経営管理の高度化は、分析の道具から始めても進みにくい。予算管理のシステムやダッシュボードを入れても、月次の数字が翌月の半ばを過ぎて出てくる会社では、画面に並ぶのは手を打てる時期を過ぎた数字になるからだ。筆者は、月次の締めが遅い会社では、締めを縮めることが最初の経営管理になると考えている。この記事では、経営管理の意味と種類、経営企画・経理・財務との違い、手法、月次の流れを整理したうえで、高度化を始める順番を示す。
- 経営管理は、計画・実績・予測の数字から次の打ち手を決め、結果を確かめる仕組みである。
- 経理財務が担うのは、財務管理と、生産・販売・人事の数字を金額に直して損益につなげる管理会計である。
- 筆者は、経営管理の高度化は月次の締めを速くするところから始めるのがよいと考えている。部門別の数字と着地見込みは、その後に積む。
経営管理とは
経営管理とは、会社の目標に向けて、計画・実績・予測の数字から次の打ち手を決め、実行の結果を確かめる仕組みである。使う人によって指す範囲が違う語である。経営資源を配分し調整する活動の全体を指す広い意味でも、予算や業績を数字で管理する部署の仕事を指す狭い意味でも使われる。この記事は、経理財務と経営企画の責任者に向けて、後者の「数字で管理する仕組み」を中心に扱う。
なお、出入国管理の分野には「経営・管理」という在留資格がある。日本で事業の経営を行う活動、または事業の管理に従事する活動のための資格で、この記事で扱う経営管理とは別の制度である。
目的
経営管理の目的は、限られた経営資源を、目標に近づく使い道へ振り向け直すことにある。数字はそのための材料である。
月次の数字が締まり、役員会で読み上げ、「売上が未達だった」と確かめて終わる。これは報告であり、経営管理としては途中で止まっている。経営管理が働いている状態とは、数字のずれから原因を特定し、担当と期限の付いた打ち手を決め、翌月に同じ数字で効果を確かめるところまでが続いている状態を指す。資料が1枚の表計算でも、この流れが毎月続いていれば経営管理は機能している。
対象:ヒト・モノ・カネ・情報
経営管理の対象は経営資源で、ヒト・モノ・カネ・情報の4つに分けて説明される。ヒトは人員と人件費、モノは設備や在庫、カネは資金、情報は顧客や取引のデータである。
カネは、ヒトとモノを測る共通の単位になる。人員は人件費に、在庫と設備は金額と回転期間に置き換えられる。経営管理で経理財務が中心的な役割を担うのは、単位の違う資源を金額でそろえて比べる仕事を持っているからである。
経営管理の種類と、経理財務が担う範囲
経営管理は、管理する対象によっていくつかの種類に分けられる。分け方は解説によって違い、労務管理を人事管理と分けて5つとする説明もある。この記事では4つに分ける。
| 種類 | 管理する対象 | 主な担当部署の例 | 経営管理で使う数字の例 |
|---|---|---|---|
| 財務管理 | 資金、予算、損益 | 経理、財務、経営管理 | 月次の損益、資金繰り、予算との差 |
| 生産管理 | 生産計画、原価、品質、在庫 | 製造、生産管理 | 生産量、歩留まり、製造原価 |
| 販売管理 | 受注、売上、債権 | 営業、営業管理 | 受注額、販売数量、単価、回収の状況 |
| 人事・労務管理 | 人員、配置、労働時間、給与 | 人事、総務 | 人員数、人件費、残業時間 |
財務管理
財務管理は、資金と損益を管理する仕事である。資金繰りと資金調達、予算の編成、決算、予算と実績の比較が入る。経理財務が直接担うのはこの領域である。
ただし、経理財務の役割は財務管理の中だけで終わらない。生産・販売・人事の各管理が持つ数字を金額に直し、会社全体の損益につなげる仕事がある。これが管理会計である。経理財務が担う範囲は、4つの種類の1つである財務管理に、種類をまたぐ管理会計を加えたもの、と捉えると整理しやすい。
生産・販売・人事の管理との関係
生産管理、販売管理、人事・労務管理は、それぞれの部門が現場の単位で数字を持っている。生産は個数と時間、販売は件数と数量、人事は人数と時間である。そのままでは部門をまたいで比べられない。
経理財務は、これらを金額に換算して損益の形に並べる。歩留まりの悪化は製造原価の増加に、受注の遅れは売上見込みの減少に、増員の計画は人件費の増加に置き換わる。換算の基準を持つのが経理財務で、数字の発生元と打ち手の実行は各部門である。この分担を曖昧にすると、差異の原因を経理が推測で書くことになり、打ち手につながりにくい。製造業での原価の扱いは原価管理の基本、標準原価と差異分析で製造原価を意思決定に使える形にするにまとめている。
経営企画・経理・財務との違い
経営管理は、経営企画、経理、財務と仕事が重なって見える。違いは、扱う期間と、数字を誰の判断に使うかで分けると見えやすい。
4つの機能を、役割と成果物で比べる。
| 経理 | 財務 | 経営企画 | 経営管理 | |
|---|---|---|---|---|
| 主な役割 | 取引を記録し、実績を確定する | 資金を確保し、運用する | 中長期の方向と計画を作る | 計画と実績の差を示し、打ち手の判断を支える |
| 主な成果物 | 月次決算、年度の決算書、税務申告書 | 資金繰り表、調達の計画 | 中期経営計画、年度の経営方針 | 予算、月次の予実報告、着地見込み |
| 数字の向き | 過去の実績 | 先の資金 | 数年先の目標 | 当年度の計画と実績、年度末までの見込み |
| 主な相手 | 株主、債権者、税務当局 | 金融機関、投資家 | 経営陣、取締役会 | 経営陣、事業部門の責任者 |
経営企画との違いは、期間と確かめ方にある。経営企画は数年先の方向を決め、経営管理は当年度の計画がそのとおり進んでいるかを毎月の数字で確かめる。中期経営計画の数字を年度の予算に落とす作業は、両者の接点になる。作り方は中期経営計画の作り方、数字と施策をつなぎ初年度の形骸化を防ぐで扱った。
経理との違いは、数字の使い道にある。経理は実績を基準どおりに確定するのが仕事で、経営管理はその実績を予算と比べ、先の見込みを加えて判断の材料にする。材料は経理が確定した数字なので、経理の締めが遅れると経営管理も遅れる。
この経営管理の機能は、FP&Aという名前で呼ばれることもある。経理との役割の分け方はFP&Aの役割と組織、経理・経営企画との境界を実務から引くにまとめている。
経営管理の手法
経営管理の手法は、予算と予実管理、管理会計、KPIの3つを押さえておけば全体が見える。
予算と予実管理
予算は、年度の目標を部門と月に割り振った計画である。予実管理は、その予算と実績を月ごとに比べ、差を説明する仕事である。
「予算1億円に対して実績8,000万円、未達」と報告するだけでは、打ち手は決まらない。差を要因に分ける必要がある。売上の未達なら、数量が減ったのか、単価が下がったのか。利益の未達なら、売上の問題か、原価の問題か、固定費の増加か。ここまで分けると、誰が何をいつまでに行うかを決められる。差異のすべてを同じ深さで調べると作業が終わらないので、金額の大きいものから順に、数を絞って調べるのが実務的である。進め方は予実管理が形骸化する3つの理由と、差異を打ち手につなぐ進め方で扱った。
管理会計
管理会計は、社内の判断のために数字を組み替える会計である。会社の外に向けた財務会計と対になる。
会社法は、株式会社に各事業年度の計算書類の作成を義務づけている(第435条第2項)。作るものと作り方が法令と会計基準で決まっているのが財務会計である。管理会計には、こうした決まった様式がない。部門別、製品別、顧客別といった切り口も、集計の頻度も、会社が判断の必要に応じて決める。
経営管理で使う管理会計の中心は、部門別の損益である。全社の損益計算書だけでは、どの部門が計画から外れたのかが分からない。共通費の配り方で部門の利益は変わるので、配賦の基準は事前に決めて、期中に変えない。入門は管理会計の始め方、導入の順序と意思決定に使う具体例にまとめている。
KPI
KPIは、目標の達成度を測るために選んだ指標である。売上や利益は結果の数字で、確定するのは月が終わった後になる。そこで、結果より先に動く数字を選んで見る。商談の件数、解約率、稼働率、在庫の日数などである。
KPIは、損益の数字とつながっているものを選ぶ。商談の件数が何件減ると売上がいくら減るのかを説明できない指標は、見ていても打ち手を決めにくい。数を増やすと見る側の注意が分散するので、絞り込みが要る。経営陣が見る数字の選び方は経営ダッシュボードの作り方、載せない指標から決める3原則と10の数字で扱った。
経営管理の月次の流れ
経営管理は、月次の決まった流れとして運用する。流れは4つの工程に分けられる。
1つ目は、数字を締める工程である。経理が月次決算を確定し、部門別の実績を出す。2つ目は、差を分ける工程である。予算との差を要因に分け、説明できる形にする。3つ目は、打ち手を決める工程である。経営会議や部門の会議で、対応の内容と担当と期限を決める。4つ目は、結果を確かめる工程である。翌月の数字で、前月に決めた対応が効いたかを見る。
4つ目が抜けると、打ち手は決めたままになり、同じ差異が翌月も報告される。会議の議題に「前月に決めた対応の結果」を固定で入れておくと、抜けにくい。会議の組み立ては月次会議が報告会で終わる原因と、是正を翌月に引き継ぐ月次マネジメントサイクルで扱った。
この流れは、特定の担当者だけが進められる状態にしないほうがよい。差異を説明する様式と、会議の議題を決めておけば、担当が替わっても同じ手順で続けられる。
経営管理の高度化は何から始めるか
高度化という言葉からは、予算管理のシステムやダッシュボードの導入が連想されやすい。筆者は、道具より先に、整える順番があると考えている。締めを速くする、部門別の数字を出す、着地見込みを作る、の順である。
締めを速くする
締めの速さが最初に来る理由を、設例で示す。1か月を20営業日とし、数字が確定してから3営業日後に経営会議を開き、会議の2営業日後に打ち手に着手する会社を考える。
| 締めが15営業日目の場合 | 締めが5営業日目の場合 | |
|---|---|---|
| 前月の数字が確定する日 | 15営業日目 | 5営業日目 |
| 経営会議(確定の3営業日後) | 18営業日目 | 8営業日目 |
| 打ち手の着手(会議の2営業日後) | 20営業日目 | 10営業日目 |
| 着手した後、その月に残る営業日 | 0日 | 10日 |
締めが15営業日目の会社では、4月の数字を見て決めた打ち手に着手するのは5月の最終営業日になる。打ち手が効き始めるのは6月からである。締めが5営業日目なら、5月の後半の10営業日を使える。会議と着手にかかる日数は同じでも、締めの日が10営業日違うと、打ち手に使える期間が1か月の半分だけ変わる。
締めを縮める方法は、作業の前倒し、概算での計上、承認の経路の見直しなどである。現状の把握から定着までの段階は決算早期化の進め方、現状把握から定着までの4段階と詰まる箇所にまとめている。
部門別の数字を出す
次に、締めた数字を部門別に出す。全社の損益だけでは、差異に責任を持つ人が決まらないからである。
部門別の損益を出すには、売上と費用に部門の区分を付けて記録する必要がある。後から集計し直す方法は、毎月の作業が増えて締めを遅らせる。伝票を起こす時点で部門の区分を入れる運用にしておくと、締めの速さと両立しやすい。共通費の配賦は、細かくするほど計算に時間がかかる。部門の責任者が自分で動かせる費用と、配賦された費用を分けて表示すれば、粗い基準でも判断には使える。
着地見込みを作る
最後に、年度末の着地見込みを作る。着地見込みは、当月までの実績に、残りの月の見込みを足した数字である。
たとえば、年度の営業利益の予算が12億円で、4月から9月の実績が5億円、10月から3月の見込みが5.8億円なら、着地見込みは10.8億円で、予算に1.2億円届かない。この差が上期の終わりに見えていれば、下期の費用の見直しや追加の施策を検討する時間が残る。予算と実績の比較だけでは、過ぎた月の差しか見えない。
着地見込みの信頼性は、前の2つの段階に左右される。実績が遅れて出る会社では、見込みの起点が古くなる。部門別の数字がない会社では、残りの月の見込みを部門の責任者に出してもらう単位がない。順番を守る理由はここにある。
経営管理に使うシステム
経営管理に使うシステムは、役割で3つに分けられる。会計システムまたはERP、予算管理のシステム、BIツールである。
会計システムやERPは、取引を記録し、実績の数字を作る。経営管理の材料はここで生まれるので、部門や製品の区分をどの単位で持たせるかが、後の分析の細かさを決める。予算管理のシステムは、予算の編成と、予算と実績の比較、見込みの更新を扱う。表計算で行っていた集計を置き換えるものである。BIツールは、複数のシステムの数字を集めて、グラフや表で見せる。
どれを入れる場合も、先に決めておくことがある。どの単位で数字を見るのか、誰がいつ見るのか、見た後に何を決めるのかである。これが決まっていないと、システムは今の集計作業をそのまま移すだけになりやすい。
会計の基盤を入れ替える時期は、区分の持ち方と月次の手順を見直す機会になる。SAP社は、SAP ERP 6.0を含むSAP Business Suite 7の中核アプリケーションについて、メインストリームメンテナンスを2027年末まで提供し、その後は2030年末までの延長保守を追加の料金で選べるとしている。対象のバージョンには条件があるので、自社の環境は同社の公表で確かめる。移行を経営管理の見直しにつなげる考え方はS/4HANA移行は保守切れ対応で終わらせず、経営管理を高度化する機会にできるで扱った。
よくある質問
経営管理とは何をする仕事か
計画・実績・予測の数字から次の打ち手を決め、結果を確かめる仕事である。具体的には、予算を作り、月次の実績と比べて差を説明し、年度末の着地見込みを示して、経営陣と事業部門の判断を支える。経営資源の配分と調整の全体を指す広い意味で使われることもある。
経営企画との違いは
経営企画は、中期経営計画や新規事業など、数年先の方向を組み立てる。経営管理は、当年度の計画がそのとおり進んでいるかを毎月の数字で確かめ、差があれば打ち手の判断を支える。会社によっては1つの部署が両方を担う。
経理との違いは
経理は、取引を記録し、実績を会計基準に沿って確定する。経営管理は、確定した実績を予算と比べ、先の見込みを加えて社内の判断の材料にする。経営管理は経理の数字を材料にするので、経理の締めが遅れると経営管理も遅れる。
経営管理部に必要なスキルは
筆者は3つを挙げる。1つ目は会計の知識で、月次決算の数字がどう作られるかを理解していること。2つ目は、数字の差を数量・単価・原価などの要因に分けて説明する力。3つ目は、事業部門から数字の背景を聞き出し、打ち手の合意を取る調整の力である。
- 経営管理は、計画・実績・予測の数字から次の打ち手を決め、結果を確かめる仕組みである。月次では、締める、差を分ける、打ち手を決める、結果を確かめる、の4工程で運用する。
- 経理財務が担うのは財務管理と管理会計である。経営企画は数年先の方向を、経営管理は当年度の計画と実績の差を扱う。
- 筆者は、高度化は締めを速くする、部門別の数字を出す、着地見込みを作る、の順に進めるのがよいと考えている。
次に読むなら、締めを縮める段階をまとめた決算早期化の進め方、現状把握から定着までの4段階と詰まる箇所を勧める。



