同じ「FP&A」の求人でも、部門から集まる数字を締め切りまでにまとめる仕事と、着地見込みを作って事業の責任者と打ち手を決める仕事では、3年後に手元に残る経験が違う。職名を見ても、どちらの仕事かはわからないことが多い。筆者は、FP&Aのキャリアパスを、担当する判断が大きくなる階段として見るのがよいと考えている。そう見ると、転職先を選ぶときに先に確かめることは、肩書きや待遇よりも、その席が出す数字がどの判断に使われるかになる。この記事は、FP&Aを目指す人と、いまFP&Aにいて次を考える人の側から、入口ごとに足りない経験と、求人で確かめることを整理する。会社の側から見た採用の要件はFP&A人材の採用でミスマッチを防ぐには、3つの期待役割を採用前に決めるで扱った。
- FP&Aのキャリアパスは、担当する判断の大きさで4つの段を上がる。部門の予実の取りまとめ、事業や全社の着地見込み、資源配分の判断材料、CFOの順である。分かれ目は2段目にある。
- 入口は、経理、事業部門の企画、監査法人やコンサルティング会社、金融機関の4つに分けて考えられる。入口ごとに足りない経験が違い、その穴は次に座る席で埋める。
- 求人では、着地見込みを誰が作るかを最初に確かめる。あわせて、数字を誰に出すか、数字が使われる判断、その席から進んだ先、集計に使う日数を聞く。
キャリアの段は、職名でなく担当する判断の大きさで切る
FP&Aは、予測と資源配分の判断材料を受け持つ機能である。経理や経営企画との境目はFP&Aの役割と組織、経理・経営企画との境界を実務から引くで整理した。キャリアの段は、筆者は次の4つに分けて見ている。会社によって職名も段の数も違うので、仕事の中身で見た区切りである。
1段目は、部門や科目の予実の担当である。予算の取りまとめと、月次の差異の説明を受け持つ。判断の材料を集め、形をそろえる段にあたる。
2段目の仕事は、事業や全社の着地見込みである。数量や単価や時期の前提を事業の担当者から聞き取り、見込みを更新し、計画との差と打ち手の試算を出す。キャリアの分かれ目はこの段にある。 見込みが外れたときに説明する立場に立つので、数字の当たり外れに責任を持つ経験が初めて積み上がる。
3段目には、FP&Aの責任者や、事業部の財務の責任者が座る。予算の配分、投資、撤退の判断の場に材料を出し、必要なら事業の責任者に反対の意見を述べる。
最後の4段目がCFOで、資本の配分、投資家への説明、事業ポートフォリオの見直しまで受け持つ。経理部長との違いと、候補の見極め方はCFO候補の見極めと育成、経理部長との違いを5つの判断軸で整理するで扱った。
FP&Aのキャリアは、担当する判断が大きくなる順に4つの段を上がる

FP&Aに要るスキルは、境界を扱った同じ記事で、前提を言葉にする、試算を組む、都合の悪い見込みを早く伝える、の三つにまとめた。段を上がる観点で見ると、三つ目は、上の段の席に座って判断の場に出ないと身に付きにくい、と筆者は考えている。
入口の穴は、次に座る席で埋める
FP&Aに入る道を、筆者は4つに分けて考えている。経理、事業部門の企画、監査法人やコンサルティング会社、金融機関である。どの入口にも強みがあり、どの入口にも穴がある。
経理の出身者は、実績の数字がどこから来て、どの勘定にどう集まるかを知っている。予算と実績の科目の対応や、配賦の仕組みにも強い。足りなくなりやすいのは、確定していない数字を幅で語る経験と、都合の悪い見込みを事業の責任者に早く伝える経験だと筆者は見ている。過去の数字の正しさで評価されてきた人ほど、未来の数字を言い切ることに慣れが要る。
営業企画や事業企画など、事業部門の企画から来る人は、事業の勘所を持っている。どの数量がどの顧客の動きで変わるかを、体で知っている。足りなくなりやすいのは、会計の整合だと筆者は見ている。見込みの数字が実績の科目とつながらないと、毎月の照合で崩れる。
監査法人やコンサルティング会社の出身者の強みは、論点の整理と、資料と、モデルの組み立てである。弱くなりやすいのは、同じ会社の同じ数字を毎月追い続け、外れたら自分で説明する経験と、社内の部門との長い関係だと筆者は見ている。銀行、証券、投資ファンドといった金融機関の出身者は、企業価値、資金、投資の評価に強い一方、社内の予算のプロセスと、部門どうしの利害の調整に慣れていないことが多いと筆者は見ている。
穴は、次に座る席で埋めるのが近道だと筆者は考えている。経理出身なら、事業の責任者に見込みを説明する席を選ぶ。事業部門の出身なら、実績との照合まで自分で持つ席を選ぶ。コンサルティング会社の出身なら、毎月の着地見込みに責任を持つ席を選ぶ。金融機関の出身なら、予算の編成と部門との調整を受け持つ席を選ぶ。転職でも社内の異動でもよい。穴を埋められない席に移ると、入口で持っていた強みだけを使い続けることになりやすい。経理の経験から分かれるほかの道との比べ方は、経理のキャリアパス、事業会社・会計コンサル・SAP人材の3つの道を比べるで扱った。
入口ごとに持っているものと穴が違い、穴は次に座る席で埋める

求人は職名でなく、着地見込みを誰が作るかで見分ける
求人票の「FP&A」「経営管理」「経営企画」という職名は、会社によって中身が違う。名前が違っても同じ仕事のことがあり、名前が同じでも違う仕事のことがある。筆者は、5つのことを確かめれば、その席がキャリアの何段目にあたるかが見えると考えている。
いちばん効くのは、着地見込みを誰が作っているかである。前提を聞き取って作るのがFP&Aの部署なのか、事業部が作った数字を集めて並べるだけなのか。面接では「月次の着地見込みは、どの部署が、どの前提から作っていますか」と聞く。前提の中身まで答えが返ってくる席なら、2段目の仕事ができる。部署の名前しか返ってこず、集めて並べるだけなら、その席は1段目に近い。筆者は、この一問で席の段の見当がつくと考えている。
残りの4つのうち3つは見立てを確かめる問いで、1つはその段の仕事に時間を使えるかを見る問いである。数字を誰に出し、どの会議に出るかは「出した数字は誰に届き、どの会議で使われますか」と聞き、自分が会議の場で質問に答えるかを見る。数字が使われる判断は「最近、この部署の数字で何が決まりましたか」と聞く。具体的な判断の名前が返ってこなければ、その数字は報告のための数字にとどまっているおそれがある。その席から進んだ先は「この席から、これまでどこへ進んだ人がいますか」と聞く。事業部の財務の責任者や経営企画の責任者に進んだ人がいれば、その席は上の段への通り道になっている。別の会社でも予実の取りまとめを続けている人ばかりなら、1段目にとどまりやすい。
集計に使う日数は、段ではなく、その段の仕事に時間を使えるかを見る問いである。「締めから報告までの日数のうち、集計に何日かかりますか」と聞く。日数の大半が各部門の表計算を集めて合わせる作業に消える席では、2段目の席でも、前提の確認と提案に使える時間が残りにくい。
着地見込みを誰が作るかで席の段を見立て、残りの問いで確かめる

5つの答えがそろわない求人もある。1段目の席でも、会計の整合を学びたい人には意味がある。大事なのは、自分の入口の穴を埋める席かどうかを、答えから判断することである。会社の側がFP&Aに期待する役割を、分析特化型、事業パートナー型、プロセス設計型の3つに分ける考え方は、採用側の記事にある。
上場している部品メーカーで経理の課長を務める人が、FP&Aへの転職を考え、2社の求人を比べた。経理の経験は8年で、連結決算と月次決算をまとめてきたが、事業の判断の場に出たことはない。
A社の求人の職名は「FP&Aマネージャー」だった。面接で着地見込みの作り方を聞くと、各事業部が出した数字を集め、経営会議の資料に仕立てるという答えだった。資料は上長を通して会議に出され、本人は会議に出ない。前任者は、別の会社でも予実の取りまとめの担当を続けていた。
B社の求人の職名は「経営管理担当」で、FP&Aという言葉は使われていなかった。B社の面接官は、着地見込みはこの部署が事業部の担当者から前提を聞いて作り、事業部長との月次の会議で説明すると答えた。出した見込みは、四半期ごとの販促費と採用の枠の配分に使われる。前任者は、事業部の財務の責任者に進んでいた。
職名ではA社のほうがFP&Aらしく見えたが、仕事の中身はB社が2段目の席だった。 この人に足りないのは、見込みを幅で語る経験と、判断の場に出る経験だった。その二つを積めるB社を選んだ。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
職務経歴書は、作った資料より、動いた判断で書く
職務経歴書でよく見るのは、「月次の予実報告を作成」「予算編成を取りまとめ」という書き方である。仕事の量は伝わるが、どの段の仕事をしていたかは伝わらない。
書き方の例として、同じ仕事を判断の側から書き直すと、「販促費を追加するかどうかを決める事業部の会議に、追加した場合と見送った場合の着地見込みを出した」となる。何の判断のために、どの前提を置き、何を示し、何が決まったかを書く。担当した事業の売上の規模、部門の数、報告の頻度といった数字を添えると、読み手は段の高さを測りやすい。
経理の出身で、まだ判断の場に出た経験がない人は、決算の数字を事業の判断に使える形に直した経験を書くとよい。部門別の損益の見せ方を変えた、配賦の基準を説明した、といった経験は、2段目の席で使う力の手前にある。
社内の異動なら、事業の担当者との関係を持ったまま段を上がれる
転職だけが道ではない。経理にいる人は、事業部の財務の担当に異動することで、2段目の経験を社内で積める場合がある。事業の担当者との関係を持ったまま席を移れるので、前提を聞き出す相手を一から探さずに済む。送り出す側の会社がどう設計するかは、経理から事業部門への異動を片道にしない、戻り口と送り出す人の見極めと、経理のビジネスパートナー職を事業部に置く条件、数字の番人と相談役の両立で扱った。
よくある質問
未経験からFP&Aに転職できるか
入口になる経験による。経理、事業部門の企画、監査法人やコンサルティング会社、金融機関の経験は、それぞれFP&Aの仕事の一部と重なる。重ならない部分を、次の席で埋められるかどうかを、着地見込みの作り方や出席する会議を聞いて確かめるとよい。
FP&Aの次のキャリアは何か
FP&Aの責任者、事業部の財務の責任者、経営企画の責任者、CFOといった道がある。どの道に進めるかは、出した数字がどの判断に使われてきたか、判断の場で説明する立場にいたかで変わる、と筆者は考えている。
FP&Aに転職するのに資格は要るか
法令で求められる資格は無い。知識の範囲を確かめる手段として、日本CFO協会のFP&A(経営企画スキル検定)がある。同協会は、この検定を、米国のAFPが認定する資格FPAC(Certified Corporate FP&A Professional)の取得に向けた入門のプログラムと位置づけている。結果は点数とレベルで示され、合否は出ない。



