上期の営業利益が計画を9億円下回り、社長は10月1日に、下期で固定費を6億円減らすよう指示した。各部門から2週間で集まった削減案は、合計で7.4億円あった。 数字の上では足りている。経営企画の部長が一件ずつ読むと、様子が違った。本社の一部フロアの返上は、解約の予告が6か月前で、賃料が止まるのは来年の5月。基幹システムの保守の縮小は、契約の満了が来年の9月。物流倉庫の集約は、定期の賃貸借が2年残っている。下期の6か月のうちに費用が減る案は、7.4億円のうち1.9億円だった。 部長は社長にそのまま報告した。社長は、なぜ最初からそれが分からないのか、と尋ねた。

POINT
費用を固定費と変動費に分けるのは、売上や操業度が動いたときに費用がどう動くかを知るためである。損益分岐点の計算には、この区分で足りる。ところが削減の議論で知りたいのは、売上との関係よりも、会社が決めればいつから止まるかである。 管理会計の教科書には、設備や長期の契約から生じて短期には動かせない費用(コミッテッド・コスト)と、経営者の判断で期ごとに額を決められる費用(マネジド・コスト)という区分がある。考え方はこれでよい。足りないのは粒度である。 同じ賃借料という費目の中に、来月返せる倉庫と、残り4年の本社が入っている。費目に印を付けても、止められる日は出てこない。止められる日を持っているのは、費目ではなく一本一本の契約である。

固定費という一括りが、止められる日を隠している

予算の資料では、固定費は費目で並ぶ。人件費、賃借料、減価償却費、業務委託費、保守料、広告宣伝費。削減の指示は、この並びに一律の率を掛けて出されることが多い。 各部門は、自分の費目から率に見合う額を探す。

探す側は、金額の大きい順に見る。大きい費目は、たいてい長い契約に支えられている。賃借料、システムの保守料、外部倉庫、複合機やサーバのリース。だから削減案は、金額が大きく、止まるのが遅いものから先に挙がる。 冒頭の7.4億円のうち5.5億円が来期以降の効果だったのは、この探し方の帰結である。

反対に、すぐ止められる費用は、一件ずつが小さい。出張、外部の研修、広告の出稿、採用の媒体、期間の短い派遣や業務委託。合計すれば月に数千万円になっても、部門の中では削減案として目立たない。

時間の見落としは、もう一つある。契約には、止めると決めてから止まるまでの間がある。 解約の予告期間、自動更新の通知期限、最低利用期間である。年額で前払いしたクラウドの利用料は、解約しても残りの月の分が戻らない契約が多い。通知期限を一日過ぎれば、もう一年続く。会社が止めると決めた日と、損益計算書から費用が消える日のあいだに、数か月から数年の幅がある(コスト削減の効果がPLに出ない原因は基準線にある、削減額の測り方を先に固定する)。

契約ごとに、解約できる最短の日と一時費用を持つ

必要なのは、固定費を契約の単位に割った一覧である。一行が一つの契約で、列は八つあれば足りる。 費目、相手先、月額、契約の満了日、自動更新の有無と通知期限、中途解約の可否と予告期間、止めるときの一時費用、社内の持ち主である。

この八つから、二つの数字を計算する。一つは、きょう止めると決めた場合に費用が止まる最短の日である。 中途解約ができる契約なら、きょうに予告期間を足した日。できない契約なら、満了日。自動更新で通知期限を過ぎていれば、更新後の満了日になる。もう一つは、その日に止めるための一時費用で、違約金、原状回復の費用、残りの期間の支払いを足す。

契約の条項は、法律の原則どおりとは限らない。たとえば業務委託のうち委任に当たる契約は、民法651条で各当事者がいつでも解除できるとされているが、同じ条文が、相手方に不利な時期に解除したときの損害賠償も定めている。実際の契約書には、解約の予告期間や最低の契約期間が別に書かれていることが多い。一覧に入れるのは、原則ではなく契約書の文言である。

建物の賃貸借は、特に読み違えやすい。期間の満了で終わる定期建物賃貸借について、借地借家法38条7項が借主からの解約の申入れを認めているのは、居住用の建物を、転勤や療養などのやむを得ない事情で生活の本拠として使えなくなった場合である。事務所や倉庫には、この規定は当てはまらない。 契約に中途解約の条項がなければ、満了まで賃料の支払いが続くと見ておく。

人件費は、契約の一覧と同じ扱いにしない。労働基準法20条は解雇に30日前の予告か30日分以上の平均賃金を求めているが、これは手続の定めで、解雇が有効かどうかは別に問われる。正社員の人件費を、30日で止められる費用に入れてはならない。 期中に動かせるのは、採用の凍結、残業、賞与の業績連動の部分、期間の定めのある契約の更新である。欠員のまま残っている採用枠の予算は、止めても現金は減らない(採用できていない席の人件費予算、欠員による予算の余りが利益に見える問題)。

出典:民法第651条、借地借家法第38条第7項、労働基準法第20条第1項(e-Gov法令検索、2026年10月5日確認)。個別の契約の解釈は、契約書の条項と法務の判断による。

一覧を一から作る必要はない。新しいリース会計基準の適用に向けて、賃貸借や利用の契約を洗い出している会社は、その台帳に予告期間と違約金の列を足せばよい。 契約期間と延長や解約の条件は、リース期間を決めるためにすでに読んでいるはずである(新リース会計基準の影響、借手が契約の洗い出しより先に見る財務指標)。

止められる時期と一時費用で、四つに分ける

一覧ができたら、契約を二つの軸で分ける。止められるまでの期間と、止めるときの一時費用である。

同じ固定費でも、期中に効くものと、次の更新日を待つしかないものがある
止めるときの一時費用 大 →
払えば止められる
予告期間は短いが、違約金や残期間の支払いが要る。年額前払いの利用料、最低利用期間の残る回線や機器。一時費用を何か月で回収できるかで決める
構造を変えないと減らない
正社員の人件費、自社の設備の減価償却費、長期の引取りの約束。拠点や事業の再編とあわせて、年単位の計画で扱う
期中に効く
出張、研修、広告の出稿、採用の媒体、短い期間の派遣や委託。決めた翌月から減る。下期の削減目標はここから積む
更新日を逃さない
満了まで待てば一時費用なしで止まる。複数年の保守、定期の賃貸借、リース。通知期限を過ぎると一年延びるので、期限の暦を持つ
止められるまでの期間 長 →
期中の目標は左下と、期中に満了日が来る右下だけで積み上げる。左上は回収の月数を計算してから入れる。右上を期中の目標に入れると、未達の原因を先に作ることになる。

実際の一覧では、期間をもう少し細かく切る。筆者は三つに分けることを勧める。3か月以内に止められるもの、今期のうちに止められるもの、来期以降になるものである。

冒頭の会社で数えると、こうなった。固定費は年に120億円、月に10億円である。3か月以内に止められる費用は月0.9億円、今期中に満了や解約可能日が来る費用は月1.4億円、来期以降でなければ止まらない費用は月7.7億円だった。 月10億円の固定費のうち、半年のあいだに会社の意思で動かせるのは2.3億円、全体の23%である。

ここから下期の上限が出る。3か月以内に止められる月0.9億円のうち、事業を止めずに削れるのは6割と見て、月0.54億円。10月に決めて11月から効くので、3月までの5か月で2.7億円になる。今期中に満了が来る月1.4億円のうち、12月末に満了して更新しないと決められるものが月0.3億円あり、1月から3月の3か月で0.9億円。合わせて3.6億円が、下期に損益計算書から消せる上限である。 6億円には2.4億円足りない。

設例。数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

この計算は、指示を出す前にできる。6億円という目標が下期には届かないことは、一覧があれば10月1日の時点で分かっていた。 届かないと分かっていれば、選べる手は三つある。目標を3.6億円にして残りを来期の計画に入れるか、違約金を払って止める案を足すか、費用以外の手で利益を埋めるかである。どれを選ぶにしても、2週間かけて案を集めた後で知るより早い。

削減目標は一律の率ではなく、この内訳から積み上げる

一律の率で指示すると、部門のあいだで不公平が起きる。契約の長い費用を多く持つ部門は、期中に応えようがない。 物流や情報システムの部門がこれに当たる。短い費用を多く持つ営業やマーケティングの部門は、率以上に削れてしまい、毎回そこから削られる。

内訳から積み上げれば、部門ごとの目標は、その部門が期中に止められる額の範囲に収まる。来期以降の分は、契約の満了日ごとに、更新するか、条件を変えるか、止めるかを決める予定表になる。削減の計画は、金額の表より先に、日付の表である。

違約金を払って止める案は、回収の月数で比べる。月額400万円の契約を、残り10か月分の半額に当たる2,000万円の違約金で止めれば、5か月で回収でき、残りの5か月分の2,000万円が浮く。期中の利益には一時費用が先に出るので、当期と来期のどちらの数字を守りたいのかを、先に決めておく。

平時にやっておくことも、この一覧から決まる。契約を結ぶときと更新するときに、止めやすさに値段を付ける。 複数年の契約は単価が下がるが、止められる日が遠くなる。3年契約で年5%の値引きを受けるか、1年ごとの更新にして値引きを諦めるかは、その費用を2年目に止めたくなる見込みがどの程度あるかで決まる。売上の振れが大きい事業に紐づく費用ほど、短い契約に払う割増しは保険料として安い。クラウドや保守の契約では、更新のときの値上げの上限と解約の条件が、稼働の前にしか交渉できないことがある(RISE with SAPの契約更新に備える、値上げと出口条項を稼働前に確認する手順)。

年に一度、固定費のうち一年以内に止められる額の割合を計算しておく。この割合が下がっているなら、業績が悪化したときに費用で受け止められる幅が狭くなっている。予算の前提が崩れたときにどこまで費用で対応し、どこから計画そのものを組み直すかの線も、この割合から引ける(予算の前提が崩れたときの再予算の発動条件は、期初に前提指標の変動幅で書いておく)。

事業の撤退や拠点の閉鎖を検討するときも、同じ一覧が要る。撤退を決めても、その事業に紐づいた契約が満了するまで費用は残り、残った事業の損益に乗る(事業撤退で消えないコスト、本社費やシステム費が残った事業に乗り移る前に測る)。

設例

住宅設備の卸売(売上高650億円、3月決算)。2期続けて、期中に指示した固定費の削減が目標の半分に届かなかった。 経営企画の部長は、総務、情報システム、物流の三つの部門から契約書を集め、月額30万円以上の契約を一覧にした。件数は212で、固定費の年額の約7割を占めた。満了日、通知期限、予告期間、違約金を契約書から拾うのに、3人で6週間かかった。拾ってみると、自動更新の通知期限を過去1年に過ぎていた契約が17件あり、その年額は合計で1.3億円だった。 止めたいと部門が言っていた倉庫の一つは、定期の賃貸借で中途解約の条項がなく、満了は2年3か月先だった。部長は一覧に、きょう決めた場合に費用が止まる最短の日を計算する列を足し、3か月以内、今期中、来期以降に分けた。翌年の9月、業績の下振れを受けて下期の削減を検討したとき、社長への報告は指示の前に出た。下期に止められる上限は2.8億円で、求められていた5億円には届かないと書いた。 社長は目標を2.8億円にし、残りは満了日の予定表に沿って来期に止めると決めた。下期の実績は2.6億円だった。通知期限の90日前に持ち主へ知らせる運用を始めてから、気づかないまま更新された契約は出ていない。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、固定費を契約の単位で一覧にし、きょう決めた場合に費用が止まる最短の日と、止めるための一時費用を持つ。 金額の大きい契約から始め、固定費の7割を押さえれば使える。人件費は別に扱い、期中に動かせる部分だけを数える。

第二に、削減の目標は、期中に止められる額から積み上げる。 一律の率は使わない。目標が上限を超えるなら、指示を出す前に、目標を下げるか、違約金を払う案を足すか、費用以外の手を探すかを決める。

第三に、契約を結ぶときと更新するときに、止めやすさを条件として比べる。 通知期限の暦を持ち、一年以内に止められる固定費の割合を毎年計算する。

まとめ

固定費の削減が期中に効かないのは、案を出す力が足りないからではない。止められる日の違う費用が、同じ費目に並んでいるからである。契約ごとに、解約できる最短の日と一時費用を持てば、期中に減らせる上限は指示の前に計算できる。

目標はその上限の中で積み上げ、届かない分は満了日の予定表に移す。平時には、契約の更新のたびに止めやすさを比べ、一年以内に止められる費用の割合を見ておく。

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