経理のAIエージェントは、製品を比べる前に、エージェントに与える権限の上限を決めておくのがよいと筆者は考えている。人向けの決裁権限規程は、一件の金額で決裁者を分けている。この規程のままエージェントに権限を設定すると、少額の処理は何件続いても上位の承認に届かず、累計に上限が掛からない。この記事では、RPAや生成AIとの違い、任せやすい業務、権限と統制の置き方、導入の手順、製品を比べる前に決めること、費用の見方を順に示す。

この記事の要点
  • AIエージェントは、照合から承認の依頼まで、複数の手順を続けて処理する。RPAや生成AIとは、任せられる範囲が違う。
  • 任せる範囲は権限規程で決める。筆者は、一件の金額に加えて、件数と累計の上限を書くのがよいと考えている。
  • 人が止められる箇所を残す。差異の引き継ぎ、承認、支払の実行の3つである。

経理のAIエージェントとは

経理のAIエージェントとは、請求書の処理や経費精算のチェックといった経理の業務で、データを読み、判断し、システムを操作するところまでを続けて行う仕組みである。人は目標と範囲を与え、途中の手順はエージェントが進める。

AIエージェントという語の定義は、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」にある。ガイドラインはAIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」とし、自律については、高度な自律状態だけを指すのではなく、ある程度の自律性を持つものも含むと注記している。同じ箇所で、生成AIは「文章、画像、プログラム等を生成できるAIモデルにもとづくAIの総称」とされている。

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編 第1部「関連する用語」及び脚注19(経済産業省、2026年3月31日公表、2026年10月1日確認)

RPAとの違いも確かめておく。総務省の解説は、RPAを「これまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウエアのロボットにより自動化するもの」と説明している。同じ解説は、RPAには三段階の自動化レベルがあるとされ、現在のRPAの多くは定型業務に対応する「クラス1」であること、AIと連携して非定型業務の一部を自動化する「クラス2」、意思決定までを自動化する「クラス3」があることも書いている。この記事でRPAと呼ぶのは、決めた手順を決めたとおりに繰り返すクラス1である。

出典:総務省「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」(総務省、2026年10月1日確認)

この3つを経理の業務に当てはめると、次の図のようになる。当てはめは筆者によるものである。

RPA・生成AI・AIエージェントは、人が手を離せる範囲が違う
手順の自動化RPA(クラス1)
人が決めた手順をそのとおりに繰り返す。請求書の様式が変わるなど、手順にない場面では止まる。
文章の生成生成AI
人の求めに応じて、要約や文案、仕訳の候補を返す。返された内容を使ってシステムを操作するのは人である。
判断と操作AIエージェント
目標を受けて、データを読み、照合し、仕訳や支払依頼を起こすところまで続けて進める。
エージェントは判断と操作を続けて行う。そのぶん、何をどこまで操作させるかを先に決める必要がある。

違いが表れるのは、手順の間にある判断である。請求書の金額が発注と合わないとき、手順を繰り返すRPAは止まり、生成AIは聞かれれば理由の候補を返す。エージェントは、差異の理由を調べ、許された範囲なら次の処理へ進む。処理が人の手を経ずに進むので、許す範囲の決め方がそのまま統制の強さになる。生成AIを経理のどの工程に使うかは経理のAI活用はどの工程に効くか、突合の差異調査と文書化から始めるで扱った。

任せやすい業務と、任せにくい業務

任せやすさは、2つの点で見分けられると筆者は考えている。1つは、誤りを後から取り消せるかどうかである。仕訳の案は承認の前に直せるが、銀行に送った振込は取り消しにくい。もう1つは、正しいかどうかを確かめる材料がデータとして揃っているかどうかである。発注と検収のデータがあれば、請求書の金額は照合できる。引当金の見積りのように、会社の判断で決まる事項には、突き合わせる相手のデータがない。

経理の主な業務を、この2点で並べた。

業務任せやすさエージェントに要る権限人の確認
請求書・領収書の読み取りとデータ化任せやすい書類の参照読み取れなかった書類を人が入力する
請求書と発注・検収の照合任せやすい発注・検収データの参照差異が出た請求書を人が調べる
経費精算の規程チェック任せやすい申請と規程の参照、差戻しの操作規程に当てはまらない申請を人が判断する
仕訳の案の作成任せやすい仕訳の起票(承認前の状態まで)承認者が内容を確かめて承認する
入金の消込条件つきで任せられる入金データの参照、消込の操作金額や名義が一致しない入金を人が調べる
支払依頼の起案条件つきで任せられる支払依頼の起票(上限つき)承認者が承認する
支払の実行(銀行への送信)任せにくい持たせない人が実行する
振込先マスタの変更任せにくい持たせない支払の担当と別の人が、取引先に確かめて変更する
見積りや会計方針の判断任せにくい資料の参照まで責任者が判断する
筆者の整理。任せやすさは、誤りを取り消せるかと、照合するデータがあるかの2点で分けた。

表の上の4行は、エージェントが処理しても、人の承認の前で止まる業務である。始めるならここからがよい。請求書の読み取りと照合では、照合が合わない請求書の扱いを決めておかないと、自動化した分だけ未処理が積み上がる。この点は請求書OCRの自動化が三面照合の例外処理で止まる理由とERP側に寄せる設計で扱った。

中の2行は、範囲を限れば任せられる業務である。入金の消込は、金額と名義が一致した入金に限る。支払依頼の起案は、次の節で扱う上限の内側に限る。範囲の外に出たものは、人に引き継ぐ。

下の3行は、エージェントに操作の権限を持たせない業務である。資金が社外に出る操作と、その行き先を決めるデータの変更は、人の手に残す。見積りや会計方針は、資料を集めるところまでを任せ、判断は責任者が行う。

権限と統制

権限の付与と職務の分掌という内部統制の考え方は、エージェントにも当てはめられると筆者は考えている。企業会計審議会の実施基準は、統制活動に「権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続」が含まれるとし、例として、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させ、担当者間で相互牽制を働かせることを挙げている。エージェントに仕事を任せることは、エージェントに権限を付与することである。どの権限を付与し、どの職責を人に残すかを、導入の前に書いておく。

出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」実施基準Ⅰ.2.(3)(金融庁、2023年4月7日公表、2026年10月1日確認)

発注と支払の権限

人向けの決裁権限規程は、一件の金額で決裁者を分ける。件数や累計を定めなくても足りていたのは、承認する人が全件に目を通していたからだと筆者は見ている。この規程をそのままエージェントに当てはめると、少額の処理には、何件続いても止まる定めがない。設例で確かめる。

ある会社の規程では、一件10万円未満の支払は課長の承認で足りる。この会社が、エージェントに課長と同じ権限を設定し、照合が一致した10万円未満の請求書は、人の承認を経ずに支払依頼まで進めることにしたとする。対象の請求書は一件あたり平均3万円で、ふだんの月は1,600件ある。

一件は少額でも、人の目を通らずに進む額は月の単位で大きくなる
一件の平均 3万円
×
月の件数 1,600件
=
月の累計 4,800万円
規程の上では全件が課長の承認の範囲に収まる。件数や累計がふだんの水準を超えても、止める定めがない。
設例。金額と件数は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。3万円×1,600件=4,800万円、年間では4,800万円×12か月=5億7,600万円になる。

支払の総額は、人が承認していたときと変わらない。変わるのは、全件が人の目を通らなくなる点である。課長が承認していたときは、同じ請求書が2度届いた、ある取引先からの件数が急に増えた、といったふだんとの違いに気づく機会があった。エージェントは、1件ずつが規程の内側にあるかぎり、処理を進める。件数が増えても、累計が膨らんでも、止まる定めがない。

上限は、ふだんの水準を超えた分を人に引き継ぐための仕掛けである。筆者は、エージェントの権限を4つの数字で書くのがよいと考えている。一件の上限額、一日の件数の上限、取引先ごとの月の累計額の上限、全体の月の累計額の上限である。上限に達したら、エージェントは処理を止め、人に引き継ぐ。たとえば、取引先ごとの月の累計額の上限をふだんの水準の少し上に置けば、ある取引先からの請求が急に増えた月は、上限に達した時点で処理が止まり、人が確かめることになる。発注の権限も同じ形で書ける。4つの数字の置き方と、上限の内側で誤りが続いた場合の考え方はAIエージェントの発注・支払権限は、人向けの決裁権限規程では管理できないにまとめた。

人が承認する箇所

次に、処理の流れのどこで人が止められるかを決める。請求書の支払を例にとる。

請求書の支払の流れと、人が止められる箇所
STEP 1
受け取りと読み取り
エージェントが請求書をデータにする
→
STEP 2
照合
発注・検収と突き合わせる。差異は人に引き継ぐ
→
STEP 3
仕訳と支払依頼の起案
上限の内側だけエージェントが進める
→
STEP 4
承認と支払の実行
人が内容を確かめ、銀行に送信する
人が止められる箇所は、差異の引き継ぎ、承認、支払の実行の3つである。

人が止められる箇所は3つある。1つ目は差異の引き継ぎである。照合が合わない請求書、過去に取引のない相手からの請求書、前回から金額が大きく動いた請求書は、エージェントが処理せず、人に引き継ぐ。どこからを「大きく」とするかは、数字で決めておく。2つ目は承認である。承認を省く範囲を設けるなら、前の節の上限の内側に限る。3つ目は支払の実行である。銀行への送信は人が行い、送信の前に支払の一覧を確かめる。

振込先マスタの変更は、エージェントの権限に入れない。取引先を名乗るメールや請求書に振込先の変更が書かれていても、エージェントはそれを処理せず、人に引き継ぐ。人を狙ったなりすましの手口と、支払の担当を守る運用はなりすまし送金指示から支払担当を守る、経理の運用と権限の組み直し方で扱った。

承認の画面があるだけでは、人が止めたことにならない
エージェントが起案した支払依頼を、人が中身を見ずに承認していれば、承認の工程は形だけになる。AI事業者ガイドラインは、人間の判断や意思決定において、自動化されたシステムや技術への過度の信頼や依存が生じる現象を自動化バイアスと呼び、対策として、AIの評価や判断を人が承認する際には、承認する理由や根拠を人が独自に考えてから承認すべきこと等が提案されていると紹介している。承認者が1日に確かめられる件数を見積もり、それを超える件数が承認に届かないよう、引き継ぐ条件を調整する。
出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編 第2部C.「共通の指針」1)人間中心 脚注23、24(経済産業省、2026年10月1日確認)

記録の残し方

エージェントの処理は、後から追える形で記録に残す。残すのは次の5つである。

記録に残すこと
  • エージェントが読んだデータ(請求書、発注、検収、申請)
  • 照合の結果と、処理を進めた、または人に引き継いだ理由
  • エージェントがシステムで行った操作と、その日時
  • 人が承認した、または差し戻した記録
  • エージェントの設定や指示の文面を、誰がいつ変えたか

実施基準は、経営者がITに係る業務処理統制を評価する際の留意点として、電子記録について変更の痕跡が残り難い場合には、内部統制の無効化が生じてもその発見が遅れることがある点に留意することが重要だとしている。

出典:企業会計審議会の上記意見書 実施基準Ⅱ.3.(3)⑤ニ.b「ITに係る業務処理統制の評価」(金融庁、2026年10月1日確認)

エージェントの設定を変えた履歴が残っていないと、誤りが見つかったときに原因をたどれない。

記録は、読む人を決めておかないと使われない。支払の起案にも承認にも関わらない人が、人に引き継がれた案件と、エージェントが自分で処理した取引からの抽出を、決めた頻度で読む。経理の中で分けにくければ、内部監査に読んでもらう方法がある。

導入の手順

導入は、次の5つの順に進める。

  1. 対象の業務を1つ選ぶ。前の表で「任せやすい」とした業務のうち、件数が多く、照合するデータが揃っているものにする。
  2. 権限の上限と、人に引き継ぐ条件を書く。決裁権限規程の別表に、エージェントの行を足す形にすると、人の権限と並べて見られる。
  3. 責任者を決める。エージェントの処理を誰の決裁とみなすか、誰が止めるか、誰が記録を読むかを、名前で決める。
  4. 人の処理と並べて試す。一定の期間、同じ請求書を人とエージェントの両方で処理し、結果が違った件を1件ずつ調べる。違いの原因が、エージェントの誤りか、人の誤りか、ルールの曖昧さかを分ける。
  5. 広げる条件を決める。人に引き継がれる割合と、誤りの件数が、決めた水準に収まったら、対象の業務や上限を広げる。水準は試す前に決めておく。

順番を入れ替えないほうがよいのは、2と3である。権限と責任者を決める前に試すと、試した設定がそのまま本番に残るおそれがあると筆者は見ている。試す段階から、上限と引き継ぐ条件を入れておく。

製品を比べる前に決めること

製品の比較に入る前に、自社で決めておくことが4つある。任せる業務、権限の上限、人に引き継ぐ条件、記録と停止の方法である。ここまでの節で扱った内容を、1枚の表にしておく。

これが決まっていると、製品に確かめることが具体的になる。機能の数を比べるより、自社が決めた統制を設定できるかを確かめる。

製品に確かめること
  • 一件の金額、件数、累計の上限を設定でき、達したら処理が止まるか
  • 人に引き継ぐ条件を、自社で設定し、変えられるか
  • 処理の記録と設定の変更の履歴を、自社で取り出せるか
  • 提供する会社がAIモデルを更新するとき、事前に知らされるか
  • 会計システム、ERP、銀行との連携で、エージェントに渡す権限を操作ごとに絞れるか
  • 自社の担当者が、エージェントをすぐに止められるか

AIモデルの更新を確かめるのは、更新の後に、同じ請求書に対する処理の結果が変わりうるからである。更新があったら、手順4で調べた件をもう一度処理させ、結果が変わっていないかを確かめる。確かめ終わるまで上限を下げておく方法もある。

連携の権限も見落としやすい。エージェントは、会計システムやERPに、利用者の1人として接続する。接続に使うIDに広い権限が付いていると、エージェントに許した範囲の外の操作もできてしまう。エージェント用のIDを分け、要る操作だけを許す設計にする。

費用の見方

費用は、利用料だけで比べない。見る項目は4つある。

項目中身見積りで確かめること
利用料製品に払う料金課金の単位(利用者の数、処理の件数、定額など)と、件数が増えたときの料金
初期の設定と連携会計システム、ERP、銀行との連携、権限と上限の設定どこまでが製品の標準で、どこからが追加の開発か
人の確認の工数引き継がれた案件の調査、承認、記録の確認人に引き継がれる割合の見込み
更新時の再確認AIモデルや設定が変わったときの確かめ直し更新の頻度と、確かめ直しの手順

見落としやすいのは3行目である。エージェントを入れても、人に引き継がれた案件を調べる仕事は残る。前の設例の月1,600件のうち、人に引き継がれる割合が1割なら月160件、3割なら月480件を人が調べることになる。削減できる工数は、この割合で大きく変わる。提案を受けたら、自社の請求書を使って試し、引き継がれる割合を実際に数えてから見積もる。

設例。割合は説明のために置いた架空のもので、特定の製品の実績ではない。1,600件×10%=160件、1,600件×30%=480件。

費用を回収できるかどうかは、減る工数と、新しく生じる確認の工数の差で見る。件数が少ない業務では、上限の設計と記録の確認の手間が、減る工数を上回ることがある。

よくある質問

AIエージェントとRPAの違いは

ここでいうRPAは、定型業務に対応するもので、人が決めた手順をそのとおりに繰り返す。手順にない場面では止まる。AIエージェントは、目標を受けて、データを読み、判断し、システムを操作するところまでを続けて進める。手順の間にある判断まで任せられるぶん、どこまで操作させるかを権限として決めておく必要がある。

どの業務から始めるか

人の承認の前で止まる業務から始める。請求書や領収書の読み取り、発注・検収との照合、経費精算の規程チェック、仕訳の案の作成である。誤りがあっても承認の前に直せるので、エージェントの処理の傾向を確かめやすい。支払の実行と振込先マスタの変更は、人の手に残す。

内部統制はどうなるか

実施基準に、AIエージェントについての定めは無い。筆者は、権限の付与と職務の分掌という考え方を、エージェントにも当てはめられると考えている。取引の承認、記録、資産の管理を別の者が担当するという職務の分掌を、エージェントを含めて組み直す。エージェントに付与する権限を規程に書き、上限を置き、処理と設定の変更の記録を残し、起案にも承認にも関わらない人が記録を読む。上場会社では、これらが内部統制の評価の対象になりうるので、監査人とも早めに話しておく。

費用はどのくらいか

金額は、製品、処理の件数、連携の範囲で変わるので、見積りで確かめる。見る項目は、利用料、初期の設定と連携、人の確認の工数、更新時の再確認の4つである。人に引き継がれる割合によって、残る工数が大きく変わる。自社の請求書で試し、割合を数えてから判断する。

まとめ
  • AIエージェントは、照合から承認の依頼まで、複数の手順を続けて処理する。定型業務に対応するRPAは決めた手順を繰り返し、生成AIは求めに応じて文章を返す。
  • 任せる範囲は権限規程で決める。筆者は、一件の上限額、一日の件数、取引先ごとの月の累計額、全体の月の累計額の4つを書くのがよいと考えている。
  • 人が止められる箇所として、差異の引き継ぎ、承認、支払の実行の3つを残す。振込先マスタの変更は、エージェントの権限に入れない。

次に読むなら、権限の上限の置き方を詳しく扱ったAIエージェントの発注・支払権限は、人向けの決裁権限規程では管理できないを勧める。