赤字の拠点がある期の減損の議論は、たいてい将来キャッシュ・フローの見積りから始まる。何年で黒字化するか、割引率をいくつ置くか。だが結論を先に決めているのは、その手前の一手である。どの単位で切るかを決めた時点で、減損が出るかどうかはほぼ決まっている。 拠点単位で切れば赤字拠点が単独で判定にかかり、事業単位でまとめれば黒字拠点の将来キャッシュ・フローが赤字拠点を吸収する。同じ会社、同じ資産、同じ計画で、結論だけが変わる。
粒度が結論を決める、という事実から目を逸らさない
減損損失を認識するかどうかの判定は、資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額の比較で行う(減損会計基準 二 2.(1))。この算式の入力は二つしかない。分子にあたる将来キャッシュ・フローと、比較対象の帳簿価額である。どちらも、どの範囲を一つの単位とみなすかで金額が変わる。
だから粒度は、見積りの精緻さより手前で効く。ここを曖昧にしたまま将来キャッシュ・フローの議論に入ると、事業部門は「まとめてほしい」、監査法人は「切ってほしい」という綱引きになり、期末の限られた時間で結論を出すことになる。
しかも決着は一方通行だ。減損会計基準 三 2は「減損損失の戻入れは、行わない」と定めている(企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」)。細かく切って一度落とした簿価は、翌期に業績が戻っても戻らない。 粒度の判断は、その期の損益ではなく、以後の資産の姿を決める判断になる。
まとめる側の根拠として基準が用意しているのは一つだけだ。適用指針第7項(2)は、ある単位から生ずるキャッシュ・イン・フローが、製品やサービスの性質・市場などの類似性等によって他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であり、その単位を切り離したときに他の単位のキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすと考えられる場合には、当該他の単位とグルーピングを行うとしている。相互補完性を数字で説明できないなら、まとめる根拠はない。
粒度は「継続的に収支の把握がなされている単位」から出発する
適用指針第7項は、グルーピングの手順を具体的に示している(企業会計基準委員会「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」)。企業は、店舗や工場などの資産と対応して継続的に収支の把握がなされている単位を識別し、それをグルーピングの単位を決定する基礎とする。
ここで三つの補足が置かれている。読むと、実務でよくある反論が先回りして潰されていることが分かる。
第一に、収支は必ずしも企業の外部との間で直接的にキャッシュ・フローが生じている必要はない。内部振替価額や共通費の配分額であっても、合理的なものであれば含まれる。「この工場は外部売上がないから独立したキャッシュ・フローがない」は通らない。 社内向けに振り替えている工場でも、振替価額が合理的なら収支の把握はできている。
第二に、継続的に収支の把握がなされているものが基礎になる。通常は行われていないが一時的に設定される単位について収支を把握する場合、例えば特殊原価調査は該当しない。期末に減損の検討のためだけに作った拠点別損益は、この一文で基礎から外れる。
第三に、賃貸不動産などの一つの資産について、一棟の建物が複数の単位に分割されて継続的に収支の把握がなされている場合でも、通常はこの一つの資産が基礎になる。管理上の細かさが、そのまま最小単位になるわけではない。
つまり基準が見ているのは、平時に会社が何をどの単位で測っているかである。管理会計の分析軸を決める作業と、減損の粒度を決める作業は、実質的に同じ作業になる(管理会計の分析軸(ディメンション)設計|あとから分解できない粒度を先に決める)。部門別損益をどこまで割るかという設計判断が、数年後の減損の結論を決めている(部門別損益(事業部別P&L)の作り方:共通費配賦で揉めない設計)。
撤退を決議した瞬間、粒度は強制的に細かくなる
もう一つ、CFOが押さえておくべき条項がある。適用指針第8項だ。
取締役会や常務会等において資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていないときなど、これらに係る資産を切り離しても他の資産または資産グループの使用にほとんど影響を与えない場合がある。このような場合に該当する資産のうち重要なものは、概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う。将来の使用が見込まれていない遊休資産についても、同じ趣旨で、重要なものは最小の単位として取り扱う。
撤退の意思決定は、会計上の帰結を伴う。 取締役会で事業の廃止を決議すれば、それまで大きな単位に含めていた資産が、その決議によって単独の判定対象になる。撤退の判断そのものを止める理由にはならないが、決議の時期と決算期の関係は、あらかじめ財務が見ておくべき論点になる(撤退基準を先に決める|赤字事業を『いつ・何を見て』畳むか)。決議の書きぶりで「代替的な投資も予定されていない」かどうかが変わる点も含めて、議事の作り方は事前に整理しておく(取締役会に出す財務資料|説明のための資料から、決議を取るための資料へ)。
なお、企業が将来の使用を見込んでいる遊休資産は、その見込みに沿ってグルーピングを行うことになる。遊休だから即座に単独判定、ではない。分かれ目は使用見込みの有無である。
兆候は四半期で機械的に拾える
粒度が固定できていれば、兆候の把握は判断の作業ではなく照合の作業になる。適用指針は四つの兆候それぞれについて、判定に使える線を示している。
- 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスか(適用指針第12項)。「継続してマイナス」はおおむね過去2期がマイナスであったことを指し、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しない
- その損益に減価償却費と本社費等の間接的に生ずる費用を含めているか。支払利息など財務活動から生ずる損益と、利益に関連する金額を課税標準とする税金は含めない。大規模な経営改善計画等により生じた一時的な損益も含めない(同第12項(1))
- 使用範囲または方法に、回収可能価額を著しく低下させる変化があるか。事業の廃止・再編成、著しく早期の処分、用途の転用、遊休化のほか、著しく低下した稼働率が回復する見込みがないこと、建設仮勘定に係る計画の中止・大幅な延期も含まれる(同第13項)
- 経営環境が著しく悪化していないか。市場環境(材料価格の高騰、店頭価格や賃料水準の大幅な下落、販売量の著しい減少)、技術的環境(技術革新による陳腐化、特許期間終了)、法律的環境(重要な法律改正、規制の変更、重大な法令違反)の三つで見る(同第14項)
- 市場価格が著しく下落していないか。少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する(同第15項)
このうち実務で効くのは、二つ目の「何を営業活動から生ずる損益とみなすか」である。本社費の配賦を入れるかどうかで、赤字判定になる拠点の数は変わる。適用指針は間接的に生ずる費用を含めるとしており、実務上はこの考え方を反映した管理会計上の損益区分に基づいて行われるものと整理している。月次の拠点別損益に本社費を配賦していない会社は、兆候の判定に使える数字を持っていないことになる。
もう一つ、立ち上げ期の事業には逃げ道が用意されている。適用指針第12項(4)は、事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が計画で予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しないとしている。これは計画を残している会社だけが使える条項だ。 事業計画が更新されずに放置されていると、当初から赤字が予定されていた事業でも、乖離を示す材料がない。
粒度を固定するとは、変えないことではない
適用指針第9項は、当期に行われた資産のグルーピングを原則として翌期以降も同様に行うとしている。ここを「一度決めたら変えられない」と読むと、実務は硬直する。
変わってよいのは、実態が変わったときだ。事業の統廃合、拠点の集約、管理会計上の区分の変更。これらが起きればグルーピングも動く。禁じられているのは、実態が変わっていないのに減損の結論を動かす目的で粒度を切り直すことである。
だから、粒度を変えた期には理由を残す。減損会計基準 四 3は、重要な減損損失を認識した場合に、減損損失を認識した資産、認識に至った経緯、金額、資産のグルーピングの方法、回収可能価額の算定方法等を注記することを求めている。グルーピングの方法は外に出る情報である。毎期変わる注記は、それ自体が説明を求められる。
連結の扱いも押さえておく。適用指針第10項は、個別財務諸表上は資産のグルーピングが当該企業を超えて他の企業の全部または一部とされることはないが、連結財務諸表においては連結の見地から個別財務諸表で用いられた単位が見直される場合があるとしている。管理会計上の区分や投資の意思決定の単位が複数の連結会社(在外子会社を含む)を対象に設定されている場合だ。単体と連結で単位が違いうることを、先に社内で共有しておく。 期末に初めて指摘されると、連結側の判定に手を付ける時間が残っていない。
なお、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産である主要な資産は、資産のグルーピングを行う際に決定され、当期に主要な資産とされた資産は原則として翌期以降も当該資産グループの主要な資産となる(適用指針第22項)。主要な資産は割引前将来キャッシュ・フローの見積期間を決める起点になるため、ここも期末に選び直すものではない。
減損の議論を、期初に前倒しする
減損が期末の大論点になる会社には、共通の構造がある。平時に測っている単位と、期末に判定したい単位が違う。だから期末に単位から議論することになり、単位の議論は結論の議論と区別がつかなくなる。
やることは二つだ。第一に、自社の管理会計の損益単位を確認する。継続的に収支を把握している単位はどこか。本社費は配賦されているか。それが減損の粒度の出発点になる。第二に、兆候のスキャンを四半期の定型作業に落とす。基準と適用指針は、判定に使える線をすでに示している。使わない理由がない。
この二つを回すと、期末に残るのは将来キャッシュ・フローの見積りだけになる。見積りの水準を誰が決めるのかという論点も、そのときには別建てで整理されているほうがよい(引当金の見積りは誰が決めるか|数字を作る人と水準を決める人を分ける社内ルール)。監査法人との論点も、期中に出しておけば期末に集中しない(監査法人の指摘が期末に集中する会社の共通点|論点を前倒しする四半期の使い方)。



