コベナンツに抵触してから銀行に行くと、選べる手は狭くなる。数字が固まった後の訪問は、相談というより結果の報告に近く、対応策を組み直す時間も残っていない。筆者は、条項までの余裕度を四半期ごとに測り、あらかじめ決めた幅を切った時点で会社のほうから話を持ち込む決まりを、社内に置くのがよいと考えている。この記事では、コベナンツの意味と種類を確かめたうえで、余裕度の測り方と点検の進め方を設例で示す。
- コベナンツは、借入契約や社債で借り手が貸し手に対して守ると約束する条件である。財務の数値を保つ約束を、財務制限条項と呼ぶ。
- 抵触は、期限の利益の喪失につながり得る。ただし喪失の条件と手続は契約が定めるもので、契約ごとに違う。
- 余裕度は四半期ごとに測る。筆者は、決めた幅を切った時点で銀行へ先に相談する決まりを置くのがよいと考えている。
コベナンツ(財務制限条項)とは
コベナンツとは、ローン契約や社債で、借り手の企業が貸し手に対して守ると約束する事項である。日本証券業協会の「コベナンツモデル(参考モデル)」は、債務者の債務履行能力の維持を図るために、社債要項やローン契約の内容として債務者に一定の誓約事項を課すものと説明している。このうち、純資産や利益といった財務の数値を一定の水準に保つ約束が、財務制限条項である。実務ではコベナンツという語を財務制限条項の意味で使う場面もあるが、コベナンツのほうが範囲は広い。
種類と例
同協会のモデルは、社債のコベナンツを、一定の行為を規制するものと、定期的に財務指標を確認するものに分類し、これらを補うものとして報告の義務を挙げている。融資でも並びは近い。みずほ銀行は、シンジケートローン契約の特約条項として一般的なものに、確約条項(報告・情報提供義務等)、担保制限条項、資産譲渡制限条項、財務制限条項、格付維持条項、事業維持条項などを挙げている。
財務制限条項の主な種類と、判定の式の例、点検の時期を表にまとめた。式の例は日本証券業協会のモデルの文例によるもので、水準や期数は契約ごとに決まる。
| 条項の種類 | 判定の式の例 | 点検の時期 | 先に動く数字 |
|---|---|---|---|
| 純資産額の維持 | 各事業年度末の連結貸借対照表の純資産合計を、決めた金額以上に維持する | 判定日は年度末。社内では四半期ごと | 減損の兆候、繰延税金資産の見直し、配当 |
| 自己資本比率の維持 | 純資産合計が負債純資産合計の決めた割合を下回らない | 年度末。半期や四半期の貸借対照表で判定する形もある | 借入の増加、総資産を増やす取引 |
| 利益の維持 | 経常損益(または営業損益)が、決めた期数にわたって連続して損失にならない | 年度末。社内では四半期の着地見込みで | 四半期ごとの経常損益の見込み |
| 有利子負債とEBITDAの倍率の維持 | 有利子負債をEBITDAで割った倍率を、決めた水準以下に保つ | 年度末。半期や四半期の数値で判定する形もある | 設備投資の時期、EBITDAの月次の推移 |
| 格付の維持 | 指定した信用格付業者の格付を、決めた水準以上に保つ | 格付の見直しのつど | 格付業者との対話、見通しの変更 |
融資契約の例も見ておく。日本ローン債権市場協会が公表しているタームローン契約書のひな型は、借入人の確約として、決算書類の提出、担保提供の制限、事業の維持、組織再編や資産譲渡の制限を並べている。そのうえで、選んで入れる規定として、純資産の部の金額の維持、格付の維持、これらの遵守状況を確かめる書面の提出を用意している。純資産の規定の例は、判定日が「各年度の決算期及び中間期の末日」、対象が連結と単体の両方という書き方である。判定日と対象は、自社の契約書で確かめる。
借り手と貸し手にとっての意味
貸し手の金融機関にとって、コベナンツは借り手の財務の悪化を早く知り、返済の確実さを高める手段である。日本証券業協会のモデルも、企業の規律が保たれ、債権回収の確実性が高まることが期待されると説明している。一方で同じモデルは、過重な財務維持コベナンツは発行者の活動に過度な制約をかけ、資金調達の効果を損なう要因になりかねないとも述べている。借り手にとっては事業の制約にもなる約束なので、契約のときに、自社の業績の振れ幅で守れる水準かを確かめたい。
抵触すると何が起きるか
抵触したときの扱いは、契約によって違う。契約のひな型と法令から順に確かめる。
期限の利益の喪失は契約が定める
期限の利益とは、返済期限まで返さなくてよいという借り手の利益である。民法第137条は、債務者が期限の利益を主張できなくなる場合として、破産手続開始の決定を受けたとき、担保を滅失・損傷・減少させたとき、担保を供する義務を負うのに供しないとき、の3つを定めている。財務制限条項への違反は、この3つに含まれていない。違反で期限の利益を失うのは、契約がそう定めているからである。
契約の定め方は一通りではない。日本証券業協会のモデルは、コベナンツに抵触した場合には、一般に、その債務の期限の利益の喪失が生じると説明している。そのうえで規定例として、事由が生じると自動的に失う当然喪失と、債権者からの書面による請求を経て失う請求喪失を示し、国内で発行される社債では当然喪失が現在最も一般的な方式だとしている。日本ローン債権市場協会のタームローン契約書のひな型では、借入人の契約上の義務違反は、多数貸付人の請求に基づくエージェントの通知によって期限の利益を失う事由に置かれている。義務違反が解消可能なものである場合に、一定の営業日以上にわたって解消しないときに限るという書き方も入っている。
ひな型には、影響がほかの契約へ広がる定めもある。クロスデフォルトと呼ばれる条項で、借入人がほかの債務について期限の利益を喪失したときと、借入人が発行する社債について期限の利益を喪失したときが、同じく請求による喪失の事由に挙げられている。ほかの債務については、金額の下限を置く書き方も用意されている。コミットメントライン契約書のひな型では、借入人が契約の各条項に違反していないことが、貸付を実行する前提条件の1つになっている。条項に違反すると、融資枠があっても新たに借りられないおそれがある。
決算と開示への影響
抵触は、決算書の表示と注記にも関わる。財務諸表等規則は、「その他の負債で一年内に支払又は返済されると認められるもの」を流動負債とし、「一年内」を貸借対照表日の翌日から起算して1年以内の日と定めている(第47条第6号、第8条第1項)。期限の利益を失った長期借入金は、この定めに照らして流動負債に移る。抵触したものの貸し手から請求を受けていない借入金や、期末後に猶予を得た借入金をどう分類するかは、契約の定めと猶予の内容によるので、筆者は期末の前に監査人と協議しておくことを勧める。
継続企業の前提に関する注記にもつながる。同規則第8条の27は、貸借対照表日に継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在し、それを解消し又は改善するための対応をしてもなお重要な不確実性が認められるときに、その内容や対応策などの注記を求めている。注記の要否の考え方は継続企業の前提に関する注記の要否と、期末前に書面で揃える対応策の裏付けで扱った。
有価証券報告書を提出する会社には、開示の定めもある。2023年12月22日に、企業内容等の開示に関する内閣府令を改正する内閣府令が公布された。財務上の特約が付いたローン契約や社債で、残高が連結純資産額の10%以上のもの(同種の契約と社債は合算する)は、契約または社債の概要と特約の内容を有価証券報告書に記載する。元本または発行額の総額が連結純資産額の10%以上の契約を結んだとき、または社債を発行したときと、その特約に変更があったとき、特約に抵触したときは、臨時報告書を提出する。有価証券報告書への記載は2025年3月31日以後に終了する事業年度から、臨時報告書は2025年4月1日以後に提出するものから適用されており、施行日前に結んだ契約には経過措置がある。抵触は、投資家にも開示される出来事になった。
余裕度の測り方
余裕度とは、いまの数値が条項の水準まであとどれだけ離れているかである。測る前に、契約書から条項を抜き出して台帳にしておく。契約書をそのつど読み直す運用では、四半期ごとの点検が続かないおそれがある。
台帳に持たせる項目は6つある。
- 判定の式。純資産額の維持なら、何の金額を、いくら以上に保つのか。
- 判定日。年度末だけか、中間期末や四半期末も含むか。
- 判定に使う数値の定義。連結か単体か。純資産に新株予約権や非支配株主持分を含むか。EBITDAに何を足し戻すか。
- 猶予の期間の有無。抵触しても一定の期間内に解消すれば喪失の事由にしない、という定めがあるか。
- ほかの借入へ広がる条項の有無と範囲。対象になる債務の金額の下限も写す。
- 対象の契約の残高と返済の予定。融資枠の契約も含める。
定義が契約書に書かれていない語があれば、どう読むかを貸し手と先に合わせておく。期末になって解釈が分かれると、数字を直す時間がない。
台帳ができたら、四半期の実績と着地見込みを式に当てる。余裕は金額と期間の両方で出す。筆者は、金額だけでは聞き手が大小を判断しにくく、次の式で「あと何四半期」に直すと経営会議で議論しやすくなると考えている。
設例で確かめる。基準年度末の連結純資産が200億円で、条項が「各年度末の連結純資産を基準年度末の75%以上に維持する」会社を考える。条項の水準は150億円である。
| 時点 | 連結純資産 | 条項の水準 | 余裕額 | 四半期の減少額 | 余裕度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前期末 | 176億円 | 150億円 | 26億円 | 該当なし | 該当なし |
| 第1四半期末 | 172億円 | 150億円 | 22億円 | 4億円 | 5.5四半期 |
| 第2四半期末 | 168億円 | 150億円 | 18億円 | 4億円 | 4.5四半期 |
| 第3四半期末 | 164億円 | 150億円 | 14億円 | 4億円 | 3.5四半期 |
第3四半期末の余裕額は14億円で、期間に直すと3.5四半期である。この会社の条項は判定日が年度末だけなので、同じ速さで減るなら、当期末は160億円で条項を満たし、翌期末は144億円で下回る計算になる。動ける時間は、次の判定日までではなく、その次の判定日までの1年余りだと分かる。
ここで、社内の幅を決めておく。この設例では「余裕度が4四半期を下回ったら、銀行への相談を始める」と置く。第1四半期末の5.5四半期と第2四半期末の4.5四半期は該当せず、第3四半期末の3.5四半期で該当する。幅を何四半期にするかは、対応策の実行にかかる期間から逆算する。
利益の維持の条項は、測り方が違う。「連続して損失にならない」という型では、1期目の損失が確定した時点で、残りの余裕は期数で数えるしかない。1期目の損失が見えた四半期に、翌期の見通しと打ち手を合わせて点検する。
四半期ごとの点検の進め方
点検は、決算の手続に組み込む。臨時の作業にしておくと、必要になった四半期に準備の時間が足りなくなるおそれがある。
筆者は、点検で抜けやすいのは純資産を動かす出来事との連動だと見ている。減損損失は、純資産額の維持の条項に直接効く。減損の兆候の判定は経理が、コベナンツの管理は財務が受け持つ分担では、両者が顔を合わせるのが数字の固まった後になるおそれがある。そこで、決算の手続に「減損の兆候を認識したら、その四半期のうちに財務へコベナンツの再計算を依頼する」と書いておくことを勧める。兆候の認識は損失の計上より前の工程にあるので、対応に使える時間が延びる。兆候の判定の進め方は固定資産の減損は資産グルーピングで結論が変わる、兆候判定を期末に持ち込まないで扱った。
先ほどの設例に当てはめる。第3四半期に海外子会社の資産について減損の兆候を認識し、損失の見込みを8億円から14億円と置いたとする。当期末の純資産は、減損がなければ160億円、8億円なら152億円、14億円なら146億円になる。見込みの上限では、当期末に条項の水準150億円を下回る。兆候を認識した四半期に再計算していれば、期末までの1四半期を銀行との相談に使える。
同じ扱いにするものが、ほかにもある。繰延税金資産の回収可能性の見直し、多額の引当金の計上、為替の変動による評価差額、配当と自己株式の取得である。どれも純資産を動かすので、議案には条項への影響を1行添えて取締役会に出す。
行為を制限するコベナンツも、点検の対象に入れる。純資産を回復させるために遊休の資産を売る案が、資産の処分を制限する条項に触れることがある。借入の組み方そのものを見直す場合の考え方は借入は金額より組み方が効く、固定と変動の比率と返済期限の分散にまとめた。格付の維持の条項がある会社は、信用格付けの取得と維持、格付後に縛られる財務指標と格下げ兆候の点検の点検項目も合わせて見る。
抵触しそうなときの対応
余裕度が決めた幅を下回ったら、数字が固まる前に、会社のほうから銀行へ話を持ち込む。早く行く意味は、時間があるうちでないと作れない材料があることにある。
持ち込むときにそろえる材料は4つある。
- 抵触を見込む根拠。着地見込みの前提(売上、原価、一時的な費用の内訳)を示す。前提が粗いと、話が見込みの妥当性に戻ってしまう。
- 原因の分解。一時的な要因と、事業の構造による要因を分ける。減損のような一時的な損失が主因で、営業キャッシュ・フローが保たれているなら、返済能力の説明がしやすい。
- 対応策。資産の売却、増資、費用の削減、親会社の支援などを、実行できる見込みと時期を添えて並べる。
- 求めるもの。権利行使の猶予か、条項の水準や判定の方法の変更か、判定日の変更か、返済期間の延長か。
求めるものには呼び名がある。一般には、条項の適用を免除してもらうことをウェイブ(ウェーバー)、契約の内容を変更することをアメンドと呼ぶ。日本証券業協会のモデルもこの2つの語を使っており、社債について、コベナンツに抵触しても発行者が事業を継続し存続可能な場合があることを念頭に、抵触から期限の利益喪失の事由が成立するまでに一定の猶予期間を規定しておくなどの対応が考えられるとしている。日本ローン債権市場協会のひな型は、貸付人の意思結集の条項を置いている。
あわせて、会社から差し出せるものを先に決めておく。追加の担保、配当の抑制、報告の頻度の追加、設備投資の上限の設定などである。金利などの条件の見直しを貸し手から求められることも想定し、受けられる範囲を社内で話し合っておく。
銀行との対話に向けた数字の準備は、銀行交渉の準備、CFOが事前に固める数字と金利・コベナンツの論点で詳しく扱った。
新リース会計基準の影響
業績が変わらなくても、会計基準の変更で条項の数値が動くことがある。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、2027年4月1日以後に開始する連結会計年度と事業年度の期首から適用される。2025年4月1日以後に開始する年度の期首からの早期適用もできる(第58項)。借手は、リース開始日にリース負債と使用権資産を計上する(第33項)。
これまで賃借料として費用にしていた契約が資産と負債に載ると、総資産と負債が増える。自己資本比率の維持の条項では、純資産が同じでも比率が下がる。有利子負債とEBITDAの倍率の条項では、契約の定義によって結果が分かれる。有利子負債の定義にリース負債を含むのか、判定に使う会計基準を契約時点のものに固定する定めがあるのかを、借入契約書の定義条項で確かめる。
台帳の3番目の項目「判定に使う数値の定義」に、この2点を足しておく。適用の前に影響を概算し、条項に触れるおそれがあれば、適用後の判定日を待たずに貸し手へ読み替えを相談する。概算の方法と指標の動きは、新リース会計基準の影響、借手が契約の洗い出しより先に見る財務指標に設例で示した。
よくある質問
コベナンツとは何か
コベナンツとは、ローン契約や社債で、借り手の企業が貸し手に対して守ると約束する事項である。決算書などを報告する約束、担保の提供や資産の処分といった行為を制限する約束、純資産や利益などの財務の数値を一定の水準に保つ約束がある。このうち数値を保つ約束を財務制限条項と呼ぶ。
コベナンツに抵触したらどうなるか
契約によって違う。民法が定める期限の利益の喪失の事由に財務制限条項への違反は含まれておらず、違反したときの扱いは契約が定める。事由が生じると自動的に期限の利益を失う定めもあれば、貸し手の請求を経て失う定めもある。ほかの借入へ影響が広がる条項や、融資枠から借りられなくなる条項が付いていることもある。ペナルティの中身は一般論では決まらないので、自社の契約書で確かめる。
コベナンツの開示は必要か
有価証券報告書を提出する会社は、財務上の特約が付いたローン契約や社債の残高が連結純資産額の10%以上の場合に、契約の概要と特約の内容を有価証券報告書に記載する。元本または発行額の総額が連結純資産額の10%以上の契約を結んだときや社債を発行したとき、特約を変更したとき、特約に抵触したときは、臨時報告書を提出する。抵触によって継続企業の前提に重要な不確実性が認められる場合は、財務諸表への注記も必要になる。
どんな条項が多いか
公表されている資料が挙げている条項は次のとおりである。みずほ銀行は、シンジケートローン契約の一般的なコベナンツとして、確約条項、担保制限条項、資産譲渡制限条項、財務制限条項、格付維持条項、事業維持条項などを挙げている。日本証券業協会のモデルは、財務の数値を保つ条項として、純資産額の維持、自己資本比率の維持、利益の維持、有利子負債とEBITDAの倍率の維持などを例示している。
- コベナンツは、借入契約や社債で借り手が守ると約束する条件である。財務の数値を保つ約束が財務制限条項で、抵触したときの扱いは契約が定める。
- 条項を台帳に写し、四半期ごとに余裕額と余裕度(あと何四半期)を測る。減損の兆候を認識した四半期には再計算する。
- 筆者は、余裕度が決めた幅を下回った時点で、根拠、原因の分解、対応策、求めるものをそろえて銀行へ先に相談する決まりを置くのがよいと考えている。
次に読むなら、銀行に持ち込む数字の準備をまとめた銀行交渉の準備、CFOが事前に固める数字と金利・コベナンツの論点を勧める。



