2月の半ば、第3四半期までの累計が出た後の役員会。当期の経常利益は計画を8億円上回る着地になりそうだと報告すると、社長が言う。 今期はみんなよく頑張った。役員に賞与を出して、税金も少し抑えられないか。経理部長は、その場で答えられなかった。役員賞与の損金算入には届出が要ることは知っていたが、今からでも間に合う方法があるのかどうか、手元に整理がなかったからである。 結論から言えば、2月に思い立った役員賞与を当期の損金にする方法は、原則としてない。役員報酬で当期の利益を動かせる窓は、期の初めの数か月でほぼ閉じている。
2月に思い立った役員賞与は、原則として当期の損金にならない
冒頭の相談に当てはめる。2月に決めた役員賞与は、定期同額給与ではない。 事前確定届出給与としても、届出の期限は期首から4か月、3月決算なら7月末を過ぎている。業績連動給与は、同族会社である以上使えない。 三つのどれにも当たらないので、支給すれば損金不算入になる。第34条第1項が対象から外している使用人兼務役員の使用人分の賞与は、他の使用人と同じ時期に払うなどの要件を満たせば損金にできるが、社長が考えている役員賞与とは別の話である。
損金不算入の賞与が重いのは、税が二度かかるからである。会社の側では、法人の実効税率を約30%とすれば、5,000万円の役員賞与につき1,500万円分、損金にできた場合より法人税等が多くなる。 受け取った役員の側では、給与所得として所得税と住民税がかかる。税を抑えたいという社長の意図とは逆の結果になる。
期末に動かせるものがないわけではない。従業員の決算賞与は、法人税法施行令第72条の3により、支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての従業員に通知し、通知日の属する事業年度に損金経理をして、通知日から1か月以内に支払えば、未払いのまま当期の損金になる。 業績の還元を当期の決算で行いたいなら、対象は従業員であって役員ではない(税務申告と決算をつなぐ期中の分担、申告調整を期末に慌てて作らない)。
期中の改定は、増やしても減らしても差額が問題になる
報酬の月額を期中に変える場合も、窓は狭い。期首から3か月を過ぎた後の増額は、臨時改定事由がなければ、増額した部分が定期同額給与に当たらなくなる。 業績が良いから月額を上げる、という理由は臨時改定事由ではない。臨時改定事由は、役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情に限られる。
減額も同じである。業績悪化改定事由について、法人税基本通達9-2-13は、経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由とは、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけでなく、株主、債権者、取引先等との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていることをいうとしている。 一方で、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどは含まれないとも書いている。計画未達の見込みが出たから役員報酬を下げる、という判断は、この事由に当たらないことがある。 減額するなら、取引銀行との協議の記録や、経営改善計画の策定といった、減額せざるを得なかった事情を書面で残しておく。
事前確定届出給与は、満額か不支給かの二択になる
役員に賞与を払いたい会社が使う道は、事前確定届出給与である。総会等で、いつ、誰に、いくら払うかを確定させ、期限までに届け出て、そのとおりに払う。 届け出た額と実際の支給額が異なれば、原則として、差額ではなく支給額の全額が損金不算入になる。
この性質が、業績との関係を難しくする。届出の時点で額を確定させるので、期中の業績で額を増減できない。 業績が落ちたから届出額の半分だけ払うと、払った半分も損金にならない。業績悪化改定事由や臨時改定事由に当たる場合は変更の届出ができるが、単なる業績の下振れでは使えない。実務上、事前確定届出給与は、届出どおり満額を払うか、まったく払わないかの二択として設計しておく。 業績を報酬に反映させたいなら、当期の業績は翌期の定期同額給与と事前確定届出給与の水準で反映させる、つまり一年ずらして効かせるしかない。
会社法の手続も期限に効いてくる。会社法第361条は、取締役の報酬等を定款または株主総会の決議で定めることとしており、 多くの会社は総会で報酬の総額の上限を決め、個人別の額を取締役会で決める。上場会社など一定の会社では、同条第7項により、取締役会が個人別の報酬等の内容についての決定方針を定める。総会で上限を変えないと出せない額なら、総会の議案を固める4月から5月までに、翌期の報酬の水準が決まっていなければならない(会社法決算のスケジュールの組み方、計算書類・監査報告・株主総会から逆算する)。
総会の日から逆算して、決議と届出の日付を引く
3月決算で、定時株主総会を6月26日に開く会社を例に引くと、日付は次のように決まる。定期同額給与の改定は6月30日までに決議する。 総会と同日の取締役会で個人別の額を決め、7月支給分から新しい額にするのが通常の形である。事前確定届出給与の届出は、総会の日から1か月を経過する7月26日と、期首から4か月を経過する7月31日のうち早い7月26日までとなる。
起案を1月から2月に置くのは、期末の決算作業が始まると経理に時間が残らないからである。 3月決算の会社では、4月から5月は決算と監査と開示で埋まる。総会の議案の締切から逆算すれば、報酬の水準の議論はその前に終わっていなければならない。第3四半期の実績が出た段階で、翌期の水準を決めるには十分な材料が揃っている。
業績は一年遅れで報酬に効かせる規程にする
同族会社が業績を役員報酬に反映させる道は、翌期の水準に効かせることしかない。それなら、その効かせ方を規程にしておけば、毎年の議論は計算の確認だけになる。 例えば、当期の経常利益の計画比の達成率に応じて、翌期の事前確定届出給与の額を役員別の基準額の0倍から1.5倍の範囲で決める、という算式を役員報酬規程に書き、取締役会で承認しておく。
この算式そのものは、税務上の業績連動給与ではない。算式で決まるのは翌期の届出額であって、翌期の支給額は届出の時点で確定している。 翌期の支給は当期の業績から計算した確定額であり、事前確定届出給与として届け出ることができる。役員にとっては、当期の業績が一年遅れで報酬に返ってくる仕組みになる。
算式を規程にしておくと、社長が期末に役員賞与を言い出す理由そのものがなくなる。 当期の頑張りは翌期の届出額に反映されると、役員全員が知っているからである。上場会社で業績連動給与の要件を満たせる会社でも、算定方法の開示と報酬委員会等の手続の期限が期首から3か月以内に置かれているので、設計を期の初めに終える必要があることは変わらない(株式報酬・業績連動報酬の指標選び、損金算入と経営行動への影響)。
冒頭の卸売会社。3月決算、売上高320億円の同族会社である。経理部長は2月の役員会の翌週、社長に一枚の表を持って行った。 当期中に役員賞与5,000万円を支給した場合、損金にならず、法人税等が約1,500万円多くなること。従業員への決算賞与なら、3月中に各人に支給額を通知し、4月中に支払えば当期の損金にできること。役員への還元は、翌期の事前確定届出給与として設計すれば損金にできること。 社長は、当期は従業員の決算賞与1億2,000万円に切り替え、役員への還元は翌期に回した。翌期に向けて、経理と人事は役員給与の台帳を作り、6月26日の総会と同日の取締役会で、月額の改定と、12月10日に役員5名へ総額4,000万円を支給する事前確定届出給与を決議した。 届出書は7月上旬に提出した。翌期は第3四半期に業績が計画を下回ったが、届出どおり満額を支給した。半額に減らせば全額が損金不算入になることを、役員会で経理部長が先に説明していたので、議論は起きなかった。 その翌年の報酬方針は、1月の役員会で起案が始まっている。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
役員報酬の改定で決める三つのこと
第一に、期末に役員報酬で利益を調整しようとしない。 法人税法第34条第1項の三類型に当たらない役員給与は損金にならず、会社と役員の双方で税がかかる。当期の決算で業績を還元したいなら、施行令第72条の3の要件を満たす従業員の決算賞与を使う。
第二に、期中の改定と事前確定届出給与の性質を、役員会で先に共有しておく。 期首から3か月を過ぎた増額は臨時改定事由がなければ差額が損金にならず、減額には業績悪化改定事由の裏付けが要る。事前確定届出給与は届出額と違えば全額が損金不算入になるので、満額か不支給かの二択として設計する。
第三に、来期の設計は1月から2月に始め、総会の日から逆算して決議と届出の日付を引く。 月額の改定は期首から3か月以内、事前確定届出は総会の日から1か月と期首から4か月の早い方まで。役員ごとの台帳で、決議・届出・支給を一本で照合する。
役員報酬で当期の利益を動かせるのは、期首から3か月(定期同額給与の改定。申告期限の延長の特例で月数の指定を受けた法人は、その月数に2を加えた月数)と、総会の日から1か月・期首から4か月の早い方(事前確定届出)までだ。2月に思い立った役員賞与は原則として損金にならず、会社と役員の双方に税がかかる。当期の還元は従業員の決算賞与で行い、役員の分は翌期の届出額に一年遅れで効かせる。
次の一手は、1月の役員会に翌期の報酬方針を起案として出し、総会の日から決議と届出の日付を引いた役員別の台帳を用意することである。



