売上を頂点に置いたKPIツリーには、費用と資本が出てこない。そのため、値引きで数量を伸ばす打ち手は増収として評価され、在庫を積み増す打ち手は負担が評価されないまま通る。筆者は、頂点は営業利益かROICに置くのがよいと考えている。営業利益に置けば費用が、ROICに置けば資本までが式に現れ、利益や資本効率を下げる打ち手は下げる打ち手として読める。この記事では、KPIツリーの作り方を4つの手順に分け、売上・営業利益・ROICを頂点にした3つの例を同じ設例で比べる。指標を絞る基準と、月次の会議での使い方も示す。
- KPIツリーは、最終の目標を足し算・引き算・掛け算・割り算で分け、現場の指標までつないだ図である。
- 筆者は、頂点は売上より営業利益かROICに置くのがよいと考えている。売上を頂点にすると、費用と資本が式に出てこない。営業利益に置けば費用が、ROICに置けば資本までが式に現れる。
- 枝は、持ち主が毎週の行動で動かせる指標まで伸ばして止める。その先は指標の分解をやめ、行動の一覧にする。
KPIツリーとは
KPIツリーとは、事業の最終の目標を頂点に置き、それを式で分けた指標を枝として下へつないだ図である。頂点の目標はKGI(重要目標達成指標)、枝の指標はKPI(重要業績評価指標)と呼ばれる。KGIが「今期の営業利益」のような結果の数字であるのに対し、KPIは「商談件数」「在庫月数」のように、結果に至る途中の数字を指す。
ツリーの形にする理由は、指標どうしの関係を式で確かめられるからである。上の指標と下の指標が足し算か掛け算でつながっていれば、下の指標が動いたときに頂点がいくら動くかを計算できる。計算できない指標は、ツリーの枝に置けない。KPIを一覧表に並べるだけだと、この関係が見えない。どの指標が頂点に効くかが分からないまま、指標の数だけが増えていく。
ツリーは上から読むと分解の図で、下から読むと計算の図になる。現場の指標の実績を入れれば、頂点の着地を試算できる。管理会計の中でのKPIの位置づけは管理会計の始め方、導入の順序と意思決定に使う具体例で扱った。
作り方
作り方は、頂点を決める、四則演算で分ける、動かせる指標で止める、持ち主を書く、の4つの手順である。
頂点を決める
最初に、ツリーの頂点に置く数字を1つ決める。候補は売上、営業利益、ROIC(投下資本利益率)などである。頂点が違えば、下に並ぶ指標も変わる。売上を頂点にすれば数量と単価が並び、営業利益を頂点にすれば変動費と固定費が加わり、ROICを頂点にすれば在庫や売上債権が加わる。
筆者は、事業部のツリーの頂点は営業利益かROICに置くのがよいと考えている。売上を頂点にすると、売上を増やすために使った費用と資本がツリーのどこにも現れないからである。営業利益を頂点にすれば費用が現れ、ROICを頂点にすれば資本まで現れる。次の節の設例で、この違いを数字で確かめる。
資本収益性を見る流れは、上場会社への要請にもある。東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に対し、損益計算書の売上や利益の水準を意識するだけでなく、貸借対照表をもとにした資本コストや資本収益性を意識した経営を実践するよう要請した。現状分析に用いる資本収益性の指標の例としてROICとROEを挙げ、事業セグメントごとにROIC等を算出して分析することも考えられるとしている。どの指標を用いるかについて一律の定めはないとも書かれている。この資料が扱うのは会社の現状分析と開示であり、KPIツリーには触れていない。事業部のツリーの頂点にROICを置くのは、筆者の当てはめである。
四則演算で分ける
次に、頂点を式で分ける。分け方は、足し算・引き算・掛け算・割り算のどれかにする。「売上=販売数量×単価」「営業利益=限界利益-固定費」のように、下の指標を計算すれば上の指標になる形にそろえる。
式で分けると、漏れと重なりを確かめやすい。下の指標から上の指標を計算して合わなければ、どこかに漏れか重なりがある。「顧客満足度」や「ブランドの認知」のように、頂点と式でつながらない数字は、枝には置かない。大事な数字であれば、ツリーの外に参考の指標として書いておく。
筆者は、1つの指標を分けるときは、1段で分ける数を少なくするのがよいと考えている。1段で多くの枝に分けると、どの枝が効いているのかを読み取りにくい。
動かせる指標で止める
枝をどこまで伸ばすかは、その指標の持ち主が毎週の行動で動かせるかで決める。「受注率」は営業課長が商談の進め方で変えられる。「在庫月数」は購買課長が発注量で変えられる。ここまで来たら分解を止める。
1個あたり変動費や部門別の固定費のように、数字が月に1回しか確定しない指標もある。こうした指標も、持ち主が毎週の行動(仕入先との価格の交渉、支出の判断)で動かせるのであれば枝先に置き、数字は月次で確かめる。
その先まで分けると、指標は行動の記録になっていく。「訪問件数」「提案書の提出数」は数えられるが、数を増やすこと自体が目的になりやすい。筆者は、ツリーは動かせる指標で止め、その下には行動の一覧を別に持つのがよいと考えている。
持ち主を書く
最後に、枝先の指標ごとに持ち主を1人書く。持ち主は、その指標の実績を説明し、次の打ち手を決める人である。部署名で書くと誰が動くのかが決まらないので、職位まで書く。
持ち主と合わせて、更新の頻度とデータの出どころも決める。更新の頻度は、数字が確定する間隔に合わせ、週次か月次にする。次の表は設例である。
| 指標 | 持ち主 | 更新の頻度 | データの出どころ |
|---|---|---|---|
| 商談件数 | 営業課長 | 週次 | 営業支援システム |
| 受注率 | 営業課長 | 週次 | 営業支援システム |
| 単価(値引き率) | 営業部長 | 週次 | 販売管理システム |
| 1個あたり変動費 | 購買課長 | 月次 | 購買管理システム |
| 営業部の固定費 | 営業部長 | 月次 | 会計システム |
| 管理部の固定費 | 管理部長 | 月次 | 会計システム |
| 在庫月数 | 購買課長 | 週次 | 在庫管理システム |
| 売上債権の回収月数 | 営業部長 | 月次 | 会計システム |
データの出どころを書くと、同じ名前の指標を部門ごとに別の数え方で集計していることに気づきやすい。指標の定義をそろえる手続きはグループでKPIの定義がずれる問題、同じ名前の指標をそろえる定義書と改訂手続きで扱った。
具体例
同じ会社の同じ打ち手を、頂点の違う3つのツリーで見る。設例の会社は、商品を仕入れて法人に売る卸売の事業部とする。年間の数字は次のとおりである。
- 顧客数200社、1社あたりの販売数量50個、単価10,000円。売上は1億円(100百万円)
- 1個あたりの変動費(仕入原価)6,000円。変動費は60百万円、限界利益は40百万円
- 固定費30百万円。営業利益は10百万円
- 売上債権20百万円(年間売上の20%)、在庫15百万円、固定資産30百万円、仕入債務15百万円(年間変動費の25%)
この事業部が、来期の打ち手として「単価を5%下げて販売数量を12%伸ばす。欠品を避けるために在庫を6百万円積み増す」を検討しているとする。
売上を頂点にした例
売上を頂点にしたツリーは、顧客数、1社あたりの販売数量、単価の掛け算になる。
顧客数はさらに、既存の継続顧客と新規の顧客に分かれる。新規の顧客は、商談件数と受注率の掛け算になる。設例では、既存180社に、商談100件×受注率20%の新規20社を足して200社である。
検討中の打ち手をこのツリーで見ると、単価は10,000円から9,500円に下がり、販売数量は10,000個から11,200個に増える。売上は9,500円×11,200個で106.4百万円となり、6.4%の増収である。ツリーの中で悪くなる指標は単価だけで、頂点は伸びる。在庫の積み増しは、ツリーに枝がないので評価されない。
営業利益を頂点にした例
営業利益を頂点にすると、売上の下に変動費が、その横に固定費が加わる。
同じ打ち手をこのツリーで見る。1個あたりの限界利益は、単価10,000円から変動費6,000円を引いた4,000円である。単価を9,500円に下げると3,500円になり、12.5%減る。販売数量が12%増えても、限界利益は3,500円×11,200個で39.2百万円となり、基準の40百万円に届かない。固定費が30百万円のままなら、営業利益は9.2百万円で、8%の減益になる。
1個あたりの限界利益が4,000円から3,500円に減るぶんを数量で取り返すには、販売数量が約14.3%(4,000÷3,500)増える必要がある。売上のツリーでは増収に見えた打ち手が、営業利益のツリーでは「数量があと2ポイントほど足りない打ち手」として読める。
ROICを頂点にした例
ROICを頂点にすると、利益の下のツリーはそのままに、分母として投下資本が加わる。ここではROICを、税引後営業利益を投下資本で割った値とし、投下資本は売上債権、在庫、固定資産の合計から仕入債務を引いた額とする。税率は30%と置く。ROICの分子と分母の定義は会社によって違うので、自社の定義に合わせて読み替えてほしい。
値引きだけを行った場合と、在庫の積み増しまで行った場合を分けて計算する。「値引きのみ」の列は、在庫を15百万円に据え置いたまま、12%増えた数量を出荷できると仮に置いた、分解のための列である。
| 項目 | 基準 | 値引きのみ | 値引きと在庫の積み増し |
|---|---|---|---|
| 販売数量 | 10,000個 | 11,200個 | 11,200個 |
| 単価 | 10,000円 | 9,500円 | 9,500円 |
| 売上 | 100.0百万円 | 106.4百万円 | 106.4百万円 |
| 限界利益 | 40.0百万円 | 39.2百万円 | 39.2百万円 |
| 営業利益 | 10.0百万円 | 9.2百万円 | 9.2百万円 |
| 税引後営業利益 | 7.0百万円 | 6.44百万円 | 6.44百万円 |
| 在庫 | 15.0百万円 | 15.0百万円 | 21.0百万円 |
| 投下資本 | 50.0百万円 | 49.48百万円 | 55.48百万円 |
| ROIC | 14.0% | 13.0% | 11.6% |
値引きだけでROICは14.0%から13.0%に下がり、在庫の積み増しを加えると11.6%まで下がる。在庫月数(在庫÷月間の変動費)で見ると、基準の3.0か月から、積み増し後は3.75か月への増加である。3つのツリーの見え方を並べる。
ROICを現場の指標までつないだ公開の例に、オムロンの「ROIC逆ツリー」がある。同社が2017年に金融庁・東京証券取引所の会議で示した資料では、ROICをROSと投下資本回転率に分け、その下に売上総利益率、運転資金回転率、固定資産回転率などの改善ドライバーを置き、さらに在庫月数、債権/債務月数、設備回転率などのKPIへつないでいる。事業ごとの構造と課題に応じて、強化する項目とKPIを設定すると説明されている。ROICツリーの分解と現場への渡し方はROICツリーで現場の行動につなぐ方法、在庫・回収・粗利までの分解で詳しく扱った。
指標を絞る基準
ツリーを作ると、指標は増える。設例の3つのツリーでも、枝先まで数えると10を超える。会議で毎月すべてを同じ重さで見ることは難しい。絞る基準は、頂点への影響の大きさと、持ち主が動かせるかの2つである。
頂点への影響は、ツリーの式で試算できる。設例の会社で、指標を1つずつ1%だけよい方向へ動かしたときの営業利益の増え方は、次のとおりである。
| 動かす指標 | 動かし方 | 営業利益の増加 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 単価 | 10,000円を10,100円に | 1.0百万円 | 10% |
| 1個あたり変動費 | 6,000円を5,940円に | 0.6百万円 | 6% |
| 販売数量 | 10,000個を10,100個に | 0.4百万円 | 4% |
| 固定費 | 30百万円を29.7百万円に | 0.3百万円 | 3% |
この設例では、単価の1%は数量の1%の2.5倍、営業利益に効く。どの指標が効くかは、会社の限界利益率と固定費の大きさで変わるので、自社の数字で同じ表を作る。
影響の大きさと、動かせるかを組み合わせると、指標の扱いは4つに分かれる。影響が小さく、持ち主が動かせない数字も、式からは外さない。外すと、下から計算した値が頂点と合わなくなるからである。「その他」としてまとめて1つの枝に残す。
絞った指標が、会社の望む行動を引き出すかどうかも確かめる。指標を評価に使うと、数字をよく見せる最短の行動が選ばれることがある。指標の選び方と点検の方法は管理会計KPIの設計、測ると行動が変わる指標と変わらない指標の違いで扱った。
作ったあとの使い方
ツリーは、月次の会議と予実管理で使う。使い方は3つある。
1つ目は、予算の前提をツリーの指標で置くことである。来期の営業利益の予算を作るときに、販売数量、単価、1個あたり変動費、固定費の計画値をツリーの枝に書く。予算の数字と、現場の指標の計画値が同じ式でつながる。
2つ目は、差異を上から下へたどることである。月次で営業利益が予算に届かなかったら、限界利益と固定費のどちらの差かを見る。限界利益なら、数量、単価、変動費のどれかを見る。数量なら、顧客数か、1社あたりの数量かを見る。たどり着いた枝先の指標の持ち主が、原因と次の打ち手を説明する。筆者は、科目の総額を並べて原因を探すより、この順でたどるほうが、持ち主に早く行き着くと考えている。
3つ目は、着地の見込みを下から計算することである。枝先の指標の直近の実績を入れて、頂点の年度の着地を試算する。予算との差が開くと分かった時点で、打ち手を決められる。
見る頻度は、段によって変える。枝先の指標は持ち主が週次か月次で見て、中段の指標と頂点は月次の会議で見る。CFOが日次や週次で見る数字の選び方は経営ダッシュボードの作り方、載せない指標から決める3原則と10の数字にまとめた。
ツリーは年に1回、予算を作る前に見直す。事業の構造が変われば、式も変わる。販売の形が売り切りから月額の契約に変われば、売上の枝は「契約数×月額×継続月数」に組み替えることになる。
よくある失敗
作ったツリーが使われなくなる原因を4つ挙げる。
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 式がつながっていない | 下の指標がよくなっても、頂点がいくら動くか計算できない | 下から上へ実績で計算し、合わない枝を直す |
| 枝先が動かせない | 持ち主が結果を説明するだけになり、打ち手が出ない | 持ち主が毎週の行動で動かせる指標まで、もう1段分ける |
| 頂点が売上だけ | 値引きが増収として評価され、在庫の積み増しの負担が見えない | 頂点を置き直す。値引きは営業利益で、在庫の積み増しはROICで見える |
| 会議の資料と別になっている | ツリーは作ったが、月次の報告は従来の科目別のまま | 月次の報告の並びを、ツリーの段に合わせる |
筆者は、4つのうち最初に確かめるのは、式がつながっているかだと考えている。式がつながっていれば、残りの3つは数字を入れた時点で気づける。式が切れていると、数字を入れても誤りが表に出ない。
よくある質問
KPIツリーとロジックツリーの違いは
ロジックツリーは、課題や原因を漏れなく重なりなく分けていく図で、枝は言葉でもよい。KPIツリーは、枝が数字の指標で、上下が式でつながっている。下の指標の数値から上の指標を計算できる点が違う。ロジックツリーで原因の候補を洗い出し、そのうち数字で測れるものをKPIツリーに載せる、という順で使える。
指標はいくつまでか
決まった数はない。筆者は、月次の会議で1つずつ実績と打ち手を確かめられる数に収めるのがよいと考えている。ツリー全体の指標が多くても、経営の会議で見るのは、頂点への影響が大きく、持ち主が動かせる指標に絞る。残りは部門の中で見る。
表計算で作れるか
作れる。セルに式を入れてツリーを組めば、枝先の値を変えたときの頂点の変化を試算できる。事業部が1つで、指標が少ないうちは、表計算で足りる。事業や拠点が増え、実績の取り込みを手作業で続けるのが負担になった時点で、BIツールや予実管理のシステムを検討する。
ROICツリーとの違いは
ROICツリーは、頂点をROICに置いたKPIツリーである。営業利益までのツリーに、売上債権、在庫、固定資産といった投下資本の枝が加わる。売上や利益を頂点にしたツリーでは見えない、資本の使い方を評価できる。
- KPIツリーは、頂点の目標を四則演算で分け、持ち主が毎週の行動で動かせる指標までつないだ図である。枝先には持ち主、更新の頻度、データの出どころを書く。
- 筆者は、頂点は営業利益かROICに置くのがよいと考えている。営業利益に置けば費用が、ROICに置けば資本までが式に現れる。設例では、同じ打ち手が売上のツリーで6.4%の増収、営業利益のツリーで8%の減益、ROICのツリーで14.0%から11.6%への低下と読めた。
- 経営の会議で見る指標は、頂点への影響が大きく、持ち主が動かせるものに絞る。月次では、差異を上から下へたどり、着地の見込みを下から計算する。
次に読むなら、ROICの分解を扱ったROICツリーで現場の行動につなぐ方法、在庫・回収・粗利までの分解と、指標の選び方を扱った管理会計KPIの設計、測ると行動が変わる指標と変わらない指標の違いを勧める。



