取締役会の資料に、経営企画部が一枚のスライドを出している。海外売上比率58パーセント、連結子会社11社のうち6社が12月決算。決算期を12月に統一すれば、連結の期ズレがなくなり、四半期ごとの内部取引の調整も消える。 論旨に反対する人はいない。社外取締役が一つだけ聞く。「それで、いつからになるんですか」。 経営企画部長が答える。定款を変えるだけなので、来年の株主総会で決議すれば翌期からです。その場では誰も違和感を持たない。 違和感が出るのは三週間後、経理部長が予算編成の日程を引き直そうとして、次の一年が一年でないことに気づいたときである。決算期の変更で動くのは定款の一行ではない。変則期という、一度きりの決算が一つ生まれる。

POINT
決算期の変更は、手続としては驚くほど軽い。事業年度は商業登記の登記事項ではなく、会社法第911条第3項が列挙する株式会社の設立の登記の登記事項に事業年度も決算期も含まれていない。 定款の変更は会社法第466条により株主総会の決議によることとされ、定款の変更は同法第2編第6章に置かれているため、第309条第2項第11号の「第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会」に当たり、特別決議となる。税務は届出で足りる。法人税法第15条は、法人がその定款等に定める会計期間を変更した場合には、遅滞なく、その変更前の会計期間及び変更後の会計期間を納税地の所轄税務署長に届け出なければならないとするだけで、承認を要件としていない。 重いのは手続ではなく、期間のほうである。会社計算規則第59条第2項は、各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間について、当該期間は、一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができないと定める。 一年六箇月が許されるのは、末日を変更する場合の、変更後の最初の事業年度に限られる。そして税務はこの一年六箇月に付き合わない。法人税法第13条第1項のただし書は、これらの期間が一年を超える場合は、当該期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)をいう、とする。 会社法上は一つの事業年度として計算書類を作っても、法人税法上は二つの事業年度になり、申告は二回である。

決めるのは揃える先ではなく、変則期をどこに置くか

議論は「12月に揃えるか」から始まりやすいが、実際に決めているのは揃える先ではない。変則期を、縮める方向に作るか、伸ばす方向に作るかである。

3月決算の会社が12月決算に移るなら、変更の期の4月1日から同じ年の12月31日までの9か月が変則期になる。12か月未満の決算が一度だけ生まれる。 逆に12月決算の会社が3月決算に移るなら、1月1日から翌年3月31日までの15か月を一つの事業年度にできる。会社計算規則第59条第2項の一年六箇月という上限は、この伸ばす方向でだけ意味を持つ。

ただし伸ばす側には、先に触れた税務の分断がある。法人税法第13条第1項により、15か月の会計期間は、開始の日以後一年ごとに区分される。1月1日から12月31日までの12か月と、翌年1月1日から3月31日までの3か月の、二つの事業年度になる。 計算書類は一通、税務申告は二回。中間申告の要否も、この区分された各期間で判定する。 会社法の決算と税務の事業年度が一年だけ一致しない状態を、経理は一度だけ抱える。

縮める側は分断が起きない代わりに、比較可能性を失う。 9か月の期の売上高と営業利益は、前期の12か月と並べても意味がない。前年同期比も、予算の達成率も、一株当たり利益も、期間の長さに比例する指標はすべて読み替えが要る。そして読み替えを忘れるのは経理ではなく、数字を使う側である。

決算期の変更を定款の一行と見るか、一つの決算と見るかで、準備の範囲が変わる
BEFORE
定款の一行として決める
総会で決議し、税務署に届け出れば終わり。変則期は「短い期」として処理する
→
AFTER
変則期を一つの決算として設計する
変則期の開始前に、税の月数按分・社内制度・比較の土台の三つを決め切ってから決議に載せる
手続が軽いことと、影響が軽いことは別である。軽いからこそ、準備を飛ばしたまま決議まで進んでしまう。

月数で按分されるもの、されないもの

変則期に入ると、期間の長さで機械的に按分される制度が一斉に動く。問題は、按分されるものとされないものが混在していることである。

項目変則期での扱い根拠と限定条件
少額減価償却資産の損金算入の枠事業年度が一年に満たない場合に限り、 300万円を12で除し事業年度の月数を乗じた金額が上限になる。一年以上の期では300万円のまま増えない租税特別措置法第67条の5。中小企業者等に限られるため、大法人には最初から関係がない
中間申告の要否事業年度が6月を超える場合に提出義務。前事業年度基準額が10万円以下または金額がない場合は提出を要しない法人税法第71条第1項。変則期が6月以下なら中間申告そのものが生じない
翌期の予定申告額前事業年度の法人税額を前事業年度の月数で除し、中間期間の月数を乗じた金額法人税法第71条第1項第1号。月割りで平準化するため、変則期が切り取った季節性がそのまま翌期の納付額に出る
消費税の納税義務の判定基準期間が1年でない法人は、基準期間の課税売上高を基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数で除し、12を乗じて年換算消費税法第9条第2項第2号。免税点や簡易課税の判定で効く規定であり、課税売上高が大きい会社では判定結果が変わらない
前年同期比・予算達成率按分されない。読み替えは会社が自分で決める制度上の定めがない。だから放置される
賞与の算定期間・人事評価の期間按分されない。規程の定め方次第就業規則・賃金規程の側の問題として残る

表の下半分に制度の根拠がないことが、この変更の難所である。 上半分は条文を読めば答えが出る。下半分は、誰かが決めない限り誰も決めない。

予定申告額の挙動は、資金繰りに直に効くので一度だけ確かめておきたい。法人税法第71条第1項第1号は、前事業年度の法人税額を前事業年度の月数で除し、中間期間の月数を乗じると定める。 月割りなので、変則期の法人税額が期間に比例していれば、翌期の予定納付額は通常の年と変わらない。変わるのは、変則期が利益の厚い時期あるいは薄い時期を切り取ったときである。 3月決算の会社で期末の駆け込み需要が1月から3月に集中しているなら、4月から12月の変則期はその四半期を含まない。月割りに直した法人税額が小さくなり、翌期の予定納付額は軽くなる。確定申告で最後は合うが、納付の山が一年だけ後ろにずれる(13週キャッシュフロー予測の作り方、月次の資金繰り表では見えない月中の谷)。

連結の期ズレは消えるが、消える順番は子会社ごとに違う

親会社が決算期を動かす最大の動機は、連結の期ズレの解消である。ここで起きるのは、子会社を一社ずつ揃えていく作業の逆で、親が動いた瞬間に全子会社との関係が一斉に変わることである。

12月決算の子会社との期ズレは消える。同時に、これまで揃っていた3月決算の国内子会社との間に、新しく3か月の期ズレが生まれる。 国内子会社も12月に揃えるなら、子会社ごとに定款変更と届出が要り、それぞれの期に変則決算が発生する。国によっては、子会社の側で決算期を自由に選べない。所在国の会社法や会計法が会計年度を定めている場合、変更に現地当局の承認が要ることもあり、定款の変更と届出だけでは動かない(子会社の決算日が親会社と違うとき、決算期の統一と仮決算の比較)。

したがって、親会社の決算期変更は、子会社側の期ズレ対応と同じ会議で決めてはいけない。 先に親の変則期を確定させ、その後で子会社ごとに、揃えるか、仮決算で取り込むか、期ズレのまま残すかを決める。順番を逆にすると、子会社の対応方針が親の決議を待って止まる。

変更の期の連結では、取り込む子会社の期間が12か月と一致しない子会社が出る。差異期間の損益を連結損益計算書に含めるか、利益剰余金で直接調整するかは、変更を決める段階で監査法人と合意しておく。 変更の期の連結業績の見え方が変わるため、業績予想を出している会社では開示の側の準備も同時に要る(海外親会社・ファンド向け報告と自社決算の二重締め、基準差の読み替えを工程に組み込む)。

社内制度は、動かすものと据え置くものを先に仕分ける

変則期に巻き込まれる社内制度は、事業年度に紐づいているものすべてである。予算年度、中期経営計画の年度、賞与の算定期間、人事評価の期間、目標管理の期、そして36協定の起算日。

このうち36協定は、動かさないという判断があり得る。労働基準法第36条第2項第2号は、協定に定める対象期間を、この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする、と定めている。 一年間という限定はあるが、事業年度と一致させる義務はない。 4月1日起算のまま据え置けば、変則期をまたいでも協定は宙に浮かない(決算期の残業を36協定の特別条項の範囲に収める、締め業務の組み立て方)。

賞与の算定期間を事業年度に紐づけている会社は、ここで一度だけ判断が要る。9か月の変則期を一回分の算定期間として扱えば、月数按分で支給額が減る。据え置けば、次の期の算定期間が15か月になる。 どちらを選んでも規程の附則に書かないと、翌年の支給時に人事と経理で解釈が割れる(賞与引当金と社会保険料の月次計上、支給見込と料率改定の反映漏れを防ぐ手順)。

中期経営計画は、変則期を計画年度に数えるかどうかを取締役会で決める。数えないと決めれば、計画の最終年度が一年ずれる。数えると決めれば、9か月の実績を12か月の計画目標と比べることになる。 どちらも説明はつく。説明がつかないのは、決めないまま変則期を通過することである(中期経営計画の作り方、数字と施策をつなぎ初年度の形骸化を防ぐ)。

経理の人の配置も、変則期を避けて組む。年度決算の締めの途中に異動を置かないという原則は、変則期でも変わらない(経理の異動と着任時期は決算カレンダーから逆算し、期首一斉の入れ替えを避ける)。

日程は、変則期の開始日から逆算する

会社法は定款変更の決議の時期を定めていない。だが変則期が始まった後に決議すると、変則期の開始日をいつと見るかの整理が要る。決議は変則期の開始前に置く。

3月決算から12月決算へ移る場合の逆算(変則期を4月1日〜12月31日の9か月に置く例)
変則期の前々期のうちに、取締役会で方向と変則期の位置を決議監査法人・顧問税理士と、変則期の処理・監査日程・連結の差異期間の扱いを確認変則期の前期の定時株主総会で定款変更を特別決議(会社法第466条・第309条第2項第11号)。附則に変則期の始期と終期を明示遅滞なく所轄税務署へ届出(法人税法第15条)。都道府県・市町村への異動届も同時に変則期の初日(4月1日)から開始。予算・賞与・評価の読み替えは開始前に確定変則期の末日(12月31日)で終了。翌年3月に定時株主総会(基準日を定款で決算日としているなら会社法第124条第2項の三箇月以内に収まる)

定時株主総会の時期が動くことは、想像以上に多くの関係者に影響する。会社法第296条第1項は、定時株主総会は毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとし、第124条第2項は、基準日を定める場合に基準日株主が行使することができる権利を基準日から三箇月以内に行使するものに限ると定める。 決算日を基準日としている会社は、決算日が動けば総会も動く。招集通知、事業報告、監査の日程、株主名簿管理人の作業、そして会計監査人の要員の手当てが、すべて三か月前倒しになる。 監査法人の繁忙期がどこに来るかは、決議の前に相手に確かめておく論点である。

設例

売上高620億円の産業用機器メーカー。3月決算、連結子会社11社で、うち欧州2社、中国3社、米国1社の計6社が12月決算だった。海外売上比率は58パーセント。経営企画部の提案は「12月決算への統一」だったが、CFOは決議の前に三つを確定させた。 第一に、変則期を4月1日から12月31日までの9か月と置くこと。伸ばす方向は採らなかった。15か月にすると、法人税法第13条第1項により税務上は12か月と3か月の二つの事業年度に割れ、計算書類一通に対して申告が二回になる。移行期の混乱を一年で終わらせたかった。 第二に、月数按分で動く制度を洗い出した。少額減価償却資産の損金算入の特例は租税特別措置法第67条の5で中小企業者等に限られるため、この会社では最初から対象外であり、検討表から落とした。 中間申告は、変則期が9か月で6月を超えるため法人税法第71条第1項により発生する。ここで二段のキャッシュ事象が出た。 一段目は変則期そのものである。変則期の前事業年度は通常の12か月で法人税額は12億円、同条第1項第1号の月割りにより変則期の予定申告額は12億円を12で除して中間期間の6を乗じた6億円になる。 ところがこの会社は1月から3月に年間売上の約3割が立つため、その四半期を含まない9か月の変則期は法人税額が期間比例より小さく、試算では約6億円だった。中間納付の6億円で年税額をほぼ使い切り、変則期の確定申告での納付はゼロになる。変則期の法人税額が中間納付額を下回れば、その分は還付である。 二段目が翌期で、変則期の法人税額約6億円を前事業年度の月数9で除して6を乗じた4億円が予定申告額になる。通常の12か月の期で年12億円なら予定申告額は6億円だったから、こちらは2億円分だけ納付が後ろにずれる。 資金繰り表は、この二段を別々に引き直した。 グループ内の小規模な販売会社2社については、変則期を基準期間とする課税期間の納税義務の判定を、消費税法第9条第2項第2号の年換算で引き直している。第三に、社内制度を動かすものと据え置くものに仕分けた。 36協定は労働基準法第36条第2項第2号の対象期間が一年間に限られるだけで事業年度との一致は求められないため、4月1日起算のまま据え置いた。賞与は支給月を据え置き、変則期の算定期間を9か月と読み替えたうえで月数按分はしないことを賃金規程の附則に書いた。 中期経営計画は、変則期を計画年度に数えず、最終年度を変則期の翌々期に読み替えることを取締役会で決議した。前年比較については、社内の業績報告を期の累計から月次累計に切り替え、比較の土台を月数に揃えた。 定款変更は変則期が始まる前の定時株主総会で特別決議し、変則期の始期と終期を附則に明示したうえで、新しい事業年度の定めは変則期の翌期の初日から適用されることとした。 法人税法第15条に基づく届出は総会後すみやかに行っている。事業年度は登記事項ではないため、変更登記は発生していない。変更後、12月決算の6社との期ズレが消え、四半期ごとの内部取引の不一致の調整がなくなった一方、3月決算だった国内子会社3社との間に新しく3か月の期ズレが生まれ、こちらは以後の期に一社ずつ揃えることにした。 移行を一通り終えた後の社内の振り返りで、CFOはこう言っている。難しかったのは定款でも税務でもなく、9か月の期を何と比べるかを決めることだった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、変則期を縮める方向に作るか伸ばす方向に作るかを、揃える先より先に決める。 会社計算規則第59条第2項は、計算書類の作成に係る期間を一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができないとしており、一年六箇月が使えるのは末日を変更する期の変更後の最初の事業年度に限られる。そして法人税法第13条第1項のただし書により、会計期間が一年を超える場合はその開始の日以後一年ごとに区分した各期間が事業年度となるため、伸ばす方向では会社法上の一つの事業年度に対して税務申告が二回になる。 縮める方向にはこの分断がない代わりに、12か月未満の決算が一度だけ残る。

第二に、月数で按分される制度と、按分されない制度を分けて表にする。 按分されるのは、租税特別措置法第67条の5の少額減価償却資産の枠(事業年度が一年に満たない場合に限り300万円を12で除して月数を乗ずる。中小企業者等に限る)、法人税法第71条第1項第1号の予定申告額、消費税法第9条第2項第2号の基準期間の年換算(免税点や簡易課税の判定で効く)である。按分されないのは、前年同期比、予算達成率、賞与の算定期間、人事評価の期間、中期経営計画の年度で、制度の根拠がないため誰かが決めない限り決まらない。 予定申告額の月割りは二段で効く。変則期そのものの予定申告額は前事業年度(通常の12か月)の法人税額を12で除して中間期間の6を乗じた額で計算されるため、短い変則期では中間納付だけで年税額を使い切り、確定申告での納付がゼロ、あるいは還付になることがある。 その次の期は、変則期の法人税額を変則期の月数で除して6を乗じるので、変則期が切り取った季節性がそのまま納付額に出る。

第三に、決議は変則期の開始前に置き、社内制度の読み替えを開始前に確定させる。 事業年度は会社法第911条第3項の登記事項に含まれないため変更登記は要らず、定款変更は会社法第466条により株主総会の決議、同法第309条第2項第11号により特別決議、税務は法人税法第15条の届出で足りる。手続がこれだけ軽いからこそ、準備を飛ばしたまま決議まで進める。 決算日が動けば定時株主総会も動き、会社法第296条第1項と第124条第2項の枠の中で招集と監査の日程が前倒しになる。動かす制度と据え置く制度の仕分けは、決議の議案に添えて取締役会に出す。

まとめ

決算期の変更は、定款変更の特別決議と税務署への届出で済むほど手続が軽い。重いのは変則期で、決めるべきは揃える先より、期を縮めるか伸ばすかである。伸ばせば最長一年六箇月の決算が一つできる代わりに税務申告は二回に割れ、縮めれば12か月未満の決算が一度だけ残って前年との比較が効かなくなる。

前年同期比、賞与の算定期間、中期経営計画の年度には制度の定めがない。どう読み替えるかを変則期の開始前に決め、定款変更の決議もその前に置く。

関連記事