経営会議の資料の2ページ目に、先行指標の一覧が載っている。引き合いの件数、見積の提出件数、Webからの問い合わせ、展示会で集めた名刺の数、新規の商談の数、受注残。 全部で14ある。毎月、前月比の矢印が付き、下向きの矢印には営業部門の説明が添えられる。ある月、社外取締役が質問した。このうち、どれが何か月後の売上を予告しているのですか。 営業本部長は、どれも売上の手前にある数字です、と答えた。CFOは、答えになっていないことに気づいた。 手前にあることと、先行していることは違う。そして、14の指標のどれについても、過去の実績で時間差を確かめたことはなかった。

POINT
先行指標が先行しているかどうかは、過去の実績で確かめられる。指標のある月の値と、売上や受注の1か月後、2か月後、12か月後の値を並べ、どの時間差で動きが最もよくそろうかを測る。 統計の言葉では、時間差をずらした相関を見ることになる。ただし、月次の生の数字をそのまま比べると、ほぼ確実にだまされる。 売上も指標も右肩上がりなら、無関係でも相関は高く出る。季節の波が同じなら、12か月ずらしたところで相関が跳ね上がる。そのため、比べる前に前年同月比に直し、趨勢と季節の波を抜いておく。前年同月比にすると最初の12か月が使えなくなるので、検証には少なくとも4年分の月次の実績が要る。 そのうえで、期間を前半と後半に割っても同じ時間差で同じ向きに動く指標だけを、先行指標として残す。

「手前にある」数字と「先行している」数字は違う

先行指標の一覧は、たいてい業務の流れの順に作られる。問い合わせがあり、商談になり、見積を出し、受注し、納品して売上になる。 流れの上流にある数字を並べれば、先行指標の一覧ができあがる。

だが、上流にあることは、下流の数字を予告する根拠にならない。 問い合わせの質が季節や広告の出し方で大きく変わるなら、件数が増えても受注は増えない。見積の提出件数が、少額の見積の乱発で膨らんでいるなら、受注の金額とは動きが合わない。流れの順に並んでいるという事実は、つながりの仮説にすぎない。

先行指標には、性質の違う二種類が混ざっている。一つは、構造で先行する指標である。 受注残は、納期の定めに従って売上に変わる。時間差は契約と生産の計画で決まっていて、統計で探すものではない。この種類は、相関を測るより、受注残が売上に変わる月ごとの割合を管理するほうが役に立つ。 もう一つは、行動で先行する指標である。問い合わせや商談の件数は、顧客の行動を映すだけで、売上に変わる時期も割合も決まっていない。検証が要るのは、この二つ目のほうである。

時間差は、前年同月比に直してからずらして比べる

検証の手順は、四つの段で足りる。

一段目は、数字をそろえることである。 指標と、予告したい財務の数字、たとえば受注高や売上高を、48か月分以上の月次で並べる。途中で指標の定義が変わっていれば、そこで系列を切る。二段目は、前年同月比に直すことである。 これで、会社全体の成長の趨勢と、決算期末に売上が集中するといった季節の波が抜ける。

三段目は、時間差をずらして比べることである。 指標の前年同月比を、財務の数字の0か月後から12か月後までの前年同月比と一つずつ並べ、相関の係数を出す。表計算ソフトの関数で足りる。最も係数が高く出た時間差が、その指標の候補の先行期間になる。

四段目は、安定を確かめることである。 期間を前半と後半に割り、それぞれで同じ計算をする。前半では5か月先の受注とそろっていたのに、後半では消えている、という指標は珍しくない。両方の期間で、同じくらいの時間差に、同じ向きの相関が出る指標だけを残す。

予告させる相手の数字も、先に選んでおく。多くの場合、売上高より受注高のほうがよい。 売上高は、納期や検収の時期で平らにならされ、顧客の行動の変化が遅れて薄く出る。受注高なら、商談や見積の動きが直接に映る。受注から売上までの時間差は、受注残の管理で別に押さえられる。 行動の指標は受注高と、受注残は売上高と、組み合わせを分けて検証する。

この作業は、経営企画やFP&Aの担当者が一人で、数日あれば終わる。難しいのは計算より、過去の指標の定義を掘り起こす作業である。 3年前の商談の件数が今と同じ数え方だったかは、営業部門に聞かないと分からない。

検証でだまされやすい落とし穴が三つある

手順は単純である。誤りやすいのは、結果の読み方のほうである。

一つ目は、試した組み合わせの多さである。 14の指標それぞれに13通りの時間差を試せば、182通りの組み合わせを見ることになる。これだけ試せば、偶然に高い相関が出る組み合わせが、いくつかは必ず混ざる。 前半と後半に割って確かめる四段目は、この偶然をふるい落とすためにある。業務の上で説明のつかない時間差、たとえば問い合わせが11か月後の売上とだけそろう、という結果も疑ってよい。

二つ目は、比べる点の少なさである。 前年同月比に直した36か月分の系列で、6か月の時間差を見ると、並べられる組は30しか残らない。30組なら、係数が0.36を下回る程度の相関は、偶然でも普通に出る。 しかも前年同月比の系列は、隣り合う月の値が似るので、実際に比べている独立な点はもっと少ない。係数の大きさに一喜一憂するより、二つの期間で再現するかを重く見る。

三つ目は、指標を目標にした後の変質である。 商談の件数を営業の評価に入れると、小さな案件まで商談として登録されるようになり、件数と受注の関係が崩れる。先行指標として働いていた数字が、目標にした途端に働かなくなるのはよくあることである。 評価に使っている指標は、年に一度、検証をやり直す(管理会計KPIの設計、測ると行動が変わる指標と変わらない指標の違い)。

先行指標の一覧は、業務の流れの順から、確かめた時間差の順に作り直す。
BEFORE
流れの順に並べた14の指標
上流にある数字を先行指標と呼び、毎月の前月比の矢印で議論する。何か月後の何を予告しているかは誰も知らない
→
AFTER
時間差を書き添えた5つの指標
前半と後半の両方で再現した指標だけを残し、「5か月後の受注高に効く」と書き添える。受注残は割合で管理する
会議で議論する指標が減ると、残った指標の動きに対して、誰が何を打つかの話に時間を使える。

残した指標には、何か月後の何に効くかを書く

検証で残った指標は、会議の資料での見せ方も変える。指標の名前の横に、何か月後の、どの財務の数字に効くかを書き添える。 見積の提出件数なら「5か月後の受注高」、受注残なら「3か月以内に売上に変わる割合」と書く。

書き添えると、会議の議論の向きが変わる。 見積の件数が前年同月比で1割落ちた月は、5か月後の受注高が落ちる見込みとして扱える。予算の見通しに反映するか、今から打てる手があるかを議論できる。前月比の矢印を眺めるだけの時間が、手を打つ時間に変わる。 着地見込みの作り方と組み合わせる(フォーキャスト(着地見込み)の精度を上げる、予算と分けて毎月更新する予測)。

つながりの見えなかった指標は、会議の資料から外す。 営業部門の現場で追う意味がある数字なら、部門の中で見ればよい。経営会議の資料は、経営として手を打つ材料に絞る。外したことは、理由と一緒に記録に残す。 数年後に同じ指標を載せたいという声が出たとき、なぜ外したかを説明できる。

指標の定義は、グループの中でそろえておく。「見積の提出件数」が、子会社ごとに再見積を数えたり数えなかったりしていれば、検証の結果そのものが揺らぐ(グループでKPIの定義がずれる問題、同じ名前の指標をそろえる定義書と改訂手続き)。

設例

業務用空調設備の販売と施工の会社(売上高420億円、3月決算)。経営会議の資料には、14の先行指標が並んでいた。 社外取締役の質問をきっかけに、経営企画部が過去5年分の月次の実績で検証した。前年同月比に直し、0か月後から12か月後までの受注高と売上高と比べ、期間を前半と後半に割って再現を確かめた。両方の期間で再現したのは、見積の提出金額(5か月後の受注高)、改修の案件の引き合いの件数(7か月後の受注高)、保守の契約の更新率(12か月後の保守の売上)の三つだった。 Webからの問い合わせの件数は、前半では4か月後の受注高とそろっていたが、後半では相関が消えていた。調べると、後半の期間に広告の出し方を変え、少額の個人の問い合わせが急増していた。 見積の提出件数は、少額の見積が多く、件数では再現せず、金額では再現した。展示会の名刺の数は、どの時間差でも相関が出なかった。受注残は、構造で先行する指標として、3か月以内に売上に変わる割合で管理することにした。 資料の先行指標は14から5になり、それぞれの名前の横に効く時期と対象を書いた。Webの問い合わせは、法人からの問い合わせに絞って定義を改め、1年後に検証をやり直すことにした。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、先行指標を、構造で先行するものと、行動で先行するものに分ける。 受注残のように契約と計画で時間差が決まる指標は、売上に変わる割合で管理する。統計で検証するのは、問い合わせや商談のように時間差の決まっていない指標である。

第二に、前年同月比に直してから、時間差をずらして比べる。 4年分以上の月次の実績を使い、0か月後から12か月後までの相関を出す。期間を前半と後半に割っても同じ時間差で同じ向きに出る指標だけを残し、係数の大きさより再現を重く見る。

第三に、残した指標には何か月後の何に効くかを書き、残らなかった指標は会議から外す。 外した理由は記録に残す。評価に使っている指標は、年に一度、検証をやり直す。

まとめ

先行指標の一覧は、業務の流れの上流にある数字を並べただけで、時間差を確かめていないことが多い。前年同月比に直して趨勢と季節の波を抜き、時間差をずらして比べ、期間を二つに割っても再現する指標だけを残す。

残した指標には効く時期と対象を書き添え、会議の議論を前月比の説明から打ち手の検討に移す。目標に使った指標は働かなくなることがあるので、年に一度は検証をやり直す。

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