期末の固定資産の実地棚卸で、台帳にある機械が見つからない。工場に確認すると、二年前の設備更新のときに撤去したという返事が返ってくる。撤去した現場の担当者は、経理に伝えるべきものだと思っていない。 経理は、伝えられていないのだから帳簿に残り続ける。そして二年分の減価償却費が、存在しない資産に対して計上され続けていた。今期の決算で除却損を立てて処理は終わる。来期も、同じ理由で別の資産が出てくる。
ずれるのは棚卸をしていないからではなく、伝わる経路が無いからである
台帳と現物が合わない資産には、共通の発生源がある。動いたとき、あるいは無くなったときに、経理へ伝わる仕組みが無い場所である。
具体的に列挙すると、四つに集約される。第一が、設備の更新である。 新しい機械の取得は購買と支払を通るため必ず経理に届くが、外した古い機械の行方は、工事の見積書に「撤去」と一行あるだけで終わる。第二が、移設である。 拠点間で動かした資産は、台帳の設置場所が古いまま残る。第三が、改修工事である。 建物附属設備の一部を更新したとき、更新された旧設備の帳簿価額は分離されずに残る。第四が、拠点の統廃合である。 閉鎖した拠点の資産は、移設されたものと処分されたものが混ざる。
この四つに共通するのは、新しく取得する側の情報は必ず経理に届き、失われる側の情報は届かないという非対称である。取得は請求書と支払を伴うから、経理を通らざるを得ない。処分は、費用として払う金額が撤去費用だけで、しかもそれは新設工事の見積りに紛れ込んでいる。
したがって設計の方向は決まる。失われる側にも、経理に届く経路を作る。 経路を新設するのが難しければ、既に存在している別の経路に相乗りさせる。この後者が、実務では圧倒的に速い。
出ていく事実の証跡は、すでに社内に存在している
処分した事実を経理に届ける経路を、ゼロから作る必要はない。多くの会社では、法令上の義務によってすでに証跡が作られている。
最も使えるのが、産業廃棄物管理票、いわゆるマニフェストである。廃棄物処理法第12条の3に基づき、排出事業者は産業廃棄物の処理を委託する際にマニフェストを交付し、原則として5年間保存する義務を負う。機械設備を廃棄した会社には、その事実を示す書面が必ず存在している。 保存しているのは総務か工場の環境担当で、経理には回っていない。
同じ性質のものが他にもある。事務所を退去したときの原状回復工事の完了報告書。リース満了時の返却の受領書。そして、拠点の閉鎖に伴う賃貸借契約の解約通知である。 どれも、法務か総務の側に既に存在している。
必要なのは、これらの書類が発生したときに固定資産台帳の担当へ写しが回る、という一行のルールである。新しい帳票を設計する話でも、システムを改修する話でもない。 既に存在している書類の宛先を一つ増やすだけである。
そのうえで、台帳の側にも受け皿が要る。台帳の各資産に、設置場所と管理部署の列が入っていること。この二つが入っていなければ、マニフェストに書かれた「〇〇工場から排出された金属くず」という情報を、台帳のどの行に対応させればよいかが分からない。台帳の項目のうち、実務で最も効くのがこの二列である(SAP固定資産(FI-AA)の運用設計:止まらない償却は取得時のマスタ登録で決まる)。
全数棚卸をやめて、発生イベント起点に切り替える
現物確認そのものを否定しているのではない。毎期の全数確認という形式を続けている限り、現場が続けられないと言っているだけである。
イベント起点に移したうえで、現物確認は残す。ただし全数ではなく、対象を絞る。絞る軸は二つでよい。一つ目が、帳簿価額の大きさである。 上位の資産は毎期確認する。二つ目が、動きやすさである。 測定機器、工具、什器、パソコン、金型のように、持ち運べて、貸し出され、現場の判断で廃棄されうる資産は、金額が小さくても件数が多く、ずれの発生率が高い。逆に、建物および建物附属設備は動かないため、確認の頻度を落として構わない。
そして、確認の時期を期末から外す。期末に一斉に行うと、結果が出るのが決算作業の真っ只中になる。 見つかった差異の処理を検討する時間が無く、翌期回しになる。基準日を第3四半期などに設定し、期末までに処理を終える形にすれば、決算のスケジュールから独立する。
除却の税務は、捨てたことではなく使わないことで判定される
現場と経理の間で最もよく起きる誤解が、ここにある。「まだ捨てていないから除却できない」という理解である。
法人税基本通達7-7-2は、次の場合には、当該資産について解撤、破砕、廃棄等をしていないときであっても、除却損として損金の額に算入できるとしている。一つは、その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産である。もう一つは、特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことが、その後の状況等からみて明らかなものである。この場合の損金算入額は、帳簿価額から処分見込価額を控除した金額になる。
つまり、判定の基準は物理的な処分ではなく、今後使う可能性の有無である。 生産ラインの入れ替えで停止したまま据え置かれている設備、生産終了した製品専用の金型、更新済みで予備として残しているだけの機器。これらは、要件を満たせば現物が構内にあっても除却できる。
ただし、条件が緩いということではない。この処理で問われるのは、使用を廃止した事実と、今後使う可能性が無いことを、後から客観的に示せるかどうかである。 そのため実務では、除却の理由、廃棄ではなく有姿除却を選ぶ理由、除却後の保管状況、そして使用しないことを裏づける事実を、その時点で文書に残しておく必要がある。生産中止の決裁書、ラインの停止記録、後継設備の稼働開始日。いずれも、時間が経つほど集めにくくなる書類である。
ここが、イベント起点の運用と直結する。設備を止めた時点で情報が経理に届いていれば、判断に必要な資料はその場に揃っている。二年後の実地棚卸で発見された資産について、当時の状況を再構成するのは、たいてい不可能である。
ずれの値段は、三つの方向に同時に出る
台帳と現物のずれを、減価償却費の過大計上という一点で捉えると、優先度が上がらない。実際には、三つの方向に同時に効いている。
一つ目が、いま述べた法人税である。要件を満たしているのに除却損を計上していなければ、その期に落とせたはずの損金を落としていない。
二つ目が、償却資産税である。地方税法第383条により、償却資産の所有者は毎年1月1日現在の資産を1月31日までに市町村へ申告する。申告した資産の評価額の合計が課税標準額となり、これが150万円未満であれば免税点により課税されない。台帳に存在しない資産が残っていれば、そのぶん課税標準が過大になる。 そして地方税法第17条の5は、課税標準額または税額を減少させる賦課決定について、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まで可能としている。除却漏れを発見したときに、当期の申告を直すだけで終わらせている会社は、過去分に手が届く可能性を自ら捨てている。 実際の取扱いは自治体によって確認が必要になるが、まず問い合わせるかどうかで結果が変わる。
三つ目が、保険と減損である。企業財産を対象とする保険は、多くの場合、拠点ごとの資産額をもとに保険金額が設定される。台帳が実態とずれていれば、付保の過不足がそのまま発生する。 存在しない資産に保険料を払っている場合もあれば、増設した設備が付保の対象から漏れている場合もある。後者は、事故が起きたときにしか判明しない。
減損についても、台帳の設置場所と管理部署の情報が、資産のグルーピングの基礎になる。企業会計基準適用指針第6号は、グルーピングにあたって継続的に収支の把握がなされている単位を出発点としており、その単位に含まれる資産の一覧は、結局のところ固定資産台帳から取ってくることになる。 台帳の場所情報が古ければ、グルーピングも古い実態を映す(固定資産の減損は資産グルーピングで決まる|兆候判定を期末の議論にしない)。
そして、この論点はこれから重くなる。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は2024年9月13日に公表され、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用される。原則として借手のすべてのリースについて資産と負債を計上する取扱いになるため、これまで台帳に載っていなかった契約が、使用権資産として台帳の管理対象に加わる。 現物の管理が追いついていない会社に、管理対象だけが増えることになる(新リース会計基準で借手のオンバランスが効くのは財務諸表ではない|コベナンツとROICへの波及)。
決めるのは三つ
第一に、失われる側の情報に経路を作る。 取得は請求書と支払を伴うため必ず経理に届くが、撤去・移設・改修・拠点統廃合で資産が失われる側の情報は届かない。この非対称が除却漏れの発生源であり、全数棚卸を強化しても発生源は閉じない。経路はゼロから作らなくてよい。 廃棄物処理法第12条の3に基づき交付され原則5年間保存される産業廃棄物管理票、原状回復工事の完了報告書、賃貸借契約の解約通知は、既に社内に存在している。写しの宛先に固定資産の担当を一つ加えるだけで足りる。ただし台帳側に設置場所と管理部署の列が無ければ、届いた情報をどの行に対応させるかが決まらない。
第二に、現物確認は全数をやめ、金額と動きやすさの二軸で絞り、期末から外す。 帳簿価額の上位資産と、測定機器・工具・什器・パソコン・金型のように持ち運べて現場判断で廃棄されうる資産を毎期の対象とし、建物および建物附属設備は頻度を落とす。基準日を第3四半期などに置けば、差異の処理を期末までに終えられる。 期末に一斉に行うと、結果が出るのが決算作業の最中になり、処理は翌期に回る。
第三に、ずれの値段を三方向で数える。 法人税基本通達7-7-2は、解撤・破砕・廃棄をしていない資産であっても、使用を廃止し今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる場合等について、帳簿価額から処分見込価額を控除した金額の除却損の計上を認めている。地方税法第383条により台帳に残る資産は毎年1月31日までの申告を通じて課税され続けるが、地方税法第17条の5は課税標準額または税額を減少させる賦課決定を法定納期限の翌日から5年まで可能としている。そして台帳は、企業財産保険の付保額と、企業会計基準適用指針第6号に基づく減損の資産グルーピングの基礎にもなっている。 2027年4月1日以後開始する事業年度から適用される企業会計基準第34号により、使用権資産が管理対象に加わることも織り込んでおく必要がある。



