第3四半期の経営会議。9か月累計の営業利益は15.2億円で、計画の18億円に2.8億円届いていない。 経営企画部のFP&A担当が、売上の未達で1.1億円と説明する。続いて経理部長が、賞与引当金の積み増しで0.9億円、在庫の評価損で0.8億円と補足する。 社長が聞く。それで、通期はいくらで着地するのか。FP&Aの着地見込みには、評価損が下期も続くという前提は入っていない。 経理部長は、評価損の基準を当てはめるのは決算の仕事で、予測は自分の担当ではないと考えている。FP&Aは、引当の水準は経理が決めることで、自分からは見えないと考えている。 二人とも、自分の仕事はしている。2.8億円の中身を一つの説明にまとめられる人が、会議室にいない。
分けた会社で宙に浮くのは、二つの判断である
経理部長の仕事は、締めの数字を正しく、期限どおりに作ることである。FP&Aの仕事は、予算と着地見込みを作り、差異を経営に説明することである。 この分担で両方が真面目に働いても、次の二つは誰の机にも載らない。
第一に、実績の意味づけ。 今期の数字のうち、どれが一過性で、どれが来期も続く実力か。冒頭の在庫評価損0.8億円は、一度きりの在庫の整理なのか、製品の陳腐化が始まった兆候なのか。経理部長は、評価損を基準どおりに計上した時点で仕事を終えている。 FP&Aは、評価損がなぜ出たのかを、品目の滞留の記録から読む立場にない。意味づけのない実績は、着地見込みに正しく入らない。
第二に、見積りの水準。 賞与引当、製品保証引当、貸倒引当、在庫の評価損、減損の兆候の判定。前提の多くは事業部から来て、水準は経理が決める(引当金の見積りの責任分担、前提は事業部・水準は経理・承認は経営)。その水準を動かすと、着地見込みが直接動く。 経理部長が期末に保証引当の率を上げると決めた日、FP&Aが経営に出した着地見込みは、その分だけ古くなる。
FP&Aと経理の境界を、誰がどのデータを持つかで線引きする考え方がある(FP&Aの役割と組織、経理・経営企画との境界を実務から引く)。線は引ける。だが線の上に落ちる判断は、線を引いただけでは誰のものにもならない。 冒頭の会議で誰も通期の数字を言えなかったのは、線が引かれていなかったからではなく、線の上に置かれた二つの判断に持ち主がいなかったからである。
見積りの水準を、予算を背負う人に預けない
持ち主のいない判断を片付けようとすると、多くの会社は既存の二人のどちらかに寄せる。どちらに寄せても、別の問題が出る。
FP&Aに寄せる場合。 着地見込みを作る人が引当の水準も決めれば、見込みと水準は食い違わなくなる。代わりに、着地見込みを守るために水準を動かす余地が、同じ人の手元に生まれる。 上期に計画を下回った事業部の着地を、下期の賞与引当の水準で埋め合わせる。監査基準報告書540のA17が書いているのは、まさにこの動機である。予算を人事評価に紐づけている会社では、なおさらである(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。
経理部長に寄せる場合。 見積りの水準と着地見込みの両方を経理部長が持てば、偏向の問題は小さい。だが経理部長の手元には、事業の情報が入ってこない。 受注の見通し、値引きの交渉、新製品の不具合の件数は、事業部とFP&Aの間で流れている。締めの繁忙の中で、これを読みにいく時間もない。着地見込みの質が落ちる。
どちらにも寄せられない判断を持たせる役職が、コントローラーである。持たせるのは、数字の正しさと、その数字の経営への説明の両方である。 そして、持たせないものをはっきりさせる。予算の配分と、事業部の目標の設定である。 ここでいうコントローラーは、全社の見積りの水準を決める本社の役である。事業部に入り込んで予算編成を担い、事業のPLに当事者として責任を負う事業部コントローラー(経理から事業部門への異動を片道にしない、戻り口と送り出す人の見極め)とは、名前は同じでも別の役として扱う。数字の意味を決める人を、数字の目標を決める場から外しておく。これが、A17の動機を組織の形で遠ざける方法である。
決裁表に、持たせる項目と持たせない項目を書く
コントローラーを置いても、決裁権限規程が変わらなければ、実際の決定は元の場所に残る。役職を作る前に、項目ごとに誰が決めるかを表にする。
| 決裁の項目 | 経理部長 | FP&A | コントローラー | CFO |
|---|---|---|---|---|
| 仕訳の計上と月次の締め | 決定 | 関与しない | 重要な仕訳を確認 | 関与しない |
| 引当・評価損・減損の兆候など見積りの水準 | 算定 | 事業の前提の変化を伝える | 決定 | 承認 |
| 月次の経営報告に載せる実績と、一過性項目の区分 | 材料を出す | 説明資料を作る | 確定 | 報告を受ける |
| 管理会計と財務会計の差の照合表 | 財務会計の側を出す | 管理会計の側を出す | 作成と確定 | 報告を受ける |
| 着地見込み | 見積りの予定を伝える | 作成 | 見積りの反映を確認 | 承認 |
| 予算の配分と事業部の目標 | 関与しない | 作成 | 関与しない | 承認 |
表の中で重いのは、三行目と四行目である。一過性項目の区分を誰が確定するかが決まっていないと、事業部は都合の悪い費用を一過性と呼び、FP&Aはそれを説明資料にそのまま載せる。 管理会計と財務会計の差の照合表も同じで、社内為替レート、本社費の配賦、事業部間の取引、管理会計だけで除いている項目を、財務会計の営業利益までつなげる表の持ち主がいない会社は多い。組織改編のたびに、この表は壊れる(組織改編で管理会計の過去実績が比較できなくなる問題、遡及組替の範囲の決め方)。
逆に、最下行でコントローラーを外していることにも意味がある。予算の配分に関与しないから、見積りの水準を決めるときに、特定の事業部の予算の都合を考えずに済む。
経理部長の上か、横か
コントローラーをどこに置くかは、会社によって答えが違う。判断の材料は、見積りの判断の重さと、管理会計と財務会計の離れ具合の二つである。
見積りの判断の重さは、引当・評価損・受注損失・減損の兆候といった見積りの項目が、前期からどれだけ動いたかを営業利益と比べて測る。基準で決まった数字はないが、筆者の目安では、見積りの項目の前期からの変動額の合計が営業利益の1割を超える年が続くなら重いと考えてよい。在庫と製品保証と長期の工事を抱える製造業や、与信の大きい商社では、たいてい重くなる。
管理会計と財務会計の離れ具合は、照合表の調整項目の数で測る。社内為替レート、本社費の配賦、事業部間の取引の価格、管理会計だけで除いている一過性の項目。調整項目が数個で、どれも毎月同じ計算で出るなら近い。 事業部の数が多く、組織改編のたびに配賦の基準が変わる会社は、離れている。
上に置く場合、コントローラーはCFOの直下に入り、経理部長とFP&Aの双方を配下に持つ。監査法人の見積りに関する協議の窓口もコントローラーに移る。横に置く場合は、経理部長と同じ階層で、照合表と実績の区分の確定だけを持たせる。この形は、見積りの水準の決定を経理部長に残すので、表の二行目は経理部長の決定に書き換える。どちらの場合も、CFOへの報告の線は一本にしておく。 二人が別々にCFOに数字を持っていく形に戻ると、冒頭の会議が再現される。
置いても効かない、三つの形
コントローラーを置いた会社で、一年後に何も変わっていないことがある。原因は、たいてい次の三つのどれかである。
一つ目は、肩書だけの設置。 規程に見積りの水準の項目がなく、実際の決定は経理部長に残ったまま、コントローラーは経営会議で説明を担当している。説明だけを持つ人は、説明の中身を変えられない。 前の節の表を規程に写すところまでが、設置である。
二つ目は、予算の取りまとめまで背負わせる形。 数字に強い人がいるならと、予算編成の事務局も兼ねさせる。事業部の予算の数字を積み上げた人が、同じ事業部の引当の水準を決めることになる。 A17の動機が、組織図の上で一人に戻る。
三つ目は、事業部ごとにコントローラーを置き、その評価を事業部長に書かせる形。 事業部コントローラーは事業の数字を守る役として有効だが(経理から事業部門への異動を片道にしない、戻り口と送り出す人の見極め)、評価表を書く人が事業部長なら、見積りの前提を事業部長に不利な方向へは動かしにくい。 事業部に置く場合も、評価と任免の最終権限は本社のコントローラーかCFOに置く。線の向きより評価表を書く人が効くのは、海外子会社の経理と同じ構造である(海外子会社の経理は誰の部下か、現地社長と本社CFOのレポーティングライン)。
誰を任命するかも、この三つの裏返しから考えられる。見積りの論点で監査法人と協議した経験と、事業部の数字を経営に説明した経験の両方を持つ人である。 片方しかない人を置くなら、足りない側を補う相手を、FP&Aか経理部長の中に名指しで決めておく。
売上高960億円の産業機械メーカー(3月決算)。五年前、経営企画部の中にFP&Aの課を作り、予算と着地見込みを経理部から移した。 経理部は、締めと開示と監査対応に専念する形になった。三年目の期末、経理部長は決算の最終週に、製品保証引当金の率を売上高の1.2パーセントから1.6パーセントに上げると決めた。 海外に出荷した新型機の保証修理が、想定を上回っていたためである。引当の追加は約3.8億円で、FP&Aが二週間前に経営会議へ出した着地見込みには入っていなかった。 率を上げる材料になった修理件数の増加は、第3四半期にはサービス部門の月報に出ていた。月報を読んでいたのはFP&Aで、率を決めるのは経理部長だった。 翌期、CFOは直下にコントローラーを置き、経理部とFP&A課の双方をその下に入れた。見積りの対象は製品保証、在庫の評価損、受注損失、貸倒の四つで、前期からの変動額の合計は営業利益の約14パーセントに当たっていた。 事業部別の管理会計には社内為替レートと本社費の配賦があり、財務会計との照合表の調整項目は11あった。決裁権限規程には三つの項目を足した。 見積りの水準はコントローラーが決定しCFOが承認する。月次の経営報告の実績と一過性項目の区分はコントローラーが確定する。着地見込みはFP&Aが作成し、コントローラーが見積りの反映を確認してからCFOに上げる。あわせて、予算の配分と事業部の目標にはコントローラーを関与させないことも書いた。 任命したのは経理部の課長で、監査法人との見積りの協議を六年担当し、その前の二年間は事業部で原価管理をしていた。運用を始めた期の第2四半期、コントローラーはサービス部門の月報から保証修理の件数の増加を拾い、率の見直しを四半期の見積りの検討に載せた。 期首に1.6パーセントで置いていた率は、第3四半期に1.8パーセントへ改定され、その時点の着地見込みに反映された。期末の最終週に保証引当の率を動かす議論は、この期は起きていない。 通期の業績予想の修正も、決算発表の直前ではなく、第3四半期決算の発表と同時に行っている。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、経理とFP&Aを分けたなら、二人の間に落ちる二つの判断の持ち主を名指しで決める。 今期の実績のうち何が一過性で何が実力かという意味づけと、引当・評価損・減損の兆候といった見積りの水準である。米国のForm 10-Kは一般的指示D(2)(a)でコントローラー又は主たる会計役員の署名を求めているが、日本の確認書と内部統制報告書の様式にあるのは、代表者と、会社が定めている場合の最高財務責任者の欄だけである。 CFOの下でこの二つを束ねる役は、制度が用意してくれない。自社で設計する。
第二に、見積りの水準を決める人を、予算の配分と目標から切り離す。 監査基準報告書540の適用指針A17は、望ましい利益目標や自己資本比率を達成しようとする動機から、意図的であるか否かを問わず経営者の偏向の影響を受ける可能性をもたらすとしている。FP&Aに寄せれば着地のために水準を動かす余地が生まれ、経理部長に寄せれば事業の情報が届かない。 コントローラーには数字の正しさと説明を持たせ、予算の配分と事業部の目標には関与させない。見積りの水準、実績と一過性項目の区分、管理会計と財務会計の照合表、着地見込みへの見積りの反映の確認を、決裁権限規程の項目として書く。
第三に、経理部長の上に置くか横に置くかを、見積りの判断の重さと、管理会計と財務会計の離れ具合で決める。 筆者の目安として、見積りの前期からの変動額が営業利益の1割を超える年が続き、照合表の調整項目が多いなら、CFO直下で経理部長とFP&Aの上に置く。見積りが軽く管理会計だけが離れているなら横に置き、見積りだけが重いなら役職を作らず経理部長に決裁を足す。 どの形でも、肩書だけの設置、予算事務局との兼務、事業部長による評価の三つを避ける。CFOへの数字の報告の線は、一本にする。
経理とFP&Aを分けた会社では、何が一過性で何が実力かという実績の意味づけと、引当や評価損の水準が、誰の机にも載らない。この二つをコントローラーに持たせ、予算の配分と事業部の目標からは切り離す。利益目標を背負う人が見積りの水準を決めると、偏向の動機が同じ人の手元に生まれるからだ。
役職名を決める前に、決裁権限規程で二点を確かめる。
- 見積りの水準の決定と一過性項目の区分の確定を、誰の決裁として書いているか
- 見積りの前期からの変動額が営業利益の1割を超える年が続いていないか(筆者の目安。続き、照合表の調整項目も多いなら経理部長の上に置く)
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