11月の半ば、監査法人の業務執行社員からCFOに連絡が入る。年度の監査計画の中で、継続企業の前提について早めに時間をもらいたい、という内容である。 会社は3月決算で売上高380億円の部品メーカー。前期は営業損失12億円、当期も第2四半期までの累計で営業損失9億円、営業キャッシュ・フローは2期続けてマイナスになっている。シンジケートローンの残高は80億円で、2期続けて経常損失を計上しないことが財務制限条項に入っている。 社長の反応は短い。注記が付くかどうかは、結局、下期の業績次第だろう。 だが、下期の業績がどうなっても、注記の要否を決めるのはそこではない。

POINT
注記の要件は、財務諸表等規則第8条の27が定めている。継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、 事象又は状況が存在する旨とその内容、解消・改善のための対応策、重要な不確実性が認められる旨とその理由、その影響を財務諸表に反映しているか否かの別を注記する。貸借対照表日後に重要な不確実性が認められなくなった場合は、注記を要しない。事象や状況があることと、注記が要ることの間には、「対応をしてもなお」という関門がある。 有価証券報告書では、企業内容等の開示に関する内閣府令の様式が、事業等のリスクの項で、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象(重要事象等)が存在する場合に、その旨と具体的な内容を分かりやすく記載することを求め、経営者による分析の項で、その分析・検討内容と解消・改善のための対応策を具体的に記載することを求めている。上場会社が注記をすることを決定した場合は、東京証券取引所の有価証券上場規程第402条第1号akにより、直ちにその内容を開示しなければならない。 監査の側は、日本公認会計士協会の監査基準報告書570「継続企業」が手続を定める。第12項は、経営者の評価期間が期末日の翌日から12か月に満たない場合、延長を求めることを監査人に要求する。第15項は、事象又は状況を識別した場合に、経営者の対応策が事象又は状況を解消・改善するものかどうかとその実行可能性を検討し、資金計画の基礎データの信頼性と仮定の裏付けを確かめ、対応策とその実行可能性を記載した経営者確認書を求めることを要求している。適用指針A18は、経営者の評価が貸付の劣後化や資金提供の継続、追加資金提供の確約、保証といった第三者の支援を前提としている場合、監査人が当該第三者に書面又は電磁的記録による確認(契約条件を含む)を依頼することを検討し、支援する能力の証拠の入手が必要なことがあるとしている。

注記を分けるのは、赤字の大きさではなく対応策の裏付けである

継続企業の前提をめぐる開示は、三つの段に分かれる。何も書かない段、事業等のリスクに重要事象等を書き、経営者による分析で対応策を説明する段、そして財務諸表に注記する段である。 二段目と三段目の間を分けるのが、第8条の27の「対応をしてもなお重要な不確実性が認められるか」である。

同じ規模の赤字を出した二社を並べると、この関門の意味が分かる。一社は、メインバンクから翌期の運転資金の継続支援について書面をもらい、遊休工場の売買契約を期末の前に結んでいた。 もう一社は、同じ内容を「交渉中」「検討中」として説明した。前者は二段目で止まり、後者は三段目に進む。分けたのは業績の差より、対応策が実行できると言える証拠の差である。

監査人がどんな証拠を見るかは、監査基準報告書570の適用指針A16に例示がある。対応策の種類ごとに、確かめられる事項と、期末の前に揃えておく書面を並べると、次のようになる。

対応策の種類監査人が確かめる事項(A16の例示より)期末の前に揃えておく書面
新たな借入・借換え借入計画の実行可能性(与信限度、担保余力等)条件変更契約、コミットメントラインの更新契約、支援の意向を示す書面
資産の処分処分の制限(抵当権設定等)、売却可能性、売却先の信用力、処分による影響売買契約または基本合意書、担保権者の同意、売却先の資金の裏付け
増資増資計画の実行可能性(割当先の信用力等)引受契約または基本合意書、割当先の資金の確認資料
その他の資金調達売掛債権の流動化、リースバック等の実行可能性契約書、枠の設定通知
債務免除債務免除を受ける計画の実行可能性(債権者との合意等)債権者との合意書
経費の節減・投資の延期実施による影響取締役会の決議、実施済みの削減の実績

右の列の書面は、どれも相手のある書面である。 会社が作れる書面ではなく、銀行や買い手や債権者に出してもらう書面だということが、段取りを大きく左右する。

12か月の資金計画を、監査人が検証できる形で作る

対応策の実行可能性は、資金計画の上で判断される。第15項は、資金計画を作るために生成した基礎データの信頼性と、計画の基礎となる仮定の裏付けを、監査人に確かめさせる。 適用指針A17は、そのための手続として、直近の数期間の予測と実績の比較や、当年度の予測と現時点までの実績の比較を挙げている。過去の予算や着地見込みがどれだけ外れてきたかが、今回の資金計画の信用に直結する(フォーキャストの精度の測り方、着地見込みのバイアスとばらつきを部門別に追う)。

計画は月次で作る。四半期単位の計画では、月中の資金の谷が見えない(13週キャッシュフロー予測の作り方、月次の資金繰り表では見えない月中の谷)。期間は、期末日の翌日から少なくとも12か月とし、実務では監査報告書の日付から先まで届く15か月程度で作っておく。 後で触れる改正が確定すれば、評価期間の起点は財務諸表の承認日の翌日に移るからである。

仮定は、受注残、主要顧客の発注の内示、仕入先の支払条件、借入の返済予定といった、相手のある数字に紐づける。そして、下振れの場合を一本用意する。 売上が計画から一割下がり、対応策の一つが遅れた場合に、手元資金の最低残高を割る月があるか。割るなら、その月までに何をするかを計画に書く。

金融機関の支援意向は、期末の前に書面にする

段取りの中で一番時間がかかるのは、金融機関との合意である。銀行の側にも稟議がある。 条件変更や支援の意向を書面にするには、会社の資金計画と対応策の説明を受け、行内の審査を通す時間が要る。シンジケートローンなら、契約で定めた割合の貸付人の同意を取る手続が加わる。期末の直前に頼んでも、決算発表までには揃わない。

期末の前に揃える理由は、時間だけではない。財務制限条項の判定は、期末の決算の数字で行われる。 条項に抵触する決算になれば、会社は、貸付人に権利を行使しないという同意を取りに行く立場で交渉することになる。国際会計基準を適用している会社では、IAS第1号第74項により、報告期間の末日以前に契約条項に違反し、借入が要求払いになった場合、期末日後に貸し手が返済を求めないことに同意しても、その負債は流動負債に分類する。 期末の前に条件を変えておくか、権利を行使しない旨の同意を期末の前に取っておくかで、財務諸表の見え方そのものが変わる(コベナンツ(財務制限条項)の管理、抵触の前に余裕度を四半期で見る)。

書面の文言にも注意が要る。「引き続き支援する方針である」と「支援について前向きに検討する」では、監査人にとっての証拠の重さが違う。 期間、金額、条件が書かれているか、誰の名前で出ているかを、受け取る前に監査人と確認しておく。

監査人と論点をすり合わせる段取り

3月決算の会社なら、段取りは第2四半期の決算の後から始まる。

注記の要否を左右するのは、期末後の数字より、期末の前に揃えた証拠である。
STEP 1
兆候を自己判定する
第2四半期の後、営業損失の継続、営業キャッシュ・フローのマイナス、財務制限条項の余裕度を並べ、重要事象等に当たるかを社内で判定する
→
STEP 2
監査人と初回の協議をする
11月から12月に、会社の判定と対応策の候補を示し、監査人が求める証拠の種類を聞く
→
STEP 3
資金計画と対応策を固める
期末日の翌日から15か月程度の月次の資金計画と下振れの場合を作り、対応策ごとに相手と期限を決める
→
STEP 4
相手の書面を期末の前に揃える
条件変更契約、支援の意向の書面、売買契約などを3月末までに受け取り、監査人に内容を確認してもらう
→
STEP 5
期末後に評価を更新して開示を決める
期末の実績で資金計画を更新し、経営者確認書の陳述と、事業等のリスク・注記・適時開示の文案を取締役会にかける
土台土台=予算と着地見込みの精度の記録。直近の数期間の予測と実績の比較は、監査人が資金計画を信じるかどうかの材料になる。平時から記録していない会社は、ここで説明に窮する。
注記を避けることを目的にしない。対応策が本物であることを証拠で示せれば二段目で止まり、示せなければ三段目で対応策の具体性によって信用を守る。

改正の動きも、段取りに織り込んでおく。 国際監査・保証基準審議会は2025年4月9日にISA 570(Revised 2024)を公表し、日本公認会計士協会はこれに対応する監査基準報告書570の改正を、2025年12月15日に公開草案として公表した。同協会の概要資料によれば、改正案は、経営者による評価期間12か月の起点を、期末日の翌日から財務諸表の承認日の翌日に変える。監査報告書には、重要な不確実性がない場合も含めて「継続企業」の区分を設け、監査人の結論を記載する。 経営者確認書には、事象又は状況を識別した場合に、対応策、その実行可能性、対応策を実行する意思と能力を記載させる。2026年7月16日には、この改正に伴う関連する監査基準報告書等の改正も公開草案として公表された。適用時期は確定版で示されるが、方向ははっきりしている。対応策の実行可能性について、経営者がこれまで以上に明確に陳述し、監査人がそれを評価した過程が外から見えるようになる。

設例

冒頭の部品メーカー。CFOは12月の初回協議で、重要事象等に当たるという会社の判定と、対応策の候補を四つ示した。 遊休工場の売却、シンジケートローンの財務制限条項の変更、運転資金のコミットメントラインの更新、役員報酬と設備投資の削減である。監査人からは、それぞれについて期末の前にどの書面が要るかの指摘を受けた。資金計画は、期末日の翌日から翌々年の6月までの15か月を月次で作り、下振れの場合として売上が計画から一割下がり工場の売却が半年遅れる場合を置いた。 下振れの場合、翌年の11月に手元資金が最低残高の15億円を割るため、コミットメントラインの更新を対応策の中心に据えた。直近3期の予算と実績の売上の差が、いずれも5パーセント以内だったことが、計画の仮定の裏付けとして使えた。 幹事行との交渉は1月に始め、財務制限条項の経常損失の判定を当期は除外する条件変更契約と、40億円のコミットメントラインの1年更新を、3月下旬に締結した。遊休工場は3月中旬に売買契約を結び、代金18億円の入金は5月だった。期末の経常損失は14億円で、条件変更をしていなければ財務制限条項に抵触していた。監査人は、期末の前に揃った書面と資金計画をもとに、重要な不確実性は認められないと結論付けた。 会社は有価証券報告書の事業等のリスクに重要事象等を記載し、経営者による分析の項で四つの対応策と進捗を具体的に書いた。注記はしていない。CFOが後で振り返って一番効いたと言ったのは、11月の連絡から2週間以内に初回の協議を入れたことだった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

期末までに押さえる三つのこと

第一に、注記の要否を、業績ではなく対応策の裏付けで考える。 財務諸表等規則第8条の27は、事象又は状況を解消・改善する対応をしてもなお重要な不確実性が認められるときに注記を求める。開示は、何も書かない段、事業等のリスクに重要事象等を書き対応策を説明する段、注記する段に分かれ、二段目と三段目を分けるのは対応策の実行可能性の証拠である。注記を決定すれば、上場規程に基づく適時開示も要る。

第二に、監査人が検証できる資金計画を作る。 監査基準報告書570は、対応策の実行可能性、資金計画の基礎データの信頼性と仮定の裏付けを監査人に確かめさせ、過去の予測と実績の比較もその手続に挙げる。計画は月次で、期末日の翌日から15か月程度を作り、下振れの場合を一本作る。評価期間の起点を財務諸表の承認日の翌日に移す改正が、公開草案として示されている。

第三に、相手のある書面を期末の前に揃える。 支援の意向、条件変更契約、売買契約は、稟議と交渉に時間がかかる。財務制限条項の判定は期末の数字で行われ、国際会計基準の適用会社では期末日後の同意で負債の分類は直らない。第2四半期の後に兆候を自己判定し、11月から12月に監査人と初回の協議を入れ、3月末までに書面を受け取る。

まとめ

同じ赤字でも、注記が付くかどうかを決めるのは対応策が実行できるという証拠である。その証拠の多くは銀行や買い手が出す書面で、期末を過ぎてから頼んでも間に合わない。

段取りは期末から逆算して置く。3月決算なら、第2四半期の後に兆候を自分で判定し、11月から12月に監査人と初回の協議を持ち、15か月程度の月次の資金計画と下振れの場合を作り、3月末までに書面を受け取る。

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