連結担当の主任が辞めて、八か月になる。求人は二度出し直したが、面接まで進んだ候補者は三人で、内定を出した一人は辞退した。 第1四半期の連結は課長が自分で組み、第2四半期も同じことになりそうである。経営企画部長が言う。監査法人出身で独立している会計士を、週二日の業務委託で入れればいい。採用より早く、社員一人分より安い、と。 課長も、それで席が埋まるなら助かると思う。三か月後、その会計士は自分の作業を予定どおり終えている。そして連結は、前の四半期より二営業日遅れている。 海外子会社への問い合わせに返事が来ず、会計士が課長に確認を頼み、課長がそれを子会社の経理部長に回す往復が、締めの一週間で二十回を超えていた。

POINT
外部の人を業務委託で入れる前に、法律がどこに線を引いているかを並べておく。線は一本ではなく、少なくとも四本ある。 一本目は税務である。税理士法第2条は、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談を行うことを業とすることを税理士業務とし、第52条は、税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとする。 経理の経験が長くても、税理士でない個人に、申告書の作成や個別の税務相談を業として頼むことはできない。二本目は働かせ方である。契約の名前が業務委託でも、社員と同じように仕事の進め方を指示し、時間と場所を拘束すれば、労働基準法上の労働者と判断されうる。 昭和60年の労働基準法研究会報告は、仕事の依頼への諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、時間的・場所的な拘束性などを判断の要素に挙げている。法人から人が来る場合は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)が、労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を受託側が自ら行うことなどに該当しなければ、労働者派遣事業を行う事業主とするとしている。三本目は取引条件である。令和6年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法は、従業員を使用しない個人や、代表者一人で従業員を使用しない法人への委託に適用される。 第3条で取引条件の明示を求め、発注側に従業員がいれば、第4条で報酬の支払期日を給付の受領から60日以内で定めることが加わり、1か月以上の委託では第5条の禁止行為が、6か月以上の委託では第16条の中途解除等の事前予告(原則30日前まで)が加わる。四本目は情報である。上場会社であれば、金融商品取引法第166条第1項第4号は、会社と契約を締結している者が契約の履行に関し重要事実を知った場合を、インサイダー取引規制の対象に含めている。 未公表の決算の数字に触れる外部の人は、社員と同じ規制の内側にいる。この四本の線の内側で、何を任せるかを決める。

外部に任せられるかは、経歴より二つの条件に左右される

外部のプロ人材を検討するとき、多くの会社は人の経歴から考える。連結の経験がある、上場準備を経験した、監査法人で主査をしていた。 だが同じ経歴の人を入れても、任せた業務によって、成果が出る会社と出ない会社に分かれる。分けているのは、二つの条件である。

一つ目は、判断の基準を文書で渡せるかどうか。 未実現利益の消去の重要性の基準、引当金の算定方法、勘定科目の使い分け、注記に書く範囲。これが文書になっていれば、外部の人はその基準を当てはめて成果物を作れる。文書になっていなければ、外部の人は前の職場の基準を当てはめる。 本人は正しいと思って作り、社内のレビューで差し戻され、どこが違うのかは口頭で伝えられる(経理の即戦力採用が半年で失速する理由、前職の型を持ち込む経験者への対処)。

二つ目は、必要な情報が手元に届くかどうか。 子会社の連結パッケージ、事業部の見積りの根拠、契約書の原本、取引の経緯。これらが決まった期日に決まった場所へ届く業務なら、外部の人は週二日でも処理できる。届かず、誰かが取りに行く必要がある業務は、取りに行く人の立場で速さが決まる。

任せてよいかは、基準を文書で渡せるかと、社内に情報を取りに行く必要があるかの二軸で決まる。経歴の深さが効くのは、右側の成果物の質である。
社内に情報を 取りに行く必要 高 →
社員でないと止まる
決算の取りまとめ、事業部との見積りの協議、監査法人の窓口。外部に渡すと問い合わせの往復が増え、締めが遅れる
分業する(社員が集め、外部が作る)
見積りの計算、子会社の数値の組替。資料の回収と督促は社員が持ち、計算と文書化を外部に渡す
範囲を切って任せる
新しい会計基準の影響調査、社内の基準の文書化。選択肢と影響額までを成果物にし、選ぶのは社内に残す
任せて回る
回収済みの連結パッケージの組替と消去仕訳の起票案、注記の下書き、有価証券報告書の前期比較。基準に照らして出来を確かめられる
判断の基準を 文書で渡せる度合い 高 →
契約の前に業務をこの四つに割る。左上を外部に渡した会社は、人を入れたのに締めが遅くなる。

情報を取りに行く工程は、社員でないと止まる

冒頭の会社で遅れたのは、会計士の作業ではない。海外子会社への問い合わせである。

子会社の経理担当から見ると、名前を知らない社外の人からの依頼は、本社の社員からの依頼と同じ優先度にならない。依頼の優先度は、依頼の中身より、依頼した人の立場で決まるからである。 現地の上長の承認が要る資料なら、なおさら動かない。さらに週二日の稼働では、返事が届いた日に本人がいないことがある。問い合わせと回答の間に、稼働していない日が挟まる。

事業部の見積りも同じ形をしている。引当金の前提になる受注の見込みや、返品の見通しは、事業部長と話して初めて出てくる。 外部の人がその場に入っても、事業部長が数字を出す相手は、決算の責任を負う経理の社員である。

だから、情報を取りに行く工程は、外部に渡さず社員に残す。右上の業務も同じで、資料の回収と督促だけを社員が持ち、揃った資料を期日を決めて外部に渡す。 ここで見落とされるのが、社員の側に残る工数である。外部に払う金額だけで採用と比べると、課長の時間が見えないまま消えていく。外部を入れる稟議にも、残る社員の工数を載せる(経理の増員稟議が通らないのは、業務量を測らずに人手不足を訴えるから)。

基準を渡せない業務は、成果物を定義できない

業務委託の契約は、請負なら仕事の完成を、準委任なら事務の処理を約束する。どちらの形でも、何をもって終わりとするかを書けなければ、出来を判定できない。

経理の業務で成果物を書くには、基準が要る。「連結の消去仕訳を作る」だけでは足りない。どの重要性の基準で未実現利益を消去するか、どのレートで換算するか、差異が出たときにどこまで調べて止めるか。 これが決まっていない会社で成果物を定義しようとすると、結局は「課長の確認で問題がないこと」と書くことになり、課長の時間に戻ってくる。

基準が文書になっていない会社が最初に外部に頼むべきなのは、基準の文書化そのものである。 これは左下の業務で、実は外部に最も向いている。他社の基準を見てきた人は、自社で暗黙になっている判断を言葉にするのが速い。ただし、文書にした基準を採用するかどうかは社内で決める。 社外CFOの使い方では、社内の合意形成が要るかどうかで任せる範囲を切った(社外CFOに頼む前に整えること、任せる範囲と自社に残す責任の分け方)。実務の担い手を外から入れる本稿の軸は、合意形成ではなく、社内に情報を取りに行く必要があるかどうかである。

成果物で契約を切ると、働かせ方の問題も軽くなる。渡すのは基準と期日と成果物の形になり、やり方を都度指示する必要がなくなる。 逆に、社員と同じ席で、社員と同じように朝の指示で動かしている状態は、契約の名前にかかわらず、先に挙げた労働者性の判断の要素に近づいていく。

法律が先に線を引いている業務がある

税務は、経験ではなく資格で切る。 法人税の申告書の作成や、個別の取引の税務上の取扱いの相談は、税理士でない個人に業として頼めない。相手が税理士であれば、その資格の業務として受けてもらう。個人の税理士や公認会計士などに支払う、その業務に関する報酬は、所得税法第204条第1項第2号により源泉徴収の対象で(法人への支払は対象外)、国税庁のタックスアンサー(No.2798)のとおり、1回の支払額のうち100万円以下の部分は10.21パーセント、100万円を超える部分は20.42パーセントである。 公認会計士の個人に経理の助言を頼む場合、その報酬が資格の業務に関するものに当たるかは契約の中身で変わるので、最初の支払の前に確認する。 税務の論点を外部に出すなら、顧問税理士の範囲との重なりも先に確認する(税務を社内に持つか顧問税理士に任せるか、内製する範囲の切り分け方)。

取引条件は、発注の書き方で決まる。 フリーランス・事業者間取引適正化等法の対象になる相手なら、業務の内容、報酬の額、支払期日などを明示し、発注側に従業員がいれば支払期日を給付の受領から60日以内に置く。業務の内容を「経理業務の支援一式」とだけ書いた発注では、何を受け取れば支払うのかを、双方が同じように読めない。 成果物で切ることは、ここでも効く。そして発注側に従業員がいて、6か月以上続けた委託を終えるなら、原則として30日前までの予告が要る。決算期の直前に契約を終えて内製に戻す計画は、予告の期限から逆算しておく。

未公表の数字に触れる人は、社内の管理の対象に入れる。 上場会社なら、契約を締結している者も会社関係者に含まれる。社員向けのインサイダー取引防止規程が業務委託の個人を対象に含めているかを確かめ、秘密保持と株式売買の制限を契約に書く。本業を別に持つ副業の人材なら、本業の勤務先との利益相反と守秘の制約も、契約の前に聞いておく(経理財務の副業はどこまで現実的か 守秘と利益相反を越える業務の選び方)。

契約の前に、業務を四つに割って窓口を名指しする

ここまでを、契約の前に決める項目として並べる。

外部のプロ人材と契約する前に決めること
  • 対象業務を工程に分け、二軸の四区分のどこに入るかを一行ずつ付けた一覧
  • 左上に入った工程を持つ社員の名前と、その社員に残る工数の見積り
  • 右上の工程で、社員が資料を揃えて外部に渡す期日(営業日と時刻)
  • 右下・左下の工程の成果物の形、出来を判定する基準、提出の期日
  • 外部に渡す判断の基準の文書(無ければ、文書化そのものを最初の成果物にする)
  • 税務の業務が含まれていないか、含まれるなら相手が税理士か
  • 個人の公認会計士・税理士への報酬の源泉徴収の要否(所得税法第204条第1項第2号。法人への支払は対象外。資格の業務に関する報酬に当たるかは契約の中身で確認する)
  • 取引条件の明示事項、報酬の支払期日、6か月を超える場合の解除の予告期限
  • システム・共有フォルダの権限の範囲(参照のみか入力までか)と、契約終了日の削除
  • 秘密保持、インサイダー取引防止規程の適用、本業先との利益相反の確認
  • 契約を終えるときに社内に残す成果物(基準の文書と手順書)

最後の項目が、外部のプロ人材を使った価値を決める。 契約が終わったとき、基準の文書と手順書が社内に残っていれば、次に採用した社員はそこから始められる(経理の属人化を解消する手順、担当者が替わっても締まる標準化)。残っていなければ、外部に払った報酬は、その期の締めを乗り切るための費用で終わる。 採用が決まらない期間の穴埋めとして入れるなら、なおさら残るものを契約に書く(経理の中途採用が決まらない原因は、給与より求人票と選考の遅さにある)。

設例

売上高380億円の精密機器メーカー(上場、3月決算)。国内4社・海外3社の連結子会社を持ち、連結担当の主任が退職してから、後任の採用が八か月決まらなかった。 経理部は、監査法人出身で独立した公認会計士の個人と、週二日・月額55万円の準委任契約を結び、連結の業務をまとめて任せた。第1四半期の連結は、例年より2営業日遅れた。 課長が振り返ると、会計士の作業時間の約4割が、子会社への問い合わせと回答待ちに使われていた。海外子会社3社のうち2社は、本社の社員からの依頼でないと現地の経理部長が資料を出さず、回答が会計士の非稼働日に届くことも多かった。 経理部長は、連結の業務を工程に分けて46行の一覧にし、二軸で仕分けた。パッケージの回収と督促、子会社との差異の確認、監査法人への説明の12行は、課長代理を窓口として社員に戻した。 為替換算と消去仕訳、連結精算表の作成、注記の下書きの21行は、課長代理が資料を揃える期日を第4営業日の正午に置いたうえで、会計士の成果物とした。残る13行のうち、子会社の申告書の確認に関わる3行は、会計士が税理士登録をしていなかったため顧問税理士の範囲に戻した。 それ以外の10行は、未実現利益の消去の重要性の基準と、在外子会社の勘定科目の対応表が文書になっていなかったため、その文書化と新しい論点の検討メモを、選択肢と影響額までの成果物とした。契約書は、業務の内容を成果物の一覧に書き換え、報酬の支払期日を月末締めの翌月20日とし、解除の予告を30日前と定めた。 報酬が公認会計士の業務に関する報酬に当たるかを顧問税理士に確認し、源泉徴収の対象として扱って支払っている。会計士は同社のインサイダー取引防止規程の対象者に登録し、SAPの権限は連結に関わる参照に限り、消去仕訳は、会計士が起票案を作り、課長代理が内容を確かめて入力する分担にした。第2四半期の連結は例年どおりの営業日に締まり、課長が会計士からの質問に使っていた時間は、週6時間から週2時間に減った。 課長代理の工数は週8時間増えたが、経理部長はそれを採用が決まるまでの必要な費用として予算に載せている。一年後に連結担当の社員が採用できたとき、文書化された基準と手順書が、そのまま引継ぎの資料になった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

契約の前に確かめる三つのこと

第一に、業務を、判断の基準を文書で渡せるかと、社内に情報を取りに行く必要があるかの二軸で、四つに割る。 同じ経歴の人を入れても、任せた業務によって成果が出るかどうかが分かれる。基準を渡せて情報が手元に届く業務はそのまま任せられ、基準は渡せても情報を取りに行く業務は、社員が集めて外部が作る分業にする。基準を渡せない業務は、基準の文書化そのものを最初の成果物にし、採用するかどうかは社内で決める。

第二に、情報を取りに行く工程は社員に残し、窓口を名指しする。 依頼の優先度は依頼した人の立場で決まり、週二日の稼働では問い合わせと回答の間に非稼働日が挟まる。決算の取りまとめ、事業部との見積りの協議、監査法人の窓口を外部に渡した会社は、人を入れたのに締めが遅くなる。 外部に払う金額だけで比べず、社員に残る工数を稟議に載せる。

第三に、法律が先に引いた線を、契約の前に確認する。 税理士法第52条により、税理士でない個人に税務書類の作成や税務相談を業として頼むことはできず、税理士などの業務に関する報酬には源泉徴収が要る。やり方を都度指示して時間と場所を拘束すれば、契約の名前にかかわらず労働者性が問われ、法人から人が来る場合は昭和61年労働省告示第37号が請負と派遣を区分する。 従業員を使用しない個人などへの委託では、フリーランス・事業者間取引適正化等法の第3条の取引条件の明示、発注側に従業員がいれば第4条の60日以内の支払期日、1か月以上の委託での第5条の禁止行為、6か月以上の委託での第16条の予告が掛かる。上場会社では、金融商品取引法第166条第1項第4号により、契約を締結している者もインサイダー取引規制の対象になる。 成果物で契約を切り、基準の文書と手順書を社内に残すことを、契約の最後の条項にする。

まとめ

外部のプロ人材で回るかどうかは、判断の基準を文書で渡せるか、必要な情報が手元に届くかで決まる。基準のない会社が最初に頼むべきは、基準の文書化そのものである。

契約の前に、業務を四つに割って社員の窓口を名指しし、税理士法、労働者派遣、フリーランス・事業者間取引適正化等法、上場会社ならインサイダー取引規制の線を確かめる。契約を終えるときは、基準の文書と手順書を社内に残してもらう。

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