経営会議で、製造子会社2社の合併が決まった。どちらも親会社が株式の100パーセントを持つ兄弟会社で、工場は隣の県にあり、製品の一部は互いに融通している。 管理の部門を一つにし、設備投資の判断を一本化するのが目的である。決議の後、経理部長が呼ばれ、合併の実務を任された。法務部からは、効力発生日は10月1日でどうかという案が来ている。 下期の頭で区切りがよく、年度内に効果を出せるという理由である。経理部長は、会計処理の論点を調べ始めて、すぐに気づいた。処理そのものは難しくない。難しいのは、10月1日という日付が、決算と申告とシステムの作業を、いくつ増やすかのほうだった。
効力発生日を期首にすると、消滅会社の短い決算が一つ消える
合併で消滅する会社の事業年度は、事業年度の開始の日から、効力発生日の前日までで終わる。 税務ではこれをみなし事業年度と呼び、その最終事業年度の確定申告は、合併法人が、消滅会社の名で、終了の日の翌日から2か月以内に行う。
3月決算の2社が10月1日に合併すると、消滅会社は4月1日から9月30日までの6か月で最後の決算を締める。 棚卸、減価償却、引当金の見積り、税効果の計算、法人税と消費税の申告まで、通常の年度末と同じ作業を、存続会社の上期の締めと同じ時期にもう一度やることになる。申告の期限は11月30日で、上期の決算短信や半期報告の作業と重なる。
存続会社の側でも、比較が崩れる。 10月1日から消滅会社の損益が加わるので、下期の売上高と費用は上期と前年の下期のどちらとも比べられなくなる。月次の管理会計で前年比を見ている会社なら、合併前の2社を足した前年の数字を別に作ることになる。予算の対比も、上期は2社別、下期は1社の予算に組み替える。
効力発生日を4月1日の期首に設定すれば、この作業の多くが消える。 このとき消滅会社の最終事業年度は通常の3月期そのものになり、短いみなし事業年度の決算は生じない。存続会社は新しい年度の最初から1社として帳簿を始め、予算も最初から1社で組める。ただし、消滅会社の3月期の決算と申告は、効力発生日の後に、存続会社の担当者が行う。 合併の直後の4月と5月に、存続会社の年度末の決算と、消滅会社の最後の決算と申告が重なることは、人員の配置で手当てしておく。
期首にできない事情があるなら、少なくとも月初とし、四半期末や期末の直前の月を避ける。 月の途中に置くと、月次の締めが二つに割れ、その月の損益を2社の帳簿から集めることになる。
連結の数字への影響は小さい。 兄弟会社の合併は、連結の立場から見ればグループの中の組替えで、連結財務諸表の数字はほとんど変わらない。変わるのは、2社の間の取引と残高が消去の対象から消えることと、税効果の計算である。合併後の会社で課税所得の見込みが変われば、繰延税金資産の回収可能性の判断も、合併後の会社を単位に見直す(税効果会計の一時差異を期中に拾う工程、スケジューリング表を決算後に作らない)。
効力発生日から逆算すると、最初に始まるのは社外の手続である
効力発生日を決めたら、そこから逆算して段取りを組む。最も早く始めなければならないのは、社外が関わる手続である。
一つ目は、債権者保護手続である。 合併の当事会社は、官報に公告し、知れている債権者には個別に催告して、1か月以上の期間を定めて異議を述べる機会を与える。この期間は効力発生日の前に終わっていなければならない。定款で公告の方法を日刊新聞紙か電子公告にしている会社は、官報とその方法の両方で公告すれば、個別の催告を省ける。 取引先の多い会社では、この違いで作業量が大きく変わる。官報の掲載の申込みから掲載までにも日数がかかるので、効力発生日の2か月半から3か月前には、合併契約の締結と公告の準備を終えておく。
二つ目は、株主総会の手続である。 完全子会社どうしの合併なら、株主は親会社だけなので、株主全員の書面による同意で総会の決議を省略できる。親会社が議決権の90パーセント以上を持つ子会社を吸収合併するときは、略式合併として、子会社の側の株主総会を省ける。
三つ目は、従業員の手続である。 合併は包括承継なので、労働契約はそのまま存続会社に引き継がれ、従業員の個別の同意は要らない。会社分割の場合は、労働契約承継法にもとづき、分割の前に労働者との協議と、承継される労働者への通知が要る。 分割の契約や計画の承認の日程から逆算した期限があるので、分割を選ぶなら、法務と人事の日程に経理の日程を合わせる。どちらの方式でも、2社の給与や退職金の制度を一つにするのは、効力発生日とは別の、就業規則の変更の問題として扱う。
四つ目は、許認可である。 合併で自動的に引き継がれない許認可がある。建設業の許可は、2020年10月に施行された建設業法の改正で、合併や分割の前に認可を受ければ承継できるようになった。事業に必要な許認可を所管ごとに一覧にし、承継の方法と申請の期限を確かめる。
吸収合併の登記は、効力発生日から2週間以内に行う。効力は登記の日ではなく、合併契約で定めた効力発生日に生じるので、帳簿の切替えは効力発生日に合わせる。
請求書の登録番号と入金口座は、効力発生日に切り替わる
経理の実務で見落としやすいのが、取引先と直接つながっている情報の切替えである。
消滅会社の適格請求書発行事業者の登録は、合併による法人の消滅届出書を出すと、合併で消滅した日に効力を失う。 効力発生日から後に消滅会社の名義と登録番号で出した請求書は、取引先の仕入税額控除に使えない。請求書を出すシステムの会社名と登録番号を、効力発生日の朝に存続会社のものに切り替える。 月末締めで請求書を出す会社なら、効力発生日の前日までの取引は消滅会社の名で、効力発生日からの取引は存続会社の名で出すことになる。取引先への通知は、債権者保護手続の催告と一緒に送れば、手間が一度で済む。
入金の口座も、切り替えに時間がかかる。 得意先の支払の仕組みには、消滅会社の口座が登録されている。案内を出しても、切り替わるまでの数か月、消滅会社の名義の口座に入金が続く。口座は効力発生日にすぐ解約せず、存続会社の名義への変更か、一定の期間の併存を銀行と決め、その口座への入金の消込を誰がどの画面で行うかを決めておく。 支払の側も同じで、消滅会社の名で結んでいた取引先の支払の口座や、口座振替の契約を、一件ずつ移す。
取引先のマスタも、2社のコードを一つにそろえる。 同じ取引先が2社で別のコードを持っていれば、効力発生日の後に、同じ相手への債権や債務が二つのコードに分かれて残る。合併の前に、2社の取引先コードの対応表を作り、存続会社のコードに寄せる(内部取引の消去が毎期ずれる原因は、取引先コードの不統一より伝票の空欄にある)。
システムの会社統合は、残高と明細の移し方を先に決める
2社が別々の会社コードで会計システムを使っているなら、効力発生日に一つにする方法を決める。会社コードそのものをデータ変換で統合する専用の手段もあるが、費用と検証の負荷が大きい。 グループ内の小さな合併では、存続会社の会社コードに、消滅会社の残高と明細を効力発生日の日付で移す方法を取ることが多い。
移すものは五つある。 一つ目は総勘定元帳の残高で、勘定科目の対応表を使って存続会社の科目に組み替える。二つ目は債権と債務の未決済の明細で、取引先ごと、請求書ごとに移さないと、効力発生日の後の入金や支払を消し込めない。三つ目は固定資産で、取得価額と償却の累計額を分けて移し、取得日と耐用年数も持たせる。 簿価だけを移すと、翌月からの減価償却が正しく計算されず、税務上の償却限度額との差の管理も途切れる(SAP固定資産(FI-AA)の償却ずれは、決算時でなく取得時のマスタ登録で防ぐ)。四つ目は在庫で、品目のコードと評価の単価をそろえて移す。五つ目は、効力発生日の時点で完了していない発注と受注である。 合併の前に消滅会社の名で出した発注書に対しても、入荷と請求は効力発生日の後に存続会社に届く。
移す日は、効力発生日の前日の残高が確定してからになる。 期首に効力発生日を置いた場合は、消滅会社の年度末の決算が固まるのを待って残高を移すので、移行のデータを一度仮に移し、決算の確定後に差額を修正する二段の手順を取る(SAPのカットオーバー計画の立て方、期首残高の確定と業務凍結期間の決め方)。
旧環境は、すぐには止められない。 法人税法は帳簿書類の保存を原則7年、欠損金が生じた事業年度は10年と定めている。合併で消えた会社の過去の帳簿も、合併法人が保存する。旧システムをいつまで照会できる状態で残すか、データを別の保管先に移すかを、維持の費用と合わせて決める(SAP移行で旧システムの過去データは何年分移すか、移行年数と旧環境の維持費)。
精密部品のメーカー(3月決算、連結子会社は国内6社)。親会社が100パーセントを持つ製造子会社2社(売上高はそれぞれ約120億円と約80億円)の合併を決め、法務部は10月1日の効力発生を提案した。 経理部長が作業を数えると、消滅会社の4月から9月までのみなし事業年度の決算と申告、存続会社の下期の予算の組替え、11月末の申告期限と上期の決算短信の作業の重なり、下期の前年比のための合算の数字の作成が、10月1日を選んだことで増える作業だった。2社は別々の会社コードで同じERPを使っており、取引先のマスタは約1,800件のうち約400件が両社で重複していた。 経理部長は、効力発生日を翌年の4月1日に移す案を経営会議に出した。効果が半年遅れる代わりに、短い決算が一つ消え、予算を最初から1社で組めるという比較表を添えた。経営会議はこの案を採り、12月に合併契約を結び、1月上旬に官報公告と個別の催告を出して、2月末までを異議申述期間とした。 2月には取引先コードの対応表を完成させて重複の約400件を存続会社のコードに寄せ、3月に移行のリハーサルを2回行った。4月1日の朝に請求書のシステムの会社名と登録番号を切り替え、残高は3月末の決算の確定後に差額を修正する二段の手順で移した。 入金口座は、消滅会社の名義のものを6か月併存させ、その間の入金は存続会社の債権の担当が消し込んだ。最後の3月期の申告は5月末に存続会社が行い、存続会社の年度末の決算と重なる4月と5月は、親会社の経理から2人を応援に出した。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
合併の段取りで押さえる三つのこと
第一に、会計処理を調べる前に、効力発生日を決算の暦の上に置く。 消滅会社の事業年度は効力発生日の前日で終わり、期中に置けば短いみなし事業年度の決算と申告が一つ増える。期首にすればこれが消え、予算も最初から1社で組める。 期首にできないなら、少なくとも月初にし、四半期末と期末の直前を避ける。
第二に、社外の手続から逆算する。 債権者保護手続は1か月以上の異議申述期間を効力発生日の前に終える必要があり、官報の掲載にも日数がかかる。会社分割なら労働者との協議と通知が、事業によっては許認可の承継の手続が加わる。
第三に、取引先とつながる情報とシステムの移し方を、効力発生日の前に決める。 請求書の登録番号は効力発生日に切り替え、入金口座は併存の期間と消込の担当を決める。残高、債権債務の未決済の明細、固定資産、在庫、未完了の発注と受注を、存続会社のコードに移す手順と、旧環境の保存の方法を決める。
グループ内合併の会計処理は論点が少ない。作業量を決めるのは効力発生日の置き方で、期中に置くと消滅会社の短い決算と申告が一つ増える。段取りは次の順で組む。
- 効力発生日を期首に置く。できなければ月初にし、四半期末と期末の直前を避ける
- そこから逆算して、1か月以上の異議申述期間を取る債権者保護手続を始める
- 効力発生日の朝に請求書の会社名と登録番号を切り替え、消滅会社の入金口座はしばらく残して消込の担当を決める



