期末監査の終盤、監査法人の担当者から質問が来る。前期末に計上した製品保証引当金は、当期にどれだけ使われましたか。 経理課長は答えられない。引当金は毎期、売上高に同じ率を掛けて計上しており、率は十年近く変えていない。 取り崩した額は分かるが、それが前期末の引当のうちどれだけに当たるのかは、集計したことがない。翌週、監査法人から一枚の表が届く。 保証期間(3年)が満了した過去五期分について、各期の保証引当の計上額と、その期の売上に係る保証費の発生額を並べたもので、五期のうち四期で、引当額が実際の発生額を大きく上回っていた。 自社の見積りの癖を、自社の経理ではなく監査法人が先に知っていた。

POINT
見積りの答え合わせは、会社がやらなくても行われている。監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」は、監査人に、当年度の重要な虚偽表示リスクの識別と評価に役立てるため、過年度の会計上の見積りの確定額又は該当する場合には再見積額を検討することを求めている。 いわゆる遡及的な検討である。同報告書は、この検討は見積りの時点で利用可能であった情報に基づき適切に行われた過年度の判断を問題とするものではない、とも書いている。 後から分かった結果で過去の判断を裁くのではなく、見積りの方法と前提に一方向の偏りがないか、見積りの過程が当てになるかを確かめるための手続である。 開示の側でも同じ方向の要請がある。企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について、その内容の開示を求めている。 算出方法や主要な仮定を書く欄である。主要な仮定がどれだけ当たってきたかを記録していない会社は、この欄を、毎期同じ文言で埋めることになる。

見積りは、翌期以降の実績で答えが出る

会計上の見積りの多くは、後から実績で答えが出る。 答えが出るまでの期間が違うだけである。

翌期の早い時期に答えが出るものがある。 賞与引当金は、夏の賞与の支給で確定する。未払費用の見積り計上分は、請求書の到着で確定する。返品の見込みは、収益認識会計基準のもとでは返金負債として売上から控除されており、返品期限の到来で確定する。 これらは、翌期の第1四半期か第2四半期の決算の時点で、前期末の見積りとの差がすべて分かる。

数年かけて答えが出るものがある。 製品保証引当金は保証期間が終わるまで、貸倒引当金は債権の回収か貸倒れの確定まで、工事損失引当金は工事の完成まで答えが出ない。それでも、期ごとに部分的な答えは出る。 保証期間が三年なら、一年目の発生額は一年後に分かる。

資産を手放すときにしか答えが出ないものがある。 耐用年数である。設備を除却したとき、実際に何年使ったかが初めて分かる。答えが出るまでに十年以上かかることもあるが、会社全体では毎期どこかの資産が除却されているので、観測は毎期たまっていく。

どの見積りにも答えは出る。答えが出た時点で、それを見積りと突き合わせて記録しているかどうかが、会社によって違う。 記録していない会社では、答えは取崩しや除却の仕訳の中に埋もれて見えなくなる(引当金の見積りの責任分担、前提は事業部・水準は経理・承認は経営)。

決算のレビューで上長が見積りの何を見るべきか、つまり前提の変化と前期の答え合わせに絞るという論点は別稿で扱った(決算レビューの二重チェックが形骸化する原因、再計算では止まらない誤り)。本稿が扱うのは、その答え合わせの材料を、どの台帳に、決算のどの工程で残すかである。

差異は、原因で三つに分ける

答え合わせをすると、差異が出る。差異が出ること自体は問題ではない。 見積りは将来についての判断であり、当たらないのが普通である。問題になるのは、差異の原因を分けずに放置することである。

差異の原因は三つに分かれる。

一つ目は、見積りの後に起きた事象である。 大口の取引先が期中に急に経営悪化した、想定していなかった品質不具合が出た。見積りの時点では知り得なかった情報によるもので、これは見積りの誤りではない。 企業会計基準第24号のもとでは、新たに入手した情報に基づく見積りの変更として、変更した期以降に反映する。

二つ目は、見積りの時点で入手できた情報を使っていなかったことである。 期末の時点で既に延滞が始まっていた債権を正常債権のまま置いていた、支給額の決まった賞与を前年の水準で引き当てていた。企業会計基準第24号は、財務諸表の作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、又は誤用したことによる誤りを誤謬と定義している。 この区分に落ちる差異は、金額によっては過去の財務諸表の修正再表示の論点になる(会計方針の変更・見積りの変更・誤謬の訂正の違いと、遡及・開示への影響)。

三つ目は、見積りの方法そのものの偏りである。 同じ率を使い続けているうちに、実態が変わった。取引先の構成が変わり、製品の品質が改善し、賞与の業績連動の比率が上がった。一期だけでは偶然と区別できないが、同じ方向の差異が何期も続けば、それは偶然ではなく方法の癖である。 この区分の差異は、率や方法の改定に返す。

三つを分けておくと、監査で差異を聞かれたときに、原因の区分ごとに答えられる。 そして何より、二つ目の区分に落ちないように、見積りの時点で何の情報を使ったかを記録しておく動機が生まれる。 見積りの時点の前提が残っていれば、後から大きな差異が出ても、それが当時知り得なかった事象によるものだと示すことができる。残っていなければ、当時知り得たはずだと言われたときに反論の材料がない。

答え合わせは期末ではなく、翌期の期中に置く

バックテストを始めた会社が最初につまずくのが、いつやるかである。 期末の決算の中でやろうとすると、時間が足りなくなりやすい。期末は当期の見積りを作る時期であり、前期の見積りを振り返る余裕はない。

答え合わせは、答えが出た直後の四半期の決算に置く。 賞与引当金と未払費用と返金負債は、翌期の第1四半期か第2四半期の決算で、前期末の見積りとの差を出す。夏の賞与の支給が終わった後の第2四半期の決算が、最も多くの答えが揃う時点である。 製品保証引当金は、半期ごとに、引当の年度別に発生額を集計する。貸倒引当金は、前期末に区分した債権が、その後どう回収されたかを追う(貸倒引当金の貸倒実績率は据え置くものではない、与信悪化を映す見積り方)。

期中に答え合わせを済ませておくと、期末の決算では、その結果を率の改定に使うだけで済む。 改定の要否の議論は第3四半期までに終え、期末の見積りには改定後の率を当てる。監査法人との協議も、期末ではなく期中に行える。 見積りの論点を期末の議論にしないという点で、これは監査上の主要な検討事項の前倒しと同じ構造である(KAM(監査上の主要な検討事項)への備えは期末の文面交渉より期中の論点整理)。

見積りの答え合わせは、年一回の作業ではなく、決算の工程を一周する循環として置く
① 見積りの時点で前提を残す
期末に、方法と主要な仮定、使った情報とその日付を台帳に一行ずつ記録する
→
② 答えが出た四半期に突き合わせる
賞与・未払・返金負債は翌期の第1〜第2四半期、保証は半期ごと、耐用年数は除却のたびに実績を並べる
↑
見積りの台帳
↓
④ 率と方法の改定を承認する
同じ方向の差異が続いた項目は、第3四半期までに改定の要否を決め、期末の見積りに当てる
←
③ 差異を原因で三つに分ける
事後の事象か、当時の情報の不使用か、方法の偏りか。符号を残して記録する
前期の答えを期中に出し、当期の見積りに返す。この一周が定着している会社は、見積りを自分の言葉で説明できる。

耐用年数は、除却のたびに実際の使用年数を記録する

引当金に比べて、耐用年数のバックテストはほとんど行われていない。答えが出るまでの期間が長く、しかも答えは除却の仕訳の中にしか現れないからである。

多くの会社は、法人税法の耐用年数をそのまま会計上の耐用年数として使っている。 監査・保証実務委員会実務指針第81号は、法人税法に規定する普通償却限度額を正規の減価償却費として処理する場合について、当面、監査上妥当なものとして取り扱うことができるとしている。ただしそれは、耐用年数に不合理と認められる事情がない場合の取扱いであり、本来の耐用年数は、各企業が資産の使用の実態や陳腐化の見込みを考慮して、経済的に使用可能な期間を自主的に見積もるものである。 同指針自身が、法人税法の耐用年数の採用を容認する取扱いは過渡的に認める趣旨であると書いている。税法の年数を使うことが許されているのは、それが自社の実態と大きく離れていない限りにおいてである。

離れているかどうかは、除却した資産の実際の使用年数を並べれば分かる。 除却のたびに、取得日、除却日、会計上の耐用年数、除却時の簿価を一行記録する。資産の種類ごとに観測がたまると、二つの型の乖離が見えてくる。

一つは、実際の使用年数が耐用年数を大きく上回る型である。 生産設備で起きやすい。償却が終わった後も長く使い続けるため、償却の期間は費用が重く、その後は費用がゼロになる。簿価ゼロの設備で作る製品は、原価が実態より安く見え、設備の更新の判断を遅らせる(償却済み設備を使う工場の原価が安く見える問題、簿価ゼロが設備更新の判断を歪める)。

もう一つは、実際の使用年数が耐用年数を下回る型である。 情報機器や金型、店舗の内装で起きやすい。耐用年数の途中で除却されるため、除却損が毎期のように発生する。除却損が毎期出ているなら、それは臨時の損失ではなく、償却が足りていなかった分の後払いである。

どちらの型でも、観測がたまった時点で耐用年数を見直すことができる。企業会計基準第24号のもとでは、耐用年数の変更は会計上の見積りの変更であり、過去には遡らず、当期以降の費用配分に反映する。 見直しの根拠として示せるのは、除却した資産の使用年数の実績だけである。記録がなければ、見直しを提案することもできない。

見積りの台帳に、項目ごとに残す列
  • 見積りの項目と基準日(例:製品保証引当金、前期末)
  • 計上額と、見積りの方法(率、個別見積り、算定式)
  • 主要な仮定と、その仮定を置くのに使った情報とその日付
  • 答えが出る時期(翌期の第何四半期か、保証期間の満了か、除却時か)
  • 確定額または再見積額と、見積りとの差異(符号を残す)
  • 差異の原因区分(事後の事象/当時の情報の不使用/方法の偏り)
  • 同じ方向の差異が何期続いているか
  • 率・方法の改定の要否と、その判断をした承認者と日付

答え合わせは、引当を減らす根拠にもなる

バックテストは、見積りの甘さを見つける道具だと思われている。実際には、引当を減らす判断に根拠を与える道具でもある。

冒頭の会社のように、引当が実際の発生額を毎期上回っている会社では、 保守的に積んでいるつもりで、率が何年も据え置かれている。ところが、この引当を減らそうとすると、監査では厳しく見られる。 引当の取崩しや率の引下げは利益を増やす方向の変更であり、利益の調整に使われていないかが問われるからである。

このとき説明の材料になるのが、過去の見積りと実績の差異の記録である。 過去五期のうち四期で、引当が発生額を一定の幅で上回っていた。原因は、保証期間中の修理の件数が品質改善で減ったことにあり、事後の事象ではなく方法の偏りに当たる。だから率を実績に合わせて改定する。 この順序で説明できる会社は、引下げの判断を監査人と同じ事実に基づいて議論できる。

記録のない会社では、減らす方向の変更に根拠を示せないため、積み増した水準がそのまま既定値になりやすい。 逆に、見積りの前提を事業部が主導して決めている会社では、甘くなる方向に偏ることもある(引当金の見積りは誰が決めるか)。どちらの向きであれ、答え合わせをしない会社の見積りは一方向に偏っていく。 利益を過小に見せ続ける見積りは、保守的なのではなく、単に不正確なのである。そして状況が大きく変わった期に、積み上げた偏りが一度に振れる。

見積りのバックテストで決める三つのこと

第一に、見積りの時点で、方法と主要な仮定と使った情報を台帳に残す。 監査基準報告書540は、監査人に過年度の会計上の見積りの確定額又は再見積額の検討を求めており、答え合わせは会社がやらなくても監査人が行う。この検討は見積りの時点で利用可能であった情報に基づく過年度の判断を問題とするものではないが、その時点で何の情報を使ったかの記録がなければ、それを示すことはできない。 企業会計基準第24号は、財務諸表の作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと又は誤用したことによる誤りを誤謬と定義している。前提の記録は、後から出た差異を見積りの変更の側に置くための証拠である。

第二に、答え合わせを、答えが出た直後の四半期の決算に置く。 賞与引当金・未払費用・返金負債は翌期の第1〜第2四半期、製品保証引当金は半期ごとに引当の年度別、貸倒引当金は前期末の区分ごとの回収結果、耐用年数は除却のたびに実際の使用年数を記録する。差異は、事後の事象、当時の情報の不使用、方法の偏りの三つに分け、符号を残す。 同じ方向の差異が続いた項目は第3四半期までに改定の要否を決め、期末の見積りに当てる。期末に振り返ろうとすると、当期の見積りを作る時間とぶつかりやすい。

第三に、答え合わせの結果を、率を上げる根拠にも下げる根拠にも使う。 税法の耐用年数を使う取扱いは、実務指針第81号のもとで耐用年数に不合理と認められる事情がない限りのものであり、不合理かどうかは除却の実績でしか示せない。耐用年数の変更は見積りの変更として当期以降に反映する。 引当の引下げは利益を増やす方向の変更であり、過去の差異の記録がなければ根拠を示せない。記録のない会社では積み増した水準が既定値になりやすく、前提を事業部が主導して決めれば甘い方向に偏ることもある。どちらの向きであれ偏りは時間とともに積み上がり、状況が変わった期に一度で振れる。

設例

売上高430億円の住宅設備メーカー。製品保証引当金は、売上高に1.1パーセントを掛けて計上しており、この率は九年間変わっていなかった。 賞与引当金は前年の支給実績をもとに、貸倒引当金は実績率で置いていた。きっかけは、冒頭に書いた監査法人からの質問である。 保証期間(3年)が満了した過去五期分について、各期の保証引当の計上額と、その期の売上に係る保証費の発生額を並べると、五期のうち四期で、発生額は計上額の6割前後にとどまっていた。 残る一期は、特定の製品の部品不具合で発生額が計上額を上回った期である。経理部長は、見積りの台帳を作ることにした。 対象は、製品保証引当金、賞与引当金、貸倒引当金、返金負債、そして有形固定資産の耐用年数の五項目である。前期末の見積りについて、方法と主要な仮定、使った情報とその日付を一行ずつ記録し、答えが出る時期を列に書いた。 答え合わせは、第2四半期の決算の工程に組み込んだ。夏の賞与の支給が終わり、返金負債の返品期限が到来し、保証費の半期分が集計できる時点である。 最初の一年で、二つのことが分かった。一つは、賞与引当金が五期連続で支給実績を下回っていたこと。 差は毎期3〜5パーセントで、原因は業績連動の部分を前年の水準で置いていたことにあった。期末の時点で当期の業績はほぼ見えていたので、これは方法の偏りではなく、当時入手できた情報を使っていなかった区分に当たる。 差は毎期の利益に対して重要性がないことを監査法人と確認したうえで、過去の財務諸表は修正せず、翌期から業績連動の部分を期末の業績見込みで算定する方式に改めた。もう一つが、製品保証引当金の偏りである。部品不具合の一期を事後の事象として区分したうえで、残る四期の発生率の平均0.66パーセントに、部品不具合の再発に備えた幅を加えて、率を1.1パーセントから0.8パーセントに改定した。 発生率が下がった原因は品質改善による修理件数の減少で、方法の偏りに当たる。利益を増やす方向の変更だったが、監査法人との協議は第3四半期のうちに終わっている。耐用年数は、過去三年分の除却資産を掘り起こして使用年数を記録し始めた。 生産設備では、除却時点までの実際の使用年数が、会計上の耐用年数のおよそ1.8倍だった。1.8倍という乖離は、実務指針第81号第24項がいう不合理と認められる事情に当たりうる。 ただし除却済みの資産だけを並べると、使用中の長寿命の資産が観測から漏れる。そこで観測結果を監査法人と共有し、使用中の資産の経過年数も加えたうえで、資産区分ごとに耐用年数の見直し要否を翌期末までに決める工程を置いた。 あわせて、設備の投資判断の資料には簿価ゼロの設備の比率を併記するようにした。多めに積んでいたつもりの引当は、答え合わせをしてみると、単に外れていた。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ

自社の見積りの癖を、監査法人より先に知っているだろうか。答え合わせは、会社がやらなくても監査人が監査基準報告書540で行う。自分でやるなら、置き場所は答えが出た直後の四半期決算で、差異は事後の事象・当時の情報の不使用・方法の偏りの三つに分けて残す。

最初の一手は、前期末の見積りごとに方法・主要な仮定・使った情報とその日付を台帳へ一行ずつ書くこと。耐用年数は、次の除却から実際の使用年数を記録し始める。

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