした部門が評価され、更新した部門が責められる(償却済み設備を使う工場の原価が安く見える問題、簿価ゼロが設備更新の判断を歪める)。買うか借りるか、更新するかしないかという設備の判断が、部門の物差しの形に引っ張られている。
使っている資産に資本チャージを乗せて、土俵を揃える
土俵を揃えるには、持っているか借りているかではなく、使っているかどうかで資産を部門に載せる。 手順は二つある。
一つ目は、借りた設備も使用資産として部門のバランスシートに載せることである。 リース料の総額を、全社で決めた資本コストの率で割り引いた現在価値を、部門の投下資本に加える。新しいリース会計基準の使用権資産と同じ考え方である。新基準を適用する会社は財務会計の使用権資産を起点にできるが、財務会計の割引率は借手の追加借入利子率などで決まるので、評価用には率を揃え直す。部門の費用は、賃借料をやめて、使用資産の償却相当額に置き換える。 利息に当たる部分は、部門の費用から外し、代わりに使用資産に対する資本チャージとして全社共通の率で課す。これで、借りた部門にも、買った部門と同じ率の資本コストがかかる。
二つ目は、買った設備の費用を、期間に均した内部賃料にすることである。 定率法の償却費をそのまま部門に配ると、使い始めの部門だけが重くなる。部門の評価用には、取得価額を耐用年数と資本コストの率で割り戻した年額を、毎年同じ金額で課す。冒頭の10億円のラインに、資本コスト7パーセント、10年の条件を当てると、内部賃料は年に約1.42億円になる。 償却と資本コストを合わせた金額が、10年間で平らに並ぶ。
この二つを当てると、第一工場の費用は年1.42億円になる。第二工場は、リース料を7パーセントで割り引いた約9.1億円が使用資産になり、その償却相当と7パーセントの資本チャージを合わせた年額は約1.3億円である。同じ率で比べ直すと、両工場の差は年に1,300万円ほどまで縮む。 残った差は、リース会社が5パーセントの利回りで資金を出している一方で、自社の資本コストが7パーセントであることから来ている。ここまで来て初めて、リースの方が安いのか高いのかを、調達の条件の比較として議論できる。
資本コストの率は、全社で一つに決めて部門に通知しておく。部門ごとに率を変えるなら、変える理由を事業のリスクの違いとして説明できる場合に限る(資本コストの出し方と使い方、WACCを自社の数字で説明する)。
土俵を揃えた後に残る差が、実質的な比較の材料になる
物差しを揃えると、買うか借りるかの議論は、部門の利益率の取り合いから、設備の調達条件の比較に変わる。比べる項目は三つに絞れる。
一つ目は調達の金利である。 リース会社の利回りと、自社が同じ期間で借りた場合の金利と、手元の現金を使う場合の資本コストを並べる。二つ目は残価である。 使い終わった設備を売れるなら、買った方が残価を自分で受け取れる。技術の陳腐化が速く、使い終わった設備に値が付かないなら、残価のリスクをリース会社に移す価値がある。三つ目は保守と入れ替えの柔軟さである。 保守込みのリースなら故障の費用の変動をリース会社に移せるし、生産の見通しが不確かなら、中途解約の条件が付いた契約に意味がある。
この三つは、設備投資の稟議で本来比べるべき項目である。 部門の損益の見え方が違うという理由で借りる方を選んでいた会社では、これらの項目が稟議に書かれていないことが多い。買うか借りるかの判断を、設備投資の採算の計算と同じ現在価値の比較で行い、部門の物差しは、その判断を歪めない形に作り直しておく(投資判断でNPV・IRR・回収期間をどう使い分けるか、3指標の落とし穴と優先順位)。
資金を作るために、持っている設備を売って借り直すセール・アンド・リースバックも、同じ物差しで見る。新しいリース会計基準の下では、売って借りても使用権資産とリース負債が戻ってくるので、財務諸表の資産を軽くする効果はほとんど残らない(セール・アンド・リースバックで資金を作るべきか、新リース会計基準の下で残る効果)。部門の物差しで資産が消えて見える仕組みを残していると、この取引も部門の成績を上げる手段として持ち込まれる。
売上高600億円の樹脂成形品メーカー(非上場、3月決算、国内に四つの工場)。工場ごとに営業利益率とROICで評価し、工場長の賞与に連動させていた。 3年前に本社の判断で第一工場に10億円の成形ラインを購入し、同じ時期に第二工場は同じ能力のラインをリースで導入した。償却は税務に合わせた定率法で、リース料は工場の賃借料として処理していた。翌年度の設備投資計画で、四つの工場のうち三つが次のラインのリースを希望したことから、CFOは両工場の数字を分解した。 第一工場の営業利益率が低いのは、初年度2億円、2年目1.6億円の償却によるもので、ROICでは10億円の投下資本を抱えている分だけさらに差が開いていた。第二工場のリース料は年約1.3億円で、ラインは工場の投下資本に入っていなかった。CFOは、工場の評価に使う数字を二つ改めた。 借りた設備はリース料の現在価値を使用資産として工場の投下資本に加え、購入した設備は資本コスト7パーセント、10年で均した年約1.42億円の内部賃料を課す形にした。揃えた後の差は年1,300万円ほどで、自社の借入金利がリースの利回りを下回っていたことから、次の3本のラインのうち、陳腐化の速い1本だけをリースにし、2本は購入することを取締役会で決めた。 財務会計の償却は定率法のまま変えず、工場の評価用の数字だけを管理会計の側で作り替えた。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
買うか借りるかの物差しで決める三つ
第一に、部門の資産は、使っているかどうかで載せる。 持っているか借りているかは問わない。借りた設備も、リース料の現在価値を使用資産として部門の投下資本に加え、部門の費用は賃借料から償却相当額に置き換える。割引率は全社共通の資本コストの率に揃える。
第二に、資本コストは、使用資産の全体に全社共通の率で課す。 買った設備には、償却と資本コストを耐用年数で均した内部賃料を課し、定率法の償却の山が使い始めの部門だけに乗る状態をなくす。財務会計の償却方法は変えなくてよい。
第三に、買うか借りるかの判断は、調達の金利と残価と保守の条件で比べる。 部門の損益の見え方は判断の材料にしない。 物差しを揃えた後に残る差だけを稟議に書かせ、現在価値で比較する。部門の物差しで資産が消えて見える仕組みを残すと、リースもセール・アンド・リースバックも、部門の成績を上げる手段として使われ続ける。



